Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューSION(Rooftop2015年3月号)

何処に逃げ、何処に隠れたって、俺の空は此処にある

2015.03.02

創作活動をしない自分には何の意味もない

──自身の偽らざる心境をありのままに綴るという意味では、曲作りは思いを日記にしたためるのと似ているのかもしれませんね。
S:過去のアルバムを振り返ると、たとえば「1988年はこんな感じだったか」とか思うよね。1993年は『I DON'T LIKE MYSELF』、そんなに自分のことが嫌いでしたか? とかさ(笑)。そうやって当時の自分がどんな状態だったかが窺えるし、日記みたいなところはあるかな。
──古い日記を読み返すことはあるんですか。
S:いや、全然ない。今回のアルバムも出来てからは聴いてないし、過去のアルバムもライブをやる時に参考程度に曲を聴き直すくらい。自分から聴くことはまずないね。
──カサブタを剥がすような感覚になるからでしょうか。
S:それもあるかもしれないけど、MOGAMIやCSCのメンバーを見てると、みんなホントに音楽が好きなんだよね。俺はどうもそれとは違うみたいでさ。自分の歌にしか興味がないのかと言えば、自分の歌も聴かないから。生活の中で音楽が流れることがほとんどないし、夜中に録画しておいた海外ドラマをボーッとしながら見るほうが楽しい(笑)。
──本作は、そんな今のSIONさんの心象風景が余すところなく刻み込まれた作品であるのは間違いないですね。
S:毎回そうだけど、アルバムのどこを取り上げてもイヤな部分が出てこないんだよ。好きな仲間と一緒に気持ちいい音を出してレコーディングしてるんだから当たり前だけどね。自分の歌唱力とか歌詞の一行に「ああ、やっちゃったな」っていうのはあるけど(笑)。でもそれで良かったと。歌詞の一行はそうでなきゃいけなかったと。
──アルバムの最後を飾る「諦めを覚える前の子供みたいに」は、子供でもない、年寄りでもない、微妙な年齢だからこそ子供のピュアな心持ちに憧れるというニュアンスでしょうか。
S:子供が一番最初に諦めを覚えるのは、いくら何かを欲しがっても「ウチには無理だから」って親に言われる瞬間だよね。5歳、6歳くらいかな。それまでは「どうしても欲しい!」ってただ泣きわめいてるだけでさ。そうやって泣きじゃくるくらいに何かを欲しがっていれば、今までの歩みもまた違ったのかもしれない(笑)。だから気持ちだけでも、諦めを覚える前の子供みたいに欲しがりたいなと思って。
──大人になると分別をわきまえて諦めることが増えますからね。
S:あと、止める側になる。「ウチには無理だから」って言うほうになるから(笑)。
──歌という表現に携わる以上、もの作りの時はピュアな子供の目で向き合って、音楽を生業としてやっていく上では大人の知恵が不可欠となりますよね。デビューから30年、SIONさんはずっと子供の目を忘れてこなかったと思うのですが。
S:どうだろうね。この世界で誰かに「これをやれ」と言われたことは一度もなかったし、自ら進んでやりたいことをやってこれたとは思うけど。根っからの音楽好きってわけじゃないのに、歌を書き上げてそれを唄う、音を録る。その作業をしないと俺の人生は全くの無意味に感じるんだよ。だから歌を書いて録音する作業はやめられないし、やめるわけにはいかない。
──今も年一のペースでアルバムをコンスタントに発表しているということは、創作意欲が尽きないことの表れなのでは?
S:自分で自分を奮い立たせてる部分はあると思う。喜怒哀楽を言葉にして、メロディにのせて、唄って形にしないとお前は意味がないよっていうのが自分でもよく分かってるから。今さら他に仕事ができるわけじゃないしさ(笑)。それに、誰しも歯を食いしばって頑張って働いてるわけでしょう。俺は好きなことで頑張れるんだから、有り難いと思わなくちゃね。
 

