amazarashi待望のニューアルバム『あんたへ』が、11月20日にリリースされる。
amazarashiというバンドに出会ったのは2009年にリリースされた『0.』の時で、それから4年近くが経った。その間、早いペースで作品をリリースし、ここ数年はライブもコンスタントに行なわれるようになっていた。しかし、未だに本人とはお会いしたことがなく、amazarashiの中心人物である秋田ひろむという人物がどんな人間かを垣間見ることが出来るのは、変わらずメールインタビューとライブのみである。
そのamazarashiのライブは、ステージ前方に設置された紗幕に1曲1曲それぞれPVなどの映像を映し出すとても幻想的なステージだ。今年はライブがこれまで以上に活発となり、5月から6月にかけて行なわれたツアーでは渋谷公会堂2日間をどちらもソールドアウト、また、初の野外フェスとなる"RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO"に出演、そして9月にはTK from 凛として時雨と初のツーマンイベントとなるライブが恵比寿リキッドルームで行なわれ、活動の幅を広げている。今作に収録されている『あんたへ』、『匿名希望』の2曲は9月のリキッドルームの公演で初披露された曲である。超満員のフロアにピンと張りつめた空気が流れ、そこにいる観客が紗幕に映される歌詞、そして秋田から発せられる一言一言を聴き逃すまいと耳を傾けているようだった。自分自身と戦い、藻掻き、足掻き、時に立ち止まりそうになりながらも進んできたことを想像させるインパクトのある言葉が投げかけられ、この曲の歌詞カードを早く読みたいという感情に駆られたのは私だけではなかっただろう。
今作は、「これからのあんたへ捧ぐ」という歌詞が書かれた1曲目『まえがき』で始まり、続いて、「必死に生きるのは得てして無様だから 人に笑われても気にすんな」という強烈なメッセージを投げかける『あんたへ』(M-2)。秋田ひろむ自身の今を歌ったという『匿名希望』(M-3)。怒涛の言葉数で畳み掛けるポエトリーリーディングの長編『冷凍睡眠』(M-4)。amazarashi流のラブソング『ドブネズミ』(M-5)。2012年11月にリリースされたライブDVD『0.7』に弾き語りで収録されていた曲のバンドバージョン『終わりで始まり』(M-6)。そして『あとがき』(M-7)で終幕を迎える全7曲を収録。CDでありながら、まるで小説を読んでるような感覚になる不思議な魅力を持った作品だった。
今回も秋田ひろむにメールインタビューを敢行した。今の彼はどんなことを思いながら曲を書き、どんなことを思いながら生きているのか、少しだけ知ることが出来るかもしれない。
amazarashiという、未だ謎の多いバンドに思いを寄せて。(interview:やまだともこ)
前に進んでる事が伝わればいいと思った
── ニューアルバム『あんたへ』の完成おめでとうございます。作品としては2013年4月にリリースした『ねえママ あなたの言うとおり』ぶりとなり、リリースのペースは思った以上に早く感じますが、曲は常に作り続けているのでしょうか?
はい、曲は暇があったら作ってます。ライブやレコーディングがない時期は常に作る様にしてます。今回はリリースしたい曲が結構たまってたので、わりと自然に完成したと思います。曲作りを頑張ったっていう感じは今回なかったです。
── 秋田さんの場合、曲が出来ない時はどうしてますか? 諦めますか? それともなんとしてでも生み出そうとしますか?
両方あるんですけど、普段はすぐ諦めます。あまりに出来ない時は無理してでも一曲完成させて、そこから調子が出たりとか、なんとなくの自分のペースがあります。
── では、今回リリースされるアルバム『あんたへ』が出来上がり、率直な感想をお願いします。
真正面から伝えようしているアルバムなので、今までにない恥ずかしさもあるんですが、やりたい事がやれた手応えがあります。僕としては初めての能動的なメッセージソングだと思います。
── アルバム『あんたへ』ですが、『まえがき』から始まり『あとがき』で終わるという形が小説のような作品だと思いましたが、もともとこういうアルバムにしようというイメージを持って作り始めたのでしょうか?
