リーゼント&スーツ姿で3コードのシンプルなロックンロールを愚直なまでに掻き鳴らし、ヴィンテージな機材を使って理想とするモノラル録音を頑なに追求し続けるザ・ニートビーツが今年結成15周年を迎えた。これを記念して発表されたニュー・シングル『SHAKIN' THE NIGHT』、実に4年振りとなるオリジナル・アルバム『DYNAMIC BEAT TOWN』は潔いほどにマージービート・フレイヴァー全開、50年代のR&B/ロックンロールを基調とした武骨で真に迫るビートと胸躍るメロディがギュッと詰め込まれている。まさに国産マージービートの至宝として聴き継がれるべき作品だと言えるだろう。
デジタル全盛の昨今と逆行するかのように際限までアナログな手法が用いられたレコーディングは、今回も国内最高峰のヴィンテージ・レコーディング・スタジオ「GRAND-FROG STUDIO」で敢行。自身が志向する究極のモノラル・サウンドについて嬉々として語るMr.PANこと真鍋崇は、もしかしたら日本で最後のロックンロール偏執狂なのかもしれない。わざわざ手間暇のかかる古い機材を操ってハイファイな音作りをするのは愚の骨頂なのかもしれない。だが、丹念に手をかけて生み出されたニートビーツの音楽には計り知れぬロックンロールへの愛情と迸るパッションがその真髄としてあり、それらが今にも音の隙間からこぼれ落ちてきそうなほどなのだ。過剰な思い入れと確固たるこだわり(と幾ばくかの勘違い)を持った者だけが越えられない一線を突破できる。風車を巨人と思い込んで突進したドン・キホーテにしか見えない景色がある。一切の妥協をせずに猪突猛進する人間のおかしみと凄みをニートビーツはいつだって渾身の力を込めて体現してくれるのだ。(interview:椎名宗之)
多少ヨレたくらいが人間的でいい
──この「GRAND-FROG STUDIO」を立ち上げてからもうどれくらい経ちましたっけ?
真鍋:2007年やから、もう5年になるのかな。でも、最初の1年はスタジオの研究期間やったんですよ。実験に実験を重ねて機材を入れ替えたりして、「そろそろ録れるかな?」と頃合いを見計らってからバンドで録り出して。
──それまでのレコーディング環境が万全ではなかったがゆえに、自らスタジオを作ってしまおうと?
真鍋:そうやね。結局、リリースやそれに合わせたライヴのサイクルってレコード会社が決めるでしょ? 会社の決算とかの都合でリリースの時期を勝手に決められたりして。それに振り回されると、自分たちの録りたい音とか作品のニュアンスとかが万全の状態で用意できなくなる。スタジオもちゃんと押さえられなくなったりして。1日飛んでスタジオに入るとアンプやマイクの配置が変わってて、音まで変わってしまうみたいなね。そんな状況じゃ自分たちが求めてるプレイなんて絶対に望めへんなと。それに、当時はプロツールスを使ったデジタル・レコーディングが主流になってきていて、それにも馴染めなかったんですよ。高校を卒業してイギリスに1年くらいおった時に「TOE-RAG STUDIO」っていうヴィンテージのスタジオによく遊びに行ってて、そのスタジオの環境があまりに衝撃的すぎたから、コンピューターから発せされる音に対して何の感動もなくて。クリックひとつで音の表現を変える手法に俺は向いてないなと思ったんですよね。だったら自分らしくアナログなことを徹底的にやってみようと思って。
──今のニートビーツが志向していることは、デビュー・アナログ・シングル『SPOILT GIRL』を始め初期の作品の録り方に近いですよね。
真鍋:そうそう。初期の作品の録りには自分の機材を持って行ったんですよ。エンジニアの人は使い方が分からないから、「お前がやれ」なんて言われてね。結局、一番最初にやりたかったアナログな手法が正解なのかなと思ったし、それを突き詰めればバンドのスキルも上がるんですよ。
──ビートルズもストーンズも、アナログテープを使った一発録音が当たり前だったわけですからね。
