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INTERVIEW

トップインタビューLOFT & master+mind presents『Triple Colors Night』開催記念特別対談 ガラ(MERRY)×高野 哲(nil / THE JUNEJULYAUGUST)

絶えず何かを発信し続け、境界線を軽やかに突破する姿勢

2011.03.18

ギタリストを目指しながらもヴォーカルになった理由

──ロフトはジャンルの色付けもタブーも一切ありませんからね。カテゴライズなんていう偏狭な尺度は端から皆無だし、どんな音楽性であれいいものはいいというのがすべての基準ですから。

高野:ロフトはすでに確たるブランド力があるけど、そこに胡座をかいてないのが俺は好きなんだよね。ブランドに甘んじていたら、阿佐ヶ谷ロフトAみたいに実験性の高いライヴハウスなんて作らないでしょう?

──そう言って頂けると嬉しいですね。ちなみに、キノコホテルの今日のライヴはどうでしたか。

高野:俺は搬出があってモニターでしか見られなかったんだけど、やっぱり上手いなと思って。俺は好きですよ。

ガラ:僕も好きですね。古き良き昭和歌謡の匂いもあったりして。

高野:構築されたものをぶっ壊すのがロックだと俺は思うし、キノコホテルにはそれを感じるよね。

──ロックの醍醐味ということで言えば、僕はnilのステージを見てトリオ編成特有のスリリングさとダイナミズムに改めてシビレたんですよね。

高野:ロック・バンドはトリオだなと俺はずっと思っていて、だからnilもTHE JUNEJULYAUGUSTもトリオなんだよね。

ガラ:僕らのジャンルだとトリオは珍しいし、だからこそ余計に鮮烈さを感じるのかもしれません。

高野:なるほどね。俺がトリオで好きだったのはザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスなんだけど、手本としているバンドはいないんだよ。あのね、実はそもそも俺はギタリストを目指していたんだよね。でも、当時はギター・ソロが弾けなくて挫折して、いろんな経緯があって歌を唄うことになったわけ。…これ、話が長くなっちゃうけどいいかな?

──どうぞどうぞ(笑)。

高野:18歳の時に新宿3丁目にあるバーでバイトしていたことがあって、その店はバンドマンの吹き溜まりみたいな所だったの。そこで働くあるギタリストと仲良くなって、ある時こう言われたんだよ。「実は今やってるバンドのヴォーカルが気に入らない。俺が唄ったほうがマシだと思うから、お前がギタリストとしてウチのバンドに入れ」って。いきなりチャンスが巡ってきた! と思って喜び勇んで練習に行ったら、そのバンドのベースの陰口が聞こえちゃったんだよね。「何でお前がギターを弾かないで唄ってるんだよ!? しかもあんな小僧を連れてきやがって!」ってさ。こっちは“何だよ! こっちは一生懸命10曲コピーしてきたっていうのに!”って思ったし、それっきり練習には行かなくなった。でも、バーのバイト先ではそのギタリストから「お前、何で練習に来ないんだよ!?」って言われる。それで「俺、もうギターやめるわ。だからあんたのバンドの練習には行かない」って答えたの。「ギターをやめて何すんの?」って訊かれたから、「役者か歌かな」って適当に答えたわけ。そしたら、「歌やるの!? 俺、メンバーに説得されてギターに戻るから、ヴォーカルのポジションが空いてるんだよ。お前、唄いに来い!」って言われて(笑)。

──それで引くに引けずに唄いに行ったと(笑)。

高野:うん。そしたら、俺に陰口を叩いたベーシストが「凄いヴォーカル連れてきたな!」って言ってるのが聞こえてさ。

──それもまた間接的に聞いたんですか(笑)。

高野:そこで調子に乗って唄うことになったんだよね。だからギターはずっと弾いてたんだけど、ひょんな流れで唄うことになっちゃって。で、MEGA8BALLの後にいろいろあってnilを始めることになった時にいいギタリストがいなくてね。上手い下手じゃなくて、俺みたいなギタリストはいないかな? と思ったんだよ。だったら自分で弾けばいいじゃないかってことになってさ。それでトリオ編成になったわけ。

