これまでにも、松本 隆、筒美京平を始め、日本のポップスを代表する屈指のクリエイターたちと作品をリリースしていた藤井 隆が、ついに待望のオリジナルFULLアルバムを11年ぶりに完成させた。アルバム完成に至るまでには、彼の魅力を彼以上に熟知している、これまた屈指のクリエイターたちの力添えや熱い後押しの言葉や行動がそこにはあった──。[interview:鈴木 恵/構成:高橋 啓(Naked Loft)]
──初めに、アルバム制作の経緯について伺いたいのですが。
藤井:なんで今回アルバムを出したかと言うと、2007年くらいに吉田 豪さんが、宇多丸さんがラジオで僕に音楽をやればいいのにと言っていた、と教えてくれたことがあったんです。そんなことを言ってくれている方がいるんだと、凄く嬉しくて。その後、『She is my new town』をシングルで出した時に、“タマフル”(『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』の通称)に呼んでいただきました。そうやって考え続けてくれている方がいる、そしてその方に新しいものを持っていった時に、僕の音楽活動を認めて下さったのは大きかったです。今回のプロデューサー、(西寺)郷太さんはその時に名前が挙がりました。もともとNONA REEVESが好きで郷太さんとは知り合いだったんですけど、なんとなく連絡を取っていなくて。そしたらTwitterで郷太さんのファンの方から伝達していただいたのもあり、連絡が来たんです。それで打ち合わせをしました。自分の中では『She is my new town』の時に、これで最後だと思ってやりたいことをやらせていただいたんですが、そこでの打ち合わせでアルバムをやらせてもらおうと思いました。しかも郷太さんが『最後に自分の好きなことをやりきって、棺に入れるようなモノを作りましょうよ!』と言ってくれて。当初、郷太さんの構想は作家陣に曲を提供していただいたものを収録するというもので、僕自身もなんとなくそうかなと思っていたんです。でも、話を進めている間に『kappo!』(レイザーラモンRG、椿鬼奴とのユニット『Like a record round! round! round!』の初シングル作品。作詞・作曲:藤井 隆)を発売したのですが、そういうことをしているのであれば、ご自分で作るのもいいんじゃないですか? という提案をいただき、プロデュースもすることになりました。自分の好きな音楽に特化したものということで、小さい頃から体が動くような音が好きだったから、こういったダンス・ミュージックにさせてもらいました
──曲作りはどういった感じで行なったのでしょうか。
藤井:僕は楽器ができないので、鼻歌で作っていったんですよ。スタジオに、キーボーディストで音楽プロデューサーの冨田謙さんがいらっしゃって、あと郷太さんとエンジニアの兼重さんと僕がいて。そこで僕が鼻歌を唄って、それを冨田さんが『こんな感じ? この音?』と弾いて、僕が『そうです! それです!』という感じで、まずはメロディを拾ってもらって。僕は音楽的な言葉を持っていないので、色であったり、風景、温度といった抽象的なものでオーダーを出して、それを冨田さんが解釈し、郷太さんが音楽的な言葉で通訳して周りに伝えて、4、5時間かけて冨田さんがオケを作ってくれる作業でした。それでメロディの作業が終わってから編曲の作業、それが出来ていく間に詞を書いて、という感じかな
──アルバムに関わった方たちについてのお話も伺いたいのですが、既出の郷太さんのお話からお願いします。
藤井:郷太さんは本当に頭が良い方で、語彙が豊富で、さすが作詞をされる方だなと思います。長い言葉を使って核心を突くこともあれば、短い言葉でダイレクトにドンと来ることもありますし。そして僕のことを凄く尊重してくれる一方で、違った方向に行こうとするとちゃんと方向を正してくれるので、とても信用できる方です
──Smalll Boys[西寺“ニッシ”郷太(NONA REEVES)と堂島“こぅくん”孝平によるアイドル・ユニット]に参加した時辺りから音楽活動が活発になっていったような気がするのですが。
藤井:そうですね。Rさん(レイザーラモンRG)と椿さん(椿鬼奴)とやっている時は、どこか構成とか考えてしまう部分があるんですよ。でも、Smalll Boysはプロのミュージシャンですよね。レコーディングとかステージングとかの場面で、誰も言わないけど表現の場で歌手として向き合うから、これは敵わないなと思いますしね。Rさんと椿さんとやる時とSmalll Boysでやる時では使う脳が違うんですよ。だから平たい言葉ですけど、凄く刺激にはなりました
──YOUさんが参加しているのは藤井さんのリクエストですか。
