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畑中階段【畑中葉子×非常階段】(Rooftop2016年12月号)

 "キング・オブ・ノイズ"の異名を持つ非常階段とジャンルを超えたアーティストとの禁断のコラボレーション、"◯◯階段"シリーズも回を重ねること第12弾。今回の対抗馬は、妖艶なセクシー・テクノ歌謡の旗手として再評価の機運が近年高まっている畑中葉子である。空前のヒットを記録した「後から前から」や「もっと動いて」で世の男性を一躍虜にした昭和歌謡の歌姫が極悪ノイズ・ロックとコラボ!? 一見相容れない異ジャンルの異端児同士に思えるが、そんな両者だからこそ異色で異形の異音が生まれ得たのではないか。昭和の名曲を唄う畑中の艶やかな歌は凶暴極まりないノイズに拮抗し、互いの特性が相まって前人未到の境地へと聴き手をいざなう。ノイズの渦に包まれつつも包み返す懐の深さを持つ畑中の歌を堪能できる意味でも、『畑中階段』は歌謡史においてもノイズ史においても最重要作として評価されるべき作品だと言えるだろう。(interview:椎名宗之)

出会いのきっかけはツイッターを介して

──今回、こうしてコラボレーションを果たしたお二人ですが、接点がどこにもなさそうに思えるのですが(笑)。

JOJO広重:きっかけはツイッターなんですよ。数年前に畑中さんがツイッターをやっていらっしゃるのを見つけて、昔からファンだったのでフォローさせてもらったんです。で、その年の僕の誕生日に畑中さんが「お誕生日おめでとうございます」とツイッターを通してメッセージをくださったんですよ。畑中さんは僕が一体何者なのかご存知なかったと思うんですけど、僕にはその年で一番嬉しい出来事だったんです(笑)。

畑中葉子:私がなぜ全く面識のないJOJOさんにフォローを返したかと言うと、ひらめきみたいなものですね。この人とは関わっていたい、みたいな直感があったんです。ただ、それで直接お話しするような機会はすぐにはなかったんですけどね。

広重:2014年に畑中さんがソロ・デビュー35周年記念で4枚組の『後から前からBOX』をビクターから出しましたけど、それと非常階段の『咲いた花がひとつになればよい』の発売日がたまたま一緒だったんです。『咲いた花が〜』は非常階段の結成35周年記念アルバムで、偶然にも同じ35年だったんですね。ディスクユニオンのウィークリー・チャートの1位が『後から前からBOX』で、2位が山下達郎さんの復刻もので、3位が『咲いた花が〜』だったんです。「山下達郎さんが畑中葉子さんと非常階段に挟まれてますね」というツイートを見かけて、面白かったのでリツイートをして(笑)。僕も『後から前からBOX』は買わせてもらったんですが、驚いたのは畑中さんが「JOJO広重さんのBOXを買いました」と連絡をくださったことなんです。『生きている価値なしBOX』という10枚組で、1万2,000円くらいするシロモノですよ?(笑) 「わざわざ買わなくても差し上げますよ」と返事をしたら、「いや、もらっちゃうと聴かなくなるので」とおっしゃって。これはマズい、あんなノイズまみれのなかで「生きている価値なし!」なんて唄っているのを聴かれたらただの変質者だと思われてしまうと考えて(笑)、一度ちゃんとご挨拶をさせていただこうと思ったんです。お会いさせていただいたのは2014年の暮れか2015年の頭くらいでしたね。

──畑中さんは『生きている価値なしBOX』を聴いて、どう感じたんですか。

畑中:「……ん? んん!?」って。いつまで経ってもキュッキュキュッキュ言ってて、訳が分からなかったですね(笑)。でも、JOJOさんのささやいている言葉がすごく胸に突き刺さったんですよ。私も中学生の頃から自分の思いをノートに書き連ねるようなタイプだったから、表に出せない心の思いをJOJOさんが誰かの代わりに言ってあげてるんだなと思って。さすがに10枚全部は聴けませんでしたけどね(笑)。

