身体がゾクゾク打ち震えるような曲を
──2年前に発表された『燦燦と』は四半世紀の集大成と呼ぶに相応しい作品だったし、SIONさんがその先に何処へ向かうのか、次なる作品はどんなものになるのかがファンとしては興味津々なんですけれども。
S:何処に行くんだろうねぇ。そうだな、宝くじが当たったら、引退(笑)。でもホント、分からんよね、この先どうなるのかは。
──アルバムの方向性が大まかに見えてくるのはいつもどの段階なんですか。
S:“このアルバムはこんな感じになる”とか、位置付けみたいなことをもともとしないんだよね。『燦燦と』はたまたま25周年記念のアルバムになったけれども、中に入っている曲が全部そういうことに関連づけたものではないし、コンセプトみたいなものは特にないんだよ。ただひとつ言えるのは、自分で歌を書いて録音している時もそうだし、バンドと演奏したりレコーディングしている時もそうだけど、身体がゾクゾク打ち震えるような曲が何曲かに1曲ないとつまらんね。それが自意識過剰すぎてもいけないけれど、いいとか悪いとかじゃなくて、ゾクゾクする感覚が欲しい。底抜けに明るい“レッツラゴー”の曲じゃないのに何でこんなに力が湧くんだろう? とか、それが好物です(笑)。
──バンドでしか成し得ない、得も言われぬダイナミズムを体感したいがためにMOGAMIやCSCとしての活動にこだわり続けているとも言えますよね。
S:そうだね。MOGAMIはみんな芸達者で、あらゆる表現は彼らの演奏によってやり遂げられる。それと真逆で、恐ろしいくらいに自分自身をさらけ出すことになるけどゾクゾクできる文ちゃんとのユニットがある。「体力は大丈夫ですか?」と心配されるくらいにソリッドだけど楽しいCSCもある(笑)。どの編成でも“歌を聴かせよう”とミュージシャンが思ってくれているから、そこは有り難いよ。気を遣って“思いやりブリッジ”も用意してくれるからね(笑)。家で歌を作っていて、自分でも“何じゃこりゃ!?”ってガッカリすることも多いんだけど、それでもたまに“おお、いいじゃないですか、俺!”みたいに思える歌がある。それを愚直に続けるしかないんだけど、ほら、俺たちみたいな人間は自分に厳しいじゃない?(笑)
──仰る通りです(笑)。
S:となるとなかなかね、ホイホイ出来ないじゃない? そこは難しいところだよね。
──SIONさんにとって最も手厳しい批評家はSIONさん自身でしょうからね。最後の敵は自分自身と言うか。
S:それはお互い様でしょう?
──確かにそうですね。
S:アルバム10曲の中に数曲は息抜きみたいなものが必要だし、全部の曲がガツン! と行く感じの曲だったら、演奏するメンバーも聴いているお客さんも息苦しくなるよね。
──声高に「頑張ろう!」と叫ぶことなく静かにエールを贈ったり、祈りにも似た気持ちで誰かのことに思いを馳せるSIONさんのさりげなさが僕はやっぱり好きなので、そんな歌がこれからもまた生まれていくことを期待したいですね。
S:「みんな独りじゃない、絆で結ばれているんだ」なんてことを臆面もなくテレビは言うけれど、よく言うよって、思う俺がいる(笑)。
──まさに「恥を知れ」の歌詞の通りですよね。「こんな事がなくちゃこの国はひとつになれないのか/こんな事があってもこの国はひとつになれないのか」という。あの歌詞は至言だと思いますよ。
S:「みんな独りじゃないって言ってくれるけど、この狭い部屋で独りで泣いている私は何だろう?」っていう人だっているわけだからさ。できたら俺はそういう立場の人間の近くに、ぽつんと居るような歌を唄いたい。
──月並みですが、今年はどんな1年にしたいですか。
S:ホントに小さな話だけど、年末の最後のライヴを終えた時に美味い酒が呑めればいいかな。美味い嬉しい酒になるレコーディングやライヴをやれるようけっぱります。