Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューSION(Rooftop2016年12月号)

メジャー・デビュー30周年を迎えて辿り着いた赤心の歌の道標

2016.12.01

 毎年恒例となったSIONの日比谷野外大音楽堂でのライブ『SION-YAON』。メジャー・デビュー30周年を記念して開催された今年の野音は披露されることが非常に珍しい名曲が随所に散りばめられ、不可欠の代表曲と期待の新曲がバランス良く組み込まれたファン垂涎のセットリストだった。このライブを完全収録したDVD『SION-YAON 2016 with THE MOGAMI 〜Major Debut 30th Anniversary〜』には、THE MOGAMIによる鉄壁のアンサンブルに支えられながら魂を込めて唄うSIONの珠玉の歌、それを自分の歌として受け止め感情移入するオーディエンスとの一体感、得も言われぬ多幸感に包まれた現場の雰囲気が余すところなく刻み込まれている。年末のアコースティック・ツアーを目前に控えたSIONに今年の特別な野音を終えた所感を伺いつつ、この記念すべきメモリアル・イヤーを総括してもらった。(interview:椎名宗之/撮影:撮影:麻生 徹)

今年の野音は特別なセットリストにしたかった

──近況から聞かせてください。いまはアコースティック・ツアーに向けたリハーサルに余念がない感じですか。

SION:2週間くらい前に一度リハをやって、もうすぐ再開するんだけど、気をつけないとすっかり忘れてる(笑)。(細海)魚と(藤井)一彦がとにかく忙しくて、飛び飛びでやるしかないから仕方ないんだけどね。最近ますます「俺だいじょぶか?」なことが増えてきて。この前は焼酎のお湯割りを作ろうと湯を沸かして、沸いたからコップに湯を入れて。そしてそこに水を入れてるという…お湯の水割りやないかい、って(笑)。今回のリハは自分のリハビリを兼ねたものになりそうだね(笑)。

──今度のアコースティック・ツアーは、『Hello〜大切な記憶〜 Naked Tracks 9』の収録曲を多めに披露する予定なんですか。

SION:そう思ってる。今回の『Naked Tracks』のかなりの曲をもう魚と一彦がアルバム用にアレンジしてくれてるんだけど、レコーディングの前に3人でやろうかなと。

──そんなさなかに発売された8月の野音のライブDVDなのですが、SIONさんが終始「嬉しい、嬉しい」と笑みを絶やさなかったのが印象的だったんですよね。

SION:野音のステージから客席にいるみんなの顔を見ると、すごく嬉しくなるんだよね。なんだろうね、歳なのかな?(笑)

──1曲目の「サイレン」から笑みがこぼれていましたよね。

SION:うん。決して笑みをこぼすような歌じゃないんだけど、客席を見たら自然とそんな感じになった。ああやって見に来てくれる人たちがいるからこそライブをやれるわけだし、こうして30年間やってこれたわけだから。デビュー前はまだ子どもだったから、周りの大人や東京という街に対してさんざん文句を唄ってたけど、デビューしてライブにお客さんが来てくれると「別にこの人たちに対して恨みはないよな」って思うようになってね。デビュー前のライブはお客さんも総立ちで殺伐とした雰囲気で、よく会場の器物が壊れたりしたんだよ。それでデビューしてわりとすぐの頃に「座ってよ」と言ったら、今度は立ったらいけないくらいに思ったのか激しい曲でも座ったままで、また好きに立ったり踊ったりしてくれるまでにけっこう時間がかかった(笑)。

DSC1718.jpg──ライブの向き合い方はやはり昔と比べてだいぶ変化してきましたか。

SION:昔はライブでやる曲を本番直前に紙にバーッと書いて、それをメンバーに渡してたんだよね。彼らも大変だったと思うけど、当時はいまこの瞬間にやりたい歌だけをやりたかった。それが、デビューして10年くらい経った頃に照明の人から言われたんだよね。「これからはシステムがコンピュータになってくるから、できたら曲順を事前にください」って。それから頑張ってセットリストを出すようになったし、ここ数年は特にお客さんに喜んでもらえる曲を選ぼうって意識が強くなってきた。

