東京のアイドル・シーン、そしてアンダーグラウンド・シーンで異彩を放つ存在、おやすみホログラム。彼女たちはUSインディーズ色の強いサウンドを武器にファンたちを熱狂させ、クラウドサーフやリフトが続くハードコアな現場を生み出した。Have a Nice Day!とのコラボレーションによる『エメラルド』は、まさに東京のアンダーグラウンドのアンセムだ。また、「おやすみホログラムバンド」には、NATURE DANGER GANGの福山タク、箱庭の室内楽のハシダカズマなど、東京のインディーズ・シーンの重要なミュージシャンも参加している。その一方、アコースティック・ライブでは、美しい歌声を前面に押し出したライブも聴かせている。静と動が裏表のおやすみホログラムは、まさに清濁併せ呑む存在だ。
そのおやすみホログラムが、今月、遂にファースト・アルバムをリリースする。独自の道を歩んできたおやすみホログラムが、ファースト・アルバムを作るまでの過程はどんなものだったのだろうか。メンバーの望月かなみ(かなみる)と八月ちゃん、そしてプロデューサーの小川晃一に話を聞いた。(interview:宗像明将)
写真:池田敬太
新宿LOFTとの関わりで新しい世界を見た
——かなみるは結成時からのオリジナル・メンバー、八月ちゃんは途中から加入したメンバーという違いはありますが、おやすみホログラムでアイドルになったきっかけは何だったのでしょうか。
かなみる:特にないです、超適当に……(笑)。いろいろあって何となく「アイドルになろう!」って意識になって。バンドもやったけど、アイドルだとアピールする方法の幅が広がるじゃないですか、今は唄って踊るだけじゃないし。自分がこんなに深く関わる気はなかったけど、新しいアイドルが出てきて面白そうだなと思いました。
——具体的にはどんなグループに興味を持ったのでしょうか。
かなみる:それまでAKB48とかしか知らなかったけど、でんぱ組.incとかBiSとか新しい表現方法のアイドルが出てきて、でんぱ組.incのライブを見る機会があった時に「すごいな」と思いました。
——そこからおやすみホログラムに入ったきっかけは何だったのでしょうか。
かなみる:おやすみホログラムは、一緒に音楽をやってた友達に「アイドルになれば?」とノリで言われて、超適当に応募しただけです。
小川:適当な写真が送られてきました。
かなみる:去年の4月に新宿で喫茶店に入って、でかいコーラをおごってくれたんですよ。小川さんが20分ぐらいトイレから出てこなくて、「なんだこの人」って爆笑した(笑)。でも、「Drifter」のデモを聴かせてくれて、「いいんじゃね」と高校生がバンドをやるノリで始めました。
——そして八月ちゃんは後から加入するわけですが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
八月ちゃん:私は美大に通ってまして、そこで絵を描いてたんですけど描きたくなくなっちゃって、「八月ちゃん」という活動をしようと去年の6月にTwitterを始めたんですよ。「八月ちゃん」のコンセプトはアイドルをするためではなくて、もうひとりの私を作品として制作する活動の一環なんです。Twitterに自撮りを地味に上げ始めたら、その3日後ぐらいに「おやすみホログラムのオーディションがありますよ」とDMが来て。
小川:DMを送ったのは、当時いたもうひとりのプロデューサーかな。彼の事務所で映像関係の事業を立ち上げたので関わるようになって、アイドルも始めたけど、事務所は解散になって、おやすみホログラムを今の形でやることになりました。
——かなみると八月ちゃんは、おやすみホログラムの前は何をしていたんですか。
かなみる:バンドを適当にやってたんですけど面白くなくて。中学から吹奏楽の打楽器は毎日真面目にやってました。高校になって部活には入らなかったんですけど、友達に誘われて吹奏楽団をやったりしてました。
八月ちゃん:まさに美大生のはしくれでしたね。課題の作品発表の日に行かなかったりとか。作品を作りたくても作れなくて、心が荒んでて闇がありましたね。「何かを残したいけど、何がしたいんだろう」と4年間悩んでばっかりでしたね。絵はちびちび描いてたんですけど、純粋には描けなくて、心の中にモヤモヤがありました。
——かなみるから見ると、おやすみホログラムの現場は初期と比べてかなり変化したのではないでしょうか。Twitterのプロフィールにも「アイドル版のギャングスター」と書いてるぐらいですし。
かなみる:かっこいいじゃないですか?
