Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューG.D.FLICKERS(Rooftop2015年10月号)

ロックンロールに魅せられた悪童たちの大いなる人間讃歌

2015.10.01

 今年、結成30周年を迎えたG.D.FLICKERSの実に10年ぶりとなる新作『悪魔』は、ルーツ・ミュージックに根差したロックンロールの真髄を存分に味わえる逸品だ。七転八倒しながらも向かい風に抗い、困難に立ち向かっていこうとする気骨のある歌の数々には、年輪を重ねた大樹のような芯の太さと堂々たる存在感がある。それでいて重厚な風格なんざクソ喰らえと言わんばかりの悪童っぽさもある。G.D.のボーカル、JOEこと稲田錠はヒールを自称する。正義という名の権威に唾棄し続けてきた彼は確かに属性としては悪魔なのかもしれないが、光は闇が存在してこそ光となり、天使は相対する悪魔が存在してこそ天使たり得る。人は皆、天使と悪魔の間を浮遊するものだ。音楽で世の欺瞞を射抜き、苦境をものともせず果敢に転がり続ける悪漢こそ、実は英雄以上に人間らしく生きているのではないか。そして『悪魔』に収録された大いなる人間讃歌を聴くたびに思う。悪魔になるのも悪くはない、と。(interview:椎名宗之)

残された時間であと何回ワンマンができるか?

──結成30周年を迎えて、率直なところどんな気持ちですか。
稲田錠(以下、J):20周年、25周年の時は実感があったんだけど、この5年間は作品も作らなかったし、ライブばかりやっていたのであっと言う間に30周年を迎えた感じかな。
──今年はすでに3月から30周年記念と銘打ったツアーを敢行されていますね。
J:自分たちの年齢を考えると、ウチのバンドでワンマン・ライブをあと何回できるんだろう? と思ったことがあったわけ。ここ数年は年間に3本くらいワンマン・ライブをやってるんだけど、あと10年頑張れたとしても、30本もできればいいのかなってことを考えちゃったのね。もしかしたらもっと少ないかもしれないしさ。それに気づいた時に、1本1本のライブを軽くはやれないと今まで以上に考えるようになった。その時々でお客さんの心に残るようなメニューをしっかりと考えなくちゃいけない、ってね。
──バンドである以上、JOEさん一人で転がしていくわけにはいかないですしね。
J:俺だっていつ死んじゃうか分からないし、今年は原(敬二)が病気になったりもしたからね。いつバンドができなくなるか分からないから、アルバムを作るにせよライブをやるにせよ、若い頃みたいに流れに乗って安易にやるようなことはもうできない。20歳の頃はライブなんて無限にできると思ってたけど、のりしろはもう少ないからね。
──この10年間、作品を発表してこなかったのは創作のモチベーションが上がりづらかったのが理由ですか。
J:そういうわけじゃなくて、たまたま声が掛からなかっただけ。今まではレコード会社や知り合いから「音源を出しましょうよ」って誘ってもらって、それに乗っかって発表してきたんだよね。自分たちから「この時期にアルバムを出したい」みたいなことはなかったし、メジャーにいた頃は締切に合わせて曲を作ってレコーディングをしていたから。インディーズに戻ってからは、どこかからお誘いがなければ音源を作ろうって気持ちにはなれなかった。その意味では、今回出るアルバムが自分たち主導でリリースする初めての作品だと言えるのかもしれない。
──今回発表される『悪魔』はG.D.フリークスにとって10年待った甲斐のある渾身作ですが、歌の世界観と視野が格段に広がったのを実感しますね。1曲目の「悪魔になるのも悪くはない」が顕著な例ですが、グローバルな視点で自身を俯瞰する歌が増えたと言うか。
J:ちょっとは大人になったのかな(笑)。この10年でいっぱい外国にも行ったしね。全部で30ヶ国くらい行ってるけど、この10年で20ヶ国以上は行ってると思うので。発展途上国にもいっぱい行ったし、いろんな世界を見た後に日本へ帰ると考えることがたくさんあってさ。宗教や風習の違いとかね。そんなに大げさなことじゃないけど、自分なりに感じたことを歌にしてみた感じだね。
──たとえば「赤い涙の女」は、幼い子どもを連れた母親が中東の国から有刺鉄線を乗り越えて脱出を試みる歌ですよね。
J:あれはイスラム国の話だね。去年、ヨルダンとカタールとイスラエルに行ってきたんだけど、テレビで伝えられるニュースと違って、イスラム教でも一般的な信者はいい人が凄く多いんだよ。その中の一部の過激派が争いを繰り返してるだけでさ。「赤い涙の女」は実話がベースになっていて、イスラム教のイギリス人女性が子どもと一緒にイスラム国に加わって、そこからトルコへ脱出したというニュースを見てね。テロリストの拠点が如何に悲惨なものかはあの歌詞の通りなんだけど、俺も実際に中東の地を訪れたことで思うところがいろいろとあったので、ああいう歌を書いてみた。歌詞もあえて小説風にしてね。そこに自分の主張があるわけじゃないし、世界中にはこんな人もいるんだよ、っていうのを淡々と書き連ねてるだけなんだけど。あなたはどう思いますか? ってつもりでね。
──「悪魔になるのも悪くはない」もそうした旅の経験を経た広い視野が反映されているように感じます。「デモが攻めても無視するこの街」「エルドラドになるはずだったこの島」というフレーズは震災以降の日本の現状を憂う内容にも取れますし。
J:そうだね。今の日本のきな臭いニュースを見るにつけ、ホントにくだらんなと思うことややりきれないことが多いし。何と言うか、多くの日本人が世界地図の見方を間違ってるんだよ。天気予報でも何でも日本列島は世界の真ん中にあって、右にはアメリカ大陸、左にはアジア大陸があって、もっと左のほうにヨーロッパ諸国、その下にアフリカ大陸があると考えてる。でも“Far East”って言葉があるように、世界中のほとんどの人は日本を東の果ての国だと思ってるよね。日本人の大多数は自分たちが世界の中心にいると思って調子に乗ってるけど、そういうことじゃねぇんだよ、ってことを唄いたかった。
 