──だからなんですかね。今年の野音はメジャー・デビュー30周年を意識されたこともあったのか、古参のファンには堪らないレアな選曲のオンパレードでしたよね。「サイレン」、「ブーメラン」、「傘いらんかん」、「12号室」、「ノスタルジア」…と、どの曲もイントロが流れるたびに驚きと喜びがない交ぜになった歓声が客席から沸き起こって。

SION:かなり久しぶりの曲が多かったね。「12号室」なんてまずやらない曲だったし。やっぱりメジャー・デビュー30周年だから特別なセットリストにしたかったのはある。自分で組んでおきながら、リハの時に多少「えっ…」とは思ったけど(笑)。

──「サイレン」は『30th milestone』でも選曲されていたので、もしや…とは思ったんですが、実際に魚さんがあのイントロを奏でた時のお客さんの凄まじいリアクションがそのままDVDに収められていますね。

SION:ああ…俺はDVDをあまり見てないからなんとも言えんのだけど(笑)。まだ音と合ってない仮編集の映像はパソコンで見たんだけど、やっぱりなんとも恥ずかしくて。

 

「12号室」の歌詞の一部を書き換えた理由

──個人的に初めて生で聴けた「12号室」も感激したんですが、この曲もまた客席の反響がすごかったですね。

SION:その昔、いまはなき恵比寿ファクトリーで3日間ライブをやって、そのビデオでも出てると思うんだけど、「12号室」はその時に唄ったくらいしか記憶にない。

──「12号室」は歌詞が一部オリジナルと変わっていましたよね。「そこに入る訳は 8つの俺でも解っていた/今より良くなるために 必要だと解っていた」の部分が「そこに入る訳は 8つの俺には解らなかった/旅行だと思っていた 置いていかれるまでは」と唄われていて。

SION:それはつまり、実際にそういうことだったんだよ。当時、歌にする時には事実のまま唄えなかった。「おふくろは 静かな声でたった一言/生きてなさい そう言った」って歌詞(「街は今日も雨さ」)も、実際にそんなことを言われたことはなかった。その言葉が必要だったから自分で足したんだけど、「12号室」の場合は逆に引いてみた。優しくしたって言うのかな。当時はそのまま書いたら悪いなって気持ちもあったし。でも、もうそろそろいいかなと思ってね。この先また唄うかどうかも分からないし、一度本当のことを唄ってみてもいいかな、って。

──SIONさんのなかでは「12号室」をライブで唄うのを意識的に封印していたところもあるんですか。

SION:俺にはたまにああいう歌があるんだけど、肝となる歌詞に辿り着くまでが長いでしょ? それまでに誰かがずっこけて演奏をミスしたら台無しになってしまう恐ろしい歌ではあるよね(笑)。そういう理由もあったし、自分のなかではもう唄わなくてもいいかなという思いもあった。でも、パラリンピックをよく見ていた理由がそれに関係しているのかどうかはよく分からないけど、ああいう競技に出場する選手は純粋にすごいなぁと思ってさ。腕が1本しかなくても極限まで鍛えた上で戦っている選手の姿を見て、俺にはとてもできんぞと思って。これでもし左腕がダメになったらケツも拭けんし、ドアも開けれんし、もうどうにもならんぞと。その流れでふと、俺が施設に置いていかれた時にどうやってあの真っ暗闇の部屋から起き上がったんだろう? って当時のことを少し思い出した。その時に頭のなかで流れたのが、3年前に亡くなってしまった小山英樹が弾いた「12号室」のイントロだったんだよね。そんなこともあって、恐ろしいけどもう一度あの歌を唄ってみようかなと思った。

DSC2557.jpg──「12号室」の後に「元気はなくすなよ」を披露して明るい雰囲気へ持っていくというめりはりのついた構成もよく練られていますね。

SION:あそこで「元気はなくすなよ」を唄ったのは自分のためでもある。「あんまり歌に入っちゃいけん、素に戻るぞ!」ってことでね(笑)。

──恒例の野音が今年はちょっと特別なものになったのは、そういったレアな選曲や構成の妙が素晴らしかったことが大きいんでしょうね。

SION:野音は毎年、終わった後に幸せな気持ちに包まれるんだけど、ここ2年の野音は特にグッとくるところがあった。去年だと「春夏秋冬」をやった時とかね。

──グッとくると言えば、「後ろに歩くように俺はできていない」の間奏でSIONさんが空を仰いで放った「敬文、聴いてるかー?」という一言には込み上げるものがありました。今年の野音の開催直前に急逝された、写真家の宮本敬文さんに手向けられた曲ですよね。