真鍋:修正は一切利かないのが前提で、みんなリスクを持ってレコーディングしてましたよね。それが普通やったのに、今は「後で直せる」って感覚で録るでしょ? 「とりあえず仮で」とか。「仮ってナニ!?」ですよ、俺からすると。「いやいや、一発目からガーンと行こうよ!」って言いたい。「ちょっとピッチが気になるところがある」とか「あそこで弾き損ねた」とかよく言うけど、ちょっと待ってくれよと。ビートルズもストーンズもよく聴いてみたほうがいいよ、けっこうヤバイところがあるから(笑)。けど、アルバムをトータルで聴いたらあのヨレたテイクが完璧やと思わへん? って。多少ヨレたくらいが人間的でいいじゃないですか。
──ロックンロールのダイナミズムを追求しようとすれば、ヴィンテージ・レコーディングの手法に回帰せざるを得ないと。
真鍋:今の時代やったら、自分の部屋の片隅でノート型のパソコンを使ってもレコーディングできますやん? ウチのスタジオは機材搬入の段階からアナログですからね。機材もピアノも細い階段を通らへんから一度解体して入れるっていう(笑)。
──荒井注のカラオケボックスじゃないんですから(笑)。
真鍋:でもやっぱりね、モノは何でもデカいほうがいいっすよ。アナログ機材を修理してくれてる人も「デカいほどいい」って言いますからね。デカくて、「何かこれヤバイな」って思わせる風貌のモノがいい。セルマーのアンプが好きなのもロゴが格好いいのと、「クロコダイル・フィニッシュ」と言われるワニ皮仕様だからですよ。あのラメ感、ちょっと東大阪のおばちゃんみたいなノリやないですか(笑)。
──真鍋さんは以前から「機材蒐集のポイントは見た目と色と形」と断言していましたよね(笑)。
真鍋:うん。あと、パーツの名前。たとえば機材の箱を開けるとパーツが出てきて、そこに「BLACK CAT」って書いてあるようなね。黒猫がその機材の中におるっていう、もうそれだけでヤバイ(笑)。昔から形にこだわる性分なんですよ。そもそもニートビーツを始めようって時に決めたことも、セルマーのアンプを全員買おうってことだったから。ドラムはラディック、ギターはヘフナーね、と。でも買うお金なんてないから、俺が「みんなカード出して!」って言って(笑)。お金がないから機材を買わないっていう発想は端からなかった。「とにかく機材を手に入れなくちゃバンドできひんやん!」っていう。そん時にギターの土佐(和也)が「俺、スーツを作りたい」って言い出して、みんなと揉めてね。「スーツってお前、まず楽器を買うのが先やろ!?」って言ってやりましたよ、大阪の大富士っていうトンカツ屋で(笑)。アイツちょっと半泣きになってたけど(笑)。
ロックンロールは過去と未来を繋いでいく音楽
──作品の話題に移りましょう。まず先行シングル『SHAKIN' THE NIGHT』のアナログ盤なんですけど、これ、何が凄いってイギリス盤のように切り込みの入ったスモール・ホール仕様じゃないですか。
真鍋:いわゆる「プッシュアウト・センター」と呼ばれるもので、レーベルの真ん中を強く押すとはずれて、シングル盤用のアダプターが入る仕組みになっているんです。はずれるとドーナツ盤になるっていう。このUK仕様のアナログ盤をずっと作りたかったんですよ。この凄さが分かる人は少ないと思うけど、分かってくれる人とは間違いなく友達になれますね(笑)。少なくとも10年は仲良くやっていける(笑)。
──「世界中を探してもその形をプレスする工場がない」と『BEAT AT MAJESTIC SOUND 1998-2009』のライナーで真鍋さんが書いていましたけど、遂に見つけたんですね。
真鍋:こういうプレスができるのは80年代で終わっていたはずで、最近になって復刻されるようになったんですよ。
──ジャケットで海賊の衣装に扮しただけあって、ちゃんとジョニー・キッド&ザ・パイレーツの『I KNOW』のカヴァーが収録されているのがいいですね。
真鍋:ジョニー・キッド&ザ・パイレーツを知らない人は「何これ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』? ジョニー・デップ!?」って勘違いするかもしれへんけど(笑)。デップ、リーゼントちゃうやん! みたいな(笑)。
