ロックンロールを下の世代に伝えるのが一番の役目
──そもそもなぜ日本にはロックンロールが根づかないんだと思いますか。
M:口ではロックンロールって言うものの、ロックンロールな生活をしてる人が少ないからじゃない? ドライブインが全国各地にあるわけじゃないし、50年代の車を乗りこなせてるわけじゃないし。「いやー、車の税金が高くて…」みたいなレベルで終わっちゃうでしょ?(笑) 生活の中にロックンロール的な要素がないと、本当の意味では根づかないのかもしれない。たとえば『アメリカン・グラフィティ』を観て、ああいう時代にどれだけ憧れたかっていう思い込みも大事だよね。昔、大阪の南港のほうにドライブインシアターがあって、そこに車で行くのが高校の頃からの夢でね。いつか絶対にアメ車を買おうと思ってたし、『アメリカン・グラフィティ』みたいな生活に憧れてた。後で実際にアメ車を買って、真夏の時期にドライブインシアターへ行ったんやけど、車にクーラーが付いてなくて酷い思いをしたね(笑)。でもそんな状況でも、「50年代のアメリカの人たちはみんなこうやって暑い思いをしながら映画を観たんかな?」って想像してたけど(笑)。
──想像と妄想は大切ですよね。「事実、想像、妄想…その歴史を継承するのがロックンロールのマナーだと感じている」と真鍋さん自身、本作のライナーにも書いていますし。
M:妄想するのは純粋に楽しいもんね。その当時に起こった事実は生まれてないから分からないけど、妄想の中に浸ることはできる。
──生業としてロックンロールに携わる以上、憧れの気持ちが萎える瞬間が多々あると思うんですよ。それが真鍋さんの場合、ロックンロールに対するピュアな気持ちをずっと抱き続けているのだから希有な例ですよね。
M:なんやろね、もう他に潰しが効かへんのかも分からんね(笑)。ここでいきなり「テクノやります!」とか言うても、今からもうムリやろ! みたいな(笑)。まぁでも、ロックンロールは継承すべき音楽やし、できる限りそれを追求して、できる限りそれを下の世代に伝えるのが一番の役目だと思ってる。そんな人が自分らの世代でも少ないし、ロックンロールについて熱弁をふるう人自体が少なくなってきたから余計にね。
──それもニートビーツの場合、ロックンロールの歴史や隠れた名曲を勉強っぽく伝えるのではなく、肩肘張らずに楽しめる感じで伝えようとしているのがいいですよね。
M:たとえばその手の専門誌とかはすでに好きな人がより知識を深めるためのものやけど、俺はなるべくロックンロールを知らない人のための入口でありたいし、その扉の敷居も低くしておきたいっていうのがあるからね。
──その敷居を低くするためなら、『バンドマンのすべらない話』みたいなトークライブも進んでやっていくと?(笑)
M:どんどんやるよ。ライブのワンマンは完売しないのにトークライブは即完することが一番の悩みだけど(笑)。『すべらない話』に出てるバンドマンはみんな言ってるからね、「世のニーズがよく分からへん、トークもいいけどライブに来てくれよ!」って(笑)。でもまぁ、リーゼントでロックンロールをやってますって言うと、知らない人には怖がられて終わるかもしれんし、それなら「『すべらない話』ってめちゃめちゃおもろいらしいで」って少しでも興味を持ってもらえたほうがまだええけどね。ライブのMCもなるべく間口を広げるようにやってるつもりなんやけど、最終的な感想がただ面白かっただけで終わるっていうのも悩みかな(笑)。結局、ニートビーツはただ面白いバンドってことになってるから。いやいや、マージービートに関してはけっこうマジメに追求してんのよ!? って言いたいよね。
──今回の『MORE BEAT SIDE HITS』でもそれを充分証明していますしね。
M:最近はライブでも「コミックバンドみたいに思われるのは不本意です」って話しててね。「俺たちはコミック的な要素もあるけど、“コミック/バンド”なんです。AC/DCみたいなもんですよ」って訳の分からない説明をしてるね(笑)。「コミックとバンドをスラッシュ(/)で分けてますから」って。
機械は進化してるけど使いこなせる人がいない
──ライブの向き合い方も20年近くを経てだいぶ変化してきたんじゃないですか。
