いつでもやめられるけど、いまやめるのは違う
──あのボディペイントはどれくらいの時間がかかったんですか。
M:最初は5時間くらい欲しいと言われていたんだけど、たしか3時間半くらいで仕上がったんじゃないかしら。すごく手際が良くて早かったですよ。大まかな方向性は定まっていたものの、ペイントされている間は具体的に何をどう描くのかは分からなかったの。でもそこはチョーさんもクリエイターだからお任せしようと思ったのね。どんな仕上がりになるのか自分でも楽しみにしていたので。描かれている間はずっとふたりで男の話をしていたわ(笑)。
──ペイントも充分すごいですけど、初回限定盤のジャケットに支配人が笑みを浮かべている写真が採用されたのがすごいなと思って。笑顔を見せるヴィジュアルなんて、これまでなら考えられなかったじゃないですか。
M:まぁ、ゲス笑いですけどね。支配人が普段しなさそうな表情が欲しいとチョーさんに言われて、デザイナーの方に「ぶっちゃけ、笑顔ってアリですか?」と訊かれたの。で、「別にいいんじゃない?」と答えたわけ。笑顔と言ってもゲス笑顔ですからね。
──キノコホテルの世界観としてはナシだったものが近年ゆるやかになって、それが必要なものであればやってみようという柔軟な姿勢に変化してきたのを『〜呪縛』辺りから感じるんですよね。
M:そうね。今回のアーティスト写真だって、いままで見られることを避けていた左目が見えているし。ペイントされてはいますけどね。あれはあの写真の何とも言えない面白さが勝っていたので、まぁいいだろうと思ったのよ。何と言うか、自分で定めたことに自分ががんじがらめになるのはすごくナンセンスだなと思って。それは今回のアルバム・タイトルに『〜革命』という言葉を使ったのと若干関係しているのかもしれない。キノコホテルを始めた頃は自分の決めたルールに則ってひたすら表現するのが楽しかったけれど、9年も経てば変化を欲するのが自然な行為だと思うの。そうやって柔軟に変わっていく部分と、バンドを始めてからずっと変わらない部分が上手いこと同居しているのが理想ね。変わらないことに凝り固まっているとどんどんつまらなくなっていくのよ。何よりも自分自身がね。
──いまはキノコホテルの世界観を保つ上でのルールに頼らなくても唯一無二の音楽を生み出せているから、殊更にルールを意識しなくても良くなったということですよね。
M:そういうことなのよ。初期の頃はバンドのコンセプトを面白がってくださる人が多かったけど、これだけサウンドが進化して面白いことをやれていると細かい決まり事が邪魔でしかない時もある。でもそれも自分が決めたことだから、勝手になかったことにするわけにもいかないの(笑)。その整合性を絶妙なバランスで保ちながら進化し続けていきたいわね。
──そんな思いを込めて『〜革命』という言葉が選ばれたのなら納得できますね。
M:やさぐれていた時期と決別して、自分のメンタリティを何とかして立て直さなきゃいけないと思ったのよ。こんなモードじゃ来年の創業10周年に向けて突き進んでいけないわ、って。でも自分でもこれだけ手応えを感じる作品を作れたことは自信につながったし、自分のできることはとにかく全部やりきった。フル・アルバムもこれで5枚目ですからね。この9年、腐らずによくやってきたなと自分でも思うわよ。
──そもそもはほんの余興で始めたバンドですからね。
M:こんなに長く続けるつもりはなかったですからね。幼少の頃から作曲が好きだったわけでもないし、思春期に音楽に打ち込んでいたわけでもないし。
──でも結局、キノコホテルというバンドがことのほか面白くなってきたからやめられないわけですよね。
M:まぁそうね。いつでもやめることはできるのよ。でもいまやめるのは違うって自分に言い聞かせているの。そうやって意地だけでやってきたところはあるわね。
──「流浪ギャンブル」の歌詞にもあったじゃないですか。「勝負はまだこれから」って。
M:自分に向けて唄っている歌詞なのかしらね。来年は創業10周年だし、それなりに印象深い1年になるようにいろいろと仕込むつもりよ。それも今回の作品がどれだけ世の中の人に面白がってもらえるかにかかっているので、「愛はゲバゲバ」の歌詞じゃないけど「投資しなさいよ」ってことね(笑)。ワタクシがあなたに決して恥をかかせない女でいるためにね。