2005年のM-1グランプリでアマチュアながら準決勝に進出し、本格的にお笑いの道へ。その後、着実に腕を磨き、10年の間に関西では4つの賞レースで優勝し、THE MANZAIの決勝にも3度進出。これから更なる飛躍が期待される学天即のツッコミ・奥田修二に、芸人としての10年間と自身のイベントについてたっぷり語ってもらった。(interview:平松克規[Loft PlusOne West])
敵やったら面白いなんて言わない
──奥田さんがお笑いを始めたのはいつ頃なのでしょうか。
奥田:2005年のM-1グランプリの予選に、学天即としてアマチュアで出たのが最初ですね。それから本格的にやり始めて、「baseよしもと」「5upよしもと」っていう若手の劇場で主に活動していました。今年で10年目です。
──10年間の間で、目標としてきた人はいるんですか。
奥田:目標……。憧れたのは笑い飯さんですけどね。
──へぇ。じゃあ褒められたら一番嬉しいのは、笑い飯さんになるんでしょうか?
奥田:うーん、褒められたら嬉しいってなると、また微妙に変わってきます。褒められ方にもよるんですけど、「面白いなぁ」って先輩に言われたとしても、それってまだ敵として認められてないってことなんですよ。敵やったら「面白い」なんて言うわけないし。だから「最近どうなん、学天即?」とか「仕事とか増えてんの?」とか、「面白い」以外のところで興味を持たれた時に初めて、同じフィールドの端に立たせてもらえた実感が湧きますね。
──面白いのは当然として、ということなんですね。
奥田:そうですね。でも、何言われても嬉しいんですけどね、実際に先輩から褒められたら。
やめられるようになるまで漫才をやると決めた
──ここ4年くらいで関西の賞レースで優勝したり、THE MANZAIで決勝に行かれてるじゃないですか。ご自身的に何がキッカケだと思いますか?
奥田:多分、やることを漫才ひとつに絞ったことがデカかったんです。お笑いって一言で言ってもいろんなジャンルがあるじゃないですか。だから力を分散させて、短所を補うって戦い方でやったら人生の時間が足りない。お笑い界で何者かに成るためには、長所を一流にまで伸ばすしかないって思ったんです。そんなことを考えたのが4年前で……。武器がなかったらやめるつもりやったんですけど、漫才やったら何者かに成れるかもしれないと思ったんです。それで漫才に集中したんが大きかったですね。
──ブログからお見受けするに、2014年は相当ご自身を追い込んだ年だったと思うのですが、今年はどうでしょうか。
奥田:2014年は1月1日から「何のために今年やっていこうか?」って考えてたんです。それで相方とも話し合って、今の自分らに必要なのは全国大会の優勝やなってことになって。だから誰にでも「今年のTHE MANZAIで優勝します」って言うてたんです。「ハイハイ」みたいな感じで流されてましたけどね。それで漫才の全国ツアーをやったんですよ。それもちゃんとニュースになるように工夫して、「今年の学天即は仕掛けてるよ」と周りに思わせましたね。そういう外の部分を埋めたおかげで、2014年のTHE MANZAIでは優勝候補になれたんですよ。でも優勝はできなかったじゃないですか。
──そうですね。
奥田:僕らみたいな芸人でも、外の部分を埋めていけば優勝候補になれるってことは分かった。でもやっぱり中身が足りてなかったんですよ。それはネタの内容はモチロンですけど、東京のテレビ局で漫才することで生じる緊張とかもあります。外は埋めれてたけど、こっちの準備ができてなかった。だから2015年は中身を整えることに力を入れています。
──よりパワーアップしているわけですね。2015年のお笑い界の大きなニュースとして、M-1グランプリの復活があるじゃないですか。M-1キッカケでお笑いを始めた奥田さんから見て、何か思うところはあるんでしょうか?
奥田:うーん……。でもM-1が終わった2010年が、一番芸人をやめようと思った年なんですよ。僕ら大学卒業してから芸人を始めたんで、その時点で5年やってて、親へ迷惑もかけてますし……。やめたくないけど、お笑い界って好きなだけじゃダメで、できなかったらいたらアカン世界やと思うんです。でも〈やめる〉って表現は、〈やってる人〉しか言うたらアカン言葉じゃないですか。
──全部出し切った人しか言っちゃいけないと。
奥田:もっと言うたら〈知られてる人〉しか言ったらアカンと思うんです。それ以下の人って、言うたら勝手にやって勝手にやらなくなっただけやないですか。だからやめたくなったんです。周囲から「アイツやめたな」と思われるまでやろうと思ったんです。
──ほー。
奥田:それでやめられるようになるまで漫才をやろうと決めて、漫才一本に絞った。正直、4分、5分の漫才だけやったら、僕ら今相当整ってて、この2、3年を今後超えることはないと思ってます。だからその整ってる時に、目指していたものが復活してくれるのは、「いいの? またそこ目指さしてもらって!?」って感じです。喜びでしかないですね。
自身のイベントについて
──ロフトプラスワンウエストで定期的に開催している『金屏風からこんばんは』は、どのようなイベントなんでしょうか。
奥田:僕の一人喋り+飛び入りゲストを交えてのトークライブですね。
──そもそもこれを始めたキッカケは何なんでしょうか。
奥田:もともとは、Ustreamで僕が一人で配信してた番組なんですよ。2012年くらいに芸人たちの間で、酔ったままUstreamを配信するっていうブームがあったんです。でもただ映像を垂れ流してるだけで、特に何かしてるわけじゃないんですよね。それ見て、何かイヤやなぁと思って……。アンチテーゼ的にYouTubeとかに流されても全く恥ずかしくない、ちゃんとした放送をやりたくなったんです。そんなんを思ってる時に、家にたまたま金屏風があることを思い出して……。
──何でそんなものが(笑)。
奥田:リサイクルショップで1,000円で売られてて、面白いなと思って買ってたんです。当時イベントをたくさん打ってたんですけど、時々自分の中でバシっとハマるタイトルが思いつく時があって。それでちゃんとしたUstreamをやりたいなと思ってる時に、金屏風の存在を思い出して『金屏風からこんばんは』ってタイトルが浮かんだんです。それがしっくりきたんで、一度やってみようと。
──それはどんな感じで放送されたんでしょうか。
奥田:背中に金屏風を置いて、カッチリとスーツ着て、2時間喋ったんです。家で豚汁を炊いてたんで、「豚汁食べたい芸人はおいで」ってゲストを募ったりもして。そのゲストが入って来るタイミングもオモロくて、めっちゃいい感じでしたね。
──反響とかはあったんですか?
