ルーツを辿る旅のきっかけになれば嬉しい
──ジ・アンダーテイカーズやマンフレッド・マン、トニー・ジャクソンらがこぞってカバーした「WATCH YOUR STEP」も、それぞれのカバーでいろんな解釈ができるという意味でもオリジナルの凄さを感じますね。
M:「WATCH YOUR STEP」はドクター・フィールグッドもカバーしてるしね。ビートルズの「I FEEL FINE」のギター・フレーズはこの「WATCH YOUR STEP」のリフを参考してるなんて話を聞くと、やっぱり原曲は凄いなって思う。あとね、カバーしてみて「いいな」って思う曲のオリジナルは、だいたいにおいて最初は全然売れてない(笑)。でも、そういうヒットしなかった曲を後にカバーしてヒットさせる若いバンドが出てくるのが面白くて。その強引なパワー感が凄い好き。60年代のバンドは総じてもの凄くヒットした曲を選んでなくて、「なんでこの曲、ヒットしてないねん!? 俺がヒットさせるぜ!」みたいな気合いを感じるね。
──名曲を埋もれたままにするのではなく、自分たちで掘り起こしてバトンのように受け継いでいくのがいいですね。
M:そうそう。ヒットしてないってことは、そのオリジナルのアーティストは生活が潤ってないわけでしょ? でも、後にカバーした人がそれをヒットさせることによって急に潤う、みたいな(笑)。マディ・ウォーターズも「自分の曲をカバーしてくれたストーンズには感謝してるよ」って言ってたし、チャック・ベリーだってビートルズの恩恵を受けてたしね。リズム&ブルースをやってた昔の人がどんどん一線を離れてダメになっても、ヒップホップの連中が「黒人の歴史はリズム&ブルースから始まった」ってことで偉大なる先人たちの音楽をサンプリングで取り入れて、また世に知らしめる。そうやって助け舟みたいに更生させる感じが正しいカバーの仕方やなって思う。
──名曲のリサイクル運動とでも言いますか、ニートビーツもまた偉大なる先人たちの曲を伝承する役割を担っていますね。
M:埋もれた名曲をみんなに知ってほしいっていうのが根っこにあるしね。このジャンルはこの辺だけ聴いとけばオッケーみたいな感じで、そこで止まっちゃうのはもったいない。誰かのカバーを聴いて、その元を辿るのは凄く面白いことだし、ラモーンズにしてもストレイ・キャッツにしてもそうだった。ラモーンズを聴いても別にパンクで止まらへんかったし、オールディーズの名曲を知ることもできたしね。そういうのはルーツを辿る旅として凄く面白い。だからリスナーの人たちにそんな旅をしてもらえるきっかけになれたら俺らも嬉しいね。誰もが知ってるヒット曲をカバーしたところで、せいぜい原曲と比較されて終わりやから。そういうんじゃなくて、「こんなにいい曲があったんや!」っていう、そこが一番のポイントなのかなと思う。
──それがオリジナル・アルバムを作るのと同じくらいの大事なポイントであると。
M:そろそろオリジナル曲に取り掛かろうとみんなでスタジオに入って、何かのカバーを弾いてたら、それを録りたい欲が出てきちゃってね(笑)。
──来年で結成20周年を迎えるにあたって、原点回帰みたいな意識もあったんですかね。
M:あるかも分からんね。このGRAND-FROG STUDIOを作ったことでビンテージ機材にこだわったレコーディングにより意識が向くようになったから、当時の曲を今のこの環境でやってみたい気持ちも大きかった。その時の最高潮だったもの、ロックンロールの全盛期と言われる雰囲気や音を何とかこのスタジオで再現したい。なんて言うか、今の時代で支持されてるバンドの音を聴いても1ミリも響かへんことが圧倒的に多いしね。だから俺は多分、同じロックンロールと呼ばれる音楽をやってても住む世界が違うんやなと。でもニートビーツがやってるのは言わば専門店の音楽やから、それでもいいかなと思ってる。
──メニューが一品しかないラーメン屋みたいなものですしね。
M:うん。そこで急に「天ぷらを出してくれ」なんて言われても作り方が分かりませんよ、っていう(笑)。いろんなビンテージ機材や資料を揃えて、ニートビーツみたいな音楽をずっとやってると、60年代がいろんな意味でロックンロールのピークだった気がする。70年代はそのまとめ的な感じでいろんな方向に進んでいくけど、全員が全員、同じ音楽をいいと思ってた時期は多分60年代で終わったんじゃないかな。若者と大人がうまいこと分かれてた時代でもあるしね。大人は「ロックンロールなんて野蛮で良くない」って言うけど、若者は「ロックンロールこそが最高だぜ!」って突っぱねるみたいな。それも含めていい時代だった。今はけっこう、親子揃って同じ音楽を好んで聴いたりするけど、聴いちゃいけない音楽を逆らって聴くみたいな感覚は60年代まででしょ。なんかこう、ここから発展していく感じがあったよね。ライブの規模がどんどん大きくなっていったり、レコーディングの技術が発展していったり、やっぱりあの時代がピークだった気がする。
クラウドファンディングで映画製作に着手
──今のバンドの音にピンとこないと言いつつも、映画『Japanese Rock & Roll Ghost Story』で共演しているザ・プライベーツやザ50回転ズといったバンドにはシンパシーを感じているんですよね?
