ヴィンテージの機材を使ってハイファイな音を録る
──10代の真鍋さんにとって、RCサクセションの存在はやっぱり大きかったですか。
真鍋:デカかったですね。バンドでRCサクセションのカヴァーをやったりもしたし、タイマーズの格好をして出た新入生歓迎会でコンドームを投げつけて先生に怒られたりして(笑)。俺が日本の音楽に目覚めたのは小学校3年生の時で、最初は寺尾聰から入ったんですよ。和歌山のイズミヤっていうスーパーに寺尾聰みたいなタレサンが売ってて、おかんに「あれ買ってや!」言うたら、「あんたにはデカすぎる!」って言われてね(笑)。何て言うか、寺尾聰に大人の匂いを感じたんですよ。今で言うAORですよね。演奏がもっちりしてて、ちょっと低い声でダブル・ヴォイスで歌入れをするみたいな。あれってけっこうマージービートにも似てて、マージービートもダブル・ヴォイスで歌入れしてるのが多いんですよ。まぁ、ちょっと無理矢理やけど(笑)、寺尾聰で日本の音楽に目覚めたのは良かったのかなと。ちなみに、小学校4年生の時に先生のお別れ会で『ルビーの指環』と『出航 SASURAI』を唄ったのが俺の人生初ステージやったんです(笑)。唄い終わったら同級生の米良さんっていう女の子に「凄い良かった」って言われて、そこで味を占めて(笑)。
──シングルのジャケットがジョニー・キッド&ザ・パイレーツをモチーフとしていたように、アルバムのほうにも何かモチーフがあるんですか。
真鍋:もちろんありますよ。イアン&ザ・ゾディアックスっていうリヴァプールのバンドで、「俺たちもビートルズみたいに売れるんだ!」って意気込んでドイツに渡ったんやけど見事に売れなくて(笑)。『DYNAMIC BEAT TOWN』のジャケットを見て、元ネタがイアン&ザ・ゾディアックスだと分かった人が2人くらいいましたね。そうやってちゃんと分かってもらえるのは凄く嬉しいなぁ。(ジャケットを見ながら)このめっちゃダサいコート、凄いでしょ?(笑) これは俺が高校の頃に着ていたジャケットで、今家の中にあるコートで一番ダサい4着を敢えて選んだんですよ(笑)。完全に今の時代と逆のセンスですからね。
──ジャケットの衣装も音の録り方もすべてが時代と逆行しているっていう(笑)。
真鍋:懐古主義って思われるのは不本意なんやけど、アナログ機材を使ってレコーディングするっていうのも、ヴィンテージな道具を使ってハイファイな音を録りたいだけなんですよ。デジタルな機材を使って古い音を録るのはただチープになるだけで、「それっていわゆるローファイでしょ?」とか「音を汚くした感じでしょ?」とか言われる。俺がやりたいのはそういうのじゃなくて、古い機材を使いながら頑張って新しい音を作ることなんです。俺は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が好きなんやけど、ドクが開発したデロリアン(タイムマシン)もめっちゃアナログやないですか? あれはアナログなDMC-12だからいいんであって、ポルシェ・カレラGTだったら興醒めでしょ?(笑) DMC-12みたいに全然走らへん評価の低い車で未来へ行くっていうデジタルなことをするのが俺は凄く好きなんですよ。あの感覚は凄くよく分かる。
──『SHAKIN' THE NIGHT』を筆頭に、今回の収録曲は往年のマージービートを意識した感じの曲が多いですよね。ニートビーツの原点とも言えるジャンルへの回帰を果たしたと言うか。
真鍋:何やかんやといろいろやってきましたけど、デッカとかパーロフォンとかイギリスのレーベルの7インチを聴くと、やっぱりいいなぁと思うんですよね。ビートルズの後にパーロフォンからデビューしたバンドと言えば、ビリー・J・クレイマー&ザ・ダコタス、ジェリー&ザ・ペースメイカーズとかいますよね。デッカならブライアン・プール&ザ・トレメローズとかストーンズ。俺は妄想族やからいろんなことを妄想してしまうんですけど、そういうバンドは全部「自分たちは売れる!」と思い込んでいたはずなんです。「俺たちと同じリヴァプール出身で歳も変わらないビートルズがめっちゃ売れてるやんけ! 行こうやロンドン!」みたいな感じで(笑)。
──でも結局、セールス的には惨敗っていう(笑)。
真鍋:うん。そういう前のめりな気持ちが俺は凄く好きでね。彼らの7インチを聴いてると、「この曲をレコーディングしてる時はウキウキしたんやろなぁ」とか「『これはまだ誰もやっとらんモータウンのカヴァーやで』って思いついたんかなぁ」とかつい妄想してしまう。極論を言うと、俺自身は売れようと思って作ったレコードは1枚もないんですよ(笑)。いつもメンバーと喋るねんけどね、アナログを作るのもメンバー分の4枚があればいい。正直、そんな気持ちでやってるんです。
モノラルで録ったものはモノラルで聴くのが正しい
──でも、アナログを作ることは結成以来一貫したこだわりですよね。
