Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューSION(2012年3月号)

The Cat Scratch Comboとの東名阪ワンマン・ツアー決定!
心の闇に灯を灯すべく唄い続けるささやかなプライド

2012.03.01

古い曲に今の自分が叱られることもある

──去年はそういったツアーの合間に新曲を書き溜めていったんですか。

S:そうでもなかったかな。気をしっかり持ってライヴをやろうとしていたから。やっぱり、震災以降は歌を書く姿勢みたいなものが変わった気がする。たとえば今も家族と離ればなれになっている人や仮設住宅に住んでいる人がこの歌を聴いたらどう思うだろう? と意識していると、もう何も書けずに黙っているしかなくなる。今年に入ってからは歌がなかなか書けないんだけど、それでも何とか書こうとしているのは、空元気でもいいから気持ちを明るいほうへ持っていくような歌なんだよ。今の時点ではまだどうなるか分からないけど、今年はまたアルバムを出すことも考えているので、今はその準備をしているところだね。例によって『Naked Tracks 4』に入れた曲をいくつかお色直しすることになるだろうし。

──プライヴェート録音の剥き出しの歌が、MOGAMIまたはCSCを触媒としてどう変化するのかはいつも楽しみなんですよね。

S:そう言ってもらえると嬉しいね。『Naked Tracks』はあまり世に出回らないアルバムだから、次に出すアルバムと曲を全くだぶらないようにすると、そこに埋もれたままになって可哀想なんだよ。せっかく書いた歌だから、MOGAMIだったりCSCだったりで表現したい気持ちもあるしね。

──同世代のミュージシャンを見回しても、近年これほどまでにハイペースで新作を発表し続けている人はSIONさんの他にいないんじゃないですかね。花田さんのように全国津々浦々を“流れ”てライヴを盛んにやり続けている人はいますけれども(笑)。

S:俺は花田みたいに“流れ”られないからなぁ(笑)。花田の10分の1くらいでもギターが弾けたら、俺も“流れ”るんだけどね。最近は(藤井)一彦が“流れ”気味だけどさ(笑)。

──一昨年の怒濤のリリース・ラッシュの翌年にも『Naked Tracks 4』のように骨太な作品を発表したくらいだから、つくづくSIONさんの創作意欲が尽きることはないんだろうなと思って。

S:そんなこともないけど、歌を書いて出していくのが俺の生活だからね。最近ちょっと困るのは、“あれ? このメロディ、どこかで聴いたことがあるな”と気づくことなんだよ。昔はそれがディランとか影響を受けたメロディだったんだけど、今は自分のメロディだったりすることが多くてね。歌の内容にしても、“これは前に書いたことがあるな”とかさ。ラジオで毎日喋っている人とか、椎名みたいに文章を書いている人なんかは自分の中の決めゼリフを落とし込むわけじゃない? それはその場限りのものでさ、俺たちからすればサビの部分に近い言葉を搾り出すでしょう? 歌の場合はそれを繰り返し唄っていくわけだから、喋る人や書く人も大変だと思うよ。けっこう辛いやろ?(笑)

──SIONさんほどじゃないですよ(笑)。でも、SIONさんみたいに息の長い表現者は膨大なレパートリーがあるわけだし、過去に発表した曲と似てしまうかもしれないという苦慮は絶えずあるでしょうね。

S:もうね、見て見ぬ振りでもしようかなとも思うよ。「あの歌を書いたのは俺の弟です」とかさ(笑)。

──過去の作品を凌駕するものを作らなければならないプレッシャーも当然の如く常にありますしね。

S:それを乗り越えるためには、過去の自分を思いきり否定しちゃうとかね(笑)。「何も分かっていないな、お前は!」なんて言って(笑)。

──実際、過去のご自身を聴き直したりするようなことは?