M:お客さんも世代交替で変わってきたし、昔から来てくれる人は子どもを連れてくるようにもなったしね。俺ら自身もがっつき感はなくなった気がする。極端に言うと、売れたいとは一切思ってないしね。とにかくもうライブがやれてるだけでいい。あと何年できるかな? とか思うし、きっと30年後は飛んだりもできひんやろうとか、あと20年も経てばハゲちらかしてるやろうとか考えると(笑)、今やれるだけやっとこうって思うよね。ただなんやろ、今はライブにしろ音源にしろホンマにやりたいことをやれてる気はしてる。誰に指図されるわけでもなくね。若い頃は周りにいる人たちから「もっとこうしたほうがいいよ」「あれはやめといたほうがいいよ」みたいにいろんな意見を言われるやん? でもこの歳になると、「あいつは何言っても聞かへんからな」って放ったらかしになるよね(笑)。それでもバンドがホントにやりたいことであれば「いいやん、やろうよ」ってことになる。
──MAJESTIC SOUND RECORDSから世界のガレージ/ビート・グループの音源やカンパニー・スリーブ仕様のEPを出したりするのも含めて、かなり理想的にやりたいことをやれているわけですね。
M:もうあれだね、NPO法人みたいになってるよね。ロックンロールの非営利団体(笑)。そこで利益を求めるわけじゃなく、ロックンロールを広めるためにボランティアでやってるみたいな(笑)。さっきも話したけど、こういうことをやってる人が少なくなってきたからね。それがこうしてずっとやり続けてる理由のひとつでもある。ガレージにしろビート・グループにしろ、一時に比べてバンドはあるけどちゃんと活動できてないとか、バンド自体がないとかあるしね。そういうのを考えると、俺らぐらいはちゃんとやっとかなきゃなと思うし。
──ここ数年のニートビーツは不動のメンバーだし、それもバンドが安定していることの表れのように思えますね。
M:そうだね。メンバーの出入りが今後もしあるなら、病気とか体調不良とかじゃない?(笑) 今さら音楽性の違い云々かんぬんの話じゃないから。
──ボーカル以外はすべて生音、60年代初期のビンテージ機材(セルマー・アンプ、グレッチ・ドラム、オールド・マイク、ビンテージVOXスピーカー等)でセットアップされた特別ステージを披露するという『生音ライブ』が近年好評ですが、これもニートビーツならではのユニークな試みですね。
M:自分らの一番の売りはやっぱり楽器や機材やし、それを使った生音スタイルのライブをやるのが自分たちらしいんじゃないかと思って。それに、生音を聴いた人が「これ、他のバンドの音と全然違うやん!」って感じるだけでもいいことやからね。実際にやり始めたら、俺たちばかりじゃなくお客さんもああいう音が好きなんやと感じたし、なかには生音ライブにしか来ないお客さんまでいるくらい。生音をローファイ感で捉える人もいるけど、俺らはロックンロール本来の姿を伝えたいだけなんだよね。女の子で言うたら、すっぴんでも美しい人みたいな。化粧した時の派手な感じもいいけど、すっぴんならではのナチュラルの良さもいいよ、って言うか。
──音響機材や録音機材は60年代と比べて格段に発達したのに、生まれてくる音楽が今ひとつグッとこない、豊かに感じられないものが多いのはなぜなんでしょう?
M:人間が開発した機械がどんどん先に進みすぎてしまって、それをちゃんと理解して使いこなせる人がいないからじゃないの? 機械の特性を理解して、2000年代の音でも90年代の音でも80年代の音でも何でも作れます、っていう人がいないんやろね。作れるのは今の音だけ、みたいな。だから人があまり進化してないってことじゃないかな。今は全部機械がやってくれるから、ある程度のマニュアルとある程度の知識で作業をすればみんな同じ音になってしまう。マニュアルと全く別のことをやる人は凄く特殊やと思うけど、そういう人は少ないよね。エンジニアとかプロデューサーとかサウンドに携わる人は、気が狂ってるほうが音は斬新で面白かったりするもんね。
──フィル・スペクターとかジョー・ミークみたいに。
M:そうそう。普通の人間界で言うたら全然常識人じゃない、絶対に付き合いたくない人たち。でもそういう人ほど作る音が凄い。