Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューサカサマのパテマ(Rooftop2013年10月号)

吉浦 康裕 (アニメーション監督)
サカサマで表現する、王道作品!

2013.10.02

 WEB配信という新しい形で発表された「イヴの時間」。その完成された世界感で多くのアニメーションファンを魅了し、今最も注目される新進気鋭のアニメーション監督の一人である吉浦康裕。
 新作となる「サカサマのパテマ」は待望の長編劇場作品。公開された冒頭映像は更に想像を刺激し、劇場公開を待ち望むファンの熱は爆発寸前。そんな公開直前、都内某所にてインタビューを敢行。
(interview:柏木 聡 / Asagaya/Loft A)

“サカサマ”の視点

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吉浦 康裕 (アニメーション監督)

── まずは「劇場版:サカサマのパテマ」製作に至ったきっかけをお伺いしてもいいですか?

元々劇場作品に憧れていたんです。前作「イヴの時間」がありがたいことにご好評いただいたので、今なら新しい企画も通りやすいんじゃないかなと。いくつかのアイデアの中で一番現実的だったのが、“ヒロインがサカサマ人”というプロットだったんです。

── キャラクターを思いついたところが始まりなんですか?

コンセプトを思いついたところからですね。重力が真逆の“サカサマ人”ってどういう視点なんだろうという…。僕らが空と位置しているものが下に広がっているわけだから、凄く怖いなと。だったらこの子は地上では生活するのが困難なわけですし、普段はどこで生活していることにすればいいんだ…地下にしよう! と。

── 最初は地下世界だけで完結するつもりだったんですか?

いえ、そんなことはないです。あくまで最初は地下世界から始まって、やがてそのサカサマ人が地上世界に“落ちてくる”というのが面白い展開だなと思ったんです。地上へと“上ってゆく”という王道展開に見せかけて。

── スタッフの方々はどういった経緯で決められたんですか?

今回は作画監督の又賀大介さん、美術監督の金子雄司さんと、この作品にうってつけの人がスルッと見つかったんですよ。又賀さんは制作デスクの方の紹介がキッカケで、金子さんは僕が飲み会で口説き落としました。

── 飲み会で口説いていたんですね(笑)。

そうなんです(笑)。人づてに凄く建築に詳しくてアナログで美術を描ける人がいるというのを聞いていて。パテマは建築物を美しく描く人が欲しかったんです。話してみたら同い年で趣味も似通っていたので、直感的に頼んだら正解でした。

── イメージを伝えるのは難しかったんじゃないですか?

いえ、僕が目指している範囲をうまく汲んでくれました。特に金子さんにはある意味で演出的なアイデアを出していただいて。このカットはこのアングルの方がいいんじゃないですかってアイデアを出してもらったりしましたし。

── 世界観を共有できるスタッフさんが集まっていますね。

そうなんですよ。又賀さんにしても本当に動きがうまい方で、コンテで描かれていないところまで芝居をふくらませてくれました。キャラクター芝居も作画チームが独自にしてくれて、本当に魅力的な演技をしてくれています。本当にスタッフに恵まれました。

── 音楽は大島ミチルさんが担当されてます。

とにかく劇伴らしい音楽にしたいと思いまして。そこで大島さんがいいなって言ったら何故か通っちゃって(笑)。大島さんも「サカサマって面白いよね」って面白がってくれました。音楽よかったねって沢山の方に言っていただけているので、それも含め是非劇場で楽しんでほしいです。

 

ワクワクするものを作りたい

── 予告編の「出会いは振動」というのは作品を表すキーワードなんですか?

そうですね。エイジとパテマにフォーカスを置いた二人のドラマと言えます。なので「出会い」というのは非常に的確な表現だと思います。女の子と男の子が出会う恋愛ものに近い感じですね。

── 世界観がガッチリとしているので、その世界での話なのかなと思っていました。

あくまでもメインは二人の話です。勿論世界の描写もたくさんありますし、活劇的な要素もベタなくらいたくさん出てきますが、それを通じて二人の関係がどう変化していくかがメインですね。

── 発想の元になったものは?