奥田:Usteramって今放送している人のチャンネルが画面にバーっと表示されるんですよ。その中でスーツを着た男が金屏風の前で喋るって、かなり異質やったんでしょうね。僕のことを何も知らん人も見に来て、「で、これはいつ自殺するの?」ってコメントが来たんですよ。「そう見えんねや!」と思って。
──最期の言葉みたいな(笑)。
奥田:そう。金屏風の前でスーツ着た男が、家でガタガタ語っとる。それだけでもう面白いことができてたんですよ。ネットやったら東京とか地方とか全国の人に喜んでもらえるし、継続してやっていこうと思いましたね。
──では、なぜそれをロフトでイベントとしてやろうと思ったんでしょうか。
奥田:Ustreamの頃から「乾杯!」とかロフトさんっぽいことをやってたっていうのはあります。それと僕が勝手に始めたコンテンツがライブになったらどうなるんやろ? 生で見たいと思う人がどれくらい来てくれるんやろ? っていう興味もあったんです。それでロフトさんでやってみようと思いましたね。
──『金屏風からこんばんは』に加えて、最近は銀シャリの橋本さん、藤崎マーケットのトキさんと『王様の耳はロバの耳』というトークライブも開催しています。これはどんなイベントなんでしょうか。
奥田:これの始まりは僕と橋本さんとトキさんのLINEグループなんです。もともと僕ら3人と他の芸人で〈彼女探し〉のLINEグループを作ってたんですけど、徐々に僕らだけ外れてきて、日々の出来事を嘆く〈ナゲキ感激!〉ってLINEグループに発展したんです。それが今年の2月2日ですね。
──具体的にどういうことを嘆いていたんですか。
奥田:僕らって普段は結構ニコニコしながら仕事をしてるタイプの芸人なんですけど、そんな僕らでも「何やコレ!」って内容の仕事があったりするんですよ。だからロケバスで「今からこんなことせなアカンのです」って、橋本さんとトキさんに送るんです。そしたら2人から「行け! 死ぬほどオモロいことやって、一緒に死のう!」っていう応援メッセージが来るという。
──仕事の内容を嘆いてるんですね(笑)。
奥田:そう。で、向こうからも嘆きの言葉や嘆きの写真が送られてくるんです。それが「何その仕事!?」ってことばっかりで面白いんですよ。やっぱり当事者じゃなかったら、テレビで流れてる編集されたものしか見ないじゃないですか? でも本人に聞いたら「そういうロケやったんか!」って奥行きが面白くて。だからこのイベントでは、3人のフリートークはモチロンですけど、このLINEグループで積み重なっていくものもライブで発表していきたいと思ってます。
いい塩梅でハミ出たものが見れるのはロフトだけ!
──ロフトで幾度もイベントをやられてますが、どんな印象をお持ちですか。
奥田:〈トークライブハウス〉ってホンマにいい言葉やなと思いますね。お笑いの劇場って、やっぱりネタを見たくなる造りなんです。でもトークライブハウスはやっぱりトークを見せるように造られてるから、こっちもトークしたくなるんですよ。だから〈トークライブハウス〉って最上のネーミングやと思いますね。
──今後ロフトでこういうイベントをやりたいってありますか。芸人さん以外でもお呼びできる環境だと思うんですけど。
奥田:そうですね。出てる人の奥行きが凄いですもんね。だって5月の『金屏風からこんばんは』の後が、上西小百合議員(浪速のエリカ様)のイベントだったんでしょ? ニュース見てびっくりしましたもん。「昨日俺がいた所やん!」って。僕、昔から政治が大好きなんです。だからホンマに可能なら、全部のしがらみがなくなった状態の橋下市長にもう一回「都構想って何やったんですか?」って聞きたいですね。やめたからこそ言ってくれることもあると思うんで。
──社会派のイベントもやりたいんですね。それでは最後に、読者に向けてメッセージをお願いいたします。
奥田:大阪で僕らがイベントをやるってなったら、やっぱり事務所の劇場とかが多くて、ハミ出るものが少ないと思うんです。でもロフトさんならいい塩梅でハミ出たものが見れると思うんで、是非来ていただきたいです!