Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー下山(GEZAN)(Rooftop2013年1月号)

あとは野となれ山となれ!
鼓膜と生ぬるい既成概念を突き破る超絶轟音の狂い咲き!

2013.01.06

聴く者、見る者の感性が問われる音楽。下山(GEZAN)が渾身の力を振り絞って体現しているのはつまりそういうものだ。"サイコデリシャス・ハード××・バンド"を自称する彼らの真髄はライブにこそある。その鬼気迫る激情の轟音ライブの魅力を余すところなく詰め込んだのがCDとDVDの2枚組大作『LIVE 2012・大阪/侵蝕の赤い十六日・東京』なのだ。サイケ、ノイズ、ジャンク、ハードコア、ロック......あらゆる音楽的要素を内包しつつもそのどれにも当てはまらない、純真な音塊の結晶がここにはある。去年の夏に東京都内で断行された16ヶ所16日連続ライブに密着したドキュメントDVDを合わせて見れば、一見破天荒だがその実は破天荒以上に破天荒な下山の核心に触れることができるだろう。抑え難き過剰なエネルギーを内に秘めた者だけが踏み込める聖域なきレッドゾーン、そこへ到達して初めて訪れる得も言われぬ昂揚と狂熱。それに共振できるか否かはあなたの感性次第だ。(interview:椎名宗之)

聴き手のバイアスをへし折ってやりたい

──ファースト・アルバムの『かつて うた といわれたそれ』は音のコラージュや打ち込みといった装飾が随所に施された作品でしたが、今回発表された『LIVE 2012・大阪/侵蝕の赤い十六日・東京』はライブならではの赤黒いマグマの如きエグさが剥き出しになっていて、下山の凄味がストレートに味わえる作品になっています。これは前作からの反動なんでしょうか。

マヒトゥ・ザ・ピーポー(以下、マヒトゥ):反動と言うか、1枚目を作る段階からライブ盤を出そうと思っていて、2012年のうちに絶対に出したかったんです。それが前提としてあったので、1枚目のほうはスタジオならではの装飾を加えることにしたんですよ。僕の頭の中にあるエグさを形にしたと言うか。ライブ盤を出せたことで2012年の区切りを付けられたし、1枚目と表裏一体みたいな感覚がありますね。

──そもそも『かつて うた といわれたそれ』というタイトルにはどんな意味合いがあったんですか。

マヒトゥ:歌として世に出回ってるつまらない音に対して嫌気が差してたし、それに対して皮肉を込めた感じですね。世に溢れかえってる全部の歌に対してじゃないけど、9割9分ぐらいの歌に向けて(笑)。

──ほぼ全部じゃないですか(笑)。2012年の下山は、活動拠点を大阪から東京へ移したことが何と言っても大きかったですよね。

マヒトゥ:上京を決めてから引っ越すまであまり時間がなかったので、ちょっと大変でしたけどね。大阪での活動に行き詰まったとかそういうのは全然なくて、皮膚感覚って言うか、直感で東京に出ることにしたんですよ。

──見る前に跳んでみたと。

マヒトゥ:そんな感じです。上京を決めた3、4日後にスペースシャワーから「CDを出さないか」と話をもらったし、そういうのはシンクロしていくものなんだなと思って。

──今回のライブ盤には、上京後に16ヶ所16日連続で断行したライブのドキュメンタリーDVDも収録されていますが。

マヒトゥ:「良かったら聴いてみて下さい」みたいなぬるいスタンスじゃ自分たちの速度に追い着かないと思ったので、踏み込んでライブをやったんですよね。16日目の最終日は渋谷WWWでやったんですけど、そのライブ映像も入ってます。当日はGUITAR WOLFとMERZBOWが対バンで、サイコーに格好良かったですよ。

──キャリアを積んだバンドから一目置かれているイメージ、ありますよね。山本精一さんやJOJO広重さんといったアンダーグラウンド・シーンの重鎮と共演を重ねてもいますし。

マヒトゥ:以前から上の世代が割と面白がってくれるんですけど、同世代のバンドから「ライブ良かったよ!」と言われても特にイベントに誘われることもなく、むしろ敬遠されているような感じなんですよ。ただ、アンダーグラウンドって呼ばれたくなくて東京に出てきたところもあるんです。

──上京して以降のライブでは、客を1人ずつフロアに入れて1曲ずつ演奏するという、16人限定のマンツーマン・ライブも下山らしいユニークな試みでしたね。

マヒトゥ:やっぱりトラウマになった人もいるらしくて、あのライブを見て以来、事あるごとに僕に日記みたいな文章を大量にGmailで送ってくる人もいるんですよ(笑)。何だかヘンなスイッチが入っちゃったみたいで。

──とは言え、聴き手に対してヘンなスイッチを入れてやりたい気持ちは常にあるんじゃないですか。

マヒトゥ:自分たちのイベントのタイトルが『BUG ME TENDER』って言うんですけど、自分も音楽を聴いていて何かが壊れる時に救われたところがあったし、そういう“BUG”みたいなものが凄い大切ですよね。

──聴き手のバイアスを取っ払うような感じと言うか。

マヒトゥ:と言うより、へし折る感じですね。その部分を楽しんでやってます。自分たちの音楽をどう感じて欲しいとか、そういうのは全然ないんですよ。むしろどんどん引かれる過程を楽しんでるところもありますから。見てる人のリアクションが自分にフィードバックした時がやっぱり凄く楽しいですね。16人斬りライブの時もそんな感じでしたし。

