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INTERVIEW

トップインタビュー遠藤賢司(2012年1月号)

「ちゃんとやれ!えんけん!」と「夢よ叫べ」は究極の言葉

2012.01.05

 歌を歌い始めた時からずっと自分の音楽に嘘をつかず、43年間ひたすらその創造魂を表現してきた「エンケン」こと遠藤賢司が、約2年ぶりのニューアルバム『ちゃんとやれ!えんけん!』をリリースする。タイトル曲をはじめ、新録された「夢よ叫べ ―2012―」まで全10曲、そのどれもに自身の心を削る音をギリギリまで込めたこのアルバムは、いつも通りのエンケンに違いないが、大震災と原発事故で絶望に打ちのめされた私たちにとっては、心の奥深くを奮い立たせる音として響いてくるはずだ。今、この時代にとってもたいへん重要である本作品について、エンケン自身に語っていただいた。(Interview:加藤梅造)

人間のDNAを振り返った時に一瞬で人類の創世まで戻る音

──約2年ぶりのニューアルバムが完成しましたが、アルバムを作ろうというきっかけはあったんですか?

 今回はエレキギターをものすごくやりたくなったんだよね。エレキのアルバムを作りたいなと。最近のライブでもエレキの曲が増えてきていて、まず「ちゃんとやれ!えんけん!」が曲としてできたんだけど、その曲名がやっぱりアルバムのタイトルになったんだ。いつアルバムを作ろうというのは決めてないけど、アルバムを作りたくなる躁の状態が2年ごとに来るのかもしれないね(笑)

──ちなみに一番最近にできた曲は何だったんでしょうか?

 「心の奥まで抱きしめて」は録音の1週間ぐらい前にできたのかな。俺はマカロニ・ウエスタンやフラメンコが好きなんだけど、やっぱり昔の日本のポップスが好きなんだよね。郷ひろみとか田原俊彦とか松田聖子とか。郷ひろみが好きだって言うとへんに誤解する人もいるけど、俺は誤解されてもいいんだ。だっていい歌手だから。ものすごく上手いよ。特に昔の曲がいいけど、最近ではアチチ(「GOLDFINGER '99」)が凄いよね。だから「心の奥まで抱きしめて」はマカロニとスパニッシュ・ギターとアチチが混じった感じになっているね。

──確かに昔の歌謡曲っぽい懐かしさがある曲でした。

 形だけ向こうの洋楽みたいにしたものがロックだとは全然思ってない。そういうのは嫌なんだ。「国際化してますか? 私は日本人じゃないみたいでしょう」って言いながら生きていく国って最低だと思う。俺はみんなが語っているようなロックや音楽はほとんど聴いているよ。だけどそんなことわざわざ言わないよね。知ってて当たり前だから。それよりもっと大事なものがこの国にはあるだろうと。三波春夫とか岡本太郎とか、それが日本人の血なんだから。もちろんニール・ヤングやボブ・ディランは好きだけど、だからといって彼らに負けたとは一度も思ったことはない。そういう意味で俺は自信過剰なんだ。でも、日本中の一人一人がそうあるべきだと思う。

──エンケンさんの歌には「俺はいつでも最高なのさ!」というテーマが一貫してあると思いますが、今回のアルバムではそれを特に感じました。

 今までもずっとそうやってきたんだけど、今回は特にそれを荒っぽくやったという感じがする。何度も曲をやるといろいろ直したくなるんだけど、今回はそれをやめたんだ。作った時の原初の叫びの方が重要かなと。

──特にエレキの荒っぽい音は、ライブで聴いた時の感じそのままで、アルバムで言うとライブ盤の『不滅の男 遠藤賢司バンド大実況録音盤』に近い印象でした

 エレキでも生ギターでもそうだけど、心を削る音が聴きたいんだ。削る時のざらざらって音を。なんでかっていうと、それは自分の心、創造魂に直に繋がる音だから、それをいっぱいに溢れさせたいんだよね。今度のアルバムではエフェクターは一切使ってなくて、ギターをアンプに直接繋いで、間にはシールドがあるだけ。だからライブ盤っぽいのかもしれないね。

 あとコンプレッサーも使ってない。コンプレッサーで音を整えるとみんないい音になっちゃうんだけど、それはどっかで嘘だなって思うんだよね。やっぱりその人が出したそのまんまの音をアルバムにするのが一番正しいんじゃないかな。俺は音で絵を描こうと思ってるんだ。簡単に言うと、岡本太郎だと思ってくれてもいいけど。もちろん失敗した音や迷っている音もあるけど、ちゃんとできた時の音は何十億光年をも包む音だよね。人間のDNAを振り返った時に一瞬で人類の創世まで戻る音。それは未来永劫だから。それを表現したいんだ。

