Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー空犬(編集者・吉祥寺書店員の会「吉っ読」・空犬通信)(Rooftop2013年6月号)

現役出版関係者によるリアルなトーク&音楽ライブで話題騒然のイベント、ついに阿佐ヶ谷ロフトAに登場!

2013.06.03

 出版不況が騒がれる中、実はまだまだおもしろく進化し続けている出版や書店の現場のことを広く知ってもらうために立ち上げたイベント「ブックンロール」。他に類を見ないリアルなトークと遊び心で、回を重ねるごとにその噂は広まり、会場がパンクしてしまうほどの大人気イベントに! 今回はその企画者であり、本好き・書店好き編集者として精力的に活動されている空犬さんにお話を伺いました。(interview:太田ユリ/阿佐ヶ谷ロフトA)

ブックンロールとは

── ここ数年本好きの間で話題のイベント「ブックンロール」ですが、まずイベントを始めたきっかけを教えていただけますか?

空犬:武蔵野に住んでいて、吉祥寺の書店に出入りする機会が多く、知り合いがたくさんいるんですが、一緒にお酒を飲んでるときに、何か書店員で集まりをやりたいねという話になって、2006年に「吉祥寺書店員の会 吉っ読(きっちょむ)」を作ったんです。吉祥寺の書店3店、書店員数人の集まりです。情報交換の飲み会をしたり、合同フェアをしたりしていたんですが、閉店や異動もあって、当初のかたちでは続けられなくなってしまいました。でも、会の名前は残し、例会(飲み会)だけは続けていたんです。そのうち、「出版不況」云々が言われだして、メディアに出版と書店の話が出る場合は必ず「不況」とセット、みたいな感じになってきました。でも、本に仕事で関わっている者の感覚からすると、電子書籍が出てきたからといって、「本」というもの自体が急に変わった訳ではないし、書店も本も依然おもしろい。そういうのを伝えたいという思いがずっとあって、それで吉っ読のみんなと一緒に何かやれればと、2010年に僕がイベントを企画したのが最初です。ただ、業界の現状を憂えるみたいなかたい感じにはしたくない。現場の書店員はこんなにおもしろがってやってますよ、というのを伝えるのに、あえてふだん音楽活動ゼロの書店員によるライブをくっつけました。最初は、書店員バンドなんだから、学研の「大人の科学」の付録楽器だけ、書店で手に入るものだけを使ってやろうみたいな、無茶な話もしていました。

── やってみて、お客さんの反応はどうでしたか?

空犬:1回目は「POP」をテーマにしました。課題図書を決めて、3人の書店員がPOPを用意。会場でせーので披露、作った本人が解説をしたんですが、これがすごく評判がよかったんです。こういう風にやれば、今も書店の店頭ではおもしろい人がおもしろいことをおもしろくやっているんだというのが多少なりとも伝えられるのでは、という感触を得て、それから毎年恒例にしました。2回目のテーマは「町の本屋さん」。吉祥寺と千駄木の書店2店で実際に合同フェアを行い、結果を元にトークをしました。実際のフェアに基づいた具体的な話にしたのが功を奏したみたいで、その回もいい反応が得られました。3回目は、1冊の課題図書と販売テーマを決め、4人の書店員が自店で一定期間販売。店頭の写真や拡材を見せたり、具体的な数字を上げたりしながら、展開の仕方や売上結果を発表してもらいました。これも、各店の売り方の工夫や個性がおもしろくて、好評でした。2回目と3回目は、荻窪のライブハウスを借りて開催したんですが……。

── ですが(笑)。そこで事件があったんですよね。

空犬:はい(苦笑)。キャパ50人ぐらいの会場だったんですが、イベント後に来場者をカウントしたら関係者込みで180人を越えていて……。超満員はいいんですが、動けなかった、トイレ行けなかった、お酒買えなかった、煙かったと、お客さんからもいろいろ言われ、入れなくて帰っちゃった人もいたと聞くと、さすがに喜んでばかりもいられません。もう少し大きな会場を探していたときにロフトさんに出会ったんです。

書店の現状とこれから

1306BnR_ap1.jpg── なるほど。ところで、書店好き編集者としても有名な空犬さんについてのお話も色々伺いたのですが、ツイッターなんかを見ていると書店巡りをたくさんされていますが、あれはお仕事なんでしょうか?

空犬:平日日中は仕事で、それ以外は趣味で。昔いた出版社がすごく小さなところで、書店営業担当も1人だけ。書店回りが充分に手当できないんですよね。当時も今も本業は編集なんですが、幸い編集の仕事で身動きできないほどでもない。ならば、自分も書店に行って、営業のまねごとをしたら、会社にも自分の仕事にもプラスなんじゃないかなと、そんなふうに考えたわけです。で、実際にやってみたら楽しいし、けっこう向いてもいる。ふだん営業に来ない社から人が、それも営業じゃなくて編集が来るのがめずらしかったのか、行くと喜んでくれるお店がいくつもあったのがうれしくて。こちらも若かったので、教えてもらいに来ました! みたいな感じ全開だったのも良かったのかなと(笑)。それで、編集業の傍ら、書店回りをするようになりました。その後、会社は変わりましたが、今も、時間がとれるときは、注文書とか拡材とか持って、仕事として書店回りをしています。編集の用事で出張が入ったりすると、旅先でも必ず、空き時間に書店回りを入れてますね。

── いま街の本屋さんが数を減らしてしまっているような現状もありますが、実感として出版の世界が厳しいなとは思いますか?

