リッチー・ヴァレンスがつないだ縁
──「TEQUILA」を始めとする『THE ROOTS』的なカバーは、今回どんな感じで選んでいったんですか。
K:メキシカンなロックがテーマとしてあったからね。「TEQUILA」のオリジナルはチャンプス。ラテン調のロックンロール・バンドだよね。まぁ、見るからにメキシカンなのはサックスのチャック・リオしかいないんだけどさ(笑)。「TEQUILA」はみんなが知ってる曲だし、ケンとヴィンスがやってるマリアッチ・エル・ブロンクスのライブSEでもあるのでやってみることにした。それと、僕が初めてハープの哲也さんのライブを見た時も「TEQUILA」をやってたんだよ。マックショウがLAでイナズマっていう向こうのバンドと対バンした時、哲也さんがイナズマのゲストで出てきたんだよね。あまりにすごいハープでさ、その場のノリも変わっちゃって、ライブの後に思わず哲也さんに言っちゃったもんね。「ハーモニカ上手いですね!」って(笑)。その時は「今日はマックショウを見たくて来たんだよ」って哲也さんから言われたんだけど、これは只者じゃねぇなと思って後からネットで調べたらすごい人だと分かってね。気安く「ハーモニカ上手いですね!」なんて言っちゃって失礼しました! って感じだよ(笑)。
──「COME ON, LET'S GO」はリッチー・ヴァレンスがオリジナルで、メキシコ民謡をロックンロール調にリメイクした「ラ・バンバ」が有名ですね。
K:リッチー・ヴァレンスはメキシコ系のアメリカ人だし、ケンもヴィンスも当然のように好きでね。僕も大好きなので取り上げることにした。今回のアルバムにはウチの娘がコーラスで参加してるんだけど、娘が通ってたLAの学校の中にリッチー・ヴァレンスの墓があるんだよ。彼の生涯を描いた『ラ★バンバ』って映画があるでしょ? あの映画を見直してたら、葬式のシーンで娘の学校が出てきてさ。教会と墓地と学校が一緒になってる所なんだよね。その話を哲也さんにしたら、「俺がアメリカに来たのは『ラ★バンバ』に憧れたからなんだよ!」って言うわけ。アメリカに着いてすぐにリッチー・ヴァレンスの墓へ行ったんだって。
──いろいろと話がつながりますね。
K:もっと言えば、『ラ★バンバ』の主題歌だった「La Bamba」をヒットさせたのはロス・ロボスだし、そのボーカルの息子がヴィンスだしね。そんな偶然が重なったこともあって「COME ON, LET'S GO」をやってみることにしたんだよ。
──今回、収録曲の作詞・作曲クレジットが3パターンで表記されているのが象徴的だと思ったんです。ソロの曲は「KOZZY IWAKAWA」、コルツの曲は「岩川浩二」、マックショウの曲は「コージー・マック」といったふうに分かれているんですが、それぞれ作風も微妙に異なるし、岩川さんの中に3人のコンポーザーがいるようにも思えるんですよね。
K:表記は全部一緒でもいいのかなと最初は思ってたんだけど、曲それぞれの持ち味の違いが際立つからあえて表記を変えてみたんだよね。もちろん同じ人間だからある程度の一貫性はあるはずだけど、その時々で曲の作り方やモードも違うしね。それを一緒くたにやるのが面白いんじゃないかなと思って。
コルツの名曲「MELODY」の誕生秘話
──こうしたアコースティック・アレンジになると楽曲の核がむき出しになるし、特に「MELODY」みたいな名バラッドはメロディの良さがさらに引き立ちますね。
K:「MELODY」を入れたのは、A&Rの川戸(良徳)がどうしても入れてくれってしつこいからさ(笑)。でも、ソロのアコースティック・ライブで「MELODY」を聴きたいってヤツも多くてね。やるとすごく喜ばれるし、自分でもよく出来た曲だなと思ったりもする。「MELODY」を作ったのは、90年代の終わり頃なのかな。これはミキオ君にもよく話すんだけど、ウルフルズの「バンザイ〜好きでよかった〜」って曲を聴いた時にすごくいい曲だと思ったんだよね。ソウルフルだし、詞の内容もごく身近なことだし、唄ってる本人の顔も浮かぶし、すごくいいなと思ったんだけど、こんなにヒットしやがって…みたいな気持ちもあったんだよ(笑)。で、こんなの俺にだって書けるよ! もっといい曲を作ってやる! って奮起して作ったのが「MELODY」なんだよね。その昔、ウルフルズとはけっこう近いポジションにいて対バンしたこともあったけど、当時は鳴かず飛ばずでね。だけど「バンザイ」はヒットして、やっぱり曲が良ければヒットするものなんだなと思った。
──「ワンパイントの夢」を改めて取り上げたのは、岩川さんの師匠でもあるモッズの森山達也さんをフィーチャーしたパートも全部岩川さんが唄うバージョンを残しておきたかったからですか。
K:そんなところだね。普段のライブは師匠がいないバージョンでやってるので(笑)。やっぱり師匠の歌とパーソナリティが濃いから、オリジナルはどうしてもそっちに引っ張られちゃうんだよね。「ワンパイントの夢」をライブでやると、お客さんも2番を待っちゃう感じがあるんだよ。「え? ワンパイント? まさかトミー(神田)が唄うわけじゃないよね?」みたいなさ(笑)。
