大阪が生んだ奇跡のガレージロックンロール・トリオ、ザ50回転ズのサンフランシスコ産デビュー・アルバム『50回転ズのギャー!!』(2006年1月18日発売)が発売10周年を記念して、ヴィンテージ機材を使用したアナログ・リマスターを敢行&驚異の15曲もの大量ボーナストラックを追加収録した全30曲入りで装いも新たに登場! さらに、当時の衣装で『50回転ズのギャー!!』を全曲完全再現する全国ツアーも鋭意断行中! ニューヨークで行なわれた10周年&リマスター盤発売記念の初ライブも大盛況のうちに終了、12月14日(水)には我が新宿ロフトで疾風怒濤のステージを繰り広げる彼らにリマスター盤制作の意図と聴き所を訊く!
メンバーをビックリさせるのが最優先!
──そもそもどんな経緯でデビュー・アルバム『50回転ズのギャー!!』のリマスター盤をリリースしようと思い立ったのですか。
ダニー(g, vo):上半期のツアーが終わった頃に「あれ? なんか忘れてるような…」みたいな感じでデビュー10周年を思い出し(笑)、大急ぎでワーナーに連絡して、10周年なんで何かやりましょう! と。
ドリー(b, vo):ワーナーも快くOKしてくれて、やったー! じゃあリマスターしよう! と。
──10年前に出した『〜ギャー!!』をまた違った形で世に問いたい気持ちは以前からあったんですか。
ダニー:未発表のまま眠ってるテープもあるし、デモ音源をボーナストラックに入れるって手法は外タレ的でカッコいいな、と(笑)。それならいっそ違う音質でリマスターして俺たちも楽しんじゃおうぜ! という感じですかね。
──いま客観的に見て、『〜ギャー!!』という作品はザ50回転ズにとってどんな位置づけですか。
ダニー:ファースト・アルバムってこと以外は、特にないですね〜。いまもそうですが、レコーディング時期にやりたいことをそのまま詰め込んだトンデモ盤! って感じですかね。
ドリー:ファースト・アルバムから完成度が高いバンドと真反対な感じ。よくこんな音でメジャーで出させてくれたなぁ(笑)。
ボギー(ds, vo):ライブでは現役バリバリの曲たちだから、「あー、もう10年か」って感じですが。
──当時、サンフランシスコでレコーディングした時の印象深いエピソードを聞かせてください。なんでも予算がないために渡航費はバイトして捻出したとか。
ダニー:バレてるー!!(笑) これもさっきの話と同じで、サンフランシスコでレコーディングをしてみたかった、ってだけで。予算に関しても録音費用出してくれるだけでラッキー! みたいな感じでしたね。ボロい倉庫みたいなスタジオで、外の音も丸聞こえ。近くで演習中だった戦闘機の音も入ってる(笑)。
ドリー:そうそう、まさにガレージ・サウンドにぴったりのスタジオだったね(笑)。
──サンフランシスコでのレコーディングの経験がその後のスタジオ作業に活かされることはありましたか。
ダニー:今作以降、いろいろな手法、たとえばクリック聴きながらドラムから録ってみたり、Protools使ってみたりしてみましたが、結局、最近はこの手法に戻ってきました(笑)。テープ回して、バンドみんなで一発演奏ドカン! ワン・テイク! みたいな感じが一番俺たち向きだと分かってきた。
ボギー:合わせてドンは気合い入るよねー。
──当時、メジャーとインディーの違いみたいなものはどの程度意識していましたか。『〜ギャー!!』をメジャーから出すことによって自分たちへの注目が一気に高まるとか、ライブの動員が増えるとかの期待感はありましたか。
ダニー:出せてラッキー、いいアルバムが出来てウレシー! ってだけですかね〜。メジャーってインディーとどう違うワケ? ってみんなで話してた。
ボギー:いまでもあんまり分かってない(笑)。
ドリー:メジャー・デビューが決まった時も俺たちより周りのバンドマンとか、友だちのほうが驚いてたもん。
──今回のリマスターにあたり、こうした作業では異例中の異例である2週間もの時間をかけたそうですが、その理由は?
ダニー:俺が代表してマスタリングに立ち会ったんですが、まず、メンバーの頭のなかで想定しているであろう完成音のイメージを超えてやろうと!(笑) メンバーをビックリさせるのが最優先! そうなると自然に2006年バージョンは超えるだろうって感じで作業を進めたんですが、まー、これが難しいこと!(笑) この10年間、ライブとレコーディングと曲作りで転がり続けてきたので、自分たちの満足いくハードルがとんでもなく上がってて、どエラい苦労しました。一度2日で完成し帰宅したものの納得いかず、作業再開するも1週間で振り出しに近いところまで戻ったり…(笑)。完成の糸口が見えてなかったらリリース延期も真剣に考えました。
ドリー:10年前に一度は100点だと思って世に出したもんですから、それを超えるのはなかなか大変ですよね。でも超えてきてくれました!
