Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューSION(Rooftop2016年12月号)

メジャー・デビュー30周年を迎えて辿り着いた赤心の歌の道標

2016.12.01

奇跡的に発掘された渋谷ライブ・インでのライブ音源

──さっきも少し話に出ましたが、デビュー30周年記念のオールタイム・ベスト『30th milestone』をリリースしたのはスタッフの提案だったんですか。

SION:テイチクのディレクターが「30周年なのでなにかやりたいですね」と言ってくれて、お任せしますと。デビュー当時と同じテイチク/BAIDISレーベルから出してもらってはいるけど、デビューした頃のミュージシャンとレコード会社の関係性ではないわけ。だけど、25周年でも30周年でもこうしてアニバーサリー・アイテムを出さないかと言ってくれるテイチクのディレクターがいる。それに乗ってくれるスタッフがいる。それは純粋にありがたいことだよね。俺自身は何周年だろうが気にしないけど、そんな話をもらえるのは嬉しいんだよ。だからディレクターには一杯くらい奢ろうと思って(笑)。

── 一杯だけですか(笑)。

SION:何杯かは奢ろうかな(笑)。

湯田淳一ディレクター:もう奢ってもらってます。

──『30th milestone』のジャケットに写るデビューしたて頃のSIONさんがまたすごく格好良くて、LPサイズの限定盤を持っていたくなりますよね。フィジカルの良さがあると言うか。

SION:当時の写真を撮ってくれてた人がいまどこにいるのか分からなくてね。デビューして3、4年撮ってくれてた福地さんって人で、実は俺の命の恩人だったり、深い付き合いをしていたんだけど、「もう撮るのをやめるよ」ってどこかで呑んでる時に突然言われてね。「あんたのことを誰も撮ってくれなくなったらまた撮ってやる」なんて言われて。俺が26、7だった頃かな。

──『Naked Tracks 9』のジャケット写真も福地さんの撮影ですか。

SION:うん。考えてみれば、福地さんが撮った写真をアルバム・ジャケットに使ったのはインディーズで出した『新宿の片隅で』だけなんだよね。

──メジャー・デビュー1作目のジャケットは違うんですか。

SION:あれは違う。今回、福地さんの写真を『30th milestone』に使いたいという話をディレクターからもらって、探して引っ張り出してきたんだよ。俺が個人的に福地さんの写真をもらっていたから。

──『30th milestone』の限定盤に収録された、メジャー・デビュー4日前(1986年6月17日)の渋谷ライブ・インでのライブ音源は生々しいですね。「みんな50cmずつ下がってください。このままじゃ演奏が続けられません」という主催者の鬼気迫るアナウンスまで入っていて。

SION:あれでもだいぶイベンターの声を消したんだよ。ものすごい数の人がステージへ押し寄せてきて、何度もお客さんに注意するアナウンスが入って…当時が一番人気があったかもしれない(笑)。

──そんなことはないでしょう(笑)。音がすごく良いので、ライブの臨場感がダイレクトに伝わってきますね。

SION:(ディレクターに)でもあれ、1本のテープを起こすのは賭けだったんでしょ?

湯田淳一ディレクター:そう。テープになにが入ってるのか分からなかったから。古いテープだし、もし回して切れちゃったら二度と再生できないからいじれなかったんだけど、そのまま置いておいても聴けないんだから、いっそのこと回しちゃおうってことになって。それで一度だけ回してみて、それをアーカイブしたんです。

──ちゃんと切れずに発掘できたんですね。まさに歴史的な音源じゃないですか。

SION:まぁ、俺はあまり聴いてないけどね(笑)。その日のライブのことはよく覚えてるよ。3デイズだったのに俺はなにも考えないで声を張り上げたもんだから、1日目でいきなり喉を潰しちゃってね。カメラマンの福地さんが吸引器を持ってきてケアしてくれたんだよ。今回入れたのは2日目のライブなんだけど。

──デビュー前後ならではの荒削りな勢いがあって、すごくいいライブですよね。

SION:それこそ新宿ロフトの店員がバックだったんだよ。ベースが半田茂弥、ドラムが小野口直人かな。ギターは松田さんでね。

 

