Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー石浜真史(アニメーション監督)(Rooftop2016年1月号)

3人のキャラクターが織り成すドラマの魅力

2016.01.04

 2013年に行なわれた一般公募「アニメ化大賞 powered by ポニーキャニオン」の大賞作品を原案として劇場化される異例の作品、『ガラスの花と壊す世界』。新しいアニメーションの可能性も秘めた今作は、どのように作られていったのか。創作ユニット「Physics Point」(フィジックスポイント)による原案『D.backup』に感じた魅力と共に、制作の裏側を石浜真史監督に語っていただきました。[interview:柏木 聡(Asagaya/Loft A)]

目指す方向性が合っている人が集まることができた

── 一般公募からの映画化という日本のアニメでは今までにない形の劇場作品ですが、どういった経緯で『ガラスの花と壊す世界』(以下、ガラコワ)の監督を石浜さんが任されることになったのですか。
石浜:公募に関しては、全然知らなかったんです。経緯としては、ポニーキャニオン(以下、ポニキャン)からA-1 pictures(以下、A-1)に制作依頼が来て、そこから「面白そうな企画があるけど、監督やってみない?」と話が来た形になります。
──最初に原案の『D.backup』を読まれた時の印象を伺えますか。
石浜:大賞を取るに相応しい企画だと感じました。シナリオというよりはプロットに近いものでしたが、キャラクターの魅力が溢れていて、世界観やそこにあるギミックなどがしっかりと伝ってくる内容でした。アニメ化にあたって作品の広がりを感じることのできるものだったので、審査員の方たちもそういうところを魅力に感じたんだと思います。
──Physics Point(以下、PP)のお二人よって世界観が出来上がっていたんですね。
石浜:そうです。
──劇場作品の監督は今作が初めてですが、いかがでしたか。
石浜:監督自体、TVシリーズを1回やっただけですし、今回は初の劇場作ということで緊張もしましたが、気合いも入りました。最初はよく任せてくれるなと思いました。
──石浜さんはアニメーター出身ですが、以前から監督志望だったのですか。
石浜:最近まで組んでいた舛成(孝二)さんと話した際に、「結局、フィルムは誰のものかと言えば監督のものなんだよ。そのぶん良かった時も悪かった時も責任を負わなくてはいけないんだよ」ということを聞いていて、そういう責任を担う監督というものに憧れを抱きました。自分のものだと言えるのはいいなと思っていたので、任せてもらえるのであれば挑戦したいなとは思っていました。
──監督の責任の重さも見てこられていたんですね。
石浜:そうですね。感じてました。
──作品制作を開始するにあたりスタッフを選んでいくことになりますが、どのようにお声掛けをしていったんですか。
石浜:脚本の志茂(文彦)さんとキャラクター原案のカントクさんはポニキャンさんからの依頼です。作って満足して終わりではプロではないので、作品の良さを伝えるにあたって世界観に合う方ということで選ばれたそうです。
──お二人と作品を制作していく中で感じられたことはありますか。
石浜:志茂さんは女の子の魅力を伝える技術に長けている方だと感じました。今回は王道がどうしても必要な作品なので、キャラクターの立ち振る舞いやセリフを存分に出してもらえました。僕にはそういったノウハウがなかったので大変助けられました。
──石浜さんはどちらかと言うとキャラクターがカッコイイ作品が多いですからね。志茂さんは過去の作品でも『CLANNAD』など、女の子の魅力を出すことが上手い方ですよね。そういう点ではカントクさんの絵も可愛いくて、まさに理想の方ですね。
石浜:これから伸びるに決まっているというのがビンビン伝わってくる魅力が絵にも欲しかったということもあります。カントクさんはとても頭の良い方で、シナリオをしっかり読み込んでくれて、その世界観に合うキャラクターを作っていただけました。可愛いというだけでなく、可愛くいるという世界観を成立させることが上手い方なんです。その点は志茂さんとの共通点が多い方なので、その武器を存分に奮っていただいています。
──世界観というところですと、この作品はプログラムの世界、いわゆる電脳空間なので可愛いとは真逆の硬派なイメージですが、注意された点はありますか。
石浜:今回はサイバーチックな要素を薄めています。シナリオを作る際に志茂さんも同じ判断をしてくださいました。僕が一人で画作りをしていたらそれなりにサイバーチックな要素を入れてしまうと思うんですけど、その点は世界コンセプトデザインの六七質さんに凄く良い形で入ってもらえました。昔から仕事をご一緒にしてみたいと考えていた方でお願いさせていただいて、シナリオを気に入っていただけたということで引き受けてくださいました。今回はサイバーチックな要素を強くしたくないと伝えたわけではなかったんですが、こちらの意図を汲んでいただけて、僕らはそれを大喜びで受け取りました。
──六七質さんはどちらの形になったとしても対応していただける方ですよね。
石浜:振り幅のしっかりある方で、リアリズムを求めた際にはそちらにも対応していただけたかと思います。出来た作品が想像した以上に脚本の意図を汲んでいただけて、ファンタジーの表現も取り入れていただけたのでびっくりしたくらいです。スタッフのみんなと作品の魅力を共有して作り上げていった形になります。
──人数が増えてくると意思統一が難しくなってくると思いますが、その点はどのように共有されたのですか。
石浜:今作では目指す方向性が合っている人が集まることができたので、その点は本当に運が良かったです。普通は方向性が合わなくてダメになってしまう人が出てくることもあると思うんですが、今回は一切なかったですね。個性派がいる中に器用な人が上手く入ってくれたことで繋いでくれたというのもあると思います。
──運命に導かれて集まったチームで作った作品という感じですね。
石浜:そうかもしれないですね(笑)。結果としては制作チームの集まり方や作品作りにもドラマチックな面があったのかもしれないです。きちんと僕が料理できる素材にしてもらえました。
──お伺いしているとスムーズに制作されたように感じましたが、苦労した点などはあったんですか。
石浜:ガラコワはA-1制作ですが、他社から来たスタッフがほとんどなので生え抜きの方がいないんです。制作の文法が違ったところもあったので、そこを統一するのは意外と苦労した点ではありました。A-1は他のタイトルも同時に多く動かしているので、協力を仰ぐのもなかなか難しいこともあって大変でした。終わって振り返ってみると、厳しかったのはそれくらいです。そんな中でもみんなコンスタントにスケジュールをこなしていってくれたので助かりました。
──遅れることが多いと聞きますから、それは助かりますね。
石浜:実は、第28回東京国際映画祭(以下、映画祭)は半分諦めていたんです(笑)。
──そうなんですか。
石浜:ポニキャンさんとしてはマストだったと思うんですけど、内心は難しいんじゃないかなと思っていました(笑)。でも間に合わせられたということは相当上手くいったんだと思います。
──石浜監督の人望もあってじゃないですか。
石浜:そこはスタッフの頑張りです。僕は現場から出てくる疑問に答えて、作品がブレないように気をつけるという作業をしていました。あとは映画祭に持っていくということで、一番良い形に持っていくように計算しました。
──プロデューサーの視点も持って制作されていたんですね。
石浜:インフラをしっかりできる監督というのは強いなと思っていたので、各々に合う現場の振り方には気を配りました。チーム全体も僕のやりたいことに寄り添ってくれる形だったので、大変助けられました。
 