“その場所で起きている”生の感覚こそが核

──16人斬りライブのリアクションはどんな感じだったんですか。

マヒトゥ:いろいろですよ。椅子に座らせてヒモに縛って動けなくしたり、最前列に立たせたり、僕らがステージから降りて額がこすれるぐらい接近したりしたので(笑)。

──そりゃトラウマにもなりますよ(笑)。でも、そういう試みも「ライブは常に一対一の格闘なんだ」という姿勢を具現化したに過ぎないという気もしますけど。

マヒトゥ:客が100人いようが1,000人いようが1人ずつと向き合ってるつもりだし、自分が客でも1人で受け止めてるのが理想なんです。ツイッターの存在自体が象徴的ですけど、今の時代は誰かと情報を共有して音楽を楽しむようなところがあるじゃないですか。でも、ホントは1人1人の個人の中でいろんな感情が起こるはずで、個の存在が稀薄に思えるんです。それは東京に出てきて余計に思ったし、それで16人斬りライブのアイディアが浮かんだんですよ。別に自分たちのライブを見て飛び跳ねたり拍手をしてくれとかは思わないし、1人1人が自分の中で完結してもらえればそれでいいんです。

──各人、思い思いの受け止め方をすれば良いということですね。

マヒトゥ:大阪で言えば難波ベアーズみたいなライブハウスにしか行ったことがなかったので、東京へ来てちょっとポップなバンドのライブを見てビックリしたんですよね。サビで客が一斉に飛び跳ねたりして。ベアーズでやってるライブなんかよりもよっぽど狂ってるなぁと思って(笑)。

──轟音とカオスが渦巻くサイケデリックな音色は結成当初から変わらずですか。

マヒトゥ:昔から音はデカかったですね。ただ、サイケな世界が好きだったからとか、そういうのだけじゃないような気がします。「どんな音楽に影響を受けたのか?」とか訊かれても、すんなりと答えられないようなところがあって。音楽も映画も本もあまり境界線がなく、ズラーッと並べてみたら今の形になったみたいな感じですかね。

──いろんな創作表現がある中で音楽を選んだのは?

マヒトゥ:自分で決めたと言うよりは自然な流れですね。結果的にバンドをやってたとしか言いようがない。今後バンドじゃなくなっていく可能性だってあるし、そういう変化に対するこだわりは全くないんです。ただ、今はやっぱり音楽が一番格好いいとは思ってますけどね。圧倒的なライブを見た時に“その場所で起きている”という感覚が凄まじくありますから。ライブは人間対人間でやってることだから一番怖いし、同じ場所と空気を共有してること自体が怖いですよね。でも、だからこそ魅力的なんだと思う。

──“怖い”というのは?

マヒトゥ:たとえば、今この部屋にいきなりトラが入ってきて襲われたら怖いじゃないですか。映画はそれを画面で見せるから距離があるけど、ライブはその場限りの実体験だし、そこに危険因子が存在するのは単純に怖いですよね。客との距離も近いし、何が起こるか分からないから怖い。でも、そこまでの怖さを実感できるライブをやってるバンドは少ないと思いますけどね。そういう怖さを感じさせられないのであれば、別にバンドじゃなくてもテレビでいいじゃんって思いますよ。

──下山はバンドと言うよりも、その存在自体が轟音を掻き鳴らすドキュメンタリーみたいな感じもしますね。

マヒトゥ:自分ではよく分からないですけど。でも、“その場所で起きている”生の感覚こそがバンドの核だとは思ってます。

──その生の感覚が今回のライブ・アルバムにはギュッと凝縮しているし、痛々しいほどに純粋な轟音の塊が全編覆われていますね。

マヒトゥ:まぁ、音は硬いですよね。もう本気で鼓膜を破ってやろうと思いながらやってるので。それで責任は取らないけど、そのほうが楽しいでしょ? って言うか。どうせ後でネットに悪口を書いて楽しむんだろ? って思うし、悪口でも何でもいいから勝手に遊んでくれ! って感じなんですよ。鼓膜が破れるようなライブをやっていれば、病院も儲かるじゃないですか(笑)。ちゃんと経済も回るし、僕らもこう見えて社会の歯車として貢献してるんです(笑)。

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LIVE 2012・大阪/侵蝕の赤い十六日・東京

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CD+DVD 2枚組/2,600円(税込)
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LIVE INFOライブ情報

龍宮ナイト vol.45
『下山(GEZAN)ライブ盤&DVDレコ発ツアー』
1月6日(日)名古屋 CLUB ROCK'N ROLL

出演:下山(GEZAN)/のうしんとう
OPEN 18:30/START 19:00
ADV. ¥2,000/DOOR. ¥2,500
問い合わせ:CLUB ROCK'N ROLL 052-262-5150

BUG ME TENDER vol.5
『下山(GEZAN)東京ワンマンライブ』
1月11日(金)渋谷 O-NEST

OPEN 18:30/START 19:00
ADV. ¥2,000/DOOR. ¥2,500
問い合わせ:O-NEST 03-3462-4420

BUG ME TENDER vol.6
『下山(GEZAN)大阪ワンマンライブ』
2月3日(日)十三 FANDANGO

OPEN 18:30/START 19:00
ADV. ¥2,000/DOOR. ¥2,500
問い合わせ:FANDANGO 06-6308-1621

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