藤井:はい。過去のアルバムにも参加していただいていて、絶対に何らかの形で参加していただこうとは決めていました。YOUさんはよく毒舌と言われることがあると思うんですが、全くそういうことはなく、ただただ適量をおっしゃるんですよ。それが人によっては毒舌と捉えられたりするんですよね。初めてお会いした時に、好きな方だったので嫌われたくない気持ちから、『本番中、テンションが上がって失礼なことを言ったらすみません』って言ったら、笑いながら『えー、失礼なことなんてやだー』っておっしゃって(笑)。これって適量ですよね。社交辞令的な挨拶じゃなく、この言葉を笑いながら言って下さるっていうのは凄い適量だなと最初から思っていたんですよ。そんなYOUさんから放たれる言葉や考えが好きで、その中で最も好きなのが文章なんです。それで今回のアルバムは棺に入れるわけですから、絶対にYOUさんが必要ですよね。それで考えてみたら、今までYOUさんとCDでデュエットしたことがなかったのでお願いしました。僕、YOUさんのことを叔母だと思ってるんですけど、本当に誇り高い“自慢の叔母”です
──そんなYOUさんが作詞された曲を、乙葉さんが唄われているのもとても素敵でした。
藤井:妻ですのでこんなことを言うのは変な話ですが、僕はファンのひとりでもあるんですよ。彼女ももともと音楽活動をしていて、堂島(孝平)さんが作った『一秒のリフレイン』という曲が特に好きなんです。昨年、堂島さんが『フィクション』というアルバムを出された時に、ゲスト・ボーカルとして彼女を呼んでいただいたんですが、僕は自分のことのように嬉しくて。彼女自身も音楽活動が好きな人なので、そういう現場に行けたのも楽しかったようでした。そんな中、打ち込みのピコピコ系の曲も彼女が好きなので、その音に彼女の声を合わせたらどうかなと思い、そういう曲にしました。女性が唄う曲なので女性に作詞して欲しくて、そうなると結婚する前から彼女のことを知ってくれている“自慢の叔母”に頼むしかないなと思ってお願いをしました
──最初からお名前の出ている、宇多丸さんに関しても伺いたいのですが。
藤井:本当に、恩人だと思います。レーベルの立ち上げのきっかけをくださいましたからね。『これはいいモノだ』とはっきり言って下さるんですよ。そういうのって通常業務をしていると気づけなかったりしますよね。根気よく音楽をやればいいのにと言って下さっていたことをとても感謝しています。郷太さんの言葉を借りるならば『そう思ってるんだったら、ゲストに呼んでご恩返しをするべきですよ』ということで、宇多丸さんにも参加していただきました
──tofubeatsさんとの出会いのきっかけはどんな感じでしたか。
藤井:彼のメジャー発売第2弾の曲のゲスト・ボーカルに呼んでいただいたのですが、初めて打ち合わせをした時から凄い熱量で話してくれました。先ほどの話と重複しますが、そこでも『今まで出してきた作品ってそんなに良かったんだ!』と認識させていただきました。凄く嬉しかったですね。それで作ってくれた曲が『ディスコの神様』っていう曲ですから。パーンと出ていった時の裏切らない絶妙な感じの音楽性とか、ゲスト・ボーカルとして迎えてくれる際のお膳立ての引き算とかも完璧なんですよね。リリース時のイベントにも何度か呼んでいただいて、そこでは自分の力だけでは絶対に会えなかった新しいお客さんに出逢わせてくれました。tofuさんのリリース・パーティでDJのミッシェル(・ソーリー)さんが一般的にはあまり知られてない以前の僕のアルバム曲を、良い曲だからと流してくれたんですが、一緒に唄って下さっている方が目の前にいた時には本当に感慨深かったですね。音楽がこんなに自分を救ってくれるんだなと実感しました。今回のアルバムの最初の打ち合わせの時に、シングルとして発売されている2曲はもう一回聴いていただきたい曲だから、リミックスを絶対したかったし、ボーナストラックとかじゃなく『COFFEE BAR COWBOY』の中に織り交ぜたかったんです。それで、『She is my new town』のリミックスは絶対tofuさんって決めていたんですよ
──もう1曲、「I just want to hold you」はRUM RIDERさんがリミックスですね。
藤井:RUM(RIDER)さんも本当にかっこいいんですよね。一度お仕事を一緒にできそうでできなかったことがあって、その後お会いした時に『いつかまたお願いします』とご挨拶はしていたんです。そうしたら後日、郷太さんが直接電話をかけて、リミックスの依頼をして、RUMさんも『やります!』と即決をしてくれました。いろいろなことが繋がっていくんだなと思いましたね。よくムダなことはないって言いますけど、ムダなことは絶対にあって、でも繋がっていく時の速度とか密度とか尋常じゃないんですよね。そうなってくると、ムダなものと必要なものがパカーッとコントラストが強く分かれるので、そういうものを見ているのも楽しかったですね