ここまでかっこ良くなるとは思わなかった
── 結成は2010年だそうですが、どういう経緯で結成されたんですか?
中嶋:ここ(中嶋とキダ)が高校の軽音の先輩・後輩で、高校卒業してからも一緒にやりたいとは言っていたんですけど、なかなかタイミングが合わないまま1年〜2年各々やっていて、その間に他のバンドで活動していたヒロヒロと出会って、「このメンバーならすごい事が出来る!」と思ってガッと固まりました。
komaki♂:ドラムはなかなか定まらず、サポートで取っ替え引っ替えやっていたんです。僕は別のバンドで活動していたんですが、ドラムを探しているバンドがいるということで紹介してもらって、こっちでやりたいと思い、前のバンドを辞めて昨年5月に加入しました。
── komaki♂さんは、tricotのどんなところに魅力を感じたんですか?
komaki♂:最初はどんな人間かも知らずにマイスペで音だけ聴いて、第一印象でグッと来たんです。
── tricotの音は一聴した時から衝撃がありますよね。予測出来ない展開が多く、みなさんに今お会いして思ったのは、こんなにかわいらしい方々から出る音とは思えない迫力もありました。もともとはどんな音楽を聴いていたんですか?
中嶋:椎名林檎さんとかメタルをよく聴いてました。私がやっていたひとつ前のバンドが今より少し暗めで変拍子のあるバンドだったんです。私はそれまで変拍子の音楽を知らなかったんですが、変拍子は前のバンドからの人たちに教えてもらいました。
キダ:私はナンバーガールとかtoeとかACIDMANをよく聴いてました。
ヒロヒロ:私も同じ感じですけど、違うところで言えばKING BROTHERSとかDMBQがすごく好きです。
komaki♂:僕はもともとクラシックがすごく好きなので、彼女らよりはこういうジャンルに入るのは遅かったですけど、僕もナンバガとか…なんでも好きです。
── 結成した当時から今のような音楽の方向性はなんとなく見えていたんですか?
中嶋:どんなバンドをやろうとかは特になかったんですけど、このメンバーでやりたいというのがあって、それぞれの前のバンドを見ていたので、まあこうなるとは思ってたけど、ここまでかっこ良くなるとは思わへんかった(笑)。作っていくうちに新曲が一番かっこいいって毎回思って、「でももっと良いのが作りたい」ってどんどん思っていく感じが楽しいです。
── そして、今回6曲入ったミニアルバム『小学生と宇宙』が出ますけど、この6曲は昔からある曲なんですか?
中嶋:いろいろですね、作った時期は。1曲目の『G.N.S』は初ライブからやっている曲ですけど、4曲目の『ひと飲みで』は最近作った曲です。
── 昔作った曲も最近作った曲も、違和感を感じることなく並んでますね。ところで、今話にあった『G.N.S』(読み:ジー・エヌ・エス)というタイトルは、どんな意味があるんですか?
ヒロヒロ:これは“幻想”です。パッと思いついたタイトルなんです。
── となると、仮タイトルのままとか?
中嶋:いえ。仮タイトルがエライ感じだったんです。『U.N.K』(読み:ユー・エヌ・ケー)っていうタイトルやったんですけど…。
── それ、どういう意味ですか?
中嶋:UNKO…です。最初はこれで突き通すつもりやったんですけど、レコーディングをして、ちょっとこれは変えなあかんやろって話になって…。YouTubeにこの曲のスタジオ音源を載せていたんですけど、ファンの人から、「『U.N.K』めっちゃかっこいいですね!」って言われて申し訳ない気持ちになって(笑)。何か付けようってなって、このタイトルになりました。
── そんな裏話が(笑)。でも、曲の激しさとボーカルの繊細さの見事な融合が1曲目から提示されていて、あとの5曲はどんな表情をしているんだろうと聴く人をゾクゾクさせる曲ですよね。どうやって曲が出来上がったんですか?
komaki♂:基本ギターリフが最初にあって、セッションしながらオケを作って、後から詞を乗せていくという感じです。
── セッションの時ってみなさんどんな感じなんですか?
komaki♂:きっかけはギターがほとんどです。
── 変拍子の最初のアイディアはどなたが持ってくるんですか?
