Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー加茂啓太郎(「Great Hunting」シニア・プロデューサー)(Rooftop2014年8月号)

来たれ、シーンを書き換える才気に溢れた気鋭バンドたちよ!
「Great Hunting」15周年記念バンド限定オーディション「BAND ON THE RUN」開催!

2014.08.01

 Art-School、Base Ball Bear、フジファブリック、氣志團、相対性理論、The SALOVERS、赤い公園など数多くの新進気鋭バンドを発掘・育成してきたユニバーサル・ミュージックの新人発掘育成セクション「Great Hunting」が今年めでたく15周年を迎えた。これを記念してバンド限定のオーディション「BAND ON THE RUN」が開催されることが決定、現在絶賛応募を受け付けている。
 そんな「Great Hunting」の顔役であり、EMI時代からウルフルズ、SUPER BUTTER DOG、ナンバーガールなど日本のロック史に燦然と輝く数々の名バンドを育て上げ、数々のヒット曲を世に送り出した名物プロデューサー、加茂啓太郎に「BAND ON THE RUN」の主旨を伺いつつ、昨今のバンド・シーンをどう見ているのか、次世代のバンドに求めているものは何なのかをざっくばらんに語ってもらった。(interview:椎名宗之)

顔の見えるプロデューサーになるように努めた

──そもそもどんな経緯で「Great Hunting」を始めたんですか。

加茂:割とぬるっとした始まり方だったんです(笑)。当時の僕の上長から「お前は育てるよりも発掘したほうが向いてるんじゃないか?」と言われたんですね。たとえばウルフルズやORIGINAL LOVE、GREAT3、スピッツ、もっと遡ればブルーハーツもそうでしたけど、面白いバンドをよく見つけては契約に漕ぎ着けたり、漕ぎ着けなかったりしていたんです。それでEMIの新人発掘育成セクションとして「Great Hunting」を始めたんですけど、最初は別の名前だったんですよ。同じ名前でオーディションをやっていたライブハウスがあって、そこからクレームが付いたので変えたんです。

──「Great Hunting」が始まった頃は、「新宿デモ評議委員会」という公開オーディション・イベントをロフトプラスワンで定期的にやっていましたよね。

加茂:そうですね。ソニーのSD(ソニー・ミュージックエンタテインメントの新人開発・発掘セクション「Sound Development」のこと)と同じことをやってもしょうがないし、組織の人数も使えるお金も違うから、ゲリラ的なことを仕掛けていこうと考えたんです。あと、SDだと選考する人の顔があまり見えないじゃないですか。だから自分で言うのもおこがましいですけど、たとえばリック・ルービンやアラン・マッギーみたいにキャラの立ったプロデューサーになりたかったんですよ。

──「デモテープと書いてゴミの山と読む」と挑発的な発言をするような(笑)。

加茂:それは自己演出もあったんですけどね。「ロックものはEMIなら加茂が一番分かってる」という評価も頂いていたので、努めて顔と名前をアピールしていたんです。仮にひとつのバンドの争奪戦になった時に、バンドがどのメーカーにするか基準となるのは、そこのディレクターがどんなアーティストを手がけてきたかなんですよね。あるいは、そのメーカーに自分たちの好きなアーティストがいるかどうか。だから自分が手がけてきたアーティストは信頼と実績につながるんですよ。

──この15年、錚々たる顔ぶれのバンドを発掘してきたなかで、とりわけ印象深いバンドを挙げるとすると?

加茂:「Great Hunting」を立ち上げる直前なんですけど、やっぱりナンバーガールの存在は大きかったですね。今じゃ割と普通のやり方になってきたけど、事務所に所属しないでデビューしたり、いいスタジオで録るのが当たり前だったのに福岡の8チャンネルしかないスタジオでわざわざ録ったり、撮影もスタイリストやヘアメイクを使わなかったり、とにかく異例づくしだったんですよ。PVも自分たちで撮影・編集したり、DIYの精神が凄く強かった。今年はメジャー・デビュー15周年でリイシュー3作品が発売されてまた盛り上がっていますけど、未だにこうして語り継がれているのは音だけじゃなく、姿勢みたいなものが評価されているからこそでしょうね。