──今回のアルバムでいうと4曲目の「ア!ウ!」は、そういった原初の音に近づこうという曲になっていますよね。

 いや、近づこうというのではなくて、今その瞬間がビッグバンなんだよ。今、ここ。過去も未来もなくて「今」を描きたいんだ。だから「俺は地球で初めて叫んだ男」というのは今のことを歌っているんだよね。もっと端的に言えば、言葉のない時代に人間が「ウ!」っと発した瞬間が創作の原点だと思っている。古代人がアルタミラ洞窟の壁を「ウウッ」と削った時、それはその人にとっての言葉だよね。それを音にしたいんだ。それはどんな仕事でもそうだよ。俺はそういうものしか見たくないんだよね。

俺は何のために生まれて来たんだろう…

──アルバムにはいつものエンケンバンド(湯川トーベン B./石塚俊明 Dr.)やアイラブユー(大塚謙一郎 B./森信行 Dr.)のメンバーの他に、山本恭司さんと満園兄弟(英二 Dr.&庄太郎 B.)が参加しているのが目を引きました。1曲目「エンケンがやってくる!」などは、90年代のロックを知っている人ならエンケン+ワイルド・フラッグという布陣で興奮しました。

 この曲は初め「帰ってきたケンちゃん」というタイトルだったの。眼の手術をして帰って来た時にしみじみ作った曲で、「帰ってきたぞー」って俺に対して言ってる曲(笑)。それで曲が出来上がった時、なんとく「エンケンがやってくる!」の方が合ってるかなって。まあ、どっちでもいいんだけど(笑)。恭司君とは「東京ワッショイ」の頃、渋谷のワルツで共演したのが最初なんだけど、実はそのずっと後に聞いた話で、佐野史郎君と恭司君は高校の同級生で、一緒に「本当だよ」を演ってたそうなんだ。だから、そういう昔からの縁があったんですね。あと、恭司君のお父さんは俺の「夢よ叫べ」が凄い好きなんだって。それは俺にとっても誇りだよね。

──今作はアルバムタイトルも「ちゃんとやれ!えんけん!」で、これは前から訊きたかったんですが、遠藤賢司から見た「エンケン」という人がいるんでしょうか?

 そう言われても困るな…。多分、人前で音楽を演じている時と自分の部屋にぽつんといる時の差はあるだろうね。俺は家にいる時は、一人で本を読んだり猫をいじったりしてる事が多いんだけど、そういう時は遠藤賢司で、曲を作る時はやっぱりエンケンなのかな。ステージや音楽に関してはやっぱり力の入れ方がまったく違うんだろうね。どっちも大事なんだ。一人でぽつんといる時は何か考えている時だから。

──6曲目の「もうちょっとだけ頑張ってみようかな ―2011年3月14日月曜晴れ―」は、エンケンさんが一人でぽつんといる時の心情がそのまま歌になっている感じがしました。

 うん、絵柄的にはそうだね。あれがあっての爆発だと思うんだ。最初からワーっといくんじゃなく、それが根底にあったほうがいいものが作れるんだと思う。俺は両極端だから。

──この曲は日付が入っている通り震災直後に作られた曲ですが、ある意味、今回のアルバムはこの曲から始まっているようにも聴けると思います。「俺はもう歌なんか歌えない」っていう言葉が象徴している通り、絶望の淵から歌っているような。

 もちろん日本中が絶望してたと思うけど、今から遡ると確かにこの曲が俺のビッグバンになっているかもしれない。だから今回は曲順を決めるのが大変だったね。2日ぐらい徹夜で考えた。MDに入れて曲順を何度も変えて聴いてみて。それでこの曲は自然と6曲目にきたんだね。最後の曲かなとも思ったんだけど、やっぱりあそこなんだよ。A面とB面に分けるとすれば、あそこからB面になるのかもしれない。

──ちょうどアルバムの中心に位置する曲だとも言えますよね。僕は3月21日のB.Y.Gでのライブ(「ひとりぼっちの純音楽その16〜弥生」)で初めて聴いたんですが、時期的にも状況的にもすごくシンクロしました。