ゲームっ子だったので、その影響かもしれません。ゲーム的な発想だとも言われましたし。仕組みとしてはそれ程斬新というわけではなくて、重力が変わるという味付け描写は昔からあるんです。

── 確かに今までにもよくあるシチュエーションではありますね。

でも、“場所によって自在に重力が変わる”だと、ストーリーとしてはつまらないものになる気がしたんです。サカサマに生きることを宿命づけられた人間のほうが面白いなと思って。僕の中では空に落っこちそうになる女の子っていうのが最初に浮かんだんです。

── 空から女の子が、というとラピュタをイメージされる方も多いみたいですけど。

ラピュタみたいな冒険活劇がやりたくて、でもやるんだったら逆にしようって(笑)。

── マスクのシーンなんかもナウシカみたいですよね(笑)。

そういったシーンはアニメも実写映画も含めてたくさんあります(笑)。最初は“サカサマ”の要素を隠したベタな展開で、なんだよくあるものじゃないかって思わせたかったんですよ。

── あえてベタなところを突っ込んでいって観客を裏切ろうということですね。

サカサマって凄くトリッキーな仕掛けなので、ストーリーを複雑にしたらわからなくなっちゃうなって。逆にサカサマ人のヒロインと普通の少年というのを活かすなら王道がいいと思いました。

── 作り手だと、謎を深めたいというかギミックを使いたいと思うんですが?

ジレンマですよね。作っているとストーリーにのめり込んでしまうので、多少複雑でも伝わるだろうと思ってしまうんです。ところがそういうのは伝わらないことが多くて、逆に作り手から観て若干わかり易すぎる位が丁度いい、というのを聞いたことがあります。

── それは短編製作の経験から?

実際に実感したことでもあります。自主製作の作品ほど難解なものが多いと言われたことがあります。多くの自主製作の方は作品を作り慣れてないので、塩梅が取りきれてないことが多いんです。僕の昔の作品なんかも当てはまっていて、ちょっと反省してます(笑)。

── そうですね、外からの意見が入りづらいですからね。

今回はサカサマという設定なので、上下の視線の切り替え方についても気にしなければいけませんし。

── 確かに凄く画を作るのが大変になりますね。そこは苦労した点ですか?

最初からピンときたところではあります。劇中でエイジ視点だったりパテマ視点だったりと、カメラが何度かひっくり返ります。常にエイジ視点だとつまらないし、常にパテマ視点でも疲れると思うんです。そこをいいタイミングで変えるのを何回やろうかなというのは苦労したところであり、こだわったところですね。

── 他にココに注目して欲しいという点はありますか?

難しい質問ですよね、自分としては全部見て欲しいので(笑)。どのシーンもヒロインが逆さまであるっていう事を利用した描写が満載なので、そこが見所かなって思います。それはちょっとしたギャグだったり、細かいアイデアだったり、実は全体を通じて出てくる引っ掛けだったり。お客さんを増やさないといけないので多少盛ってますけど(笑)。でも凄く王道な作品なんですよ。

── 王道作品を作りたい欲求はあったんですか?

ありますね。王道ってつまらないって意味じゃないと思うんです。誰もが理解できるプロットラインを誰も見たことのない斬新な演出で組み立てていくっていうのが一番だなって。逆にサカサマ人というアイデアが浮かばなかったら王道を作る勇気は湧かなかったですよ。

── サカサマが思いついたから王道を作るチャンスができたということですか?

そうですね。サカサマ人という隠し球があるからいけると思ったんです。サカサマだから当初二人はお互いの見ているものがよくわからないという仕掛けは、最初から決めていました。価値観の違う人間が理解し合っていくというのは、王道じゃないですか。サカサマは、それをわかりやすく表現できていると思うんですよ。

── 最後にファンのみなさんに向けて一言メッセージをお願いします。

志はずっと同じで、ワクワクするものを作りたいというのは常にあります。そう言う意味では本当にそういうものが作れたかなと思っています。是非純粋に娯楽を楽しむ感じでたくさんの人に観て欲しいと思います。

 

poster04_.jpg『サカサマのパテマ』11月9日(土)全国劇場公開

原作・脚本・監督:吉浦康裕
音楽:大島ミチル
製作:サカサマ会
配給:アスミック・エース
公式サイト: http://www.patema.jp

(C)Yasuhiro YOSHIURA/Sakasama Film Committee

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