──加茂さんと言えば、個人的にもナンバーガールのイメージが強いです。

加茂:僕が制作をやっている時に出会ったんですけど、自分のキャパがいっぱいで全面的に手がけられないから、吉田(昌弘)君にディレクターをやらないかと話を振ったんですよ。僕は「Great Hunting」と兼務でナンバーガールのマネージャーみたいな立場だったんです。ざっくりとしたプランニングとか、宣伝のスケジュール管理とかをやって。まぁ、ほとんどの時間は向井(秀徳)君の呑み相手をしていましたけど(笑)。

 

想像の範疇を超えた表現と出会いたい

──加茂さんが手がけてきたバンドの共通点をあえて言うならば、「なんじゃこりゃ!?」というファースト・インパクトの強烈さがとにかく尋常じゃないことですよね。

加茂:「どういうアーティストを探しているんですか?」と訊かれることがよくあるんですけど、僕は想像の範疇を超えたものを見たいし、聴きたいんです。氣志團を最初に見た時は「なんでリーゼントに学ラン姿でこんなことをしているんだ!?」と思ったし(笑)、向井君の予備校生みたいな風貌も当時はかなりインパクトがありましたからね。相対性理論も最初に音を聴いた時はアニソンみたいに感じたけど、アニソンにしては随分とIQが高いなと思ったし。

──とは言え、加茂さんみたいにキャリアが長いと、ちょっとやそっとのインパクトでは動じないんじゃないですか?

加茂:おごり高ぶらないように自戒はしていますよ。たとえばSEKAI NO OWARIがここまで化けるのを僕は見抜けませんでしたからね。いくつかそういうのがあるんです。Mr.Childrenをシェルターで見て、「歌は上手いけどキャラが立ってないバンドだな」と思ったり、JUN SKY WALKER(S)を初めて見た時に「ブルーハーツのモノマネみたいだな」とか思ったり(笑)。二匹目のドジョウって言葉は適切じゃないかもしれないけど、フォロワー的な存在がブレイクすることもあるし、自分の物差しだけが特別だと思っちゃいけませんよね。Base Ball Bearも最初はSUPERCARやナンバーガールの流れを汲んだ感じだったけど、独自の音楽性をどんどん築いて今に至るわけですから。

──フジファブリックの故・志村正彦さんも、加茂さんにデモテープを送っていたそうですね。

加茂:そうなんです。僕の本を読んでデモを送ってくれたみたいで。当時は僕の本を読んでデモを送ってくれた人にはまめに返事を書いていて、「イマイチでしたけど頑張って下さい」みたいなことを書いたのかな(笑)。数年後に僕の部下がフジファブリックを見つけてきて、育成契約をしてメジャー・デビューが見えてきた頃に志村君と話した時に、「実は高校生の時に加茂さんにデモを送ったんですよ」と言われたんですね。多分、デビューが決まったら言ってやろうと思っていたんでしょう(笑)。あと、いきものがかりとかのアレンジャーをやっている田中ユウスケさんは、ロフトプラスワンでやっていたイベントに自分のバンドで参加してくれたことがあるんです。その時に僕が褒めたらしくて、そこでプロになる自信がついたと言ってくれましたね。

──想像を超えるアーティストと出会うために心がけていることはありますか。

加茂:当たり前ですけど、いろんなものを見たり聴いたりすることですね。僕は1960年生まれで、70年代から今日までロックがどういうふうに変化したのかをリアルタイムで見てきたし、レコード屋へ行けば端から端までチェックするし、普段からいろんな情報を集めるようにしていますね。ブレイクしたアーティストがいれば、それがホントに新しいのか、何かのエピゴーネンなのか、自分なりに分析もするし。

──今年は「シブヤ・ガール・ハンティング」という女性ボーカルのオーディションをスタジオノア渋谷2号店でやったり、ロック以外のジャンルのオーディションも盛んですね。