空犬:それはありますね。先ほどイベントのきっかけとして、不況云々ばかり言われているけど現場はまだまだこんなに元気だということを見せたいのだ、としましたけど、でも業界全体を見れば、もちろん売上は落ちていて、市場規模は縮小しているし、書店の数も特に地方では減っている、これは事実です。業界に厳しい状況などない、何も問題ない、などと言いたくて、書店ブログを書いたりイベントを企画したりしている訳ではないんです。20年、30年前と比較すると、当時なかった情報獲得手段・娯楽手段がこれだけたくさんあるわけで、その分、本の売上が減っていなかったらむしろおかしいくらい。市場が縮小しているならば、その規模に合わせたかたちでやれることをやればいいし、ふつうにやれることよりもちょっとだけ多くがんばるのがいいんじゃないかと、そんなふうに思うわけです。別に不況だとか駄目だとかいうのを、殊更に強調したり煽ったりする必要はないと思うんです。それで何が変わるかと言われたら何も変わらないかもしれないけれど、個人レベルでこういうイベントをやったり、業界レベルでもっとできることをやったっていいんじゃないかっていう考えです。

── 今回「ブックンロール」のトークゲストで地方の書店員さんがいらっしゃるじゃないですか。そういう方たちがどういうことを感じられているのか知りたいです。

空犬:それはまさに僕自身も聞きたいことですね。出張や旅行で地方の書店員さんに会う機会があると、その地方ならではの取り組みみたいな話を聞けることがあって、すごく新鮮なんです。そういう、地方で本に関わるみなさんが持っている思いみたいなものって、これだけSNSが当たり前になっても、やはり生の声で聞く機会ってそんなに多くはない。だから、東京と近郊の人たち、とくに書店員さんたちに聞いてもらえたらなあと。ブックンロールのような小さなイベントだけで、地方の現状がわかるとか、そんなことはもちろん思いません。でも、わざわざイベントに来てくださる人って、そもそも地方と東京の書店事情の違いのようなことに関心のある方が多いだろうし、出版・書店関係者も多いですから、聞いてもらうことには意味があるんじゃないかと思うし、思いたいんですよね。ブックンロールの出演者でもある夏葉社の島田さんと、いま一緒に本を作っています。7月に刊行予定の『本屋図鑑』という本で、全国の町の本屋さんをとりあげているんです。全国の本屋さんを取材して回っている島田さんの話を聞くと、やはり書店をとりまく状況は非常に厳しくて、大都市圏よりも地方でより厳しいようなんです。だからこそ、ブックンロールのようなイベントや、『本屋図鑑』のような本で、こういう品ぞろえでがんばっている本屋さんがあるんだよ、とか、こんな立地でこんなことをやっている本屋さんがあるんだよ、ということを伝えたいと思うし、それを地方と東京とで共有できたらいいなと思うし、きちんと記録として残したいとも思うんです。

——最後に、お越しになる方々にぜひ伝えておきたいことはありますか?

空犬:今回の「ブックンロール」の「トークの部」は、企画者として本当に自信があるんです。今回の出演書店員のみなさんは、個人が開催するイベントの出演者としては、最高峰だと個人的に思っています。主催者としては、あとはみなさんにいかに気持ちよく話していただくか、そこだけがんばればいいかなと思っているぐらいです。ただ、「ブックンロール」の「ロール」、つまり「ライブの部」の方は、毎年言い訳しているんですが(苦笑)、本当に素人のお遊びなので、みなさん、ぜひ寛容の心で、ゆるやかに眺めていただきたいなと思っています(笑)。

LIVE INFOライブ情報

2013年6月28日(金)阿佐ヶ谷ロフトA
空犬通信presents
「ブックンロール Book'n'Roll 2013 〜やっぱり本屋はおもしろい〜」

【出演】
<トークの部>
田口幹人(さわや書店フェザン店;盛岡)
辻山良雄(リブロ池袋本店;池袋;司会)
長﨑健一(長崎書店;熊本)
花本武(BOOKSルーエ;吉祥寺)
<ライヴの部>
長谷川バンド(BOOK EXPRESSディラ大宮店長谷川さんのバンド)
C 調ボーイズ(夏葉社島田さんのバンド)
ブックスピストルズ(「吉っ読」のバンド)
企画・主催:空犬(編集者・吉祥寺書店員の会「吉っ読」・空犬通信)
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/15144

OPEN 18:30 / START 19:30
前売 ¥1,000 / 当日 ¥1,300(いずれも当日会場でドリンク代として+500円)
※前売完売。
※当日券ご希望の方は19:15〜受け付けいたします。当日券の方は立見、もしくはモニター
でのご観覧となります。なお、できるだけ沢山のお客様にご覧頂きたいのですが、万が一
希望者多数の場合は入場を制限させて頂くこともございますのでご了承ください。

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