原案の持っている良さを活かす

──キャストの方々はいかがでしたか。特に花守ゆみりさんは今回主演がTV・映画を通しても初めてになりますが、どういった点で選ばれたのですか。
石浜:実際もの凄く演技の上手い方で、使わない手はないという逸材でした。全員が一致して選ばれた形ですね。花守さんが主演というのは物語を作っていくうちにたまたまそうなったという形です。企画ではどちらかと言うとデュアルだったんですが、リモ、ドロシーともに主役になり得た作品でした。最初、リモを主役にするのは難しいなと思っていたんですけど、制作を進めていくうちに浮上してきたというのが近いかもしれないです。元の企画は3人全員が主役の物語だったのもあるかもしれません。
──自然な流れで主役がリモになっていったということなんですね。
石浜:企画の時点で全員主役でもおかしくはなかったので、変更も無理はなかったです。
──他に原案から変更された点はありますか。
石浜:原案の持っている良さを活かす方法を、ということで、女の子に変更したキャラクターもいます。
──そうなんですか。元の企画に男の子がいたということですと、原案には恋愛要素があったりしたんですか。
石浜:原案にはその点が感じられないテクニックがあったんです。感情も対人間の絆で、そこを少し高尚な形で描かれていました。もし男の子のままだったとしても恋愛を匂わせずに作ることができたと思います。ただ、男の子でいくと恋愛の視点で捉えられてしまって、本当に見て欲しい部分がブレてしまうんじゃないかと思ったので、全員女の子にしました。
──作品の良さである3人のドラマをストレートに伝えるための変更だったんですね。
石浜:そうなんです。設定や世界観に難しい部分はあるんですけど、そこを気にしなくても楽しめる作品になっていると思います。今回は自分の引き出しを全部出して、僕の丸裸に近い感じになるくらい突き詰めて作っているので、劇場まで思い切って足を運んで欲しいです。特にキャラクターが繰り広げるドラマを見ていただきたいので、まずはそこを見ていただければと思います。
 

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LIVE INFOライブ情報

『ガラスの花と壊す世界』
2016年1月9日(土)より全国劇場公開
原案:Physics Point『D.backup』(「アニメ化大賞」大賞作品)
監督:石浜真史
キャラクター原案:カントク
脚本:志茂文彦
出演:リモ(CV:花守ゆみり)、デュアル(CV:種田梨沙)&ドロシー(CV:佐倉綾音)
公式サイト http://garakowa.jp/

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