ある日突然、「このままじゃいけない!」と思った

──同じライブ・インでの映像(1986年2月28日)も『30th milestone』の限定盤には収録されていて、非常に鮮明で貴重ですね。しかも、ちゃんとプロショットで撮影してあって。

SION:なんかのプロモーション材料として部分的に使ってたみたいだね。あんな映像、よく残ってたなと思うよ。ああいう映像があれば、もしなんかで捕まることがあっても“自称・ミュージシャン”って呼ばれることはないかな?(笑)

──汐留ピット(1988年5月)、日清パワーステーション(1989年3月2日)といった初期のライブも記憶に残っていますか。

SION:汐留ピットは覚えてるけど、パワステは何回かやったのでどれがどのライブかは覚えてない。

──ボヘミアン風の赤いコートは初期のトレードマークとも言える衣装ですね。

SION:あの赤いコートは、俺が働いてた新宿の8 1/2《ハッカニブンノイチ》っていうパンク・ショップの社長が作ってくれたものなんだけど、普段から着てたんだよね。去年、デビュー30周年ってことで野音であの赤いコートを着てみたんだけど、あまりに重くて2曲もたなかった(笑)。

──髪を半分剃ってモヒカン、眉も剃ったSIONさんが松葉杖をつきながら唄う汐留ピットのライブ映像も強烈なインパクトがありますね。

SION:とあるテレビの撮影で頭にくることがあって文句を言ったら、みんな偉い人のほうばかり味方をして面白くなくてさ。事務所の社長のバイクを借りて乗ったはいいが、そのままボーンとぶつかって膝の皿が割れちゃったんだよ(笑)。それで仕方なく松葉杖を使った。その松葉杖もライブ中、モニターで叩き折っちゃうんだけどね(笑)。それがいまや、今年の1月の池畑さん祭りでは痛風の発作で松葉杖を使う有り様だから(笑)。なんだかなぁ(笑)。

──ライブ・インの「12月」でもパワステの「カーテン」でも、必ず弾き語りのパートを入れるスタイルは変わりませんね。

SION:その映像をチラッと見て思ったけど、当時の俺は愛想がないねぇ。最近の俺は弾き終わったら「ありがとう」ってお礼を言えるようになったからさ(笑)。

──写真家の井出情児さんがディレクションを務めた「サイレン」や「元気か?」といったMVもいま改めて見ると新鮮ですね。エンドロールのようなクレジットが最後に入って、まるで短編映画のようで。

SION:当時は贅沢だったよね。井出さんに「なにかしたいことある?」と訊かれて、「水の上や赤い川に立ちたいな」なんて言ってね。「湖の周りが燃えてるのを見たい」とかさ。それを井出さんの弟子がメモして実現したのが「サイレン」のMV。車を爆発させたりしてすごかった。そこで金を使いすぎたのか知らないけど、「これを持って歩いてこい」と8mmカメラを渡されたのが「元気か?」のMV。一人でとことこ歩きながら撮ったですよ。井出さんとは写真集の撮影で軍艦島にも行った。当時、普通には入れないから、漁師に金を渡して密航したんだよ(笑)。

Naked2016-1.jpg──「春夏秋冬」のMVはニューヨークでの撮影で、アート・リンゼイやマーク・リボーなどラウンジ・リザーズの面々も登場する豪華な内容ですね。

SION:ジョン・ルーリーが『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のスタッフと一緒に撮ってくれてね。撮り逃げしないとヤバい場所もあったな。向こうのミートマーケットはその頃ゲイの売り買いに使われてて、当時の俺は細くて化粧もしてたから、タクシーに乗ったら運転手に「お前は売りに行くのか?」とか言われたよ(笑)。

──SIONさんが見知らぬ男性に「手だけでいいから」と迫られたエピソードを思い出しますね(笑)。

SION:「1万円出す!」と言われて、足が一瞬止まるっていう(笑)。あそこで足を止めてたら、俺の人生も変わっただろうなぁ(笑)。

──そのエピソードも含めて、上京直後の思い出をSIONさんが書き綴った文章(『30th milestone』のブックレットに掲載)がまたいいんですよね。東京での生活に流されて、上京してきた目的を見失いながらも最後は一念発起するという。

