手の甲でリアルな目がこちらを見つめていたり、背中に大きなジッパーが開いていたり、はてはお腹からタモさんが突撃取材してきたり・・・思わずギョっとしてしまうようなボディペイント作品がメディアからネットまで各所で注目されている新進気鋭のアーティスト趙燁(チョー ヒカル)。動画や立体、タイツなど衣服のデザインまで次々と作品を発表する彼女だが、初の作品集の出版も決定し、今後ますます注目が高まるのは間違いないだろう。日常と非日常がリアルに交錯するあの不思議な作品は一体どこから生まれるのだろう? 3月29日に初のイベントを開催する本人にお話を伺いました。(TEXT:加藤梅造)
「あったらおもしろいな」を実現するのがチョー楽しい
──趙さんがアートに興味を持ったのはいつ頃のことですか?
趙燁 子供の頃から絵を描くことが好きだったんですけど、ずっとクラスで3番目ぐらいの、たいして上手くない奴だったんです。美大を受験する時に本格的に勉強して、ようやくまあまあ描けるようになったのかな。
──美大を受けたのは、これを真剣にやっていこうという決意があったから?
趙燁 そうですね、アートの他にやりたいことがなかった。同級生の中にはとりあえずいい大学に入ろうみたいな人もいたけど、そういうのって意味わかんないなって。好きでもないことを4年間も勉強するなんて無駄ですよね。
──早くからボディペイントを始めてますが、きっかけみたいなものはあったんですか?
趙燁 受験勉強している時は毎日みかんとか花などの静物ばかり描いてたんです。それでたまには人間も描きたいなと思ったんですが、そのためにわざわざイラストボードとか紙を買うのもめんどくさいなあと(笑)。よく手にメモを書いたりするじゃないですか。それと同じノリで手に直接絵を描いちゃおうと思いついて、友達の目を手に描いたんですが、それがすごく気持ち悪くて楽しかった。それでボディペイントにはまり、いろんなものを試して描いているうちにメディアに取り上げてもらうようになりました。
──武蔵美に入学してからはすごい勢いで作品を発表していますね。
趙燁 もともと芸大志望だったんですが落ちてしまったんです。その悔しさがあったので、美大に入ってからは作品をたくさん作らなきゃって思って、なにくそっていう感じで描いてました。
──多作なだけでなく、いろんなジャンルの作品を手がけている。
趙燁 考えることが基本的に好きなんです。画力が自分の唯一の武器なので、考えたことを実現する手段としてボディペイントが一番おもしろくできたってだけで、服とか舞台美術とかも考えるのは好きなんです。「あったらおもしろいな」を実現するのがチョー楽しいです。
──身体でも服でも舞台でも、キャンバスはなんでもいいという感じ?
趙燁 私の画力はしょせん中程度で、もっと上手い人は世の中に死ぬほどいるんです。だから紙に描いても大しておもしろいものはできないので、違うものに描いてやろうっていうのはある。
いつも誰かを驚かせたい、びっくりさせたい、楽しませたい
──自身の創作活動として「UNUSUAL(非日常)ART」をテーマに掲げていますよね。
趙燁 えっ!? それどこかで言ってました?
──公式ホームページのプロフィールに書いてますよ。
趙燁 ホントですか? それはですね…。実は一回ボディペイントをやめようと思った時期があったんです。昔の作品ばかりが取り上げられていて、なんか自分はもう飽きてるのになあと。その時、あるおじさんから「やめるのはいつでもできることだから続けなさい」と言われて、確かに今やめるのは逃げだなと思った。それで続けることにしたんです。それならボディペイントに縛られないようなテーマを決めようと考えて、非日常なもの、もっと簡単に言うとおもしろいものを作るのが私は好きだから、UNUSUALというテーマを考えました。いま言われて「ああ、そんなこと言ったな」って感じなんですが(笑)。
──でも趙さんの作品の特徴をよく表してると思います。実際、日常の中に非日常を取り入れたような作品が多いじゃないですか。
趙燁 そういうのは好きですね。非日常的過ぎると遠いし、日常的過ぎてもつまらない。いつも誰かを驚かせたい、びっくりさせたい、楽しませたいっていう気持ちがあります。「きれいだね」って言われるよりも「うわー!」とか「キモ〜い」と言われながら写真撮られるのが好きです(笑)。
色々練習(画材:アクリル絵の具)
2012 ©cho All Right Reserved.
──「エロい」はどうですか?
趙燁 エロいのもいいんですが、エロとかグロに頼りすぎると作品じゃなくなっちゃうから線引きが難しいですね。ボディペイントでお腹を開いた絵を描いても、その中に肉や内臓は描きたくない。血とかも。
──紙と違って、ボディペイントは描く相手の反応があるのがいいですよね。
趙燁 そうですね。描いてる相手を楽しくさせれば、きっと見てる人も楽しいだろうなって思います。描いてる間はずっとしゃべってますね。恋バナとか、脳みそ使わないような話。長時間かけて描くと、終わった頃には長年の友達みたいになってる(笑)
──描く相手によって作品の方向性も変わったりします?
趙燁 作品の構想が先にあって、それに合ったモデルさんに頼む場合が多いですが、急遽ライブペインティングをする場合もあるので、そういう時は初めて会ったモデルさんと話をしながら、その人に合わせて作品を描くこともあります。背中にチャックを描いた時は、チャックの中に何を描くのかで迷ったんです。それで描きながらモデルさんと話をしてく中で、ああこの人はなかなか本音を出さないタイプだなと思ったので、最終的には二重のチャックを描くことにしました。