おぼつかない足取りのままマイペースに活動を続けてきたtoddleも結成から早9年。屈指の名盤と誉れ高い『Dawn Praise the World』から実に4年振りとなるサード・アルバム『the shimmer』が新緑の季節に遂に発表となる。これまでと同様にプロデューサーの吉村秀樹(bloodthirsty butchers)、エンジニアの植木清志から成る"チーム☆とどる"の強力なバックアップの下、気負わず背負わず制作に打ち込んだ末に生まれたのは陰影に富んだ情趣のある逸品だ。本来の持ち味である瑞々しい爽快感はとどめつつも、描写される対象は暗闇の中でちらちらと灯が点る心象風景。憂いを帯びた歌とタイトで乾いたアンサンブルの調和がとにかく素晴らしく、このバンドには似つかわしくない"円熟"という言葉すら思わず脳裏に浮かぶ。黄昏時、眼下に広がる街灯の明かり、見上げれば無数に煌めく星屑たち。それらを心の中で浮かんでは消える微かな光になぞらえたタイトル・チューンはとりわけ出色の出来。極端に健全な人もいなければ極端に陰鬱な人もいない、人は誰しも喜怒哀楽を日夜繰り返す。突き抜けた陽光の下ばかりにいるわけでもなければ、漆黒の闇の中に絶えずいるわけでもない。だとすれば、微かな光="the shimmer"とは日常を生きる人間の心情を的確に象徴したものだと言える。そして、その光は一篇の歌となって僕たちリスナーの心の深淵におぼろげながら希望を与えてくれるのだ。(interview:椎名宗之)
然るべきタイミングに作れて良かった
──よくよく考えてみると、今回発表される『the shimmer』は内野さんが加入して以降初めてのアルバムになるんですよね。
内野正登(ds):そうなんですよ、実は。
──気が付けば前作からもう4年も経っていたというマイペースぶりが如何にもtoddleらしいですけど。
田渕ひさ子(vo, g):最初、僕も媒体向けの紙資料に「前作から3年」って書いてたんですけど、よーく数えてみたら“あれ、4年だ!”と気付いたんですよ。自分でもよく判ってなかったんです(笑)。
小林 愛(vo, g):その間もカツカツすることなく、マイペースにライヴをやってたよね。月に1回あるかないかのペースで。
──前作発表を口火に活動を加速させていこうとは思いませんでしたか。
江崎典利(b):もちろん、出した直後は思ってましたけどね。
田渕:ただ、前任のドラマーがレコーディング終了と同時に里帰りしちゃったし…。「帰るのはアルバムを作ってからにして!」ってお願いしたんですけど。
──重い腰を上げてアルバム制作に取り組もうと思ったきっかけは?
田渕:“そろそろかな…?”って思って。とは言いつつ、なかなかスタジオには入れなかったんですけどね。
小林:“そろそろ…”が2年くらい続いてたしね。
田渕:“○月からスタジオに入ろう!”と決めていたのがだんだん延びていって、去年の10月くらいにようやくレコーディングに入れた感じですね。
──リーダーであるひさ子さんが3人をけしかけて引っ張るようなことは……なさそうですね(笑)。
田渕:「レコーディングをやろう!」って言うだけ言ってみてはいたんですけどね(笑)。でも、無理にスタジオに入って録っても、多分そんなに良くなかっただろうなって思うんですよ。だから然るべきタイミングに作れて良かったのかなって。
江崎:そうだね。“録るべき時が来た!”って感じで。
田渕:あと、レーベルが変わったりとか、いろいろあったりもして。
──そう、本作を機にさり気なくメジャー・デビューを果たすことにもなるんですよね。
田渕:言われてみれば(笑)。まぁ、今の時代、メジャーでもインディーでもあまり変わりがないですからねぇ。
小林:でもやっぱり、嬉しいよね。
田渕:うん。自分たちを取り巻く環境は変わりがないけど、メジャー流通になって今まで以上にCDが手に取りやすくなるのは嬉しいことですね。
江崎:とは言え、まだバイトは辞めないほうがいいよね?(笑)
田渕:バイトは辞めれないかなぁ(笑)。
──内野さんが正式に加入して早3年半が経ちましたが、もっと長く在籍しているような感じもありますよね。
内野:自分でもそう感じてますね。ずっとこのバンドにいる気がしますよ。何となく入って、何となくいて今に至るって言うか。toddleとは前のアルバムが出た時にswarm's armで一緒にツアーを回ったり、mooolsのイヴェントに違うドラマーの方で出てもらったりとかしていたんですけど、シェルター・ツアーズにtoddleが出ることになって「ドラムを叩いてもらえないか?」とオファーをもらったんです。それからはズルズルですね(笑)。
江崎:まぁ、このバンドではまだペーペーの若僧ですけどね(笑)。
小林:そっかぁ。toddleは実年齢じゃなくて入った順にエラいんだ? 芸能界みたいだね(笑)。
──内野さんのキレのあるタイトなドラムがまず前作との大きな相違点だと思うんですが、ドラムが変わると歌の節回しも若干変わってくるものですよね。
田渕:そうですね。でも、何回か一緒に音を合わせているうちに“前からいたよね?”みたいな感じになったし、ウッチーは歌のことを考えながら叩いてくれるから凄く唄いやすくなりましたね。
江崎:歌にもベースにもすぐ寄り添うけど、寄り添ったかと思えばあっちのほうを向いたりもするよね(笑)。
内野:あの、汗を拭いていいですか?(笑) いつも全体を意識して叩ければいいなと思ってるんですけど、最初の頃はそんな余裕が全然なかったですね。叩いていると、もう疲れて疲れて。BPMも速いし、ちょっと手を抜くとすぐに怒られるし(笑)。
江崎:やっぱり手を抜いてたんだ!?
内野:いや、抜いてない! 抜いてない!(笑)
田渕:だって今、「手を抜くと」ってハッキリ言ったじゃん(笑)。
内野:そうじゃなくて、“ちょっと疲れたな…”とか思ってると「何やってんの!?」って言われるって言うか。