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INTERVIEW

トップインタビュー松井 稔(『日本鬼子』監督)(web Rooftop2014年11月)

初公開から14年を経てDVD化されるドキュメンタリー映画『日本鬼子(リーベンクイズ) 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』が今の世に問う意義とは?

2014.10.29

 「実に憎むべき、私であります。」
 日中戦争(満州事変から敗戦まで)における中国人に対する残虐行為を元日本軍兵士が赤裸々に語るドキュメンタリー映画『日本鬼子(リーベンクイズ) 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』(株式会社ディメンションの映画復刻レーベル「DIG」より11月7日発売/11月5日にネイキッドロフトで行なわれるイベントにて税抜価格でこのDVDを独占先行販売)。
 好々爺然とした老人たちが語る自らが行なった加虐の証言。戦争とは、かくも恐ろしく人間を変えてしまうのか。
 【あなたは、ほんとうの戦争を知っていますか? 何をされたかではなく、何をしたか! 戦争の被害については多くのことが語られてきたが、加害については沈黙、否定されてきた。老人たちが贖罪と日本の未来のために次世代に伝える戦争の実態。加害の体験こそが戦争の真実と人間の弱さと恐ろしさを明らかにする。】
 初公開から14年、DVD化され再び世に出ることとなったこの衝撃作を自主制作で完成させた松井監督に話を聞いた。(interview:齋藤 航/NAKED LOFT、撮影:小柳元)

加害証言を映像化するべきだという使命感に駆られて

──イベント及びこのインタビューにあたり、作品を観させていただきまして…当たり前ですがとても重い気持ちになりました。
松井:そうそう。重い気持ちでいいんだよ。
──物語と違って実際の経験、体験した本人の口から聞くというのは重みが違いました。この作品を、彼らの証言をまとめて作品にしようと思ったきっかけは?
松井:1993年頃、フリーでいろいろやってて、NHKでも何本かやったりしてた。でもフリーだから企画を出さなきゃいけないってことでたまたま読んでいた新聞で元陸軍将校の小島さんっていう方が戦争体験の証言をしてるという記事が出てた。僕は昔から戦争の裏話とかは好きだったから、これはちょっと話を聞いて企画に出そうかなと思って埼玉県にあるお宅に行ったんだよね。自らの加害の話を聞いて、書物からの知識はあったけど実行した本人と面と向かって聞く人間の狂気には衝撃を受けた。でもその時は企画を持っていってもNHKには通らなかった。要するに、「こんな戦争の話はもういい」と。
 それから4年くらい経って、1997年頃に、敗戦で5年間シベリアに抑留され、さらに6年間中国の戦犯管理所に収容されていた人たちが作った『中国帰還者連絡会(※以下、中帰連)』という会が季刊誌を出したんですよ。翌年その中に僕が会った小島さんが文章を書いていたのを見つけた。「ああ、お元気なんだな」って。でもよく見たら故人になっていて…。これは加害証言の映像化をなんとかしなきゃいけない、形にしなければいけないと思ってね。中帰連の人たちから加害証言を撮ると決意した。それで、最後までいけるかどうかわからないけども、たまたま僕の後輩がスタジオやっていたり、友人がカメラ持っていたりしてたから、彼らをだまくらかしながら(笑)始めたんだよね。
 小島さんが亡くなられたっていうのを知ったのは春頃だったけど、もうその年の6月から撮り出した。「失礼だけど、皆さん亡くなっていくんで撮らせて下さい」って手紙を出して…だけどやっぱり、そこでの証言はフィルムに残るっていうのもあるし、半分くらいの方には断られるんじゃないかって思ってた。普通考えるでしょ? 自分がよくたってさ、子どもや親戚だっているし、ずっと残っちゃうんだから。だからどうなのかなと思っていたんだけど、運が良かったのか、あるいはその人たちがそういう覚悟でいたのか、ほとんどが受けてくれた。最初は5、6人でやろうと思っていたんだけど、いろいろな体験をしている人たちがいるでしょ? 出身も違うし、憲兵だったり医者だったり立場も違う。それでドンドン広がっていって、あんなに長くなっちゃった。
 