M:そうやね。ルーツ・ミュージックをちゃんと理解していて、それを今に伝えようとしているバンドって言うか。でも、そういうバンドが少ないね。今、その映画のサントラを作ろうとしてるんやけど、声をかける人が結局は知り合いしかおらへん。新しい人が全然いない。
──一番下の世代と思われがちなザ・ボゥディーズも、メンバーは30歳を超えてますからね。
M:ボゥディーズより下の20代、ティーンエイジャーに近い感じはなかなかいないね。みんな30代より上でしょ。
──そもそも映画『Japanese Rock & Roll Ghost Story』の製作はどんな経緯で始まったんですか。
M:InterFMのDJをやってるマイク・ロジャースが急に映画を作りたいって言い出して。このスタジオに来て、せっかくやからここで撮ろうってことになって。売れないバンドマンの前に亡霊が現れて、「お前の夢を叶えてやる代わりにお前の命をよこせ」とバンドマンに告げるっていう、現代版『クロスロード』みたいなストーリーなんやけどね。
──十字路に現れる悪魔に魂を売ってブルースの極意を得たというロバート・ジョンソンの物語ですね。
M:そんな感じの話をロックンロール・バンドでやる映画でね。ひとつ問題なのは、出てくるのが若者じゃなくてみんな歳喰ってるおじさんやから、「そんなに夢を抱いてんのか!?」ってツッコミたくなるところやね(笑)。
──でも、クラウドファンディングで映画製作の目標金額だった200万円がわずか15日で集まったわけですから、観る側は夢を抱いているのでは?
M:ねぇ。日本にはロックンロールを題材にした映画がないっちゃないから、面白いのかなと思って。たとえば、サーフィン/ホットロッド・ミュージックを全面的に使ったタランティーノの『パルプ・フィクション』みたいな映画はアメリカで自然と生まれるじゃない? 日本にも60年代にロカビリーやGSみたいな音楽があったのに、それをモチーフにした映画は意外と生まれへんな、と。日本にそういう映画がないならやる価値があると思ってね。ただ、アメリカ人の脚本家が書いてくるアメリカン・ジョークが全然おもろないから、だいぶダメ出しはしたよ。だってさ、最初に渡された脚本を見たら、俺の役名が“Mr.TAKA”って書いてあったのよ。“タカ”って、『あぶない刑事』かい!? みたいな(笑)。おいおい、『あぶない刑事』は今けっこうリアルに被ってるから“タカ”はやめようや! って(笑)。
──相変わらずすべりませんねぇ(笑)。そんな話を聞くと、脚本は真鍋さんが書いたほうが良さそうですね。
M:ホンマにね。ダメ出ししたせいで役の感じもだいぶ変わってきて、標準語がムリやからって全部関西弁になったりとかして(笑)。
──撮影はこれからなんですか?
M:撮影はもう全部終わってて、これから編集に入るところでね。最初はロング・ムービーにする話やってんけど、俺の中では脚本がロング・ムービー向きじゃないと思ったのでショート・ムービーにして、映像と音楽が同レベルの作品にしたほうがいいんじゃないかと思ってる。ビートルズで言えば『ハード・デイズ・ナイト』とか、ああいう雰囲気も入れたほうがいいんじゃない? って提案を今してるところで。公開は夏くらいにできればいいかなと。
──こうした映画の製作も日本にロックンロールを根づかせることの一環ですよね。
M:うん。今はサントラ作りにも着手してるけど、なるべくクラシックなスタイルでやろうと思ってる。ちょっと聴いただけでこれはロックンロールだ、サーフだ、リズム&ブルースだって分かるような曲にしてね。