S:全く聴かない。作る時と録る時しか聴かないね。『Naked Tracks』は自分の部屋で作っているし、周りに迷惑をかけないから自分で何度も唄っているけど、ちゃんとしたスタジオで録る時は3回くらいしか唄わない。それじゃ頭に入るわけがないよね(笑)。

──でも、過去のレパートリーを改めて聴くのは古い日記を読むようで、なかなか直視できないものなんでしょうね。

S:うん。でも、たまに古い曲をライヴでやることになって聴き直してみると、今の自分が叱られる時もあるよね。「お前、最近ちょっと怠けちゃいないか?」とかさ。そういうのない? 自分の書いた記事を読み返して、“こんなに凄い文章、誰が書いた?”とか思ったり(笑)。

──ああ、ありますね。妙に小難しい文章だなとか思ったら自分が書いていたりとか(笑)。では、今まさに紡ぎ出されようとしている新曲はどんな感じのものなんですか。

S:「おっぱいが見たい」でも何でもいいんだけど(笑)、こんなご時世だからあえて女のことばかり書くような軽薄な内容がいいとか思ったりもするんだよ。だけど、いざ書き出すとつい内省的なものになってしまったりする。ほら、やっぱり俺も椎名も根が真面目じゃない?(笑)

──ホントは書きたいですよね、おっぱいのことも(笑)。いずれ発表されるであろう新作も、MOGAMIとCSCとがっぷり四つに組んだものになるんでしょうか。

S:そうなるだろうね。あと、最近はアルバムに1曲、(細海)魚にアレンジを任せるのがあるんだけど、それも凄く楽しみなんだよ。いつか魚と一緒にアルバムを出したいくらいだしね。きっと凄いものになると思う。あと、ホントは去年SAICOのアルバムを作ろうと思っていて、今年はできればいいなと思ってる。

上京した時から東京と言えば新宿LOFT

──MOGAMIとCSC、松田さんとの109歳ユニット以外の、第4の選択肢を作ろうという発想はありませんか。

S:マーク・リボーを呼んで1枚作るのも面白いかもしれないね、宝くじが当たったら(笑)。ニューヨークへ渡ってマークやエヴァン・ルーリーたちとセッションしてからもう随分と経つからさ。ロバート・クワインさんはもうおらんけど、また一緒にやりたい思いはある。そのためにも、この取材の帰りに宝くじを買って帰らんと(笑)。

──バック・バンドを一から組んでみようと思ったりは?

S:俺の場合、バック・バンドっていう発想がなくなるからね。自分はMOGAMIのヴォーカルだったり、CSCのヴォーカルだと思っているからさ。まぁ、面白い音を出している人と一緒にやるのは純粋に楽しいから、新しく何かを始めるのももちろんアリなんだけどね。ただ、俺はあまり外に出歩かないし。いろんなライヴハウスに行って、「キミは面白い! 何か一緒にやろう!」って声をかけるタチじゃないしね。そんなことしたら、「おじさん、何しとっと!?」って怪しまれるのがオチだから(笑)。

──確かに、MOGAMIやCSCはSIONさんと一蓮托生といった感じだし、彼ら以上の面子を探すことは至難の業ですよね。

S:CSCは、去年まで20代(相澤大樹)、30代(清水義将)、40代(藤井一彦)、50代(SION)のメンバーが揃っていたんだよ。今回のツアーはそんな駆動力の高い面々と回るんだけど、さて、何をしようかね? 選曲もまだ何も決めていない。久し振りのワンマンだから、早めにセットリストを出したほうがいいんだろうな(笑)。弦(マネージャーの今井弦)なんか言うことが凄いんだよ。「ワンマン、大丈夫ですか?」「何が?」「いや、体力が」って(笑)。いくらじいちゃん相手だってそれはないよな(笑)。 

──MOGAMIとCSCのリハーサルは微妙に雰囲気も異なるんですか。

 

S:違うと言えば違うし、同じと言えば同じ。どうなんだろうな。強いて言えば、MOGAMIで一彦のアレンジの曲はイントロが倍になることが多い(笑)。あと、CSCの時は“思いやりブリッジ”が入るよね(笑)。