ヒールがいるからこそ正統派が引き立つ

──『悪魔』というアルバム・タイトルがまずインパクトがありますけど、これは「悪魔になるのも悪くはない」や「Demon & Angel」の世界観から命名されたものですよね。
J:タイトルは俺が考えたんじゃないんだけどね。自分が天使だと思い込んでいても、見方によっては悪魔かもしれないし、そんなのは人の判断によりけりじゃない? だからいいも悪いも自分で決めるしかない。
──「Demon & Angel」はまさにそんな歌ですね。誰しも影と光を抱えているけれど、最後は「自分の意思でやるだけ」という。
J:それしかないよね。あと「悪魔になるのも悪くはない」は、こんな不確かな時代だからこそ時には非情になるのも悪くないんじゃない? ってニュアンスなんだけど。遠慮することなく思いきって自分を出していこうぜ、っていうさ。
──そうやって背中を押してくれる楽曲が今回は多いですよね。不毛な大都会で暮らしても「機会(チャンス)はまだまだあるぜ」と唄われる「東京無限」、G.D.の30年間の軌跡を凝縮したような「俺たちの哀歌」には「まだ下りる理由がないんだ」という歌詞があるし、落ち込んだ友人に「しゃがみこんだら負けなんだ」と励ます「ケセラセラ」もそうだし、「何としてもまだやるぜ」という歌詞がバンドを続けていく決意表明にも思える「パノラマ」もそうだし、聴いていて元気をもらえる前向きな歌が特に素晴らしい出来だと思うんです。
J:これが『Rooftop』のインタビューだから言うわけじゃないけど、俺はロフト育ちだし、アナーキーやARB、ルースターズが好きでバンドを始めたし、そういう諸先輩方からもらったいろんな言葉を自分なりに噛み砕いたらこうなった、って感じだね。
──CDのブックレットのサンクス欄にもそうした先輩バンドを始め縁の深いバンドの名前が列記されていますね。
J:こうして30周年を迎えたことだし、今まで関わってきた親しいバンドの名前を挙げさせてもらうことにした。こういうのは初めてだね。アルバムごとにその時々で親しいバンドの名前を挙げてきたけど、あんなふうに全キャリアを通じて親交のあったバンド名を書き連ねたのは初めて。
──アコギを基調としたブルージーなサウンドに乗せてこれまでの身の来し方を切々と唄い上げる「俺たちの哀歌」は30周年ならではの楽曲だと思うのですが、こういう歌は今までありそうでなかったですね。
J:なかったね。きっと賛否両論あると思うよ。(佐藤)博英は最後までボツにしたがってたしね(笑)。「俺たちの哀歌」は外へ向けたメッセージと言うよりも自分たちのヒストリーを綴った歌だし、否があっても別に構わないんだけど。
──最後の「お前たちにきっと何か残していくから…」という歌詞はファンを大切にしているJOEさんらしい一節だと思いましたが。
J:そこだけね(笑)。G.D.FLICKERSってバンドは悪名も高いし、たとえばZIGGYやRED WARRIORSみたいなバンドが正当派であり正義のベビーフェイスだとしたら、俺たちはヒールなんだよ。俺は一生ヒールでいいと思ってるし、ヒールがいるから正統派が引き立つんだからさ。そっちのほうが格好いいじゃん。ただ、ウチのバンドに対する評価は俺が死んだ後にちゃんとしてくれよな、っていう気持ちはあるけどね。
──でもそういうベビーフェイスのバンドと違って、G.D.は一度たりとも活動休止や解散を選んだことがないし、この30年間ずっと現役であり続けているじゃないですか。それが何より凄いことですよね。
J:よく言われるけど、別に大変なわけじゃないよ。バンドをやり続けることは俺にとって当たり前のことで、やってないほうが違和感あるからね。
──『悪魔』に収録した11曲は、この10年の間に書き溜めてきたものなんですか。どの楽曲もクオリティが高いのは、それ相応の熟成期間を経たからなのかなと思ったんですけど。
J:いや、アルバムを作ることになってからみんなで生み出したものだよ。やっぱりレコーディングは楽しいね。リハーサルをしてライブをやる普段の活動とはまた違う面白さがある。今回、これだけバラエティに富んだ曲が揃ったのも手応えを感じるしさ。こうして自分たちでCDを出す以上、メーカーに媚びることもないし、売れ線を狙わなくちゃいけないとかもないし、好きにやらせてもらってるからいろんなタイプの曲が揃ったんじゃないかな。
──確かにさまざまな表情が垣間見られる万華鏡みたいなアルバムですよね。「カリビアンベイビー」のように従来のG.D.らしい正調ロックンロールも健在ですし。
J:「カリビアンベイビー」は今年キューバに行ったら凄く面白かったので、それを歌にしただけ。別に共産主義が好きなわけじゃなくて、チェ・ゲバラの人となりが好きでね。
──海外放浪の経験がここでも歌に反映されていると。
J:旅はホントに面白いよ。たとえばアフリカとかに行くと、自分自身って存在がなんてちっぽけなものなんだろうと実感する。つまらないことに悩んでちまちましてても仕方ないって素直に思えるしね。
 