SION:「後ろに歩くように俺はできていない」は敬文にMVの撮影監督をやってもらったし、彼と深い関わりがあった頃の歌だからね。毎年誰かが向こうに行くけど、敬文はあまりにも早すぎた。敬文には『I DON'T LIKE MYSELF』の時にニューヨークで会ってから、その後ニューヨークに行くたびに世話になってね。すごく面白い奴だった。数年前に敬文が「映画を作りましょう」って言ってくれて、彼のチームの藤森とラクダって奴が俺のアコースティック・ツアー全部に来て撮影してくれたこともあった。顔を見たらなんだかやたら嬉しくなるような男だった。

 

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LIVE DVD
SION-YAON 2016 with THE MOGAMI
〜Major Debut 30th Anniversary〜

TEBI-60413/定価:5,556円+税
2016年11月2日(水)発売
Vocal:SION/Drums:池畑潤二/Keyboards:細海魚/Guitar:藤井一彦/Bass:清水義将
収録:2016年8月11日 日比谷野外大音楽堂

amazonで購入

【収録曲】
01. サイレン
02. ブーメラン
03. ONBORO
04. 傘いらんかん
05. 夏の終わり
06. ありがてぇ
07. 遊ぼうよ
08. 好きで生きていたい
09. 俺の声
10. ガラクタ
11. 12号室
12. 元気はなくすなよ
13. お前がいる
14. 後ろに歩くように俺はできていない
15. ノスタルジア
16. 春よ(新曲)
17. パニック
18. 新宿の片隅から
19. マイナスを脱ぎ捨てる
20. お前の空まで曇らせてたまるか
21. サラサラ
22. Hallelujah
23. 今さらヒーローにはなれやしないが(新曲)
24. このままが

ALL TIME BEST ALBUM
30th milestone

<30周年記念限定盤>
TECI-1500/定価:10,000円+税
■35曲のスタジオ音源(Disc-1、Disc-2)とデビュー前の貴重なライブ音源15曲(Disc-3)、そして未発表映像を含むライブ映像とビデオクリップを合わせて20曲収録した特典DVD(Disc-4)。音源、映像合わせて全70曲収録。
■全曲リマスタリング ■SHM-CD×3、DVD×1(4枚組)
■LPサイズ・スペシャルケース入り(シリアルナンバー入り)永久保存版
■LPサイズ歌詞&フォトブック(20P)封入
<通常盤>
TECI-1503/定価:3,000円+税
■35曲のスタジオ音源(Disc-1、Disc-2)収録
■全曲リマスタリング ■歌詞ブック封入 ■SHM-CD(2枚組)

