最小限の3ピースで最大限のロックのダイナミズムを追求するnil、鍵盤をフィーチャーした鉄壁のアンサンブルを聴かせるTHE JUNEJULYAUGUST(以下、ジュンジュラ)、実に10年振りに待望の復活を遂げたZIGZO、震災の復興支援を機に結成されたインディーズ電力と、様々なユニットを渡り歩き八面六臂の活躍を続ける高野哲。3.11以降の日本を取り巻く閉塞感、真実をひた隠す体制に対する強い憤りが表現の発露となったジュンジュラのセカンド・アルバム『Edelweiss』は完膚無きまでの名作だったが、そのレコ発ツアーが終わると間髪入れずにZIGZOの新たな幕開けを告げるツアー『TOUR THE 2nd SCENE ZIGZO』が敢行される。千秋楽を我が新宿ロフト3デイズで華々しく締め括るという異例のツアーだ。これを記念して、常にロックの可能性を探し求めて最前線に身を置く高野哲の人となり、新宿ロフトとの密な繋がりまでを本人に訊いた。その穏やかな物腰からにじみ出るバンドへの迸る情熱、音楽に懸ける志の高さを少しでも感じ取ってもらえたら嬉しい。(interview:大塚智昭/新宿ロフト店長)
見えてしまったことを見過ごせない人がロックをやる
──今日はいつもお世話になっている哲さんの近況を伺いつつ、新宿ロフトとの関わりについても訊いてみたいんですけど…。
高野:お世話してるつもりは全くないけどね(笑)。逆に、大塚君にはウチのファンクラブの会報にも出てもらったりしてお世話になってます。大塚君と知り合ってから、もうどれくらい?
──6、7年くらいですかね。哲さんのキャリアからすると、まだ浅いですよね?
高野:「浅い」って(笑)。関係性は充分「深い」よね。
──それはもちろん!
高野:ジュンジュラのカジ(梶原幸嗣)やハジメ(佐藤統)が間に入ってくれたお陰で、濃厚な付き合いをさせてもらってますね。
──まず近況から伺いますと、nilは現状ライヴをやりつつも基本的には小休止といった感じですか。
高野:去年から小休止と言えば小休止ですね。車に喩えるならパーキングと言うよりもニュートラルの状態で、リラックスして運転しているような感じなのかな。
──ジュンジュラの結成をロフトが取り持ったというのは言い過ぎですか?
高野:その側面もなくはないと思う。カジのやってたREDЯUMが終わって、彼がHUMAN TAILを始めて間もない頃に、ジュンジュラの結成に向けてカジに相談を持ち掛けたんですよ。
──まずはカジさんと音を出したかったと?
高野:それは大いにあったね。最初はカジにちょっと手伝ってもらう感じだったんだけど、今やカジの存在なしにジュンジュラは成り立たないし、セカンド・アルバムを作ったことでようやくバンドになれた手応えがあるんです。
──ジュンジュラはもともとソロの延長線上にあるプロジェクトだったんですよね。
高野:うん。カジとは鉄鍛冶っていう2人ユニットもやってたし、ヘルプを頼むのはごく自然の成り行きだったんだけど、あの独特なドラミングがあってこそのカジと俺の関係性だったことを再確認したんです。今は彼ならではのドラムがジュンジュラの重要な鍵になってるけど、最初はそれよりも人間関係ありきでお願いしていた部分が大きい。俺の想像以上にジュンジュラは化けたし、つくづくバンドとは分からないものですよね。
──結成から2年の間に、ファースト・シングル『THE JUNEJULYAUGUST』、DVDシングル『MY FUNNY CAROL』、ファースト・アルバム『深く潜れ』、セカンド・アルバム『Edelweiss』をリリースし続けて、活動は順調ですよね。
高野:曲の出来るペースが凄く早いんですよ。自分でも今はとてもいい時期だと思う。そのいい時期が始まったばかりなのかもしれないし、もうここで打ち止めになるのかは分からないけど(笑)。まぁ、3人とも仲がいいですからね。俺とカジは付き合いが長いし、そこにハジメっていうちょっと歳の若いヤツが入ったことで潤滑油の役目を果たしてくれている。
──『Edelweiss』は、『深く潜れ』以上に哲さんの感情がストレートに出た名作ですよね。どのバンドも多かれ少なかれそうでしょうけど、3.11以降と以前で作風が大きく変化したように思えるんです。
高野:結局、自分が見て感じてきたものしか歌にできないし、どちらかと言えば俺の作風はノンフィクション寄りなんですよ。ただそうは言っても、今までは普遍性を持たせるためにもあまり直接的な表現は抑えていたんです。でも何と言うか、見えてしまったことを見過ごせない人がロックをやっていると思うんですよね。
──『深く潜れ』まではまだ哲さんの感情がコーティングされていたような感じでしたけど、『Edelweiss』に収録された曲はどれも心情が剥き出しになった印象があるんですよ。凄くひりひりしたものを感じるし、そこが一番大きな変化なのかなと。
高野:多分、『Edelweiss』にたくさん詰まっているのは3.11以降に感じた怒りだと思うんですよ。そういう怒りの感情は他の言葉に変換しづらいし、変換しちゃうと伝わらない。ツアーが始まって、今のところまだ盛岡と仙台しか回ってないけど、内なる怒りの感情を基点とした曲ばかりなのをライヴでも実感しています。
──うつみようこさん、佐藤タイジさんと一緒にやっているインディーズ電力はどんな経緯で始まったんですか。
高野:いわき市や塩竈市で支援ライヴをやって、その3人組でやったのが面白過ぎたということで。またライヴをやってくれと依頼があったのでインディーズ電力を名乗ることになったんです。
──随分と意外な面子ですよね。
高野:ようこさんと俺は弾き語りのライヴで一緒になったり、スタッフが共通していたりして横の繋がりはあったんですよ。タイジさんとはそれまで接点があまりなかったんだけど、たまたまタイミングが合ったと言うか。