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INTERVIEW

トップインタビューSION(2012年3月号)

The Cat Scratch Comboとの東名阪ワンマン・ツアー決定!
心の闇に灯を灯すべく唄い続けるささやかなプライド

2012.03.01

 SIONの2012年ライヴ始めはThe Cat Scratch Combo[藤井一彦(g)、清水義将(b)、相澤大樹(ds)]との東名阪ワンマン・ツアーである。このインタビューは基本的にそのパブリシティを兼ねたものだが、未曾有の国難と言うべき東日本大震災と福島原発事故以降のSIONの心中の移ろいが語られた貴重な発言集としても読めるだろう。
 図らずもあの震災から1年。「ひとつになろう日本」「頑張ろう日本」なんて陳腐なスローガンをSIONは決して歌にしない。それよりも、これだけの事態に見舞われなければひとつになれない日本を、これだけの事態に見舞われてもひとつになれない日本を嘆き、真実をひた隠す政治家やメディアを糾弾する。そして、心身ともに計り知れぬ傷を背負った人たちの心にそっと灯を灯すようなささやかな歌を唄う。歌で腹は満たされないし、暖をとることもできない。だが、その歌はウィスキーをストレートで煽った時のように五臓六腑に沁み渡る。昂揚が訪れる。ほんのひと時かもしれないが、苦悩を忘れる。ドッコイまたやってみるか、と思い立つ。たかが歌、されど歌。それでもなお愚直なまでに唄うことに懸けるSIONの覚悟を、僕はこのインタビューを通じて強く感じ取った。安直な連帯感を拒絶し、人の心の機微に主眼を置いたSIONの歌は、必ずや聴く人の糧となる。その底知れぬ歌の力を、The Cat Scratch Comboとのワンマン・ツアーでも必ずや見せつけてくれるはずだ。(interview:椎名宗之)

津波の映像を見て言葉を失った

──遂にThe Cat Scratch Combo(以下、CSC)との東名阪ツアーが発表となりましたね。

S:今年初のライヴが4月っていうね。世間様とだいぶずれちょる(笑)。

──まぁ、新年会もバレンタイン・デーの前日に行われたくらいですから(笑)。でも、CSCとしてのワンマン・ツアーも久々ですよね?

S:2008年の3月以来だから、4年振りになるのかな。もうそんなに経つんだね。まぁ、ライヴ自体そんなにやってないからね。

──でも、去年はデビュー25周年記念ライヴを筆頭に、毎年恒例の「SION-YAON」、各種野外フェスへの参戦、松田文さんとのアコースティック・ライヴと精力的なライヴ活動だったじゃないですか。デビュー25周年記念ライヴの東京公演は、あの震災の翌日に予定されていましたよね。

S:そうだったね。1年経つんだね…。

──ちなみに、スタジオ飛行舎(自宅とも言う)は大丈夫だったんですか。

S:ダメだったね。棚も機材もほとんど倒れてた。ウチは1階が薬局、2階が呑み屋で、その上の3階に住んでいたんだけど、後から3階を付け足したような建物で、もともとすり鉢状に傾いていたんだよね。隅のほうにボールを置いたら真ん中のほうへコロコロ転がっていくような感じでさ(笑)。もの凄い音がして、イヤな予感がしたので戸を開けてみたらもうグチャグチャで、何も見なかったようにそのままスッと戸を閉めたよ(笑)。1週間くらいそのままにしておいた。

──震災当日のSIONさんのブログで、計り知れぬ無念さと非力さを痛感している様が行間からもよく窺えました。

S:あの津波に流される車や家の映像を見ていると、激しく打ちのめされるよね。あまりにも残酷で、もう何の言葉にもならなかった。そうは言っても、被害の少なかったこっちの人間が元気にならないと日本中が真っ暗になっちゃうしね。だから、今もずっと東北の復興のためにベネフィット・ライヴがいろんな所で行われているのは純粋にいいことだなと思う。悲しいかな、この未曾有の天災に便乗とまでは言わないけど見てられないのもあったけど…。そんな中で、ちゃんと心ある人間が身を粉にして被災地の復興のために尽くしているのは本当に素晴らしい。