──そんな伏線がありつつ、どんな経緯で畑中階段が結成されたんですか。

広重:「もし関西に来られることがあればブッキングしますよ」と以前から畑中さんには話していて、去年の9月に難波ベアーズで畑中さんと僕、山本精一さんの3人でライブをやらせてもらったんです。それが畑中さんとは初共演でした。そのライブで「『カナダからの手紙』をデュエットしませんか?」と畑中さんに言われたので、8月にカラオケボックスに行きまくって声が嗄れるくらい練習したんですよ(笑)。でも、あの歌はけっこう唄うのが難しいんですよね。

畑中:いや、すごく格好良かったですよ。「あなたの愛を〜♪」のパートも熱がこもってたし、JOJOさんとのデュエットは私にとっても特別な「カナダからの手紙」でしたね。

──そんな話を伺うと、お二人がデュエットする「カナダからの手紙」を今回のアルバムに入れて欲しかったなと思ってしまいますね。

畑中:ああ、そうすれば良かったですね(笑)。

広重:まぁ、それはまた別の機会に……(笑)。

──ライブでの手応えを感じて、一緒にスタジオへ入るのを広重さんが提案したんですか。

広重:今年の2月に東京でも畑中さん、山本精一さん、僕の3人でライブをやったんです。それも非常に好評だったし、アルケミーレコードの主宰として面白いものは記録して形に残しておきたいと思ったので、テイチクさんに畑中階段をご提案したら「是非に」とお返事をいただいたんです。今年の5月に畑中さんが本格的な復帰第1弾アルバム『GET BACK YOKO!!』を出されるということだったので、それとは毛色の違うものを作ろうと思ったんですね。『GET BACK YOKO!!』はセクシー歌謡という従来の畑中さんのイメージを踏襲した形だったので、僕らはノイズを使ってもう一歩新しい領域へ踏み込んだものを畑中さんにご提案できればと考えたんです。

 

ディテールまで唄い分けをする歌へのこだわり

──本作で畑中さんの唄う歌の選曲がどれも素晴らしいのですが、これは広重さんのチョイスによるものなんですか。

広重:そうでもないんですよ。

畑中:ランナウェイズの「Cherry Bomb」は私が選んだんです。

──エッ!? それは意外ですね。

畑中:私は「カナダからの手紙」でデビューしたのでお嬢さんっぽい清楚なイメージがあるかもしれませんけど、高校の頃はディスコ・サウンドが好きで、ディスコでよく踊ったりしていたんです。そういうアングラっぽいもののほうが歩みやすいところもありますしね。

──ということは、非常階段のようなマイナーな音世界にも入っていきやすかったですか。

畑中:そうですね。一度ステージを見てみないとノイズがどういうものか分からなかったので、新宿ロフトで非常階段のライブを見させてもらったんですけど、私はやっぱりこういうアングラなものが好きなんだなと思ったんですよ。「てめぇの人生、てめぇで生きろ!」ってJOJOさんが叫ぶのを見てガーッと涙が出てきて、これは来るなと思って。自分にはもう親がいないし、そういうことを言ってくれる人もいないので余計に響いたのかもしれません。あのライブで自分のなかにはアングラ的な要素があるんだなと再認識しましたね。

広重:「『Cherry Bomb』をやりたい」と畑中さんから言われた時はびっくりしましたよ。僕も当然ランナウェイズはリアルタイムで聴いていたし、レコードも買っていたので、それは非常に嬉しいご提案でしたね。

畑中:高校の時、私の周りの友達と一緒に「Cherry Bomb」を文化祭でやろうって話が出たんですよ。でもそこから楽器を練習するのは無理だってことになって、結局やれなくなったんですね。そのことがずっとどこかで引っかかっていて、「Cherry Bomb」をやるならいましかないと思ったんです。せっかくの機会なので歌をめっちゃ練習しました。

──日米の悩殺爆弾が融合したような絶品カバーだと思います。他にもドラマ『キイハンター』の主題歌だった「非情のライセンス」や藤真利子の「花がたみ」、石川セリの「八月の濡れた砂」といった昭和の名曲が畑中さんの歌によって鮮やかに甦っていますね。