——言い方が埼玉のヤンキーっぽいですね。
かなみる:よく言われます(笑)。新宿LOFTでいろんな人と関わるようになって、新しい世界を見たという感じで、今までさわり程度のロック・バンドしか聴いてなかったんだなと思いました。ピアノをやっててクラシックしか聴かなかったけど、音楽の概念が変わりましたね。特にライブに関しては「生で聴くとマジすげぇ」と思って。
お客さんもアイドルの重要な要素
——おやすみホログラムの現場が激しくなるのは自然な流れでしたか。
かなみる:最初は、見てる人に負けられないというのはありました。お客さんと意地の張り合いの時もあったけど、今は余裕が出てきました。お客さんも、水を浴びてグチャグチャの中でもめっちゃ笑ってるじゃないですか。それを見てるとマジハピネスで、「幸せ、嬉しい、楽しい」という感情が私の中であります。
——いい話ですね。八月ちゃんは、2人体制になってから激しくなっていくのはどう感じていましたか。
八月ちゃん:最初は自分のペースがつかめなくて、お客さんに応えないといけないのかなと、グワーッとやってたんです。でも、最近はどんな状況でも会場の一番のポジティブ野郎でいようと思ってます。どんな状況でもちゃんと自分はここにいるぞ、というところを意識してます。
かなみる:できてるできてる。
——ライブについて打ち合わせたりはするんですか。
かなみる:最近は打ち合わせるよね。
八月ちゃん:安全面を考えるよね(笑)。フロアとステージの段差がなかったりすると、押されてお客さんも大変だから、状況に対応した煽りを考えてます。
かなみる:たまに終わった後に小川さんに「危ないからやめなさい」とお父さんみたいに怒られます。だから「ごめんなさい」って言います。
八月ちゃん:かなみるが水を吐くから、モニター・スピーカーやマイクにかけないように気をつけてます。
かなみる:お金を払いたくないから気をつけてます。
——小川さんとしては、今の状況は想定内なのでしょうか。
小川:(即答で)想定内です。
かなみる・八月ちゃん:なんでドヤ顔なの(笑)。
小川:僕は何も想定してなかったので、何でも想定内ですね。何も先を決めてなかったので。やることに制限をしてなかったんですよ、アイドルを聴いてなかった人間なんで。やることを決めても面白くならないと思ったので、面白いことをしようと制限なくやってきました。
——音楽性については、小川さんからどんな説明をしましたか。
小川:ほとんど説明してないと思います。アイドル・ソングはあんまり面白くないなと思ったんですよ。だから、アイドルがやるとギャップがある、アンダーグラウンドに根ざしたものをやりたいと思ったのがきっかけでした。BiSからアイドルに目覚めた人間なんで。
——そこに元研究員(元BiSファンの総称。おやすみホログラムの現場に多く参入している)が流れ込んできたのも運命的ですね。
小川:研究員のことも気にしていませんでした。人数が少なければ悪目立ちもすると思ったけど、増えてくれば秩序も生まれてくると思ったので。お客さんもアイドルの重要な要素だし、普通より顔が見えるから面白いなと。
八月ちゃん:ある時、バナナの皮をステージに投げられて、「ひどい」と言う人もいたけど、私は面白くて。
かなみる:私も爆笑しちゃった! それをみんな一生懸命写真に撮るんだよね(笑)。
八月ちゃん:去年の11月、12月はオタクの人から仕掛けられてて。その時はオタクの人のほうのインパクトが強くて、私たちもバナナの皮に対応するスキルがなかったんです。
——普通、バナナの皮に対応するスキルはないですよ! おやすみホログラムの現場が撮影フリーで、ライブの映像がYouTubeに大量にあるのもファンが増えるきっかけになったと思います。おやすみホログラムが撮影フリーになったのはいつからですか。
かなみる・八月ちゃん:2人体制になって最初から。