『まえがき』『あとがき』は文庫本ブックレットのデザインに引っ張られる形で作りました。その時に何となく小説っぽい印象にしたいなと意識しました。
今回は『あんたへ』を中心に添えようというのが始めからあったので、メッセージが伝わりやすい様に、全体的に意識しました。そこは小説というよりも手紙のようなイメージで、“あなたに向かって歌っているんだよ”というのが明確になればな、と思ってました。
── アルバム『あんたへ』を通してリスナーのみなさんに伝えたかったこととはどんなことですか?
amazarashiとして前に進んでる事が伝わればいいと思います。あとは聴いてもらえれば、分かりやすいメッセージなので。
── 今作において、一番最初に出来上がった曲はどの曲になりますか? その曲が出来たことで今作のビジョンが見え始めたということはありますか?
今作のビジョンが見えたという意味では『あんたへ』なんですが、これはとても古い曲です。『ドブネズミ』も古い曲で、だいぶ前に完成していてライブ終演後に流したりしてました。『終わりで始まり』はライブDVDで弾き語りしてたりしてました。
『あんたへ』に添う曲はどんなものだろう、と考えたのが出発地点で、『終わりで始まり』『ドブネズミ』は入れたいなと思っていたので、その他曲調的にどんなバリエーションが必要かを考えて残りの曲を作りました。
秋田ひろむによる楽曲解説
── 1曲ずつの楽曲解説や曲が生まれたきっかけを教えて下さい。
1.『まえがき』
『あんたへ』自体が昔の楽曲で、自分の為に書いた歌だったのですが、今だったら人に向けて、外に向けて歌えるんじゃないか、という事で『まえがき』を作りました。これはあなたに向かって歌っているんだという前口上です。
2.『あんたへ』
昔作った楽曲なのですが、ずっと存在すら忘れてて、次のリリースを意識しはじめた頃にひさびさに聴いて、自分で感動しちゃって、これは出さなきゃと思いました。
これを作った頃はバイトをしながら音楽をやって、それ以外ずっと家にこもっててという挫けそうな時期だったのでこういう歌になったんだと思います。ストレートなメッセージソングだと思います。
3.『匿名希望』
匿名希望っていう言葉は匿名を希望するって意味だと思うんですけど、匿名の希望だったら面白いな、っていう言葉遊びから思いついた曲です。最初は怒りのテンションで作りはじめたんですけど、途中から空しくなってしまって、怒りでやりあうより前に進もうよ、っていう歌になりました。
4.『冷凍睡眠』
はじめはラップをやりたかったんですけど、やっぱり無理でポエトリーリーディングになりました。でもラップを意識したおかげで、言葉選びとか譜割りとか、今までにないポエトリーリーディングになったと思います。
この曲が唯一メッセージソングじゃないんですけど、アクセント的に必要だなと思って4曲目に入れました。フィクションを書こうって始めから決めて、言葉とストーリーの表現方法に力を入れて作りました。
5.『ドブネズミ』
これも昔の曲です。『冷凍睡眠』のあとに眠りから覚めるこの歌が続いたらいいなと思って、この曲順になりました。この曲はラブソングなんですけど、『あんたへ』の箇所でも書いた様な落ち込んでいた時期だったので、この世に悲観している視点が根底にあるんだと思います。
6.『終わりで始まり』
この曲を作ったきっかけはもう忘れてしまいました。DVD『0.7』の撮影の時の思い出しか浮かんできません。なので、なんとなく僕の中では楽しい歌です。曲調も明るいんですが、歌詞自体はいつも通りです。
7.『あとがき』
この曲で現実に戻ってくる感じがします。それぞれ現実に戻って、また頑張ってこうよ、っていう風に終われたらなと思って作りました。今までのamazarashiだったら『終わりで始まり』でアルバムが終わってたと思うんですけど、この『あとがき』がある事でより現実的なメッセージになったと思います。