SION:本当にある日突然、「このままじゃいけない!」と思ったんだよ。東京での生活にも慣れてきて、バイトの時給も上がって、家に電話もつけられて、田舎にいた頃には見たこともなかったマーチンもギブソンも手に入れて、月一のペースで仲間内でライブをやって…客なんて5人くらいしかいないんだよ? そんな毎日だったけど、それで満足できてたんだよね。それが上京して2年くらい経った頃かな。ある日突然、「俺は東京へなにをしに来たんだ?」と思うようになった。それでレコード屋へ駆け込んで、レコード会社の連絡先を教えてもらった。あまり行動力はないほうなんだけど、あの時は早かったね。まぁ、それからデビューに漕ぎ着けるまでは数年かかったんだけど。

 

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LIVE DVD
SION-YAON 2016 with THE MOGAMI
〜Major Debut 30th Anniversary〜

TEBI-60413/定価:5,556円+税
2016年11月2日(水)発売
Vocal:SION/Drums:池畑潤二/Keyboards:細海魚/Guitar:藤井一彦/Bass:清水義将
収録:2016年8月11日 日比谷野外大音楽堂

amazonで購入

【収録曲】
01. サイレン
02. ブーメラン
03. ONBORO
04. 傘いらんかん
05. 夏の終わり
06. ありがてぇ
07. 遊ぼうよ
08. 好きで生きていたい
09. 俺の声
10. ガラクタ
11. 12号室
12. 元気はなくすなよ
13. お前がいる
14. 後ろに歩くように俺はできていない
15. ノスタルジア
16. 春よ(新曲)
17. パニック
18. 新宿の片隅から
19. マイナスを脱ぎ捨てる
20. お前の空まで曇らせてたまるか
21. サラサラ
22. Hallelujah
23. 今さらヒーローにはなれやしないが(新曲)
24. このままが

ALL TIME BEST ALBUM
30th milestone

<30周年記念限定盤>
TECI-1500/定価:10,000円+税
■35曲のスタジオ音源(Disc-1、Disc-2)とデビュー前の貴重なライブ音源15曲(Disc-3)、そして未発表映像を含むライブ映像とビデオクリップを合わせて20曲収録した特典DVD(Disc-4)。音源、映像合わせて全70曲収録。
■全曲リマスタリング ■SHM-CD×3、DVD×1(4枚組)
■LPサイズ・スペシャルケース入り(シリアルナンバー入り)永久保存版
■LPサイズ歌詞&フォトブック(20P)封入
<通常盤>
TECI-1503/定価:3,000円+税
■35曲のスタジオ音源(Disc-1、Disc-2)収録
■全曲リマスタリング ■歌詞ブック封入 ■SHM-CD(2枚組)