野音は目に映るものすべてが心地好い

──ただ、SIONさんの創作活動はもはや好きとか嫌いを超えたところにありますよね。
S:うん。もうそういう次元じゃないね。
──生みの苦しみも当然あるわけで。それでも歌を作らざるを得ない何かがある。
S:歌を唄うことしか生きる糧を知らないし、止まったらそこでおしまいだから。昔、ジョージ・サラグッドが「なんで自分で曲を書かないのか?」とインタビューで訊かれて、「世の中にはもうこんなにたくさんいい曲があるし、俺はそれを知らない人たちに伝えていくんだ」って答えてたんだよ。確かにそれも一理ある。でも俺の場合は、今のこの2015年の歌を書かないと自分に価値がないように感じてしまうんだね。
──その歌の書き方も、対象との距離感が絶妙だと思うんです。「人様」の中に「歌にもできないことが続いてる/歌にはしたくないことは終わらない」という歌詞があるように、SIONさんは何でもかんでも吐露するのではなく、歌にする、しないの線引きが明確にありますよね。
S:本来は表現したくないようなことを表現していくのもひとつの手法かもしれないけど、俺にはどうしても歌にしたくないことがあるんだよ。それを自分の作品として残したくない。そんなことをしていたら、どんどん人間不信になっていくからね(笑)。震災の後は「恥を知れ」みたいに政治家やメディアに向けた歌も作ったけど、ああいう直接的な表現はあまりしたくない。当時はその感情を抑えきれずに出してしまったんだけど。
──強い憤りを抱いていた震災直後のモードとは違いますよね。本作のジャケット写真のように、今は晴れ渡る青空の如く澄み切った心持ちでありたいと言うか。日常生活の中で砂を噛むことも多々あるけれど、オンボロ車を走らせていくしかないという。
S:そうだね。書きたい歌もまだまだあるし、頭と身体が上手いこと追いついて音や言葉をパッと掻き集められたらいいんだけどね。ちょっと気を抜くと何かをコトッと落としてしまう。それが気力だったりするんだけど(笑)。
──でも、『新宿の片隅で』から30年間ずっと気力をキープしているのは並大抵のことじゃないですよね。
S:まぁ、カラ元気も多いけどね(笑)。
──近年は若い世代のオーディエンスをライブで見かけることが増えたように感じますが。
S:『悪夢ちゃん』とか『龍馬伝』とか、たまに出るドラマの影響もあるのかもしれない。あと、BRAHMANのTOSHI-LOWやKen(Ken Yokoyama)が俺の曲を唄ってくれたりとか。俺の曲を知らない若い子たちに伝えたいとTOSHI-LOWから言われたことがあったけど、有り難いよね。
──若い世代の中には、SIONさんがなぜこれだけ野音でのライブにこだわっているのか分からない人もいるでしょうね。
S:野音って場所が好きなんだね。ステージから見上げると空があり、緑があり、鳥や飛行機が飛んでいったり、雨が降ったり、虹が出たり。昔、渋公とか椅子のあるホールでライブをやった時は客席に子供がいると気になってしょうがなかったけど、野音なら子供がはしゃいで走り回ったり踊ったり、誰かがビールを買いに行こうがトイレに行こうが何も気にならない。目に映るものすべてが心地好くてね。俺の中で野音のライブは、正月やクリスマス、誕生日みたいに年に一度あるものと同じ感覚だし、これからもずっと続けていきたいんだよ。
──野音で見るライブの昂揚感、開放感は格別ですからね。
S:まずは足腰を鍛えるところから始めないと。普段の生活でも2時間くらいずっと立ちっぱなしになることがないから、リハーサル初日はまず立っていられるかどうかだね(笑)。もうこうなったら、次の野音までに肉体改造するかな。2ヶ月で15kg痩せるとか言うライザップみたいにさ(笑)。
──(笑)30年前の自分が今回のアルバムを聴いたら何て言うと思いますか。
S:「30を過ぎてもまだ唄ってるヤツのことなんて信用しない」なんて言ってるかもしれない(笑)。10代の頃は脆くて弱いくせに、根拠のない自信があって無敵だよね。だから見てて凄く危なっかしい。今考えると、10代の俺はどれだけやんちゃでも周りの大人たちに赦してもらってたんだなと思うよ。赦されたお陰で30になれたって言うかさ。
──「人がいるから今日までこれたかな」という「諦めを覚える前の子供みたいに」の歌詞の通りですね。
S:それなのに、「誰かといた時間と同じ時間だけひとりの時間が欲しい」(「人様」)んだよね。今も昔も自分勝手で困ったもんだよ(笑)。
 

このアーティストの関連記事

俺の空は此処にある

初回限定盤【CD+DVD】TECI-1443/定価:4,630円+税
通常盤【CD】TECI-1444/定価:2,778円+税
2015年3月4日(水)発売

amazonで購入

【収録曲】
01. ONBORO
02. 唄えよ讃えよ
03. jabujabu
04. けちってる陽だまり
05. 水色のクレヨン
06. いつでもどこでも会いたい
07. 休みたい
08. 人様
09. 俺の空は此処にある
10. 諦めを覚える前の子供みたいに
【限定盤DVD収録曲】
2014年8月16日に行なわれた日比谷野外大音楽堂ライブより8曲収録(撮影監督:宮本敬文/編集監督:藤森圭太郎)。
《SION-YAON 2014 with THE MOGAMI(2014.8.16)》
01. バラックな日々
02. 休みたい
03. ウイスキーを1杯
04. 通報されるくらいに
05. どけ、終わりの足音なら
06. 新宿の片隅から
07. 長い間
08. 月が一番近づいた夜

LIVE INFOライブ情報

「SION-YAON 2015 with THE MOGAMI」
2015年6月14日(日)日比谷野外大音楽堂
出演:SION with THE MOGAMI(池畑潤二/井上富雄/細海 魚/藤井一彦)
OPEN 17:00/START 18:00
前売 6,480円(税込)/当日 7,020円(税込)
*学割:高校生までは当日学生証提出で1,500円返金
【プレイガイド】
先行発売:2015年2月27日〜3月6日
一般発売:2015年3月21日
◎チケットぴあ:0570-02-9999
◎ローソンチケット:0570-084-003
休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