安倍政権のおかげで日本がまたキナ臭くなってきている

──様々な立場や階級の人がいて、いろいろな目線があるからこそ当時の状況が立体的に見えてきました。
松井:テレビでもたまにそういう証言を元にした番組があったけどそこで出るのは1人か2人でしょ? それだと「彼らは特殊な人だ」って思われちゃうんだよな。あれだけの人数が証言しているということで『人間の闇』が出てくる。そういう物を撮ろうと思った。自分の中ではドキュメンタリーっていうより『記録映画』でいい。カメラもほとんどそういう撮り方をしていないし。
──11月5日(水)のネイキッドロフトでのイベントでご一緒される原一男さんの印象は?
松井:少ないけど一緒の仕事をしたことはあるよ。彼もフリーの人だから。僕が助監督の時についた『天平の甍』(監督・熊井啓)で彼は撮影助手で一緒だったし、他の現場でも彼が撮影部の応援できたりとかで。でもパートが違うんで、しょっちゅう会っていたわけではなくて、呑んで話をしたりとかいうのはなかった。
古賀(株式会社ディメンション):原一男監督が今回のきっかけで初めて『日本鬼子』を観て非常に感銘を受けて、原監督たってのお願いで是非松井監督とお話をしたいということでお呼びすることになりました。ご自分の作品『ゆきゆきて、神軍』と『日本鬼子』を並列させた寄稿もいただきましたし、「聞きたいことが山ほどある」とおっしゃってました。
松井:まぁ、『ゆきゆきて、神軍』とは全然毛色が違うからね(笑)。
──2005年、『日本鬼子』公開時にイメージフォーラムでのトークショーでもご一緒された鈴木邦男さんとは?
松井:鈴木さんは映画が好きなんだよね。きっかけはね、僕の後輩が「この作品危なくないですか」って鈴木さんに観せたんだって。それで鈴木さんは『創』の連載や『ダカーポ』に何度かこの映画のことを書いてくれたりしていたんだよ。その頃は細々と自主上映していたんだけど、カメラマンとプロデューサーをやってくれていた友人の知人でドイツ在住の日本人女性の働きかけでベルリン映画祭への正式出品、そこで出会ったイメージフォーラムの女性代表のおかげで渋谷イメージフォーラムでの長期の一般上映となったんだ。そこのスタッフが『創』を読んでいたのか、それだったら鈴木邦男さんを呼んで対談を収録しましょうとなって、初めて会ったんだよ。彼の真摯に事の真相を知ろうとする現在の穏やかな姿勢が好きだ。『戦場体験放映保存の会』という団体があって、そこのグループが『日本鬼子』を高田馬場で上映したんだけど、そこにも鈴木邦男さんは呼ばれていて(笑)。そこで一緒に酒を呑んだね。
──この映画の撮影からも時間が経ちまして、改めて松井監督が思うことは?
松井:もう役目は終わったなと思っていたよ。けど、安倍政権のおかげで日本がまたキナ臭くなってきているということもあって、世間の人たちがこの作品に再び興味を持ってもらって、DVD化の声をかけてもらったのは嬉しいんだけど…。それが安倍のおかげっていうのが、なんか釈然としないんだよね(笑)。
──今この2014年に、というのは非常にタイミングが良いと思います。
松井:この映画は右も左も関係ないからね。戦争というのはこういうものだというのを知ることと、右か左かっていうのを決めることは、別の話だからね。
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DVD
日本鬼子(リーベンクイズ) 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白

ローランズ・フィルム RFD-1153
収録時間:本編160分
価格:4,800円+税
2014年11月7日発売

amazonで購入

LIVE INFOライブ情報

『日本鬼子(リーベンクイズ)』奇跡的DVD化記念トークイベント
「『日本鬼子』が歪んだ今の日本に投げかける疑問符と怒り」
2014年11月5日(水)ネイキッドロフト
OPEN 18:30 / START 19:00
予約 1,500円 / 当日 1,800円(飲食別)
※ご予約はネイキッドロフト店頭電話&ウェブ予約にて
【登壇者】松井稔(『日本鬼子』監督)、原一男(映画監督)、鈴木邦男(一水会顧問)
【司会】弓家保則
 
リーベンクイズとは、『日本鬼子』の中国語読みで、蛮行を重ねた日本兵たちへ向けた言葉であり、最大の蔑称である…。
日中15年戦争で、中国大陸にいた元日本軍兵士14人が自ら行った血も凍る残虐な行為(強姦、試し斬り、非道な拷問、井戸に落とした母子めがけて手榴弾を投げ込み爆殺、七三一部隊による生体実験、中国人を使った人間地雷探知機、人肉食、細菌化学兵器…)を語った衝撃的ドキュメンタリー映画『日本鬼子(リーベンクイズ) 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』(2000年公開作品/160分)。
発売の2日前に『日本鬼子』の監督、松井稔氏、映画監督の原一男氏、一水会顧問の鈴木邦男氏が集結。この映画の持つ恐ろしさ、強さ、重さ、歪みきった今の日本にこの映画が投げかける波紋をじっくりとトークいたします! 思想・信条に関係なく重要な日になること間違いなし!
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