Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューハイスイノナサ

均質化されつつある世界に、新しい価値の想像を

2010.11.02

 前作の『街について』から1年ぶりとなるハイスイノナサの新作『想像と都市の子供』。以前AFRICAEMOと対談をした際に、「今年の夏はアルバム作りに追われていた」と言っていた作品が、ついに世に出ることになった。「均質化しつつある文化を意識した上での新しい価値の創造」をコンセプトに作られた今作は、彼らが観ている世界をより鮮やかに映し出しているように思う。
 また、目まぐるしく変わるメロディーや拍子の耳馴染みの良さは前作以上であり、一見聴く人を選ぶ音楽なのではないかと思われがちだが、ポップスや歌ものの要素も取り入れ、間口の広い音楽として昇華しているのではないだろうか。
 今回はメンバー全員にお話を伺うことができた。ハイスイノナサは、実はすごくフランクな人達が集まっているということはしっかり書き留めておきたい。(interview:やまだともこ)

何とか理想に辿り着きたいと思っていた

── Rooftop9月号でAFRICAEMOとハイスイノナサの対談の際に、中村さんが「夏を全てレコーディングに捧げた感じ」とおっしゃってましたが、それがこの作品になるんですか?

中村圭佑(Dr):そうです。今年の夏の全部を注いだ作品です。

── 制作は何月ぐらいから始まっていたんですか?

照井淳政(Ba):6月末ぐらいからです。

中村:第1期と第2期で分けて録ったので長くなっちゃったんです。第1期で2曲録って、第2期で4曲録って。

田村知之(Key):途中で曲作り込みの休みを挟んで、3ヶ月ぐらいひたすら作ってました。

── 前作の『街について』でお話を聴かせて頂いた際に、時間の制約があって大変だったとおっしゃられていて、今回紙資料を見ると2曲目の『均質化する風景』に「今回の中で最も急いで作った曲」と書かれてましたが、時間が許すならいくらでも作業をしていたいという感じなんですか?

照井順政(Gt):今回の時間がないと前回の時間がないは意味合いが違うんです。『街について』の時は、曲はあったんだけどレコーディング自体に時間がかかった。今回は、レコーディングは順調に進んだけど、曲を作る時間がなかったんです。曲を作るにあたり、自分の中の理想に辿り着けたら次に行きたいと思ってるんですが、辿り着くまでに時間がかかってしまったんです。だから、曲が出来たのが録音の当日というのがいくつかあって、他のメンバーが楽器を録っている間に歌詞を書いたりもしました。

── その短時間でよくこれだけの歌詞になりましたね。

照井(順):本当はもっと言葉の研磨をしたかったんですけどね。頭にイメージがあったから何とか歌詞にすることが出来たという感じです。

── 当日に曲があがって、アレンジはどうしたんですか?

照井(順):レコーディングをする日に朝早く集まって、ジャムしながら作ったりもしました。

中村:『mass』の途中に展開があるんですけど、「ここのキメやってくれ」って言われたのがその日の朝でした。

照井(順):みんなに苦労をかけたなと思います。音録りをしている間に歌詞を書いて、歌詞が出来ていたら別の作業をして、同時進行でいろいろなものを進めていかないと間に合わないみたいな状況になってしまい…。

── レコーディングもバラバラに録ったんですか?

照井(順)『ensemble 1』は一発録りでオーバー・ダブをしたんですけど、他の曲は全部バラ録りです。

中村:2階がレコーディング・スタジオ兼ミックス・ルームで、3階がロビーというスタジオを使ったんですけど、誰かがレコーディングしている時は、ロビーでそれぞれがパソコンを広げて作業をやるという感じでした。

照井(淳):歌を録っている時に、ロビーで田村が鍵盤を録っていたり。

中村:田村さんが音を作って兄(照井 淳政)がミックスして、俺が打ち込みを作りながら順政に聴いてもらって。

田村:これってこんな感じでいいんだよね? って話しながら。

── 凄まじい作業だったんですね。

照井(順):こうなったらいけないんだなっていう勉強になりました(笑)。

── 理想は?

照井(順):それはもちろん、曲は随分前に完成していて全員が聴いて理解して、それぞれの解釈が入ってアレンジも練って、演奏によってその曲のイメージがさらに広げられるような状態で録るということですよね。レコーディング当日の雰囲気はもっと余裕があって、誰かは耳を休めておいて冷静に判断ができるとか。今回はみんな切羽詰まっていたんです。追いつめられて、よくわからなくなっていた部分もかなりありましたし、それでネガティブな空気が流れた時もあって、曲もネガティブに聴こえてきたりして。あとあと聴くとそんなことはなかったんですけど。

田村:終わった直後はグッタリしてましたね。

── エンジニアさんからは最終的なジャッジをする時に、アドバイスをもらったりするんですか?

照井(順):エンジニアさんも、レコーディングする曲が当日出来上がるなんてことは初めてだったと思うんです。それに加えて、前日に録った曲の最後のところにセクションを足したいって録ったりもして、けっこう戸惑ってらっしゃいました。

── エンジニアさんは、前作と同じ方になるんですか?

照井(順):同じです。だから、今回はいろいろな面でものすごく勉強になりました。前作を作った時に、次はこうしたいという頭の中にある理想を追いすぎてしまったのが、一番の原因なんです。そこに何とか辿り着きたいと思っていたら8ヶ月ぐらいが経っていて、そろそろ次の作品の準備をしなければ間に合わないという段階に来て気持ちを切り替えたんです。焦って次のステップに行こうとするのではなく、まず『街について』が出来た時にこうすれば良かったと思った部分を今回はちゃんとやっていこうって。元ネタがあった曲もあるんですけど、それで『想像と都市の子供』に入れた6曲が出来上がりました。

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演奏力が表現力に繋がっている

── 照井さんが曲作りをされていた期間、みなさんはどんな作業をされているんですか?

