Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー足立正生×平野悠(Rooftop2016年3月号)

伝説の映画監督・足立正生、9年ぶりの新作は笑って観られる娯楽映画!?

2016.03.01

 あの伝説の映画監督・足立正生が9年ぶりに新作映画を撮った。そのタイトルは「断食芸人」。世界的に有名な文学者カフカの短編を原作としている。この原作のチョイスも意外だが、映画のきっかけをつくったのが韓国だというからさらに驚きだ。以前から彼の事を尊敬して止まないロフトのオーナー平野悠が、映画の内容からその制作意図、さらには宣伝のキャッチコピーについてまで、縦横無尽に質問をし、足立監督の本質に迫った。(interview:小柳元/LOFT BOOKS)

韓国からコウノトリが飛んできた

平野:今回の映画は、プロモーションをとても頑張っていますね。足立さんがこんな事をするのは初めてじゃないですか? すごい数のメディアに出られていますよね。
足立:そうですね。メディアには27社出ました。平野さんはいくら電話をしても出ないから、本社を襲いましたよ(笑)。
平野:ありがとうございます。わざわざ会社の僕に会いに来るなんて、借金取りくらいだったから凄いですよ(笑)。今回、足立監督9年ぶりの作品ということで、ご自身もプロモーションをされて、反響はどうでした?
足立:もはや「まだ生きていたの?」っていう感じでしたよ(笑)。それでも映画を作るって決めた時から面白がる人が増えてきて、友人達が一所懸命エキストラを集めて助けてくれたりして、FacebookとかTwitterでも話題になり、なんとか今回の制作まで漕ぎ着けました。
平野:僕や映画好きの人間からしてみれば、足立さんはずっとキラキラとした憧れの存在だったんですよ。ただ若松さんが死んでしまってから、足立さんが何を創るんだろうなっていうのはずっと気になっていました。あれから色々なことが起きましたけど、足立さんはシナリオをずっと書かれていたんですよね。
足立:そうですね。映画を創り続けようと思っていたから、シナリオは書いていました。でも、最後の段階になると金を出してくれる人がいなくてね。それで凍結になってしまった企画が何本も続いていたんですよ。
平野:そこに韓国から、足立さんに映画を撮ってほしいとオファーがきたんですね。
足立:そう。コウノトリが飛んできたんだよ。韓国の広州市というところで「アジアアートシアター」という大きな劇場がつくられるので、その劇場の「こけら落とし」をやってくれないかと声をかけられたのが最初のきっかけでした。韓国はやると決めたらやる、というエネルギッシュなバイタリティーを持っているんです。
 
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命をさらして、何もしない、何も言わない、何も食わないっていう断食芸人の抗い方が気に入った。

平野:今回なぜ、足立さんがカフカの「断食芸人」を原作にしたのか、少しお伺いしたいです。
足立:賑やかになってもいるけど、同時に閉塞感の満ち溢れている今の社会に対して、何かしら抗おうという行為が本当に可能なのかと考えたんですよ。「安倍打倒!」とか「安保法制反対!」とか、みんな真面目に声を上げて抗っているんだけど、全部軽々とした政治的言語に絡め取られて、薄っぺらになって日本的風土の中に抱きこまれてしまっているように思えるんです。だからやっぱり命をさらして、何もしない、何も言わない、何も食わないっていう抗い方が気に入った。それが「断食芸人」をやってみたかった一番の理由です。
平野:今の世の中の閉塞感を突破しようという強い思いは、映画を観ていて凄く感じられました。ただ、ここでカフカを持ちだす必要があったのかなとも思ったのですが。
足立:この作品が書かれた当時のヨーロッパは、近代化がすごい勢いで進んでいたんです。その流れから自分を守るために、物凄く保守的な動きが強化されて、保守化の上に近代化がのっているというような事態が生まれた。また、カフカはユダヤ人だったのだけど、ユダヤ人なんていうのは民族でもなんでもなくてユダヤ教徒でしかないんです。ユダヤ人って名前をつくったのは、何を隠そうヒトラーですからね。ナチスがユダヤ教徒を差別するためにユダヤ人って名付けたんです。だからユダヤ人というのはどこの国でもいた。そのような事態に対して、一声、二声抗議したってどうしようもない。そんな閉塞感の中、根底からどうやって生きていくのかっていうのをカフカは示そうとしていた。そこに俺は興味を持ったんです。
 