──「ワンパイントの夢」はさりげなく聴き手の背中を押してくれる歌詞も素晴らしいし、改めて名曲だと実感しますね。
K:個人的にも「ワンパイントの夢」をもっと引っ張りたくてね。確か「MELODY」も5分くらいで作ったんだけど、この「ワンパイントの夢」も10分、15分くらいで書き上げたんだよ。その割にすごくいい曲が出来た手応えもあったしね。
──もはや岩川さんのソロの代表曲と言っていいんじゃないですかね。
K:代表曲にしたいし、そう思ってまた今回のアルバムに入れたんだけどね。
──考えてみると、神田さんがレコーディングに参加していない作品というのも随分と久しぶりですよね。
K:今回も一応、“Analog Tape Operated”というクレジットで参加してるんだけどね。テープを回したり、スタジオを掃除したり(笑)。ただ、トミーをLAにあえて連れていかなかったのは、せっかくのソロ・アルバムなんだし、たとえばトミーのベースがどう関わるかみたいなところで曲作りを限定したくない気持ちが僕にもトミーにもあったからなんだよ。トミーのほうでも自分が関わることによってベースはこういうふうにアレンジしなきゃいけないとか、そういう縛りを作るのはもったいないって思ってたみたいでね。それで、あくまでもソロ・アルバムの楽曲優先で物事を考えようってことにした。ライブではもちろんトミーにベースを弾いてもらってるけどね。
音楽を完璧に構築しない良さを出す
──これまで何度も渡米されていますけど、今回も学べたことの取れ高はかなり多そうですね。
K:そうだね。いままでずっとスタジオの機材やアナログ・テープで録ることにこだわってきたけど、それすらもういいんじゃないか? って気になった。別にiPhoneでもいいんじゃない? くらいのね(笑)。そういういい意味でのいい加減さ、大味なところは影響を受けたかな。機材やアナログ・マシンにこだわって準備するあまり、録り逃してるものも実はけっこうあったんじゃないかなと思ってさ。
──その場でしか生まれないフィーリングだったりを。
K:うん。向こうのミュージシャンは何にも頼らないし、機材にもコンピューターにも頼ってない。基本的にせーの! で演奏して終わり。多少ノイズが入ってるとか、細かいことは全く気にしない。リバーブがどうとか、低音や高音がどうとか、そういう次元の話じゃないんだよ。車がその辺を走ってたり、人が歩いてたり、隣りの部屋で騒いでたりする音もけっこう入っちゃうんだけど、それも街の音として受け入れるんだよね。むしろそういうノイズが入ってたほうが臨場感があっていい。無菌状態じゃないのが昔ながらのレコーディングであり、本来の音楽の在り方だったって言うか。ライ・クーダーがプロデュースした『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』ってCDがあったじゃない? あれには歩いてる音とか喋り声とかノイズがすごく入ってるんだよね。そういうのもいいんじゃないかと思えるようになった。
──音作りに対してますます純化していく感じですね。
K:だからこそ今回、メロディやフレーズの良さが際立つアルバムを作れたんじゃないかと思う。もちろん向こうにもきちんとしたスタジオはあるし、たとえば映画音楽とかはかなりちゃんとした音の作り方をしてるんだろうけど、音作りの本質的な部分でまだまだ学ぶべきところはたくさんあると思ったね。去年、楽器の音を大切にしながら楽曲の良さを最大限まで引き出した『MIDNITE MELODIES』というアルバムをソロで出せたから、その完成型を一度崩して新たなトライをしてみたかったんだよ。もっと純粋に音楽を楽しむことを優先して、完璧に構築しない良さを出すって言うかさ。それを今回のアルバムで体現できたし、マリアッチ・スタイルでやれば別に作り込まなくても自ずとそうなるんだよね。
──作り込みすぎず、いい塩梅のラフさで自分らしい音楽を形作ることができるようになったわけですね。
K:そういうこと。(『ROOTS AND MELODIES』のパッケージの中の写真を見ながら)これはメキシコの国境の近くなんだけど、こんな砂埃が多くて乾燥してる所じゃ服も汚れるよね。そんな汚れた感じや雰囲気を音に出せたんじゃないかな。自分がいままで作ってきた自慢の曲を向こうのミュージシャンとプレイして思いを共有できたことがすごく嬉しいし、ヴィンスが「マックショウの曲はメロディがすごくいいな」と言ってくれたことはとても励みになった。ヴィンスはもちろんキャロルなんて知らないし、オールド・ロックンロールは好きだけど、まだ30代半ばだからダイレクトに影響を受けた世代でもない。だけどマックショウの良さをちゃんと分かってくれるんだよ。