好きでやっている以上、リスクや不安は覚悟の上

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──ただ、その後のZIGZOは4人編成でしたよね。

高野:まぁいろいろあってね(笑)。でも、ZIGZOが解散した後に“やっぱりトリオは面白かったな”と思って、またnilをやることになった。トリオってホントに奥が深くて面白いんだよ。

ガラ:必要最小限で挑む編成ですからね。僕は今の5人が理想型なんです。自分がフロントに立って唄うとしたらこんな人たちにいて欲しいっていうのが今の編成なんですよ。

高野:ガラ君はプロデュース能力に長けているから必然的にそうなったんだろうね。他の4人を取りまとめる手腕もあるんだと思うし。俺はやれることは何でも自分でやってみようと思う性格だからトリオに落ち着いた気がする。

──トリオにせよ、5人編成にせよ、バンドをやっていて一番カタルシスを得る瞬間とはどんな時ですか。

高野:ツアーをやり遂げた時の達成感かな。ファイナルを終えた時の最初の一杯とか(笑)。まぁ、取り組む出来事それぞれに違う喜びがあるからね。レコーディングだと、マスタリングの最後にメンバー全員揃ってラージ・スピーカーで音を聴く瞬間とかさ。メンバーそれぞれに満足感に浸ったり、涙目になるヤツとかがいたりして。ライヴだったらお客さんやスタッフの笑顔だったりするし、どの瞬間が一番かは決められないよね。

ガラ:いい曲を書けた瞬間の興奮とかもありますしね。次の日になって冷静になると、そこまでのものじゃなくてボツにすることもありますけど(笑)。好きで始めたことだからこそ、常に責任感を背負ってジャッジを見極めなくちゃいけないと思うんです。

高野:唄い手はいつ何時でも矢面に立たされているからね。俺もカタルシスが得られない時は眠れないし、唄い手というのは因果な商売だよ。俺自身、わがまま放題な時もあったし、それで嫌われることもあったけど、バンドとしてメンバー全員で何かを得たいと方向転換できてからは流れが変わったね。こっちは作家だからある程度主導する部分はあるんだけど、そこで一方的なやり取りをするのではなく、お互いにしっかりと話し合いつつ同じ何かを共有できればいいなと思ってる。

ガラ:その部分では、哲さんは僕の何十倍も苦労されている気がしますね。僕の場合、同じ矢面に立つと言っても歌だけだし、みんなの演奏に乗っかって唄っているだけですから。哲さんは唄いながらも演奏する側の気持ちまで判るじゃないですか。

高野:でも、歌もひとつの楽器だからね。それが歌であれ楽器であれ、自分がやりたくてやってることだし、そこに境目はないでしょ。別に神様に指名されてやってるわけじゃないし、自分から立候補してやってることだから、背負うべきリスクや不安は当然覚悟の上でやってるよね。バンドがいつまで続けられるかとか、こんなにCDが売れない時代に今ある状況をどう打破していこうかとかいろいろあるけどさ。バンドを続ける上で心が折れるような時が来たら…そうだな、高卒だから大学受験してみようかな(笑)。

──大学で何を学ぶつもりですか?(笑)

高野:お爺ちゃんが弁護士だったから、司法試験を狙ってみようかなと(笑)。まぁそれはいいとして…そうだ、これを言おうと思ってたんだ。事前対談の時にガラ君がZIGZOを好きだったと言ってくれたでしょ? それがあったから今日はMERRYのお客さんが聴く耳を持ってくれたんだろうなと思って。だから事前対談って凄くいいと思う。共演する前にお互いに考えていることが理解できるし、その上でお互いの持ち得るものをステージで存分にぶつけ合えるしね。

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