ヴィンテージ機材を使った全編ノン・デジタルのアナログ・テープ一発録音という手法を際限まで突き詰めた『HERE COMES THE ROCKA-ROLLA』と『ROCKA-ROLLA ZERO』、その手法をカリフォルニアの名門スタジオでさらに磨き上げて至上最高の音像を生み出すに至った『GREASY!』と、昭和84年(2009年)の華麗なる復活劇以降は毎年夏の盛りに必ず前作を凌駕する会心作を連発してきたザ・マックショウ。この自己ベスト記録更新は果たしていつまで続くのかと思わず懸念してしまうが、それが杞憂にすぎないことは先だって発売されたばかりの最新作『狂騒天国』をすでに聴いたあなたならよく分かるはずだ。
本作では原点に立ち返り、結成以来初めてメンバー3人だけで全編千本ノック・レコーディングを決行。持ち前のトゥイスティン・ビートと胸に迫るグッド・メロディ、コージー・マックにしか表現できないグッとくる日本語詞はさらに研ぎ澄まされたものとなり、踊れて笑えて、泣けて唄える不動のシンガロング・スタイルは昭和88年式にアップデート。端的に言うなら、『〜ROCKA-ROLLA』以降の諸作品とはまた違った趣きの傑作だ。このインタビューを読めば、その飄々としたキャラクターとは裏腹にすこぶる真摯な姿勢で作品作りと対峙してきた彼らのピュアな横顔、本作における趣意が理解できるはず。そして、満身創痍で創作に懸ける至高のエンターテイナーが疾走を続ける限り、世界に誇る純国産ロックンロールが安泰であるということも。(interview:椎名宗之)
安定感のあるアルバムなんて作りたくなかった
──いつものことながら、よく発売に間に合ったなというのが率直な感想なんですけれども(笑)。まず、昭和88年8月8日というまたとない末広がりの日にiTunes配信でダウンロード・シングル「狂騒天国」が先行発売されて。
KOZZY MACK[vo, g]:ホントはその日にアルバムを出したかったんだけど、8月28日っていう二重の末広がりのほうが縁起がいいだろうってことでね。
TOMMY MACK[b, vo]:まぁ、事故ってると言えば事故ってるし、事故ってないと言えば事故ってない、みたいな(笑)。
KOZZY:野球でたとえるなら、盗塁して一応セーフになったものの、限りなくグレー・ゾーンの判定って言うかさ(笑)。
BIKE BOY[ds, vo]:コーチがマウンドまで詰め寄ってきて、審判と揉めちゃう感じの(笑)。
──乱闘に至らなくて良かったです(笑)。もしかして過去最短のスピードで完成に漕ぎ着けた感じですか。
KOZZY:いや、取りかかることは取りかかっていたんだよ。曲作りも始めていたし、最初はこのぶんなら締め切りに間に合いそうだなって感じだったわけ。
TOMMY:で、7月の頭に3日ぐらいかけて全曲録ってみたんだよね。
KOZZY:うん。でも、それがどうもしっくりこなくてさ。今回は自前のロックスヴィル・スタジオ・ワンで3人だけで全部録るっていう縛りがあって、それに向けてリハを詰めて、曲もあらかた仕上げて、それでベーシックを全曲録り終えたんだけど、なんか良くないなと。曲も演奏もある程度の水準になってはいるものの、「こういうことじゃないよな?」と思って。
TOMMY:ワーッと一気に録ってみたから、自分たちではジャッジできないところもあったんだけどね。
BIKE BOY:1曲ごとにやれるだけのことを精一杯やって、いいのか悪いのか判断できないまま次の曲に取りかかってましたからね。でも、いざ全部録り終えてみたら「ただやっただけ」みたいな感じに聴こえて。
KOZZY:自分たち3人だけでやっているぶん、ハードルを高くすることも低くすることもできるわけ。でも、普通に終わらせてどうするんだよ? っていうさ。
──録り直すにあたって、曲を書き直したりもしたんですか。
KOZZY:もちろん。8割方は差し替えたね。絵にしたってそうでしょ? なんか違うなと思ったら一から描き直すだろうし、元の絵を活かしたりはしないよね。それは曲作りも同じで、元の歌詞やコンセプトを活かして作り直すってことじゃなく、ロックンロールしてない部分を徹底的に排除することに努めた。自分でも気に入った曲をどれだけ作れたとしても、今回は心を鬼にしてボツにしたんだよ。それで2日ぐらいしてから録り直し。
──一度録ってみての違和感というのは、その「ロックンロールしてない」ことが最大の原因だったんでしょうか。
KOZZY:僕らもこれだけ長くバンドをやっているわけだから、一定のレベルのロックンロールをやるのは朝飯前なんだよ。居酒屋で言えば、つきだしみたいなもんでさ。
──マックショウという屋号の居酒屋はつきだしからして絶品ですからね。
KOZZY:ただ、つきだしで客の気を引くのも大事なんだけど、店の看板メニューを最後まで美味しく味わって欲しいじゃない? それもなるべくコンパクトに、間延びしない感じで料理を出したい。ダラダラ呑んでも悪酔いするだけだからね(笑)。
──結果的に『狂騒天国』の収録曲はどれも絶品の仕上がりで、テンポ良く最後まで飽きさせないフルコースみたいな構成ですよね。
KOZZY:そうなるように細部までとことん突き詰めたからね。自分たちが納得するまで絶対に作業をやめなかったし。そういう意識で臨めば録りも早いし、自ずとそれ相応のクオリティに仕上がるんだよ。マックショウとして10年以上やってきて、手癖でパパッとやれちゃうところのいい部分は残し、必要のない部分は問答無用に排除するのを徹底したね。それと、多少難しくてもチャレンジすること。やっていることがシンプルなロックンロールなだけに、チャレンジしなくなると「ただ新しいのを出しました」で終わっちゃうんだよね。結成10周年という節目を経て、マックショウがまた新たな段階に入ったという時に安定感のあるアルバムなんて作りたくなかったんだよ。