──ああ、SIONさんが間奏で少しでも長く休めるように(笑)。

S:一彦が「アニキ、ここは倍にしましょうか?」って気遣ってくれるんだ(笑)。全く何をやってるんだろうね(笑)。そういうことがないように、俺と同年代や先輩のミュージシャンはタバコをやめたり、酒を控えたり、ランニングをしたり、ジムに行ったり、泳いだり、ヴォイス・トレーニングをやったりするんだろうね。バカみたいに呑んで吸ってる歳じゃないだろと思いながらも、呑んで吸ってしまう弱い俺(笑)。

──何か気に留めていることはあるんですか。とりあえず痛い風が吹いたらビールをやめてみるとか(笑)。

S:あとは、ツアーまでに体重を減らそうとかね。それも食べるのをやめるくらいだから。飲酒、喫煙をする人、運動をする習慣のない人は低収入の人が多いって前にテレビでやってたな。ああそうですかそうですか、こんなに呑んで吸って納税しているのになぁ、と思ったけどさ(笑)。あ、同年代でタバコを吸い続けているのが1人おった。HARRYだね。でも、次会った時2人ともやめてたりして(笑)。

──4月の新宿LOFTは松田さんとのアコースティック・ライヴ以来2年振りの出演ですが、1985年10月15日に初めてLOFTのステージを踏み締めて以降、とりわけ印象に残っているライヴはどんなものですか。

S:やっぱり小滝橋通りにあったLOFTは出始めの頃が印象深いね。歌舞伎町に移ってからのLOFTは、割とイヴェントのことをよく覚えている。もちろんMOGAMIでもCSCでもやったし、文ちゃんともやったけど、イヴェントを通じてTOSHI-LOWだったり(横山)健だったりと知り合えたのは楽しかった。今のLOFTも好きだけど、建物の周りにいるホストのお兄さんたちが景色を悪くしているよね(笑)。前のLOFTはポツンとそこに佇んでいて、景色が素晴らしかったからね。

──LOFTは他のライヴハウスと違うなと感じたりすることはありますか。

S:俺は田舎から出てきた時から、東京って言ったら新宿LOFTだったから、その思い込みも思い入れも凄く強いと思う。1979年の10月に山口から上京してきた時からライヴハウスと言えば新宿LOFTだった。他のライヴハウスをよう知らんかったこともあるけど、その思いがずっとある。

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SION宅録アルバム『Naked Tracks 4〜同じ空の下、違う屋根の下で〜』

Now on sale
SION-0004 ¥3,500 (tax in)
*インターネット通信販売とライブ会場での販売のみの限定アルバム。

LIVE INFOライブ情報

SION & The Cat Scratch Combo Live Tour 2012

■東京公演
SHINJUKU LOFT 35TH ANNIVERSARY
公演日:2012年4月14日(土)
会場:新宿LOFT
OPEN 17:00/START 18:00
料金:前売・立見¥4,500+1Drink/当日・立見¥5,000+1Drink
プレイガイド:チケットぴあ(Pコード:162-967)、ローソンチケット(Lコード:79954)、e+、新宿LOFT店頭
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

■名古屋公演
公演日:2012年4月20日(金)
会場:アポロシアター
OPEN 19:00/START 19:30
料金:前売・立見¥4,500+1Drink/当日・立見¥5,000+1Drink
プレイガイド:チケットぴあ(Pコード:162-863)、ローソンチケット(Lコード:48209)、e+、JAILHOUSEモバイル
問い合わせ:JAILHOUSE 052-936-6041

■大阪公演
公演日:2012年4月22日(日)
会場:umeda AKASO
OPEN 17:00/START 17:30
料金:前売・立見¥4,500+1Drink/当日・立見¥5,000+1Drink
プレイガイド:チケットぴあ(Pコード:162-753
問い合わせ:清水音泉 06-6357-3666

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