自由すぎる写真のイベント『ワイワイワールド』オーガナイザー兼みんなのお話の聞き手でもあるカメラマンの金子山さん。お客さん含むそれぞれが撮った写真を持ち寄り、音楽をつけたスライドショーなど自由な形式で見せ合うこのイベント。ワイワイとなんでも言えそうな居心地の良い雰囲気が印象的ですが、その雰囲気を作り出しているのは金子山さん自身の持っている空気感に他なりません。[interview:齋藤航(NAKED LOFT)]
「PHOTO PASSくれ」
──まずカメラを持ったきっかけは?
金子山:友達に誘われて大学の写真部に入ったのが最初です。ロッキングオン世代なんで、HIROMIXさん、ホンマタカシさん、大森克己さんとかバリバリやってる人たちを見ていていいなーと思ってました。その頃にレディングフェスティバル(イギリスの野外フェス)に行くことになったのでロッキングオンに「フェスの写真を撮ってくるから PHOTO PASSをくれ」みたいな手紙を送ったんです。
──えっ、学生ですよね?
金子山:そうしたら編集長から直接電話がかかってきて「会ったこともないし、どういう写真を撮る人なのかもわからないからあげられないけど、帰ってきたら写真を見せて」と言われたので見せに行ったら気に入ってもらえて、それで調子こいて(笑)写真の仕事をするようになりました。洋楽のライブレポみたいな白黒ページのちっちゃい写真を撮ってましたね。でも本誌だとあんまり仕事もなかったんでロッキングオンJAPANの仕事をしたくなっちゃって。当時は山崎洋一郎さんがクラブでイベントをやっていたので、直接写真を持って行って見てもらって、JAPANの方でも撮るようになりました。
──普通はスタジオに入って勉強してカメラマンになる、というのが多いかと思うんですが、いきなりフェス取材から仕事を始めるっていう方はあんまりいないですよね。
金子山:それが良かったのか悪かったのかわからないですけどね…(笑)。若いからっていうのもあったと思いますけど。寛容な時代でした。
松本人志を撮る
──その頃、松本人志さんの単行本「松本坊主」の表紙を撮られてますよね。
金子山:まだ学生時代でしたね。しかも童貞。
──『童貞、松本人志を撮る』これは荷が重いんじゃないですか(笑)?
金子山:松本人志を撮った唯一の童貞カメラマンなんじゃないかと自負してます(笑)。表紙は白黒って決まっていたみたいで、当時は白黒専門だった自分が抜擢されたみたいですね。撮影自体は10分ぐらいでした。
──そんなに早かったんですか! 何か会話はしましたか?
金子山:「あー若そうですね」って言われましたね。で、「はいっ!」て(笑)。それだけ。ここが早くもカメラマンとしてのピークだって話もありますが(笑)。卒業後には豊田道倫さんに紹介してもらった佐内正史さんのアシスタントを1年間だけやりました。
──期間としては結構短いほうなんじゃないですか?
金子山:そうですねぇ…。佐内さんは強烈なスタイルの人なんで「これ影響を受け過ぎるとヤバいな」っていうのもありました(笑)。佐内さんは凄くいい人なんです。いわゆる師匠と弟子って感じじゃなく、楽しく一緒に仕事をさせてもらっていた感じでした。だからあんまりしっかりした技術的なところはちゃんと通ってないんですよね。
ゲリラ展示って何?
──写真を路上に貼って大変なことになった経験があるみたいですね。
金子山:あんまり仕事がなかった時期、代官山の高架下に勝手に写真を貼っていくというゲリラ写真展示をしたことがあります。でも全体の8割貼ったところで警察に見つかっちゃって、それで一晩。でも色んな所に「ゲリラ写真展やります!」って手紙を送っちゃってたんで、翌日また貼りに行って完成させて帰ったら警察から電話がありました。「お前、また貼ったろ!」って(笑)。
──そりゃバレますよ! そういう活動をしていた写真家って他にいたんですか?