広重:どれもいい曲ですし、それを当時聴いていた感覚を持ったままいまの形で取り組んだ感じですね。平成生まれの若い人たちが取り上げるのとは違う、僕ら昭和の人間ならではの本腰の入ったものができるはずだと思っていました。「花がたみ」はテイチクのディレクターの方と何らかの形でやりたいと以前から話していて、もし畑中さんが可能であれば試してみたかったんですよ。作詞が寺山修司さん、作曲が鈴木慶一さんの名曲ですからね。

──セクシー歌謡の第一人者である畑中さんが「非情のライセンス」を唄うのは親和性が高いと言うか、畑中さんの持ち歌のようにも聴こえますね。

広重:「非情のライセンス」は子どもの頃に『キイハンター』を見てさんざん聴いていて、ずっと心の奥底に残っている曲なので、一番最初の「ああん…ラムール」という畑中さんの声を聴いただけでやられちゃいますね(笑)。『キイハンター』はちょっとセクシーなシーンもあって、親の顔色を窺いながら見ていたところもあったんです。『プレイガール』とか『11PM』とかもそうでしたけど、ちょっと背伸びして見るような番組が当時はけっこうあって、「非情のライセンス」はそんな時代を象徴する曲ですね。メロディも歌詞も非常に良いものだし、それを僕らと同世代の畑中さんに唄ってもらうことでいまの時代に提示できたのが良かったと思います。

──「非情のライセンス」は特に、キノコホテルとか若いバンドのファンにも受けそうなカバーだなと思ったんですが。

広重:そうですね。ただ、畑中さんの歌に対する姿勢はそういう若いバンドと一線を画したものだと思います。畑中さんはレコーディングの時に歌詞の一つひとつに自分なりの思いを込めて唄っていたんですよ。ここはちょっと突き放したように、ここは情を入れて…とディテールまでこだわって唄い分けをしていて。そういうさらっと唄い流すことができない姿勢や感覚は僕らの世代ならではのもので、作詞家の方の気持ちを含めて深くこだわるのはさすが畑中さんだなと思いましたね。

 

畑中葉子×非常階段
『畑中階段』

TECH-26495
定価:2,407円+税
題字:畑中葉子/監修&解説:JOJO広重
2016年12月14日(水)発売

amazonで購入

【収録曲】
01. 畑中階段のテーマ/非常階段×畑中葉子
02. 非情のライセンス/非常階段×畑中葉子(オリジナル:野際陽子)
03. Noise Daddy/非常階段(JOJO広重、T.美川)
04. 花がたみ/非常階段×畑中葉子(オリジナル:藤真利子)
05. Noise Acoustic/非常階段(JUNKO、岡野 太)
06. もっと動いて/非常階段×畑中葉子(セルフカバー)
07. Noise Jazz/非常階段(T.美川、岡野 太)
08. 八月の濡れた砂/非常階段×畑中葉子(オリジナル:石川セリ)
09. King And Queen Of Noise/非常階段
10. Cherry Bomb/非常階段×畑中葉子(オリジナル:THE RUNAWAYS)
11. 続・畑中階段のテーマ/非常階段×畑中葉子

Live info.

アルケミーレコード・ノイズ新年会
畑中階段CD発売記念ライブ

出演:畑中階段(畑中葉子×非常階段)、畑中葉子(バンドセット)、ミステリー・ガールズ・プロジェクト
2017年1月6日(金)東京:四谷アウトブレイク
OPEN 18:30/START 19:00
前売 2,500円/当日 3,000円(共にドリンク代別)

アルケミーレコード・ノイズ新年会
畑中階段CD発売記念ライブ

出演:畑中階段(畑中葉子+JOJO広重+ナスカ・カー・ナカヤ)、畑中葉子、けいのいず2(vo.ホカダナオミ/g.スハラ/b.高野陽子/dr.エミークノコビッチ)
2017年1月15日(日)大阪:難波ベアーズ
OPEN 18:30/START 19:00
前売 2,500円/当日 3,000円(共にドリンク代別)

畑中葉子/長島温泉・湯あみの島『歌謡ショウ』
2017年2月4日(土)〜2月13日(月)三重:長島リゾート