『YOUNG BLUES』と題されたワタナベマモル率いるMAMORU & The DAViESの新作にはビンテージなロックンロールの旨味エキスがギュッと凝縮している。いつもながらにシンプルな味付けだが決して薄味なわけではなく、ビート・パンクやマージー・ビート、パブ・ロックやパワー・ポップ、ビートリーなエッセンスといった素材の特性を120%活かしたクセになる逸品だ。味わい深いコクとまろやかさも過去随一と言えるだろう。と同時に、本作にはピリッとスパイスを効かせたかのような凛々しさもある。『ヒコーキもしくは青春時代』(2008年8月発表)以降、年に一枚のペースで発表されてきた良質な作品群と同様に理屈抜きで存分に愉しめるロックンロールではあるのだが、生きている限り音楽に懸けるんだというワタナベマモルの強い覚悟がアルバムの最初と最後の曲に通底しており、それがさり気なくも重厚なトーンとなっているのだ。どこかの国の首相が語る上っ面だけの「不退転の決意」とはまるで違い、退路を断ってすべてをロックンロールに懸ける彼の決意は本物だ。本物には凄味がある。だが、照れ屋な彼は愛嬌とユーモアでそれを隠そうとする。それでも賢明な本誌の読者なら分かってくれるはずだ。音の隙間や歌詞の行間からにじみ出るワタナベマモルの心意気と、ロックンロールに心血を注ぐ情熱の欠片を。(interview:椎名宗之)
電気がなきゃ困る。でも原発はイヤなんです
──4月にDVD『Texas Punk』をリリースしてからわずか半年で新作の発表に漕ぎ着けるとは、順調すぎるペースですよね。その間には例によって全国津々浦々で絶え間なくライブもあったわけで。
ワタナベマモル(以下、M):あのDVDはオマケみたいなものだからね(笑)。やっぱりアルバムを作ることが僕の本分なので。まぁ、いつも通りのことですよ。意外と曲も出来るし。
──ただ、オフィシャルサイトの日記ブログによると、連日の過労で体調を崩されたそうですね。
M:レコーディングで寝不足が続いたからね。何だろう、クーラー病ですかね。ノドがちょっと痛くなって声が出なくなっちゃって。暑い盛りの7月、8月に集中してレコーディングをやってたこともあるのかな。
──それにしても、『YOUNG BLUES』とはまた直球なタイトルですよね。ブルースに対する解釈は人それぞれだと思いますけど、マモルさんはブルースをどう捉えていますか。
M:僕の中では、いわゆるスタンダードなブルースっていう音楽形態というよりも、解釈の仕方って言うのかな。もちろん黒人音楽としてのブルースも大好きなんだけど、ブルースのスピリットがパンク・ロックと同じように僕の魂を揺さぶるんですよ。
──『YOUNG BLUES』=“青くさいスピリット”をいつまでも大切にしたいと言うか。
M:そうとも取れるのかもしれないけど、それよりも、ジャケットにした時にロゴが単純に格好いいっていうね(笑)。あと、ライブの時に「ヤング・ブルース!」って言いやすいとか、Tシャツにしたら格好いいだろうとか。アルバムのタイトルなんていつもそんな発想でしかないんですよ。最初は『MUDDY & WATER』とかくだらないタイトル案が他にもあったんですけどね。それもロゴを描いてみたんだけど、『YOUNG BLUES』のほうが格好良かった(笑)。
──アルバムの1曲目を飾る「48's BLUES」は、これからもずっと道なき道を突き進むんだというマモルさんの強い決意を感じるナンバーですね。ビート・パンク調の軽快さが一貫してあるものの、「生きようぜ どんな時も」といつになくストレートな歌詞もあるし、唄われている内容は意外と重いという。
M:重いと言えば重いのかもしれないね。でも、「自分で決めたガタガタの道」を行くっていうのは、僕に限らず誰だってそういうものだから。偶然にも「BLUES」という言葉がアルバム・タイトルと重なったんですよね。1曲目に「BLUES」の付く曲が来るならこりゃいいやと思って。何だか意味がありそうだぞ、みたいな(笑)。いつもコンセプトみたいなものは特に考えてないんですよ。出来たてのいい曲を入れたいし、1曲目から最後の曲まで楽しく聴けるようなアルバムになればそれでいい。
──DVDに収録されていた「夢の原子力」がやっとCDとして聴けるのが嬉しい限りなんですが、アルバム収録にあたって多少手を加えてあるんですか。
M:ダビングをちょっと増やした程度ですね。歌とかベーシックは同じです。
──「BYE BYE 原子力/今までどーも ごくろうさん」と唄われる「夢の原子力」は今もずっとライブの重要なレパートリーですが、お客さんの反応はどんな感じですか。
M:いいですよ。最初の頃よりはね。最初はやっぱり、悪いわけじゃないんだけど、テーマがテーマだけにびっくりした人もいたみたいでね。片や「やりすぎ!」って笑う人もいたりして。それに比べると今は好意的と言うか、ラモーンズみたいだと思って聴いてる人もいるかもしれない。内容そっちのけで「電撃バップ」みたいだと思ってるかもしれないし(笑)。まぁ、別に原発のことを歌にしなくても良かったんだろうけど、僕は唄わずにはいられなかった。衝動ですかね。
──原子力に対して正面からアンチテーゼを唱えるのではなく、「今までどーも ありがとう」「今までどーも ごくろうさん」と感謝の気持ちを唄うのが如何にもマモルさんらしくて僕は好きなんですよね。