真鍋:UK仕様のシングルを作れてからは余計に作りたいですね。これから作る『DYNAMIC BEAT TOWN』のLPは重量盤にしようと思って。そのマスタリングをお願いしたいと思っているイギリスのエンジニアの人が病気療養中なので、発売がちょっと延びてるんですけど。
──時代に逆行するようにアナログ盤を作り続けているニートビーツに追い風が来たと思うのは、アメリカの音楽市場でアナログ・レコードの売上が伸びていることですよね。
真鍋:そうそう。総合枚数としてはCDと比べて落ちてるけど、アナログ盤のほうがいいっていう人が増えてきた。それはいいことやね。A面とB面のストーリーがあるっていうのが俺は凄く素敵なことやと思うんですよ。「なぜこの曲がB面の1曲目なのか?」とか、そういうのはレコードでしか味わえへんしね。LPだとA面の3曲目まで押しの曲が入ってたり、音圧の関係もあるからB面の最後のほうにバラードっぽいのが入ってたりする。そういうCDにはないストーリーがあるのがいいんです。レコードを知らない若い世代は逆にレコードを面白がれるのかもしれないですよね。『DYNAMIC BEAT TOWN』のジャケットを見て、「うわ、このコート、ダサッ!」って反応してくれるだけでも俺は嬉しい(笑)。
──音へのこだわりもさることながら、今回は楽曲の完成度がどれも高くて、真鍋さんのソングライティングが冴え渡っていますよね。特にミディアム・テンポの『WEEKEND』は明るい曲調なのにどこか儚さもあって、ベスト・トラックのひとつだと思うんですよ。
真鍋:そう言ってもらえるのは嬉しいですね。『WEEKEND』は一番最後の曲で、俺のイメージの中ではマージービートがちょっと考え始めた時期っていうニュアンスがあるんです。「俺らこんなのほほんとしたことばかりやっててええんかな?」とか「ビートルズ、ビートルズ言うて、俺たちもうビートルズにはなれないよ」みたいな感じで、マージービートの連中がふと自分たちを見つめ直すって言うか(笑)。ロンドンではR&Bとかモッズが流行ってきて、キンクスみたいなバンドが出てきて。キンクスは『〜THE VILLAGE GREEN PRESERVATION SOCIETY』の頃になると音が凄くオンな感じになって、タムの音もスネアの音も全部ドカドカしてくる。ああいう音の感じでやりたいなと思ってマージービート勢が作ったのが『WEEKEND』みたいな曲なのかなと。だから時代的に『WEEKEND』は66年なんですよ。最初の『SHAKIN' THE NIGHT』は62年。それが途中から65年になって、最後の『WEEKEND』は66年くらいまで来てるかな? っていう感じ(笑)。
──ビートルズが『SGT. PEPPER'S〜』でレコーディング革命を巻き起こす前夜の音と言うか。
真鍋:そういう意味でも、『WEEKEND』は音の質感もちゃんと聴いて欲しいんですよ。60年代特有のミッドな音をね。
──余計な高音も低音もない、一番心地好いミッドな音がこのアルバムには凝縮していますからね。
真鍋:しかもモノラルでね。この間、クロマニヨンズのマーシー(真島昌利)がウチへ急に遊びに来たんやけど、それが何かの取材を受けてきた帰りだったみたいで。その取材で「今時モノラルで録ってるのはクロマニヨンズとニートビーツくらいですよ」って言われたらしくて、「でもやっぱりモノラルがいいよね」ってマーシーが言ってたんですよ。あの人がモノラルがいいと言ったりとか、あの人の好きな音楽とか、相通ずるものがあるんですよね。凄くよく分かるんです。たとえばトム・ダウドがやり始めた頃のステレオの音って俺は凄く好きで、アナログ感たっぷりなんですよ。家の安いステレオでもダイナミックに聴かせてあげようとしたんやろなって音でね。それが今のステレオはただ音を割り振るだけでしょ? それやったら俺は疑似ステレオでいいやって思う。テープに音を全部ピンポンしていって、左からはドラムしか聴こえへんよみたいなね。「ビートルズの音楽はモノラルで録ったものがほとんどだから、モノラルで聴くのが正しい」っていうジョージ・マーティンの言葉に真実があると俺は思う。
──音を発信する側の答えがひとつしかないというのがモノラル特有の潔さだと思うんですよね。
真鍋:もし家にスピーカーが1個しかなかったらどないします? まぁ、そんなことまずないだろうけど(笑)。
──本作は『ROLL ON GOOD!!』以上に真に迫る音になっているし、ロックンロールが本来持ち得たダイナミズムを心ゆくまで味わえる内容ですよね。
真鍋:アルバムが売れてくれるに越したことはないけど、俺としては納得の行く作品を1枚作れたらホンマはそれでいいんですよ。最高の1枚の原盤があればただそれだけでいいっていうレヴェル。たとえば10年後に今回のアルバムを聴き直して、「10年前の俺にしてはようやったな」と思えればいい。
──モノラルだと、『HEY HEY DEE JAY』で聴かれるサックスの音も図太くて情感がより際立っているように聴こえます。
真鍋:サックス・プレーヤーって、ソロになると「俺や! 俺や!」みたいに強引な人が多いでしょ? そういう感じが出たほうがいいと思って。