amazonで購入

<収録曲目>
■Disc-1【全17曲収録/収録時間76:18】
01. 新宿の片隅から(「SION」/1986年)
02. 俺の声(「新宿の片隅で」/1985年)
03. SORRY BABY(「SION」/1986年)
04. 風来坊(「風来坊」/1987年)
05. 12月(「春夏秋冬」/1987年)
06. このままが(「春夏秋冬」/1987年)
07. サイレン(「SIREN」/1988年)
08. カーテン(「Strange But True-Strange side」/1989年)
09. 記憶の島(「Strange But True-True side」/1989年)
10. 夜しか泳げない(「夜しか泳げない」/1990年)
11. 12号室(「夜しか泳げない」/1990年)
12. 夢を見るには(「かわいい女」/1991年)
13. 蛍(「蛍」/1992年)
14. 月が一番近づいた夜(「I DON'T LIKE MYSELF」/1993年)
15. ありがてぇ(「I DON'T LIKE MYSELF」/1993年)
16. 彼女少々疲れ気味(「SION 10+1」/1994年)
17. 金魚(「抱きしめて」/1995年)
■Disc-2【全18曲収録/収録時間79:54】
01. がんばれがんばれ(「フラフラ」/1997年)
02. 通報されるくらいに(「SION comes」/1998年)
03. お前がいる(「SION comes」/1998年)
04. 薄紫(「DISCHARGE」/1999年)
05. 砂の城(「好きな時に跳べ!」/2001年)
06. 雪かもな(「UNIMELTY FLOWERING」/2002年)
07. キャスト(「ALIVE ON ARRIVAL」/2003年)
08. ガラクタ(「ALIVE ON ARRIVAL」/2003年)
09. たまには自分を褒めてやろう(「東京ノクターン」/2005年)
10. 夏の終わり(「東京ノクターン」/2005年)
11. マイナスを脱ぎ捨てる(「20th milestone」/2007年)
12. Hallelujah(「住人〜jyunin〜」/2008年)
13. 鏡雨(「鏡雨〜kagamiame〜」/2009年)
14. お前の空まで曇らせてたまるか(「鏡雨〜kagamiame〜」/2009年)
15. 燦燦と(「燦燦と」/2010年)
16. 気力をぶっかけろ(「Kind of Mind」/2012年)
17. 後ろに歩くように俺はできていない(「不揃いのステップ」/2014年)
18. ONBORO(「俺の空は此処にある」/2015年)
■Disc-3/SION LIVE 1986 at SHIBUYA LIVE INN(収録:1986年6月17日 渋谷ライブ・イン)【全15曲収録/収録時間76:03】
01. 風向きが変わっちまいそうだ
02. やるせない夜
03. コンクリート・リバー
04. 春夏秋冬
05. ハード・レイン
06. ダーリン
07. SORRY BABY
08. TONIGHT
09. 俺の声
10. レストレス・ナイト
11. はやく慣れることさ
12. ハングリー・ナイト
13. 街は今日も雨さ
14. KNOCK ON THE HEART
15. クロージング・タイム
※M-8、M-10以外は未発表音源
■Disc-4/SION LIVE & CLIPS(DVD)【全20曲収録/DVD収録時間 約100分】
<RARE LIVES>
◎1986年2月28日 渋谷ライブ・イン
M01. 風向きが変わっちまいそうだ★
M02. 俺の声
M03. 12月
◎1988年5月29日 汐留PIT
M04. バラ色の千鳥足★
M05. パニック
M06. ノスタルジア★
◎1989年3月2日 NISSIN POWER STATION(音声はモノラル)
M07. もの悲しい風★
M08. こんな大事な夜に★
M09. カーテン★
※★は未発表映像
<STRANGE CLIPS>
M10. 春夏秋冬
M11. サイレン
M12. 元気か?
M13. 水の中にいるようだ
<SION-YAON with THE MOGAMI 2010〜2015>
M14. 住人(SION-YAON 2010)
M15. 遊ぼうよ(SION-YAON 2010)
M16. どけ、終わりの足音なら(SION-YAON 2011)
M17. コンクリート・リバー(SION-YAON 2013)
M18. 月が一番近づいた夜(SION-YAON 2014)
M19. お前の空まで曇らせてたまるか(SION-YAON 2015)
M20. このままが(SION-YAON 2015)

PRIVATE ALBUM
Hello 〜大切な記憶〜 Naked Tracks 9

SION-0011/定価:3,500円(税込)
2016年8月11日(木)発売

【収録曲】
01. 春の陽をあびて
02. 洒落た日々から遠く離れて
03. 大好きで
04. 春よ
05. 今さらヒーローになれやしないが
06. これきりに憧れ
07. 追っつかない
08. デジャビュのあやとり
09. ひとり綱引き
10. Hello 〜大切な記憶〜

LIVE INFOライブ情報

SIONアコースティックツアー2016
〜SION+Sakana Hosomi & Kazuhiko Fujii〜

【博多公演】11月18日(金)博多 LIVEHOUSE CB
【札幌公演】11月26日(土)札幌 DUCE
【仙台公演】12月3日(土)仙台 CLUB JUNK BOX
【名古屋公演】12月9日(金)名古屋 CLUB QUATTRO
【大阪公演】12月10日(土)大阪 umeda AKASO
【東京公演】12月17日(土)代官山 UNIT

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