いまも変わらず逆風、だからこそ見とれよ!
──ヴィンテージ機材を使用したアナログ・リマスターということですが、ヴィンテージ機材を使うことで生まれる効果とは具体的に言うとどんなものでしょうか。
ダニー:自分たちが楽しい(笑)。「この年代のイギリスの卓だと、あのバンドが同型使ったかも?」とか「このアンプはあの時代の音がする〜」とか、作る喜びとミーハー的な部分が同居してて…。実際、音質だけを比べると現代の機材のほうが解像度は高いと思うんですが、聴こえないようで聴こえる音の向こう側を想像しながら楽しむには見えすぎないことも重要で。説明的にすべて聴こえるのは好きじゃない。アナログは気配、雰囲気がいいのでロマンチックだと思います。
ドリー:そもそもすべてのパート、すべてのプレイがハッキリ聴こえるってのは違和感があるしね。
──バンドの立場から見て、リマスター作業を経て劇的な変化を遂げた収録曲はありますか。
ダニー:「50回転ズのテーマ」は凶暴性に拍車がかかった感じ。ビート感も音の密度も大幅アップ!
ドリー:「ぬけがらロック」はロウ感がアップしたことでドッシリした感じが出ましたね。
ボギー:意識してもらえば全曲通してドラムの胴鳴りがよりよく鳴ってると思うんですが、それがよく分かるのが「少年院のソナタ」ですかねー。
──オリジナル盤に収録されていた13曲に加え、2006年12月6日発売の5曲入りミニ・アルバム『1・2・3・4!!』、自主制作CD『ザ50回転ズ』(3曲・2004年)&『50回転ズの逆襲』(5曲・2005年)、『〜ギャー!!』のアウトテイク曲のタワーレコード限定特典CD-R『ダンスのブルース』、ニューヨークのライブハウス「Pianos」でのレア・ライブ音源(3曲のメドレー)と、前代未聞と言える全15曲ものボーナストラックを投下したのはどんな意図があったんですか。
ダニー:せっかくカッコいい音源なのに出さないのはもったいないな〜と。また2006年のワーナーのRAMONES再発へのオマージュでもありまして(笑)。当時『End Of The Century』のボートラの「Do You Remember Rock & Roll Radio?」のデモ・バージョンを聴いてから、いつか俺たちもデモ・トラック入れたる! と思ってました。あれ、DEMOのほうがロマンチックなんですよ。
ボギー:ボーナストラックあるあるやね(笑)。
──ボーナストラックの音源を聴き直して、どんなことを感じましたか。
ダニー:とにかくDemoトラックの「マブイあの娘」がかっこいい。『〜ギャー!!』に入ってるのより良いかも! R&Bの横ノリっぽい腰にくるビート、当時の俺たちも頑張ってますね〜(笑)。
ドリー:音楽的な知識が少なかったから生まれた曲もありますね。「ダンスのブルース」なんて、ダニーが持ってきたインストの曲になんかパンチのあるリズムないかな? とスタジオで模索して、みんなで笑いながら作りましたもん。
ボギー:洗練されてない良さがあるね。当時にしかできなかったであろうノリが出ていると思います。
──この記事が出る頃にはニューヨークの「Pianos」で行なわれる10周年&リマスター盤発売記念の初ライブが終了していますが、10年ぶりの「Pianos」でのライブ2公演に向けていま感じているのはどんなことですか。
ダニー:2006年のあの頃も世界はR&R、PUNK ROCKを置き忘れたまま疾走してましたが、いまも変わらず逆風だと思います(笑)。だからこそ見とれよ、という感じ。10年前と変わっていないな〜(笑)。
ボギー:10年経ちましたが、僕らのロックンロールを鳴らしに行くだけですね。
──アメリカと日本のライブハウスの違いはどんなところですか。
ダニー:ニューヨークで俺たちが知ってるところではお酒を呑みに来るのが目的のお客さんがほとんど。バー・スペースとライブ・スペースが仕切られてて、ライブを見たい人は7〜10$ほど払って入る感じ。ダサい音楽は見向きもされないし、カッコ良けりゃバーの客みんな入ってくる正直なシステムです。日本はライブのためにライブハウスに来るし、チケット代が高い! いつも来てくださるお客さん、ほんとスンマセン(笑)。チケットが安いってことはライブ本数が多い? ということはライブ音楽との距離が近い? と推測してます。
ドリー:あのシステムは面白いよね。