──6月には岩手県宮古市で行われた震災のベネフィット・ライヴ「POWER STOCK」にも参加されましたよね。

S:あれは、ヤスオ(雷矢)っていう呑兵衛とTOSHI-LOW(BRAHMAN)っていう呑兵衛に話を持ち掛けられてね(笑)。ヤスオは宮古出身だから、「お前、大丈夫だったか?」って震災の直後にメールしたら、「大丈夫じゃないです」と。しばらくして「一度一緒に呑んでもらわないと、俺ダメです」みたいなメールをもらって、こっちは引越の最中だったから「小一時間で良かったら一杯行こうか?」って返事して。それでいざ会ってみたら、ベネフィット・ライヴの出演交渉でね(笑)。俺は正直まだ早いんじゃないか? と思ったんだけど、その後にTOSHI-LOWもやって来て、彼らの熱心な意見を聞いた上で参加させてもらうことにしたんだよ。

──震災の直後は、いてもたってもいられない状態でしたか。

S:TOSHI-LOWたちは震災の翌日から被災地へ出向いて飛び回っていたけど、俺は身近なヤツに何かできることをするしかなかった。人にはそれぞれやり方があるからね。仲間の安否を気遣ったり、被災した人たちからのメールに返事をすることくらいしかできなかったよ。あとはもう、ただひたすら一生懸命唄うだけ。

──とは言え、「SION-YAON」に合わせて発表された『Naked Tracks 4〜同じ空の下、違う屋根の下で〜』の収録曲「恥を知れ」には欺瞞に満ちた政治家やメディアに対する憤りを代弁してもらえたようで、個人的にも凄く力をもらったんですよね。

S:あの時は他に言いようがなかった。何だかんだ言って自分は屋根も壁もある所にいられたわけだから、若干後ろめたさを感じながらも、ああやって歌にするしかなかったんだよ。被災した人の気持ちは絶対に全部は分からないし、分かるぶんしか歌にできないけど。

こんな歌を唄い続けていくしかない

──『Naked Tracks 4』の収録曲は、震災以降に生まれたものが多いんですか。

S:いや、半々くらいかな。毎年1月、2月は何もやる気が起こらない時期なんだけど、去年の今頃は珍しく歌を書いていたんだね。その後に震災が起きて、全くやる気が失せてしまって…。どんな歌を書いたって白々しいし、こんな歌を書いたところで一体何になるんだっていう気持ちにしかならなかった。でも、ちょうどそんな頃に福山(雅治)の24時間ラジオ(被災地に向けた番組)に出ることになって、俺は喋れんかもしれないなと思ったから、1曲書いて行ったんだ。自分の家があった場所に立ち尽くして「嫁がいないんだ、あいつがいないんだ、あいつがいなきゃ俺はダメなんだよ」と話していた人の歌を書いて。そのおじさんの気持ちには到底なれないけど、おじさんの100分の1くらいの気持ちにはなれるかもしれないなと思って歌を書いた。こんな歌しかできんけど、こんな歌を唄い続けていくしかないかなと思った2011年だったね。

──それが「あの日さえなくなるのなら もうなんだってやるのに」と唄われる無題の歌ですね(『Naked Tracks 4』でも「タイトルなし」と表記されている)。

S:うん。曲をかける時に福山が「曲名は何ですか?」言うから「まだタイトルはない」って答えたら、そのままになってしまって(笑)。

──5月4日に延期されたデビュー25周年記念ライヴの東京公演が開催された時は、感慨もひとしおだったのでは?