amazonで購入

<収録曲目>
■Disc-1【全17曲収録/収録時間76:18】
01. 新宿の片隅から(「SION」/1986年)
02. 俺の声(「新宿の片隅で」/1985年)
03. SORRY BABY(「SION」/1986年)
04. 風来坊(「風来坊」/1987年)
05. 12月(「春夏秋冬」/1987年)
06. このままが(「春夏秋冬」/1987年)
07. サイレン(「SIREN」/1988年)
08. カーテン(「Strange But True-Strange side」/1989年)
09. 記憶の島(「Strange But True-True side」/1989年)
10. 夜しか泳げない(「夜しか泳げない」/1990年)
11. 12号室(「夜しか泳げない」/1990年)
12. 夢を見るには(「かわいい女」/1991年)
13. 蛍(「蛍」/1992年)
14. 月が一番近づいた夜(「I DON'T LIKE MYSELF」/1993年)
15. ありがてぇ(「I DON'T LIKE MYSELF」/1993年)
16. 彼女少々疲れ気味(「SION 10+1」/1994年)
17. 金魚(「抱きしめて」/1995年)
■Disc-2【全18曲収録/収録時間79:54】
01. がんばれがんばれ(「フラフラ」/1997年)
02. 通報されるくらいに(「SION comes」/1998年)
03. お前がいる(「SION comes」/1998年)
04. 薄紫(「DISCHARGE」/1999年)
05. 砂の城(「好きな時に跳べ!」/2001年)
06. 雪かもな(「UNIMELTY FLOWERING」/2002年)
07. キャスト(「ALIVE ON ARRIVAL」/2003年)
08. ガラクタ(「ALIVE ON ARRIVAL」/2003年)
09. たまには自分を褒めてやろう(「東京ノクターン」/2005年)
10. 夏の終わり(「東京ノクターン」/2005年)
11. マイナスを脱ぎ捨てる(「20th milestone」/2007年)
12. Hallelujah(「住人〜jyunin〜」/2008年)
13. 鏡雨(「鏡雨〜kagamiame〜」/2009年)
14. お前の空まで曇らせてたまるか(「鏡雨〜kagamiame〜」/2009年)
15. 燦燦と(「燦燦と」/2010年)
16. 気力をぶっかけろ(「Kind of Mind」/2012年)
17. 後ろに歩くように俺はできていない(「不揃いのステップ」/2014年)
18. ONBORO(「俺の空は此処にある」/2015年)
■Disc-3/SION LIVE 1986 at SHIBUYA LIVE INN(収録:1986年6月17日 渋谷ライブ・イン)【全15曲収録/収録時間76:03】
01. 風向きが変わっちまいそうだ
02. やるせない夜
03. コンクリート・リバー
04. 春夏秋冬
05. ハード・レイン
06. ダーリン
07. SORRY BABY
08. TONIGHT
09. 俺の声
10. レストレス・ナイト
11. はやく慣れることさ
12. ハングリー・ナイト
13. 街は今日も雨さ
14. KNOCK ON THE HEART
15. クロージング・タイム
※M-8、M-10以外は未発表音源
■Disc-4/SION LIVE & CLIPS(DVD)【全20曲収録/DVD収録時間 約100分】
<RARE LIVES>
◎1986年2月28日 渋谷ライブ・イン
M01. 風向きが変わっちまいそうだ★
M02. 俺の声
M03. 12月
◎1988年5月29日 汐留PIT
M04. バラ色の千鳥足★
M05. パニック
M06. ノスタルジア★
◎1989年3月2日 NISSIN POWER STATION(音声はモノラル)
M07. もの悲しい風★
M08. こんな大事な夜に★
M09. カーテン★
※★は未発表映像
<STRANGE CLIPS>
M10. 春夏秋冬
M11. サイレン
M12. 元気か?
M13. 水の中にいるようだ
<SION-YAON with THE MOGAMI 2010〜2015>
M14. 住人(SION-YAON 2010)
M15. 遊ぼうよ(SION-YAON 2010)
M16. どけ、終わりの足音なら(SION-YAON 2011)
M17. コンクリート・リバー(SION-YAON 2013)
M18. 月が一番近づいた夜(SION-YAON 2014)
M19. お前の空まで曇らせてたまるか(SION-YAON 2015)
M20. このままが(SION-YAON 2015)

PRIVATE ALBUM
Hello 〜大切な記憶〜 Naked Tracks 9

SION-0011/定価:3,500円(税込)
2016年8月11日(木)発売

【収録曲】
01. 春の陽をあびて
02. 洒落た日々から遠く離れて
03. 大好きで
04. 春よ
05. 今さらヒーローになれやしないが
06. これきりに憧れ
07. 追っつかない
08. デジャビュのあやとり
09. ひとり綱引き
10. Hello 〜大切な記憶〜

LIVE INFOライブ情報

SIONアコースティックツアー2016
〜SION+Sakana Hosomi & Kazuhiko Fujii〜

【博多公演】11月18日(金)博多 LIVEHOUSE CB
【札幌公演】11月26日(土)札幌 DUCE
【仙台公演】12月3日(土)仙台 CLUB JUNK BOX
【名古屋公演】12月9日(金)名古屋 CLUB QUATTRO
【大阪公演】12月10日(土)大阪 umeda AKASO
【東京公演】12月17日(土)代官山 UNIT

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