生きてる間に一枚でも多くアルバムを作りたい
──続く「とびのれ!」はキャロル経由のチャック・ベリーみたいな印象を受けましたけれども。
M:自分としてはストーンズのイメージですかね。もっと言えばフールズなんですけど(笑)。若い頃、伊藤耕さんの唄い方にかなり影響を受けましたからね。「とびのれ!」っていうのも、フールズの『WEED WAR』っていうアルバムに入ってる曲の中で使われてる言葉なんです。耕さんの唄い回しや譜の割り方を意識してみたって言うか。
──フールズの音楽に触れたのは東京に出てきてからですか。
M:うん。RCサクセションとかルースターズとか、当時聴いてたバンドよりももっと身近な存在で、凄いバンドがいるんだなと思いましたよ。自分が音楽をやる上での考え方って言うか、もっと自由にやってもいいんだよってことをフールズから教わりましたね。フールズは自由にやりすぎてメチャクチャなライブもあったけど(笑)、まとまった時のライブはインプロビゼーションがとにかく凄くてスリルがあった。それまで僕らが知ってたロックのライブは安心して観れたし、エンターテイメントとしては成り立っていたけど、逆に言えばスリルがなかったんですよ。おっきな会館やホールでやったりしてね。フールズはそういうライブと全く逆なんだけど、むしろそのほうがストーンズ『LOVE YOU LIVE』に近い感触があったんです。渋谷の屋根裏とかでフールズのライブを観たんだけど、最初はびっくりしましたよ。自分の知ってるロックとは全然別物だったからね。
──「とびのれ!」には「自由は与えられるものじゃないぞ 自分で手に入れるのさ」「分かりやすいやさしさじゃ 何も見つからないのさ」という示唆に富んだ歌詞がさり気なく挟み込まれているのも心憎いなと思ったんですが。
M:まぁ、「とびのれ!」っていう歌に自分も調子づいてとびのっただけの話ですよ(笑)。
──マモルさんがロックンロールという名の「MAGIC BUS」にとびのってからもう30年近く経つじゃないですか。
M:うん、どっぷりですね。もう二度と戻れない。戻る場所も分からない。
──そうやって退路を断ってロックンロールをやり続ける揺るぎない姿勢がアルバムの最後を飾る「パレード」にも表れていますよね。「やるべきことは いつも同じ」「ボクらは行くよ どんな時も/いつもここから 引っ越ししない」という。これは「48's BLUES」にも通ずるテーマだと思うんですが。
M:生きていればいろいろと言いたいこともあるし、腹の立つことも多いですよね。でも、そんな思いをどうしたらいいのか分からない。だからCDを作るしかないんですよ。こう見えて僕だって世の中のことを真剣に考えてるつもりなんだけど、そこで生じる怒りの感情をそのままぶつけてもね。それよりも、決して諦めたわけじゃなくて、自分のできることをやったほうがいいのかなと思って。政治家に対して「チキショー!」って怒りを露わにして、「もう何にもやりたくねぇな」って思ったら僕の負けだからね。だから「このヤロー、関係ねぇぞ! 俺はまだまだロックンロールをやるぞ!」って気持ちを奮い立たせるんです。直接的ではないけどね。腹が立って何も手につかなくなるぐらいなら、自分が生きてる間に一枚でも多くアルバムを作ってやるぞ! って思うんですよ。地震でブッ飛ばされることもあるかもしれないけど、その前に一枚でも多くアルバムを作りたい。それが自分の本音なんですよね。
──その思いが「やるべきことは いつも同じ」という歌詞に集約されていますよね。
M:多分、立ち止まったら腹が立って腹が立ってしょうがないんだろうね(笑)。何にもできなくなりそうな気がする。家で酒でも呑みながらずっと悶々として、凄く不健全になっちゃうでしょうね。だから年に一枚CDを作って、それを持って全国を回ってるんだと思う。いつも何かしら動いていないとダメなんです。
──マグロみたいなものですかね。泳ぐのを止めると死んでしまうという(笑)。
M:そうかもしれない(笑)。とにかくじっとしていられないんだよね。先のことは分からないけど、曲が出来る限りはアルバムを作り続けたい。それも狙って作るんじゃなくて、衝動で生まれたものを形にしたいですね。「夢の原子力」はたまたま原発がテーマだったけど、それも衝動なんですよ。別に社会的な歌を唄いたかったわけじゃないし、そもそもそういうバンドじゃないし。社会的なことを唄わなくちゃいけないってことがもうロックンロールじゃないですからね、僕の中では。狙って作ったものは衝動で生まれたものに絶対勝てないんです。
──今回のアルバムは割と重厚なテーマの歌が多かったので、また近いうちにしぼんだキンタマのことを唄った歌も聴いてみたいですね(笑)。
M:それはいつでも書けますよ。初期衝動でキンタマを唄う…いいセリフですね(笑)。冒険家の植村直己さんは、ソリで移動してる時に寒いとキンタマを握ってたらしいですよ。身体の中で一番体温が高いのはキンタマみたいでね。
──じゃあ、そのキンタマをさらに熱くたぎらせるようなロックンロールを目指すということですね(笑)。
M:大丈夫、そこはもうとっくにクリアしてますから(笑)。