S:それでも、ライヴをやるなんてまだ早いんじゃないかと思っていたけどね。25周年がどうのこうのっていうのは、もはや頭にはなかった。有り難い気持ちと申し訳ない気持ちがない交ぜになった感じだったね。ただ、花田(裕之)やSAICO、TOSHI-LOWがお祝いに駆けつけてくれたのは純粋に嬉しかった。しかも、TOSHI-LOWは俺が昔着ていた赤いボロボロの衣装を貸してくれるなら出ると言い出してね。それで、髪は半剃り、眉毛もなくて、目の周りを真っ黒にしてさ(笑)。あいつはやる時は徹底的にやるんだよ。おいしいとこ持っていきやがって(笑)。

──「それでも自分には唄うことしかない」と立ち直るまでには、やはりかなりの時間を必要としましたか。

S:うん。やっぱりすぐには立ち直れなかった。音楽は優先順位として衣食住の後に来るものだからね。俺の中では、6月くらいかな、「POWER STOCK」に参加した頃から少しずつ気持ちが落ち着いてきた。「POWER STOCK」を企画した人の中には地元で肉屋をやっている若い子がいて、後でヤスオから「あの肉屋の子がSIONさんに肉を送りたいと言ってます」なんて言われたんだけど、お前、それどころじゃないだろ!? って(笑)。もちろん気持ちは充分嬉しいんだけど、店も全部津波に流されてしまったわけだからさ。もうね、凄まじいよ、あの前向きなパワーは。自分が恥ずかしくなるくらいのパワーだった。

──その後、節電が叫ばれた夏には「FUJI ROCK FESTIVAL」にも久々に出演されましたね。

S:スマッシュのボスの日高(正博)さんにはデビュー前に凄くお世話になってね。ちょっとしたボタンのかけ違いでずっと会わなかったんだけど、一昨年の「朝霧JAM」で再会したんだ。『龍馬伝』の撮影の後に寝惚け頭で現場入りしたら、日高さんがテントまで訪ねてきてくれてさ。その顔を見た途端、俺は涙が出てきてね。口をきいたのは26、7年振りだった。何だろう、俺にもこういう人がいるんだなと思ったよ。とても嬉しかった。

──年末に松田さんとアコースティック・ライヴ・ツアーを敢行するのも、もはや定例化していますよね。代官山UNITでSIONさんを見ると、今年ももう終わりだなと実感しますし。

S:松田さんと2人でもう109歳になっちゃったよ。マルキュー・コンビだね(笑)。

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SION宅録アルバム『Naked Tracks 4〜同じ空の下、違う屋根の下で〜』

Now on sale
SION-0004 ¥3,500 (tax in)
*インターネット通信販売とライブ会場での販売のみの限定アルバム。

LIVE INFOライブ情報

SION & The Cat Scratch Combo Live Tour 2012

■東京公演
SHINJUKU LOFT 35TH ANNIVERSARY
公演日:2012年4月14日(土)
会場:新宿LOFT
OPEN 17:00/START 18:00
料金:前売・立見¥4,500+1Drink/当日・立見¥5,000+1Drink
プレイガイド:チケットぴあ(Pコード:162-967)、ローソンチケット(Lコード:79954)、e+、新宿LOFT店頭
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

■名古屋公演
公演日:2012年4月20日(金)
会場:アポロシアター
OPEN 19:00/START 19:30
料金:前売・立見¥4,500+1Drink/当日・立見¥5,000+1Drink
プレイガイド:チケットぴあ(Pコード:162-863)、ローソンチケット(Lコード:48209)、e+、JAILHOUSEモバイル
問い合わせ:JAILHOUSE 052-936-6041

■大阪公演
公演日:2012年4月22日(日)
会場:umeda AKASO
OPEN 17:00/START 17:30
料金:前売・立見¥4,500+1Drink/当日・立見¥5,000+1Drink
プレイガイド:チケットぴあ(Pコード:162-753
問い合わせ:清水音泉 06-6357-3666

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