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『悪魔』

SAND-1004
定価:3,000円(税込)
2015年9月20日発売
*オフィシャルサイトにて通販受付中!

【収録曲】
01. 悪魔になるのも悪くはない
02. サイコパス
03. Demon & Angel
04. キ・ケ・ン=キ・ラ・イ
05. 赤い涙の女
06. カリビアンベイビー
07. 東京無限
08. 俺たちの哀歌
09. 大いなる夜明けを
10. ケセラセラ
11. パノラマ

LIVE INFOライブ情報

G.D.FLICKERS 結成30周年記念2DAYS
2015年10月30日(金)
【出演】G.D.FLICKERS/THE SLUT BANKS/ニューロティカ/タケバン
【DJ】ISHIKAWA(DISK UNION, a.k.a. TIGER HOLE)
 
2015年10月31日(土)
【出演】G.D.FLICKERS(ゲスト:五十嵐“sun-go☆”美貴 from SHOW-YA)/ゲンドウミサイル/The Super Sonic Soldier Boys/タケバン
【DJ】コータロー【Bar-Stage】ふぐり
 
30日(金)・31日(土)両日共に
会場&問い合わせ:新宿LOFT 03-5272-0382
開場 18:30/開演 19:00
前売 2,800円/当日 3,300円(共にドリンク代別)
 
 
G.D.FLICKERS
30th Anniversary tour 2015
10月3日(土)名古屋TIGHT ROPE
10月4日(日)大阪 梅田HOLIDAY《ONEMAN》
10月10日(土)防府 印度洋
10月11日(日)小倉WOW
10月12日(月祝)博多CB
10月17日(土)札幌SUSUKINO 810
10月24日(土)新潟CLUB RIVERST
10月25日(日)富山club MAIRO
10月30日(金)新宿LOFT(上記参照)
10月31日(土)新宿LOFT(上記参照)
12月19日(土)吉祥寺ROCK JOINT GB《Tour Final ONEMAN》
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