──だからこそ、あえて3人だけのレコーディングを決行したと。
KOZZY:毎回、手を替え品を替え新しいことをやり続けてきたし、今までやったことがない手法は何だろう? と考えた時に、意外にもこの3人だけでアルバムを作ったことが一度もないことに気づいてね。今までは要所要所でミッキー・スリム・マック(伊東ミキオ)やフジイ・マック(藤井セイジ)、ピロゥさんの手を借りながら制作に臨んできたから。それで潔くシンプルな形でやってみることにしたわけ。
3人の人力だけで理想的な音を体現
──いつもならミッキーさんやフジイさんからの助言なりアイディアがあるところを、すべて3人で判断していく難しさがあったんじゃないかと思うんですが。
KOZZY:それが一番の大きな違いだね。今までは彼らにコーラスを手伝ってもらったりもしたし。それに、3人だけの編成になったぶん音の隙間が増えるから、ちょっとしたノイズまでが如実に出ちゃうんだよね。呼吸までがビートに入っちゃうからごまかしが一切利かないし、今まで以上に自分を強く持ってないといけなかった。だから精神面では凄くハードなレコーディングだったよね。
──全編ノン・デジタル、アナログ・テープの一発録音という手法は変わらずなわけですから、ますます自分たちを追い込むことになりますよね。
KOZZY:今までとは違うアプローチだったね。ただ、シンプルになったことで適度なラフさが功を奏した部分もあった。僕のギターや歌はガイドぐらいな感じで2人に指示を出しながら作業を進めていたんだけど、結局はそのギターや歌を活かした曲がいくつもあったからね。
──“ROCKA-ROLLA”の二部作や前作『GREASY!』で究極の音作りに関しては行き着くところまで行ったし、フルマック編成での理想的なアンサンブルを極めることもできた。だからこそ、最小限の編成で最大限の効果を引き出すことに挑むのはとても有意義だったと思うんですよね。
KOZZY:音作りに関しては、『〜ROCKA-ROLLA』以降ずっとこだわってやってきたから、今回は後回しでも良かった。それよりも大事だったのは心意気とか気合いだよね。気合いだけでどこまでやれるのか? っていうさ。でも、今回はこの3人だけでも充分にいいベーシックが録れたし、後は大丈夫だろうって自信もあった。逆に言えば、ベーシックがいい音じゃなければトラックダウンの時に手の施しようがない。3人の音しかないわけだから、最初に録った音から大きく変えることはできないんだよ。
──それもまた3人だけで録る上での試練ですね。
KOZZY:楽器や声っていうのは共鳴して成り立つものなんだっていうのが今回よく分かったね。と言うのも、マックショウを始めた頃はそういうバンド感やグルーヴを生み出すことに凄く苦労していたわけ。2000年の初頭ぐらいは自分が理想とするバンド像というのがあったんだけど、それをなかなか生み出せなかった。プロ・ツールスが主流になってきた当時の常識もあってね。まぁ、それもあくまで僕のイメージだけのものだったし、そんなバンドが実在していたのかも分からないけど、たとえばみんなが聴いているビートルズと僕の聴いているビートルズは違うっていう意識があったんだよ。違う違う、こんなペラい音じゃないんだよ! みたいなさ。今回はそういう理想的な音を3人の人力だけで演奏してみようっていうのがテーマだったんだよね。
──試行錯誤した甲斐あって、コージーさんの理想にかなり近づいた音色になったんじゃないですか?
KOZZY:だいぶ頑張ったけどね。パソコンや機材を一切排したスタイルでやるのも大変だったし、3人の気持ちが同じ方向に行かないと為し得ないことだから。
──だからなんですかね、「恋はもうウンザリ」を再録したのは。ファースト・アルバム『BEAT THE MACKSHOW』に収録されたバージョンとの違いを聴かせることで、この10年におけるマックショウの格段の進歩を見せる意義があると言うか。
KOZZY:そうだね。まぁ、聴く人にしてみれば「どこが違うんだよ!?」って感じだろうけど(笑)。
──でも、音の深みや歌の説得力がグンと増しているのを実感しましたけどね。
KOZZY:10年前の自分が唄うのと今の自分が唄うのとじゃ、聴こえ方も全然違うだろうね。あれは『GREASY!』に「グリース・ミー」の再録を入れたのと同じ流れで、ある種のリファレンスって言うかさ。何かの大きさを比較する時に一緒に写すタバコみたいなものかな(笑)。
──タイトル・トラックの「狂騒天国」と「派手にやれ!(Mach Shau!)」は出だしから一気に引き込まれる純国産ロックンロールの真骨頂みたいなナンバーですが、これは最初の録りのお蔵入りから逃れた2割の楽曲ですか。
KOZZY:うん。ただ、「狂騒天国」は一番最初ぐらいに作った曲なんだけど、なかなか歌詞ができなくてね。演奏の流れやテーマは最初から決まっていたんだけど、歌詞をどういう落としどころにするか悩んだ。なんか凄くありきたりな気がして、もっと! もっと! もっと違う歌詞にできるんじゃないか? っていうのがずっとあって。まぁ、あがいた甲斐あって出来には満足してるけどね。「狂騒天国」は特に、今までありそうでなかった曲だからさ。やってそうでなかった曲を探すのは、ちょっと遺跡発掘みたいな感覚があるよ(笑)。