音速ラインのニューアルバム『鋼鉄の魔法使い』は、そのタイトル通り、色々な魔法がかかり、繋がりと奇跡が生んだ珠玉の全12曲が並んでいる。
クラウドファンディングにより、文字通りファンと共に作り、各々の中で育んでいき、ライヴ通し完成させていく、そんな<共に作り上げた作品>と称しても過言ではない今作。いわゆる<音速節>とも呼べる、聴く者をキュンとさせ、どこか懐かしい気持ちにさせてくれるセンチメンタルで美しいメロディは変わらず。逆に様々なサウンドアプローチやバラエティに富んだ音楽メゾッドにより、<全曲違った音速ラインらしさ>を擁しているところも特徴的だ。
発表までのこの3年。歌いたいこと、伝えたいことが純粋に涌き出、それを純化させ作品化したかのような今作は、受け手の顔が浮かんでくる楽曲ばかり。そんな久々のアルバムについて、藤井、大久保の2人に色々と話を訊いてみた。
intervuew 池田スカオ和宏(LUCK'A Inc.)
「楽曲も色々と出来てきて、純粋にそれを出したい、発表したい、そんなピュアな気持ちで作った楽曲ばかり」(藤井)
━まずは今作を自身で聴き返してみていかがですか?
藤井:今までの作品の中で最も聴き返してます。聴いてテンションが上がり、酒を飲む。なので、酒のあてとしてよく聴いてます(笑)。
大久保:「こんなアルバムが作りたい!!」と夢見ていた作品が出来たかなと。結成から1stを出すまでの3年間、その時ととても似ているんですよね、前作を出してからのこの3年って。
藤井:内容的には<泣けないアルバム>にしたくて。震災後に出した2枚が(自身の実の)兄貴に「聴くと思い返しちゃってツラくて聴けない」って言われたんです。それを受けて、「そのようなアルバムって、いかがなものだろう...?」と省みて。なので今回はいつも通り、切なくはなるかもしれないけど、結果前向きになれる作風にしたかったんです。自然とみんなで楽しめ、聴いていて楽しくなれる清々しい気持ちになれる作品。その辺りを目指してました。
━確かに今回はこれまでに比べるとオープンで前向き、アウターに向かっている印象を受けました。
藤井:オープンで前向きなんだけど、ちゃんとした客観性も持ってる、そんな作品になったかなって。
━中にはシニカルな歌もありますもんね。
大久保:自分的にはいい意味で、あまり考えずに浮かんだことや思ったことを素直に出せた作品ですね。各楽曲に身を任せて弾いているうちに完成していた、みたいな。だから実際、レコーディングでどう弾いたかを思い出せない曲もあるんです(笑)。後で自分で改めて耳コピをして、のちのライヴに備えたという(笑)。
藤井:これまではずっと1stアルバムが最高だと思っていて、それを越えようと毎作色々なことをしていたんですが、今回は逆にその気概が全くなかったんです。その1st云々にこだわらずに純粋にいい楽曲、いいアルバムを作りたくて。それこそ楽曲も色々と出来てきて、純粋にそれを出したい、発表したい、そんなピュアな気持ちで作った楽曲ばかりでしたからね。まずは出したい楽曲ありき、そんな感じでした。当初は10曲入りの予定だったんです、今作は。けど、どうしても入れたい曲があって。結果、12曲になっちゃいましたから(笑)。
大久保:今回は、それこそアルバム用に曲を作ったわけではなくて、楽曲を発表したくて作った曲ばかりですから。そんな楽曲の集合体としてのアルバム。そんな位置づけなんです。
藤井:本当の意味での<一回りしたあとの1stアルバム>、感覚的にはそれに近いかも。そういった意味で、制作期間も極めて健全でしたね。
大久保:必然的にこれぐらいのタームが必要だったり、出したいという飢餓感があったが故に作り上げられた最高傑作なのかもしれない、今作は。
藤井:前作を出して、これまでのペースやタームで、このようなアルバムが作れたかと問われると、たぶん出来ていないと思うんです。あと、震災が終わって5年。俺がようやく日常生活を楽しめる余裕みたいなものが出来たのも大きいだろうし。いわゆる、みんなと楽しいことがしたい、みたいな。これまでは、” 暗くなっている場合じゃない! 笑わなきゃ!! ” なんかそんな作風だったのに対して、今作は純粋に日常生活を楽しむ為の一枚に行き着けた感があるんです。激しい時期に全てを吐き出して、すっきりして満を持してこれを出せたというか。そう考えると、あの時期を経ないと今作まで辿り着けなかったかも。