──とんだジョニー違いですね(笑)。
真鍋:ジョニー・キッド&ザ・パイレーツにこういうジャケットがあって、一度やってみたかったんですよ。60年代のバンドマンが面白いのは、パイレーツやったら海賊の格好、スクリーミング・ロード・サッチなら吸血鬼の扮装で棺桶の中から出てくるとか、モチーフがちゃんと決まってるんですよね。そういう面白いコンセプチュアルな人たちが最近は少なくなったなと思って。まぁ、大阪にはやすしーずっていうメンバーが横山やすしの格好をしたバンドがおるけどね(笑)。
──『I KNOW』以外にも、CDシングルにはルーファス・トーマスの『ALL NIGHT WORKER』、アナログ盤にはザ・サーチャーズの『LOVE POTION NUMBER NINE』という秀逸なカヴァーがそれぞれ収録されていますが、どんなカヴァーで攻めてくるのかいつも楽しみなんですよね。
真鍋:ロックンロールって過去と未来を繋いでいく音楽やと思ってますから。俺たちの役目は繋ぐことなんですよ。カヴァーをすることによって誰かが「この曲、聴いたことあるな」とか「原曲は誰やろ?」って思ってくれたら嬉しい。俺たちもそうやって音楽を聴いてきたからそういうのが大事やし、いい音楽は人に勧めたいじゃないですか。
──4月4日に発売される『DYNAMIC BEAT TOWN』は、オリジナル・フル・アルバムとしては『ROLL ON GOOD!!』以来なので実に4年振りの作品になるんですね。
真鍋:トリビュート盤に参加したり、ライヴ盤は出していたんですけど、オリジナルはなかなか出せなかったんですよ。それはこのスタジオの都合もあって、機材を替えてあまりにも音が変わるのは良くないなと思ったんです。機材を替えつついろいろ試してたら曲も溜まってきたんやけど、どの曲を録ったのか自分でも忘れてもうて(笑)。だから、実は録ってた曲がまだたくさんあるんですよ。遊びでヘンなラップを入れた曲もありますからね。「マージービートやってても売れへんし辛すぎるわ!」ってなった時にヒップホップ・ヴァージョンを出そうかなと(笑)。
──『黒いジャンパー』のヒップホップ・ヴァージョンも以前ありましたよね。
真鍋:ああ、(忌野)清志郎さんとLOVE JETSをやってたKANAMEちゃんにリミックスをお願いしたヤツ。あれは完全にお任せやったしね。全然関係ない話やけど、清志郎さんと最後に話したのは野球のことでしたね。俺がタイガース・ファンで、清志郎さんがドラゴンズ・ファンで、どっちが凄いかを飲み屋で言い合った気がする(笑)。最後は清志郎さんが「タイガースは負けることに意義があるのが面白い」と一言残して、自転車に乗って帰っていきましたけど(笑)。
──清志郎さんと言えば、今回のシングルにもアルバムにも『TOKYO ELECTRIC BLUES』という原発を風刺したような曲も入っていますね。「『サマータイムブルース』を聴かせて」というRCサクセションがカヴァーした反原発ソングが盛り込まれた歌詞もあって。
真鍋:まぁ、今の社会に対するモヤモヤを僕らなりに出してみたと言うか。僕らが中学生の頃にチェルノブイリの原発事故があったけど、まだ子供やったから事の重大さがよう分からへんかった。でも、その後にブルーハーツが『チェルノブイリ』というシングルを出したり、新聞にRCサクセションの『COVERS』が「素晴らしすぎて発売できません」っていう広告が載ったり、清志郎さんはタイマーズをやるようになったり、とにかくこれはヤバイぞと。そういう社会に対してちゃんと物申すバンドはやっぱり必要なんやと思った。当時はネットなんてあるわけないし、入ってくる情報が少ないぶん衝撃的でしたよね。『チェルノブイリ』も『COVERS』も『夜のヒットスタジオ』に出たタイマーズも凄く衝撃的やった。それに倣うわけやないけど、このご時世、何も感じないっていうのも嘘やしね。