Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー川口 潤(Rooftop2015年2月号)

音楽ドキュメンタリー作品の先駆者が語るコーパス・グラインダーズのライブDVD秘話

2015.02.02

 ブラッドサースティ・ブッチャーズのドキュメンタリー映画『kocorono』を筆頭に数々の良質な音楽映像作品を手がけ、最近では監督・撮影を務めたドキュメンタリー映画『山口冨士夫 皆殺しのバラード』のロングラン上映が記憶に新しい映像作家、川口 潤。昨年末に発売されたコーパス・グラインダーズのライブDVDを中心に、作り手の視点から見たさまざまな映像作品の制作秘話、昨今の音楽ドキュメンタリー映画隆盛に対する独自の見解を語ってもらった。(interview:椎名宗之/special thanks to ZERO)

2時間に及ぶ爆音まみれのライブを拷問編集!?

──スペースシャワーTV/SEP時代からコーパスとの接点はあったんですか。

川口:直接はなかったですね。僕がスペシャに入ったのが96年で、ちょうど『Cinderella V.A』や『Kr/A/sH!』が出た頃だったのかな。オルタナ系のバンドが出る番組がちょうど立ち上がった頃に、当時コーパスやブッチャーズが所属していたキングレコードからプロモーションを上司が受けてて、シェルターでやったレコ発の映像を見た記憶があるんです。当時の僕は単なる下っ端だったので、それを番組で流す権限はなかったんですけどね。でも、その前からコーパスにはかなりの衝撃を受けていたんです。これはZEROさんにも伝えたんですけど、レスザンTVのオムニバス(『TVVA』)に入ってた「J」を聴いてぶっ飛んだんですよ。とんでもないバンドがいるんだな! と思って。

──今回のDVDでは大地(大介)さんのロボット・ダンスも堪能できる「J」ですね(笑)。

川口:はい(笑)。あのオムニバスに参加していた全バンドに衝撃を受けたんですけど、コーパスは別格バンドのひとつだったんです。

──どんな部分に衝撃を?

川口:あの音の録り方がとにかく極悪で凄まじくて、めちゃくちゃ衝撃的でした。ビートが跳ねてる感じも個人的に好きだったし、凄いパンチがあったんです。海外のシーンに飛び込んでいったり、BECKの初来日公演でフロント・アクトを務めたり、僕の中では日本を代表する新しい次元の人たち、みたいな印象が強かったですね。

──コーパスが復活すると聞いた時はどう感じましたか。

川口:吉村(秀樹)さんが亡くなったことを受けて、ということなんでしょうけど、驚きましたよね。名越(由貴夫)さんとはCHARAさんの現場で時々お見かけしてたんです。コーパスは解散したわけじゃないと聞いていたので、名越さんに冗談っぽく「いつコーパスをやるんですか?」って訊いたら、「いやぁ…当分ないかな」って言われてたんですよ。

──それが今回、復活ライブのDVDの監督を務めることになって。

川口:コーパスのことが好きだったにも関わらず、実は活動休止前のライブを見る機会がなかったんです。だから今回は、ほぼ初見で撮影させてもらうことになったんですよ。ライブの前に射守矢(雄)さんと小松(正宏)さんが参加したリハーサルを見学させてもらったんですけどね。キングレコードから撮影のオファーを頂いて、その時点ではDVDになることが100%決まっていたわけじゃなかったんです。ただ何かしらの映像作品として残すことになると思うので、ってことで引き受けたんですよ。

──ライブ当日はカメラを何台用意したんですか。

川口:僕を入れて3人で撮影しました。固定のカメラは後ろに引きで1台、ステージ上は大地さんのドラムに1台。あと、ZEROさんたちが撮ってたカメラも2台あったのかな。まぁ何が大変かって、ライブ中の一服休憩を挟んで2時間っていう恐ろしいボリュームだったじゃないですか。後で正式にDVDにすることになって、思わずキングレコードに確認しちゃいましたからね。「これ、まさか全部編集するとかないですよね?」って(笑)。

──とは言え、発売までは半年ありましたよね。

川口:5月に撮って、9月に編集を始めて仕上げたのが10月だったので、すぐにってわけじゃなかったですけど、まぁ大変でしたよ。しかも、ひとつの会場で3カメを使った編集を全部一人でやるなんて、凄い久しぶりだったので。それと、編集の方向性も考えなくちゃいけなかったし。過去のライブ映像が豊富にあるのは聞いていて、そういうのを織り交ぜつつ編集していくべきなのか? とか、いろいろあるじゃないですか。バンドやアイテムとしての意向もあるだろうし。ただ個人的には、昔の映像を入れてドキュメンタリーっぽくストーリー仕立てにするのではなく、ライブはライブとして全曲ノーカットで見せていくほうがいいんだろうなと最初から考えていたんです。編集するのはキツいだろうなと思いつつ(笑)。あと、フィーバーくらいのキャパで3カメだと、だいたい画が決まってくるんですよ。

──想定内の仕上がりになってしまうと。

川口:演者は別として、僕自身のテンションが「またこの画か」みたいな感じになるんですよね。でも、実際に画をつなげてみないことには始まらないので、久々に鬼のような編集をバーッと勢いでやることにしたんですよ。それで何とか全部つなげたものを仕上げて、見返すことなくキングレコードに送ったんです。見返したら2時間かかりますからね(笑)。でも、それから数週間経って見直してみたら、意外と新鮮だったんですよ。カメラがガンガン動いてる箇所ばかりを使ってるのが我ながら謎なんですけど(笑)。それを見直した後に、もうちょっと遊んだほうがいいかな? って部分とかを微調整していった感じですね。結果的には自分でも気に入った作品に仕上がったので満足しています。