komaki♂:最初にキダがスタジオでリフを作っているんですけど、そもそも拍子という感覚で作ってないんです。弾いて、「これ何拍子?」って。それを数えて「7やなー」って僕らが答える。
中嶋:自分でわかってない(笑)。「何拍子?」って聞かれて4だったことないもんな(笑)。でも、とくに変拍子をやらなければいけないという感じではないんです。最初4拍子で曲を作っていても、4・4・4って来たら次は3がいいよなという話になって。
── それも一種の才能ですよね。
キダ:4で作りたいって曲を作っても、やっぱり4にはならない。作りたい気持ちはあるんですけど。
中嶋:作りたい気持ちはあるんです(笑)。
── 2曲目の『夢見がちな少女、舞い上がる、空へ』は、あたまの「幼い頃は胸いっぱいに夢を見なさいと言っていた大人達が〜」から、ボーカルがまくし立てるように言葉を繰り出していきますが、その言葉が大人が聞くとちょっと胸が痛くなるんですよ。実際にこういう事があったんですか?
中嶋:過去にそう思ったことがあったなっていう感じはありますが、特に何かあったというわけではなくて、ほとんど妄想で書いています。
── 同い年ぐらいの人に共感して欲しいと思って作ってます?
中嶋:そうですね。若い人たちに舞い上がって欲しいなと思っています。
── 『しちならべ』は?
中嶋:これも全部オケから作ったんですけど、言葉の響きを重視した曲です。サビの歌詞はストレートな表現で、繰り返してるんですけど、Aメロとかは変拍子に乗せて聴いてて気持ちいい感じにしようかなっていう感じで。
── 歌詞に意味を持たせるというよりは、まず耳に入ってくる気持ち良さを重視した、と。歌詞はそうやって書くことが多いんですか?
中嶋:そういう時もあれば、意味を持たせることもあります。
komaki♂:僕が思うのは、楽器を弾いてる人って、ここにこの音が入ったらかっこいいなという感じで作るんです。ギターのフレーズを作る時もドラムの時もそうですけど、それに近い感覚で歌詞を書いているのかなと思っています。僕はそう感じて叩いているんですけど、こういうことがあったからこういう歌詞を書きましたというよりは、気持ち良さで作っているから、歌詞を見ながらCD聴く人は、そこにはっきりした答えがなくて聴く側に考える余地を残している形にしているのが、イッキュウの歌詞でおもしろいし、かっこいいなと思っています。
── 答えを決めつけないというか。
komaki♂:そういうスタンスがあるのかなと勝手に思っています。
── イッキュウさんはどうですか?
中嶋:今良い感じでまとめてもらいました(笑)。『夢見がちな少女、舞い上がる、空へ』とか『MATSURI』のような語ってる曲は、歌詞を先走って書いてメロディー付けれへんくなって、結果喋ることもあるので、たぶん喋ってる曲のほうが歌詞に意味があるという気はしてます。
── 思いが溢れちゃって?
中嶋:収まり切らなくなったので、早口で言った(笑)。
── 歌詞に絡めた話で聞きたかったのが、現実に対する憤りとかが含まれている気がしていて、今の時代っていろいろなことが起きていて、そこに対して今後どうなっていくんだろうっていう不安ってありますか?
中嶋:こういう言い方が良いかどうかはわからないですけど、不安は全然ないです。私自身は暗いことがあっても前を見ることしか出来ないと思っているから、暗めの歌詞の中にも、どこか光がある感じでいたいなって思っています。それに、歌詞を書いてる時も暗くはないんです。ニヤニヤしながら書いているぐらいですから。まあ、内容読み直すと暗いなとは思いますね(笑)。
── なるほど。『MATSURI』も歌詞に対する思いがサウンドと共に爆発している感じですよね。その前の浮遊感のある『フレミング』の後半でどんどん盛り上がっていって、そこからの流れもすごく良かったです。でも、こう聴いてみると『フレミング』がこのアルバムのフックとなってますね。
中嶋:『フレミング』ともう1曲、このアルバムに入れる候補の曲があったんですけど、自分的にはアルバムの流れ的に『フレミング』しかいいひんと思ってました。
── では、『ひと飲みで』はどうですか?
中嶋:この曲は挑戦した感じがあって、ファンクっぽいところは今までやったことがなかったので、新たなtricotになってます。
komaki♂:変拍子とか、コーラスも一番ややこしい凝った曲になってます。
中嶋:ギュッと詰め込んでる感じが。
komaki♂:でも、変拍子だけど聴けるというのは考えてます。変拍子のための曲じゃなくて、それがナチュラルに入っていて欲しい。
中嶋:わけわからなさすぎるのは作りたくないので、気持ちいいから変拍子になったという感じがします。