 この曲は歌詞の通りで、俺は何のために生まれて来たんだろう…と。でも、みんなそう思ったんじゃないかな。だからこのインタビュー記事を読んでいる人には絶対この曲を聴いて欲しい。これは3月14日の話で、可愛がっている墓場の猫のみいこが、いつもサクランボの木の下でお昼寝しているんだけど、おなかを見たらポコっと膨れてるんだよ。ちょうど放射能の被害が発覚した頃だけど、そのおなかを見てなんか悪いことをしたなって思ったんだ。こいつは何にも悪いことをしてないのに。そして郵便屋さんのバイクの音がトコトコトコトコとして、いつもはうるさいと思うんだけど、家の前に止まって、ポストにポトって郵便物を落とした。それがなんていい音なんだろうって。その時、あぁ、生きるってことは凄いことなんだなって思って、普段は絶対しないんだけど、ドアを開けて「ありがとう」って言ったんだ。そしたらその郵便屋さんも泣きそうな顔でこちらを振り返って「あっ、どうも」って。きっと心細かったんだよ。「俺、このまま終わっちゃうのかな」って思いながら仕事してたんだろうね。

 俺、友達とよく散歩したりするんだけど、とにかくこんなことは夢なんだから、もうすぐ皆んなでお花見に行こうって思った。これはそういう歌なんだ。こんなひどい事は夢だと思って、自分の中から振り払いたかったんだろうね。でもその後の3月21日のコンサートが終わって外に出たら、雨がボツって手に当たったんだけど、それがものすごく熱かったんだよ。今でもその熱さを思い出すね。その時は相当大量の放射能が降ってきたらしいから。この曲のように、言葉を並べていって、その情景を歌にするのってすごく難しいんだけど、それを素直にどこまで追求できるかが、俺は物作りの一番の原点だと思う。こいつは何を言いたいのか?を、どれだけ素直に形にできるかがそいつの創作力だと思うけど、そういう意味でこれは創作力の原点で、自分でもよくできたなと思う。でも本当、自分に言いたかったんだね。音楽はそうだと思う。他人にでなく「自分に」言いたいかどうかだよ。

──あの頃はほとんどのコンサートが中止になっていた時期ですが、3月21日のB.Y.Gは僕にとっても特別なライブになりました。お客さん全員がそうだったと思いますが。

 あの日のコンサートは忘れられない。正直、あんなにお客さんが来てくれるとは思っていなかった。いつでも来てくれる人は同志なんだけど、あの日は特にそう思った。俺にとって大事なコンサートだったな。あんなに命を考えたことはなかったかもしれない。中止にしようという話もあったけど、俺はかえってやるべきだと思ったんだ。それはまず俺のためだね。決まった仕事だからお客さんが一人でもいたらやるべきだと。それと、その日の収益は赤十字に送ることにしたんだけど、今まで俺は絶対そういうことはやりたくなかった。自分を食わせるためにプロとしてやってるんだから、こういうことは最初で最後にしようと。だからそれは来てくれた人のおかげだと思う。その人達のお金だよね。身銭を削って来てくれたお客さんの大事なお金だから、大事に使って欲しいよね。赤十字は。

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遠藤賢司 / ちゃんとやれ!えんけん!

MDCL-1523 3,150yen(tax in) / 2012.1.11 IN STORES

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(収録曲)
1.エンケンがやってくる!
2.俺が死んだ時
3.ブルースに哭く
4.ア!ウ!
5.心の奥まで抱きしめて
6.もうちょっとだけ頑張ってみようかな ―2011年3月14日月曜晴れ―
7.為に、音よ言葉よ俺の心に突き刺され
8.ちゃんとやれ!えんけん!
9.夢よ叫べ ―2012―
10.美しい女

LIVE INFOライブ情報

「祝!生誕65周年 “遠藤賢司 第三回純音楽祭り”」

1月13日(金) 
【出演】遠藤賢司 / 満園兄弟(英二[Dr] , 庄太郎[B])
Ⅰ部ゲスト:大槻ケンヂ / 戸川純(+ライオン・メリィ[Pf])
Ⅱ部ゲスト:山本恭司[EG]
Open 18:00 / Start 19:00
Charge ADV.¥4000/DOOR.¥4500
Place:渋谷クラブクアトロ
 
 
「生誕65周年!それがどうした!『ちゃんとやれ!えんけん!』CD発売記念ひとり旅」ツアー開催!
2月4日(土)沖縄・那覇:桜坂劇場 ホールA
2月16日(木)京都:拾得
2月17日(金)大阪・十三:ファンダンゴ
2月18日(土)名古屋・今池:得三
2月25日(土)大分:アトホール
2月26日(日)福岡・天神:The VooDoo Lounge
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