コーパスライヴ写真.jpg

吉村秀樹の映像を混ぜて共演させたかった

──撮影前に「こんな感じにしたい」とか、ZEROさんと打ち合わせはしたんですか。

川口:全くなかったですね。結局使わなかったんですけど、さっき話したリハーサルの時にカメラを入れたんですよ。その時に初めてZEROさんと話したんです。「『kocorono』の最後でレコード(コーパスとブッチャーズのスプリット7インチ)を投げてたでしょ?」って言われて、「あれは僕、2枚持ってたんです。飛ばしたんですけど海まで届かなかったんですよ」なんて答えて(笑)。ZEROさんは想像していたイメージと違って、とても人当たりが良かったのが印象的でしたね。

──曲名と一緒に吉村さん在籍時のコーパスのライブ映像がチラッと映りますよね。あれは川口さんのアイディアだったんですか。

川口:僕の独断ですね。メンバーにとっては吉村さんのことが念頭にありつつのコーパス再始動なんだろうと自分では解釈していたので、このDVDでは吉村さんの映像を混ぜて共演させたかったんです。後で何か言われたら消せばいいやと思って。それでちょっと電波障害みたいな感じで、ノイジーに吉村さんの画を入れてみたんですよ。

──「電波とどいてますかー?」と(笑)。

川口:アンコール最後の「COBRA」でZEROさんのアンプが鳴らなくなって、「吉村さん、まだこの辺にいるのか!?」と思ったんですけど、僕も似たような電波を勝手に受け取ってしまったと言うか(笑)。そういうちょっとした遊びの要素を入れるのは、映像だからこそできることでもあるので。最初のほうは吉村さんだと分からなくてもいいくらいの感じで使ってたんですけど、「7月/july」では自分でもびっくりするくらい吉村さんがはっきりと映ってるんですよね。ああいうノイジーな画の混ざり具合は偶然性重視で、ミックスしてからいい塩梅を拾い上げることが多いのですが、「7月/july」では吉村さんの動きと音のリズムがぴったり合ってたんですよ。「これは絶対、まだいるでしょ!?」って思いました(笑)。

──あの日のコーパスは15年間ものブランクを感じさせないどころか、断末魔の如き轟音がさらに凄まじいことになっていたじゃないですか。それを目の当たりにしながら撮影するのは、なかなか冷静ではいられないんじゃないかと思うのですが、如何でしたか。

川口:長年こういうことをやってるので、撮ってる時は割と冷静なんですよ。かと言って、あまり冷静になりすぎちゃうのもつまらないんですけどね。程よく音に持って行かれるのが理想的なんだと思います。依頼を受けての撮影と、そうでないのとでは感覚が多少違うのかもしれないけど、僕の場合、向き合う姿勢はそれほど変わらないですね。依頼を受けた撮影だと、曲間でカメラのバッテリーが止まらないように気を留めたり、今回みたいにカメラ3台の決められた配置で自分のポジションを守ったりしますけど。一人で撮ってる時はそんなことも考えず、自由にやってますね。

──2時間もの長尺にも関わらず、弛緩なく見られるのはバンドの圧倒的な演奏力と編集の巧みさゆえだと思うんですよ。川口さんのカット割りも見事ですし。

川口:それはもう、拷問を超えた編集作業の賜物と言うか(笑)。とにかく取り憑かれたかのように作業に没頭するしかなかったんです。

──あの生々しい臨場感を映像化する上で、とりわけ気に留めたのはどんなところですか。

川口:撮った素材自体が充分生々しかったですからね。演者とカメラが近いのもあるだろうし。

──チューニングしているZEROさんの身体から湯気が出ているように見えたり、オーディエンスでギュウギュウなフロアの匂いと熱気までが伝わってくる映像だと思うんですよ。

川口:僕は名越さん側で撮影していたんですけど、ZEROさんが凄い汗だくだったので、ZEROさん側のカメラが湯気で曇ってたんです(笑)。そんな現場だったし、必然的に生々しい映像になりますよね。あと、編集の段階では最初から最後まで複数のカメラが一気に走るのをライブでスイッチングして、後で細かく調整したんです。今回はそういうライブ感で行くしかなかったんですよね、素材が素材だけに。

──あの圧倒的な轟音アンサンブルと拮抗し得るには、小手先の技術では到底太刀打ちできなかった?

川口:そんな感じでした。でも仕上がってしまえば、久しぶりにああいう編集ができて楽しかったなという気持ちが一番大きいんですけどね。

──ラフ編集を見たメンバーから何かリクエストとかはなかったんですか。

川口:特になかったですね。逆に、曲名が書かれたプラカード[註:♡GrinderS♡の面々がラウンドガール風に曲名をプラカードで知らせていた]の文字を映像にも活かしたいというリクエストをこちらからしました。あのプラカードを見て、吉村さんの映像を注入するアイディアが浮かんだんです。スマートに曲のタイトルを入れるイメージじゃなかったし、なんかゴチャゴチャしたパンチのある感じにしたかったんですよ。

 

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