中村:ファーストをリリースして以降、バンドの演奏力を上げたいという課題があったんです。知名度も上げていきたいし、今年の2月にZepp Sendaiのイベントに出演させて頂いたりもしたんですけど、見られる機会も増えていくだろうと考えた時に、これだけ構築的で難しい演奏をするバンドなので、演奏力に磨きをかけないと上には行けないんじゃないかってかなり追い込んで練習をしました。

照井(淳):個々人のスキルアップは考えてましたね。

── どんな曲が上がってきても対応できるような力を付けておきたいと?

中村:それもあります。

照井(順):うちの曲は演奏力がないと説得力が出ないので、曲のために表現力を高めたいとも思ってましたし。

照井(淳):イメージを具体化するためには、演奏のレベルを上げることが第一条件だと思ったんですよ。

── みなさんそれぞれ思うところがあって、これまでのお話を聴いていると時間がなかったとおっしゃってますが、私は今作を聴いた時に、どれだけ緻密に時間をかけながら作ったんだろうとは思ったぐらいでしたよ。

照井(順):演奏は、今の自分たちができる最大限は出し切る事は出来ていると思います。曲をもっと早く書きたかったという自分自身への不満はありますけど、演奏への不満はないですし。いきなり言ったのによくここまでやってくれたなとも思います。

鎌野愛(Vo):これが1年前の私だったら出来てなかったかなと思いますよ。この1年間ライブもたくさん経験して、前よりもだいぶ早いペースで録る事ができました。

照井(順):録り自体にかける時間はすごく短くなりました。どうやったら効率的かというのも前回のレコーディングでわかっていたし、鍵盤とかスタジオで録らなくても良いものは家で作業を進めてもらって。

── 猛練習の結果も出ているんじゃないですか?

照井(順):基礎力は上がっているかと思います。でも、猛練習と言っても甲子園を目指してる高校球児ぐらい練習したかと言われたらしてないと思います。最後の夏の間は高校球児以上に頑張ったと思うけど(笑)。僕らは小手先は器用なので、ちょっと聴くと上手そうに聴こえるんですよ。でも、深い部分で言うとまだまだ達してないところもあるんで頑張らないとと思っています。

── また前作はもっと無機質な印象を受けていたんですけど、今作は人肌感が出ているような気がしました。

照井(順):人肌感が出ているとは、よく言われるようになりました。それは、声の質感という部分が大きいと思います。毎回鎌野さんが歌うことを意識して曲を作っていますが、鎌野さんは裏声を使えばどんな音域でもいけるので、これまでは楽譜として良いものというか音の並びの良さを重視して曲を書いていたんです。でも、今回は、鎌野さんの声を活かすメロディーを書きたいと思って書いたので、具体的に言えば裏声が減ったんです。もともと地声の方が良い声だなと思っていたので、そこを気をつけてメロディーを作っていきました。

── 鎌野さんは前回に比べると歌いやすいですか?

鎌野:はい。どの曲も歌いやすいです。だから、セカンドの曲を歌った後だとファーストの曲がもう歌えないんじゃないかってぐらいです(笑)。自分自身で聴いても今回のボーカルのほうが好きですし、曲とも馴染んでいる気がしてます。

── ボーカルが楽器としても成立しているというのは、みなさんの曲では特に感じますよ。混ざり合い具合が絶妙なんですよね。

照井(順):でも鎌野さんが加入した当時は、こういう形になるとは想像していなかったんですよ。歌い方もだいぶ模索しましたし。

鎌野:最初はボーカルを楽器だと思えなくて、もうちょっと歌っぽい歌を歌わせて欲しいという思いが強かったです。でも、みんなで話し合いを繰り返して、自分でハイスイノナサの曲を聴いてみると、ボーカルの役割がわかってきて今の感じになっていったんです。

── それぞれが、ハイスイノナサの音楽の気持ちの良い部分がわかり始めているとも言えますね。だからアレンジに関して言えば、ここでこうやってアコギが入るのか! とか、ここでそう来るか! みたいな部分が多くて、すごく楽しく聴かせて頂きました。

照井(順):ただ、今回のアレンジは僕がイメージしたものをみんなにやってもらったという感じなので、それぞれがわかってきたという話とは別になるんです。もっとみんなの意見も取り入れながら研磨していきたいんですけどね。

── そういった反省は次に活かされ、さらにステップアップできた作品が仕上がりそうですね。演奏力は確実に上がっているわけですから。そういう意味でもこの作品は作る意味がありましたね。

照井(順):演奏はもっと良くなっていくと思います。

── 今回の作品って、すごく情報が詰まっているんですけど、トータルで聴くと6曲で20分ぐらいしかないんですよね。

照井(順):それはコンセプチュアルなこととかではなく印象としての好みなんですけど、短い方がいいなということのほうが多いので、今後もその傾向は続くのかなと思います。

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LIVE INFOライブ情報

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11.23(tue)京都MOJO
w)Yamon Yamon/ Luminous Orange/and more
11.25(thu)渋谷CLUB QUATTRO
w)Yamon Yamon/People In The Box/cinema staff

『想像と都市の子供』リリースツアー
12.12(sun)高崎club FLEEZ
2011.01.08(sat)名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
2011.01.09(sun)大阪LIVE SQUARE 2nd LINE
2011.01.22(sat)仙台Hook
2011.02.05(sat)渋谷O-nest

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