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INTERVIEW

トップインタビュー首相官邸の前で Tell the Prime Minister

この映画の主役は、映っている人びとすべてだ ── 人々の力が日本を変えた希望の瞬間を記録した映画『首相官邸の前で』

2015.09.29

デモは誰でも参加できる広場

 今では、脱原発以外にも、秘密保護法反対、安保法制反対など様々なイシューでの抗議行動が官邸前・国会前で日常的に行われ、そこには、普通の会社員から主婦、学生まで幅広い層が参加するようになっている。「デモなんかで社会が変わるのか」とは小熊が最も多く受ける質問(あるいは罵倒)の1つだが、それに対して小熊はこう答えている。
 
「投票をして、議員や政党を選んで、法律を通すことが、世の中を変えることだ。多くの人はそう考えているようです。しかしこれは18世紀から19世紀にかけてできた、近代の代議制民主主義の考え方です。それしか考えないというのは、少し狭い考え方だと私は思います。じゃあNPOですか、起業ですか、革命ですか、という問いがでてきそうですが、それもちょっと狭い」
「デモは誰でも参加できる広場です。何か問題が起きたとき、市庁舎がある広場に集まって声をあげるのは、古代ギリシャいらい民主主義のほんらいの姿です。そうした『公』の場では、俗世でその人が誰であるのかは問われません。誰がきてもいいし、誰でも平等に遇されます。そこには音楽があり、大声で自分の意見を言ってよく、誰とでも交流ができます」(*4)
 
 このドキュメンタリー映画にはいわゆる主役的な人は登場しない。小熊が映画に映したかったのは、運動を主導した特定の誰かではなく、民主主義を担い、それを保持するために不断の努力を続ける民衆一人一人の姿なのだ。
 
「この映画の主役は、映っている人びとすべてだ。その人びとは、性別も世代も、地位も国籍も、出身地も志向もばらばらだ。そうした人びとが、一つの場につどう姿は、稀有のことであると同時に、力強く、美しいと思った。そうした奇跡のような瞬間は、一つの国や社会に、めったに訪れるものではない。私は歴史家だから、そのことを知っている。私がやったこと、やろうとしたことは、そのような瞬間を記録したという、ただそれだけにすぎない」(*1)
 
 映画は9月から上映が始まり、配給元のアップリンクの他、全国各地で自主上映も盛んに開催されるようだ。興味深いのは、上映後にディスカッションを併せて行う「トークシェア上映」がほとんどの上映会で実施されていることだ。
 
「見た後で、隣の人と、率直な感想を話しあってほしい。映画に意味を与えるのは観客であり、その集合体としての社会である。そこから、あなたにとって、また社会にとって、新しいことが生まれるはずだ」(*1)
 
 この映画の中にあなたの姿があるかもしれないし、あるいは未来のあなたが映画の中にいるかもしれない。
 
 
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映画『首相官邸の前で』から
 
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「首相官邸の前で」

渋谷アップリンクほか全国で公開中
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企画・製作・監督:小熊英二

撮影・編集:石崎俊一
音楽:ジンタらムータ

出演:菅直人、亀屋幸子、ヤシンタ・ヒン、吉田理佐、服部至道、ミサオ・レッドウルフ、木下茅、小田マサノリ ほか
配給宣伝:アップリンク ©2015 Eiji OGUMA

 

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