金子山:いたんじゃないですかね? 実例はわからないですけど。路上なんでグラフティの奴らに写真の上に絵を描かれて、さらにその上に写真貼ってやったりとか。
──そんな抗争も(笑)。もう時効ですよね。
金子山:いろんなことやってましたね。その頃はフィルムだったんでお金もかかって、本当に鳴かず飛ばずで。鈴木心さんというカメラマンが、毎日いろんな写真を撮ってBlogにあげているんですけど、それに影響を受けてデジタルカメラに持ち替えてから仕事が上向きになりました。とにかく写真の発表頻度を上げてどんどん更新していくのが重要だと思ったんで、それにはデジタルしかないなと。大判でフィルムで〜っていうよりオートフォーカスでバシバシ撮って! という方が自分には合ってたんでしょうね。
金子『山』
──気になっていたんですが、なんで金子山という名前で? インパクトありますよね。
金子山:これはYO-KINGさん(真心ブラザーズ)がつけてくれたんです。撮影の合間に共通の知り合いの話していたところで急に「名前変えたほうがいいよ」って提案してくれました。「お相撲さんみたいでかわいいじゃん」って、突然。撮った写真を送ったら【かっこいい写真をありがとう 命名『金子山』】って書いたハガキをいただきました。
──そんなものをいただいたら変えざるを得ないですね。
金子山:いやすぐには変えなかったです。ほっといたんですけど(笑)。でもさっきのデジタルカメラに替えるタイミングで、心機一転の意味も込めて改名しました。そこからは上向きですからね。感謝してます。
主催イベント:ワイワイワールド
金子山:写真集『喰寝 くっちゃね』出版記念に阿佐ヶ谷ロフトAでイベントをしまして。平野勝之さんやカンパニー松尾さん、小林勝行さん、都筑響一さんに出てもらうイベントだったんですが、そこで「これは毎月やったほうがいいんじゃないかな?」って思いまして。…いつもそうなんですが、自分は回遊魚みたいなもんで、止まったらダメだなって。強制的に自分を追い込まないとダメになっちゃう気がするんです。色んな人と知り合えますし、その知り合いの知り合いとも知り合えますからね。
──去年は写真に対するイデオロギーの違いからお客さんと出演者で意見が真っ二つに分かれて、言い合いになる場面もありましたが、結局お互いに相容れないなりに解り合えていたのがとても印象に残っています。みんな写真を見ながら自由に感想を言い合える場所になっていました。カメラマンさんで毎月イベントをやっている人なんていないですよね?
金子山:そういってもらえるとありがたいですね。でも毎月自主イベントをやっている写真家さんはいるんですよ。アラーキーさんは今でも毎月写真展をやられています。自分も「誰もやってないだろ!」って思って始めたのに大御所がとっくにやっていたという(笑)。今年の内容はまだ決まっていないんですけど、末井昭さんにはスライドに合わせてサックスを吹いてもらいます。『閉塞写真』というテーマに合わせて『閉塞サックス』。…あとはアクの強い人たちばっかりなんで、もうどうしたらいいのかわかんないです!
──えー! 自分でお声かけしたんですよね!?
金子山:そうなんですけどね…。お客さんも写真を持ってきてもらっていいんですが、ワークショップにはしたくないんです。写真は(シャッターを)押せば写るもんですから。構図って言っても撮る人の身長やカメラによって違いますし。教えるもんでも教わるもんでもないと思ってます。ワイワイワールドでは撮り方を教えたりっていう技術的な事はナシにしてて、基本的には発表する場所にしてます。
──『人に見られる』ために『選ぶ』ってだけで訓練にはなりますよね。今年のイベントはどうしましょう?
金子山:そりゃもう、またバトルになってもいいですし(笑)。プロの写真ですら限られた場所でしか批評性が生まれる場所ってないですからね。好きなこと言ってもらって…。受け止めますから!