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落語のような「断食芸人」

平野:あと設定もストーリーも滅茶苦茶面白い。でもカフカの「断食芸人」と相当違いますよね。
足立:カフカの「断食芸人」って20ページくらいしかない短編小説なんだけど、日本の落語みたいなんです。だから映画の最後にエンディングクレジットが流れ出したら、お客さんが古今亭志ん生の落語を聞き終わった後みたいに笑ってくれればいいなと思って、日本的に作り直したところもあります。
平野:なるほど、落語を意識しているんですね。実は初めてこの映画を観た時、足立さんが何を言いたいのかわからなかったんですよ(笑)。でもその後、2回観たんですが、2回目以降は完全に笑えるんですね。だから僕はみんなに「この映画は3回観ろ」と言いたい。
足立:実は平野さんみたいに何回も観てくれる人々がいたんですよ。何回も観て、笑って観ていいという事がわかったって言ってました(笑)
平野:今まで、僕は足立作品で笑って観たことなんて一度もないけど、今回は気楽に笑って観られる映画ですよね。「シュールが織りなすカオスな中にポップなアートが『顔』を出す」というキャッチコピーがありますが。
足立:俺はそのキャッチコピーに対して、とても頭にきてるんですよ!俺に言わせればこれは60年代から70年代のアートシアターの古い古いコピーですよ。
平野:「シュール」とかキャッチコピーから外してしまいましょうよ(笑)。そうすると、みんなもっと気楽に観られますから。
足立:気楽に観れて、若者に面白い映画を撮るっていうのが俺のテーマですからね。
平野:そしたら十分に通じますよ。もう作っちゃったからしょうがないんだろうけれども(笑)。
足立:だから、キャンペーン方法が違うという事で大問題になったりもしたんだけど、それはそれで評判がいいと言って自画自賛しているやつもいるから、困ったものですよ。これじゃあ、水仙棟梁に座って呟いているようなキャプションだもの。
平野:確かに偉そうなコピーですよね(笑)。だから足立監督のメッセージは、「とにかく娯楽映画なんだから楽しく観てくれよ」って事ですよね。
足立:「ついに足立が娯楽映画を撮った」と言ってほしい。
平野:けど全くの娯楽映画って言われると、ちょっと悔しくないですか?
足立:全然悔しくないよ。俺は芯からそう思っている。映画はビジネスでしかないから、実験映画、インデペンデント系とか範疇分けするものじゃないと思っている。今回の映画が娯楽映画って言われたら、小躍りして焼酎が10杯位飲めるよ。
 
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若松監督だったら

平野:最後に、若松監督に対して何か言いたいことはありますか?
足立:あの若ちゃんが側で観ていたら、まず金がいくらかかったか聞くだろうね。「お前、上手に韓国資本まで持ってきたな」とかなんとかいうでしょう(笑)。「で、どうだった、面白かった?」って聞いたら、「俺だったら、あそこのところをバシーンとぶち壊しただろうなって」っていつもと同じように言うでしょうね。「俺には壊したいシーンが3つくらいある」と彼が言うのはわかっている。
平野:若松さんが「壊したい」と言うであろうシーンが3つあるんですね。それが何なのか映画を観た人は考えてくれと。
足立:なぞなぞにしておいて、正解した人にはロフトプラスワンで平野さんがビールをご馳走するということにしましょうよ(笑)。
 
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©荒木経惟

【映画『断食芸人』】

2月27日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開!

山本浩司 桜井大造 流山児祥 本多章一 伊藤弘子 愛奏 岩間天嗣 井端珠里 安部田宇観 和田周 川本三吉 吉増剛造(特別出演) 田口トモロヲ(ナレーション)

監督 編集:足立正生 企画 脚本:足立正生,小野沢稔彦 

(C)2015「断食芸人」製作委員会

 

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