ベースのフレーズってこんなに格好いいんだよ
──確かにそれは言えますね。小岩ブッシュバッシュでのデビュー・ライブ(2013年10月2日『SUBMERGE』)まで、準備期間はどれくらいあったんですか。
射守矢:ひと月もなかったね。あれは凄い無茶振りだったの。オファーをもらって、断るのも癪に障るからとりあえず受けて(笑)、それから何をやるか考えたんだよ。それでいろいろあって、学を誘ってみようかなと思ったわけ。
──初ライブから逆算しての結成だったんですか!?
射守矢:うん。15分から20分くらいの持ち時間だったから、とりあえず3曲くらい書き下ろせばいいかなと思って、あっという間に3曲書いてね。既存の曲をアレンジするのはイヤだったので。それで初ライブをやった。
──凄いですね。しかも2ヶ月間隔でやっていた当初のライブは、回を重ねるごとに新曲を必ず1曲披露するのが原則だったじゃないですか。
射守矢:新曲を作って出し惜しみしないようにしてたね。曲が何となく形になったのを学に聴かせると、「いいですね! ライブでやりたいですね!」って言ってくれてさ。「じゃあやるか?」って感じで(笑)。
──ベースで作ったフレーズの断片からふたりで発展させていくのが曲作りの基本なんですか。
射守矢:フレーズの組み合わせで作っていって、上ものは最後。上ものよりもベースのフレーズを聴かせたいんだよね。多分バンドでやってたことと一緒なんだと思うんだけど、それをより如実に聴かせたいって考えが最初からあった。ベースのフレーズってこんなに格好いいんだよ、っていうさ。
──ふたりの役割分担は?
射守矢:キッチリと振り分けたりはしてないけど、俺が学に「ちょっとこれ弾いてみてくれない?」ってお願いすることが多いね。その弾いてくれたフレーズに対して俺がどうするかを考える。
──最初にスタジオに入った時から手応えがあったんですか。
射守矢:あったね。根拠のない自信が最初からあった(笑)。
平松:初めて入ったのはLDKスタジオ(2014年3月に閉鎖)でしたよね。
射守矢:そうそう。
平松:セッティングして、バスドラを真ん中に置いた時点で射守矢さんが言ってましたもんね。「絵づらが面白い」って(笑)。
──最初に出来た曲は今回のアルバムにも入っているんですか。
射守矢:まず形になったのは、「Gyaspi」と「Men who work alternately」、「KING」かな。
──「KING」は、『kocorono』の爆音上映(2013年11月)の際に配給元であるキングレコードのオープニング・ロゴでそのフレーズが聴けましたね。
射守矢:そうだね。映画上映のために作ったあのフレーズが自分でも気に入っていて、それで1曲作ることにしたの。きっかけはキングレコードのためだったけど、この曲は文字通り“王様”をイメージして作り上げて、バリトン・ボイスまで入れたんだよ。あれは一応、王様の声だから(笑)。
──それにしても、初ライブからわずか1年あまりでファースト・アルバム発売に至るとは、もの凄いスピード感ですよね。
射守矢:自分たちも最初はこのペースに驚いたよ。しかもキングレコードが出したいと言ってくれるなんて思ってもみなかったからさ。そこまで自分たちを過大評価してなかったしね。作品を作りたい考えはあったけど、自分で作る術を全く知らなかったし、バンド時代は全部人にお任せだったから。だからどっか声をかけてくれたところに乗っかろうと思ってて、最初に手を挙げてくれたのがたまたまキングレコードだったんだよね。
──これがインディーズじゃなく、れっきとしたメジャーからのリリースというのが痛快だなと思って。
射守矢:うん、痛快だよね。有り難い話だと思うし。
──アルバムの収録曲は、リリースが決まって書き下ろしたのも結構あるんですか。
射守矢:半分までは行かないけどね。レコーディングする曲を作るためにライブを一旦ストップさせたんだけど、そこで作ったのはあくまでレコーディング用の曲でさ。ライブをするために作った曲じゃないから、ライブで表現するのは大変かなと思ったんだけど、まぁいいかなと(笑)。
──ブッチャーズの小松(正宏)さんやアコースティック・ダブ・メッセンジャーズの(斎藤)裕子さん、ハリネコの沙知さん、バリトン歌手の青木順一さんといったゲスト陣が要所要所で楽曲に彩りと深みを与えていますが、これは作品ならではの趣向を凝らす意味があったんですよね。
射守矢:ライブはこのふたりだけで充分成立してるし、そのままパッケージするのもアリかなと思ったんだけど、せっかくのレコーディングだからゲストを呼んで他の音も入れてみたいと考え直してね。とは言え、俺はあまりミュージシャンの知り合いがいないし、気心の知れた人たちがいいなと思ってさ。ドラムが欲しかったらやっぱり小松に頼みたいし。