「今回はお客さんと一緒にライヴを作っていける作品なのかなって」(大久保)
━作品全体にも、これまで以上のバンドっぽさを感じました。
藤井:その辺りはドラムに引っ張られることが大きかったかな。(高橋)まことさんにしても、(小寺)良太くんにしても。あと、今回は箭内(道彦)さんの作詞も含め、色々な人が色々な形で携わってくれて、ホント、ファンの方も含め、みんなで作った感があるんですよね。
大久保:今作は今までで最も色々な方が携わって下さった作品なんじゃないかな。
藤井:ファンや聴いて下さったみなさまも含め、これはもう僕たち名義ですけど、みんなで作った作品といっても過言じゃないです。そのみんなでわちゃわちゃやっている感じもこれまでなかったですからね。あと今回、インディーズの頃からずっとお世話になっていたレコーディングスタジオが閉鎖されちゃうエモい要素もドラマ的に加わったし。
大久保:そこで最後、自分たちの録りものを録り切れたところにも運命を感じましたね。しかも最後がまことさんのドラム録りだったという。
━そうそう。まことさんも1曲ドラムで参加しているんですよね。
藤井:実は、まことさんも出資して下さったんです。で、「出資したんだから、叩かせろ!!」って連絡が来て。普通逆ですよね(笑)。あと、今回は打ち込みから始まる曲もあったりして。けっこう驚いたり、耳を惹いたりするところもあるんです。
━裏切らなく且つ新しいことが出来ているイメージが今作にはあります。いわゆるメロディラインは<ザ・音速ライン>なんですが、装飾の部分で、これまでになかった新しい要素も同居しているところも今作の特徴かなと。
藤井:切なくて泣けるんだけど、爽やか、その辺りは一貫してあるから。その爽やかな部分が今回はより強くなっているかもしれませんね。
「まさに前の楽曲と全くタイプの違う曲が次から次へと現われる、波瀾万丈のアルバム」(藤井)
━日本ウーロンハイ協会テーマソングもあるんですよね。
藤井:「ウーロンハイ」ですね。この曲は、田中情監督が制作してくれたそのMVをアップして10分後ぐらいに協会から「何か一緒にやりましょう!!」って連絡があったんです。で、先日、会長さんも交えて呑みました(笑)。他にも今作は色々な人を呼び寄せた作品になりましたね。それこそ色々なことが呼ばれて魔法がかかった作品だなと改めて思います。
大久保:あと今回は、キャッチ―なメロディのリフレインや呼応できるところも多いんで、お客さんと一緒にライヴを作っていける作品なのかなって。
藤井:ホント、今作は作っている間中、ライヴでの光景が浮かんできましたから。なのでライヴもとても楽しみなんです。みんなでライヴで曲たちを一緒に完成させたいですね。
大久保:これまで、これほどバラエティに富んで多彩な楽曲が揃ったアルバムも無かったですからね。ホント、1曲1曲違ったアプローチで色々なことをやれましたから。
藤井:まさに波瀾万丈の内容です(笑)。前の楽曲と全くタイプの違う曲が次から次へと現われますから(笑)。
━それが出来るのもやはり、「ザ音速節」みたいな一貫したみなさんらしいメロディがどの曲にも根幹にあるからなんでしょうね。それにしても印象深いアルバムタイトルですね。
藤井:<魔法使い>というワードを使いたいとは、元々大久保とは話していたんです。例えば同じ3分でも、カップラーメンが出来るのを待っている3分と、好きな曲を聴いている3分とでは体感時間も違うし、気持ち良さも違うじゃないですか。そんな3分を1分ぐらいにしか感じさせない良い曲を作れるミュージシャンというのは、それこそ魔法使いなんじゃないかって。で、最初は「二人の魔法使い」にしようかとも思っていたんです。で、知り合いにそのタイトルの話をしたら、その方は俺たちがメタル好きというのも知っているから、だったら、「鋼鉄の魔法使いだな」って、ポンと言ってきたんです。いわゆる昔の洋楽の邦題みたいな感じで。意味合いもいいし、書いた時の字ズラもいいし。" よし、これで行こう!! " と。