M:レコーディングしてる時も「こんなに電気を使ってるんだなぁ」って改めて思いましたからね。冷房をかけっぱなしじゃないとやってられないし、汗ダラダラでダビングしてても悲しいし。僕らみたいにロックンロールをやってるヤツは「電気を思い切り使ってるじゃないか!」って突っ込まれるかもしれないし、実際に電気がなきゃ困る。でも原発はイヤなんですよ。僕の中で電気と原発は別物なんです。
──代替エネルギーがありますからね。
M:うん。それでもやっぱり、他の人よりもガンガンに電気を使うんでしょうけど(笑)。エレキを使うロックンロールは、電気がないと一番困る分野なのかもしれない。「夢の原子力」をアコースティック・ギターで唄ってもどこか寂しいしね。
ソウル・ミュージックと出会った17歳の衝撃
──「ハッピーソング」は本作の中では珍しくマイナー・キーの曲ですが、タイトルとは裏腹にどこか塞ぎ込んだ心象風景が描かれているのがユニークですね。
M:何年かに一度はこの手の曲を書こうとしてるんですよ。イメージとしてあったのは、バズコックスとかジ・オンリー・ワンズとかあの辺の感じ。あと、パワーポップのちょっと湿った感じの曲が好きだから、そういうニュアンスを出してみたかった。マイナーな曲調っていうのは、自分の引き出しの隅っこのほうにぽつんとあるんですね。「そう言えばマイナーなのがねぇな」っていうことに気づいて、何年かに一度挑戦してみるんです。マイナーでなかなかいい感じの曲を作るのはけっこう難しいんですよ。「ハッピーソング」のコード進行は凄い変わってるし、そういうひと工夫も欲しいですから。
──フォーク・ロック調の「なつまつり」は幼き日の夏の追想をテーマにしたセンチメンタルな一曲で、ビートルズの中期を彷彿とさせる雰囲気が全面に出ていますよね。マモルさんのジョージ・ハリスン好きがギターの音色にもよく出ていますし。
M:うん。ホントにその通り。ビートルズの中期っぽい感じっていうのは曲作りにおいて重要で、24時間、365日、そういうタイプの曲をいつも狙ってるんですよ。それは引き出しの隅っこのほうじゃなくて常に手前のほうにあるんだけど(笑)、なかなか上手く書けないんです。コード進行から先に考えると、「なつまつり」みたいな歌はまずできない。だから最近はギターを持たないで曲を作ることが多いですね。要は鼻歌です。それを記憶しておいて、歌の一番ぐらいまで出来たらコードを載っけていく。そうすると面白い曲がけっこう出来るんですよ。
──だからマモルさんの歌はつい鼻歌で唄いたくなるようなものばかりなんですね。
M:元が鼻歌だからね。歩いてる時にメロディが浮かんだら、畑みたいな所に入って留守電に入れておくんですよ。街中を歩きながら鼻歌を入れてたらヘンな目で見られますから(笑)。
──そういうメロディが浮かぶ瞬間って、どんな時が多いんですか。
M:バイクに乗ってる時とかドライブしてる時とかね。「曲を作ろう!」って時は出てこない。歩いてる時とか、何か他のことをしてる時に浮かぶことが多いですね。ここ数年のアルバムに入ってる曲はほとんどが鼻歌です。
──小気味良いリズムが特徴の「セブンティーン」は、マージー・ビートのフレイバーがまぶされたDAViESらしい小品ですね。
M:歌詞が凄いことになってますけどね。「ファンキー モンキー ベイビー」とか「ヒッピー ヒッピー シェイキン」とか、カタカナばっかりで(笑)。
──「ビン・ビン・ビート」って言い回しも凄いですけどね(笑)。
M:しまいには「街はオレのもの」だからね(笑)。まぁ、何せ気分は「セブンティーン」ですから。
──そりゃ真夜中5時にピンポンダッシュもしますよね(笑)。ちなみに、17歳のマモル少年はやっぱりやんちゃな性格だったんですか。
M:そうですね。暴走族ではなかったけど。
──暴走族と言うよりは妄想族?(笑)
M:うん。高校時代はいつも友達とヘンなことばかりしてたね。友達5人ぐらいで喫茶店に行って、1人だけコーヒーを頼んで、あとはミルクや砂糖を水に入れて回し飲みしたり(笑)。それでミルクだけおかわりして、喫茶店のお姉さんに怒られたりして(笑)。あと、17歳の時に『ブルース・ブラザーズ』と出会ったんだけど、あれは凄く大きかった。あの映画は僕にとってパンク・ロックと同じぐらいの衝撃だったんですよ。今でもよく観るし、もう100回ぐらいは観てるんじゃないかな。
──ジェイムス・ブラウンやアレサ・フランクリンをゲストに迎えたサウンドトラックも最高ですからね。
M:高校の頃はソウル・ミュージックなんて何も知らなかったからね。RCサクセションみたいなバンドはいたけど、よく分からなかった。でも、『ブルース・ブラザーズ』のお陰でソウル・ミュージックの良さが理解できたんですよ。映画に出てくるレイ・チャールズもジェイムス・ブラウンも全然知らなかったけど、そんなことは関係なしに音楽がとにかく格好良かったんです。
──『さらば青春の光』はどうでしたか。
M:もちろん観たけど、当時は正直言って渋かったですね。今観るとまた面白いんだけど、ちょっとトーンが重いじゃないですか。ベスパに乗ってるシーンとかは純粋に格好いいなと思ったけど、最後にベスパが崖から落ちちゃうしね(笑)。