加茂:EMIはシンガー・ソングライターとロックが強くて、アイドルはほとんどやってこなかったんですよ。それとここ2年、僕もアイドルの世界をずっと研究しているのでオーディションを仕掛けてみたんです。それまでの人生でアイドルを好きになったことは一度もなかったのに、これは凄く面白い世界だなと思って、ミイラ取りがミイラになっちゃったんですけど(笑)。今は元BiSの寺嶋由芙ちゃんのディレクターまでやっていますからね。ロックはもう、何をどうすればどうなるかがだいたい分かるし、自分にとって新しいものをやってドキドキしたいんです。

 

頼りにされれば、それに応える自信はある

──今やアイドルがロック・フェスに出たり、ロックのミュージシャンがアイドルに楽曲を提供したり、ロックとアイドルの距離がグッと縮まりましたよね。

加茂:境目がなくなってきましたよね。昔はロック・ファンがアイドルを好きだなんて言えなかったけど、今は普通に言えるし。Base Ball Bearの小出(祐介)もアイドル・ソングが大好きですからね。昔は「アイドル好きを公言するな」とスタッフから釘を刺されていたのに(笑)。

──そんなクロスオーバーの時代に「BAND ON THE RUN」というロック・バンド限定のオーディションが開催されるわけですが、求めているのはやはり“想像の範疇を超えたバンド”ですか。

加茂:そうですね。2000年前後の頃はBLANKEY JET CITYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTがいて、くるりやSUPERCAR、ナンバーガールみたいな新しいバンドが出てきて、あの時期は日本のロックのビック・バンだっだと思うんです。今もいいバンドはもちろんいるけど、その、時系列の延長線上でしかない気がするんですよ。

──それはなぜなんでしょう?

加茂:よく言われるのは、今のミュージシャンはバックグラウンドとして洋楽を聴いていないとかありますよね。邦楽のロックだけがリファレンスになっちゃうから底が浅いと言うか。昔の渋谷系のミュージシャンは、自分の音楽のヒントにするためにジャンルを問わず幅広く音楽を聴いていたじゃないですか。そういう匂いのするミュージシャンが減ってきましたよね。その傾向が、今の邦楽ロックが小粒であることとイコールなのかは分かりませんけど。

──どんな人たちに「BAND ON THE RUN」へ応募してほしいですか。

加茂:今の日本のロックは面白くないなと思っている人たちですかね。あと、ベンジーやチバ(ユウスケ)、向井君やエレファントカシマシの宮本(浩次)みたいに男から見ても格好いい人かな。今のバンドマンは総じて草食系で性欲もなさそうだし(笑)、男の色気が乏しいですからね。

──才気溢れる女性にも期待したいですね。

加茂:女の子は男子よりも元気ですね。赤い公園とかガールズ・バンドも増えてきたし、みんな演奏力に長けているし。特に赤い公園以降、ガールズ・バンドだから多少ヘタでもいいというエクスキューズが通用しなくなりましたよね。アイドルも元気だし、そういうのは今の日本の縮図なのかもしれませんね。どこの企業でも女性がどんどん進出しているし。

──こうして15年もオーディションを続けているモチベーションは何なのでしょうか。

加茂:レコード会社としては当然売れるものをリリースしなくちゃいけないんですけど、僕はビジネスマンである前に音楽ファンなので、自分がワクワクする音楽を聴きたいし、サポートしたいんです。それに、才能とやる気のあるアーティストだったら、僕を頼りにしてもらえればきちんと応える自信があるんです。最近ちょっと嬉しいことがあって、PoPoyansという2人組の女の子のグループがいるんですけど、何かのイベントで彼女たちがウルフルズのトータス松本と話したそうなんです。「EMIで誰が面倒を見てくれてるの?」とトータスに訊かれて僕の名前を出したら、「ああ、それなら安心やな」って言ってくれたみたいで、そういうのはグッときますよね。あと、Base Ball Bearの堀之内(大介)からも「ホントに加茂さんと出会えて良かったですよ」と言ってもらえたり、それはプロデューサー冥利に尽きますよね。

──向井さんがそんな言葉をかけてくれたりは?

加茂:ないですね。この先もまずないでしょう(笑)。


★「Great Hunting」15周年記念バンド限定オーディション「BAND ON THE RUN」の詳細はコチラ

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