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INTERVIEW

トップインタビュー鶴見済が語る!!宮下公園ナイキパーク化問題

大企業のやることに疑問を持て!

2010.11.01

渋谷駅からほど近い場所にある宮下公園。渋谷区と大手スポーツ用品メーカーであるナイキジャパンが結んだネーミングライツ契約によって「宮下NIKEパーク」へと生まれ変わる事に、大きな反対運動が起きている。連日の報道で知っている人は多いのではないだろうか。公園に住んでいた野宿者の排除という問題だけではなく、議会や区民、そして利用者に充分な説明を行わないまま計画を進めて来た区長や一部議員の手続きの不透明さや、そもそも公園とはいったい誰の物であるのかという、日本人にはあまりなじみのない議論など、様々な問題が注目されている。宮下公園では、ホームレスやその支援者だけでなく、実に多様な人たちが公園の公共性を訴え、ユニークな活動を行ってきた。今回は、宮下公園のナイキパーク化に反対し自身も反対活動に関わる鶴見済氏にお話を伺った。
(インタビュー:Naked Loft 石崎俊一)

みんなのものが企業に私物化されてゆく

──宮下公園ナイキ化反対の運動に何故興味を持ったんですか?

三年くらい前から頻繁にデモに行くようになっていて、デモの発着場所として宮下公園をよく使ってたんです。そこでアフターパーティまでやるわけですよ。で、そういうことやるのが難しくなっちゃうので、これは反対しなきゃならないと思ったんです。そうじゃなくても商業スペースが大きくなることで、都市の中で野宿者とかお金のない人たちが、公共の場所から追い出されることや、企業がみんなの物を私物化していくとか、そういうことが、日本ではあまり言われてないけど、世界中で大きな問題になっていて。自分もそれを意識していたので、宮下公園を使っているいないに関わらず反対していたと思いますね。下北沢でも再開発やジェントリフィケーションに反対して、Save the下北沢という運動が起きてますよね。築地もそういうことになるのかな。なんかいろんな新しい物を作ることでごちゃごちゃした古い物を排除していくみたいな、そういうのっていたるところで起きていて。しかもナイキでしょ。俺はそういう多国籍企業がやってる悪さについては、特に大問題だなと思っていたので、ここには色んな問題が凝縮されているなと、分かりやすい問題だなと思いました。

──具体的にどんなことをしたんですか?

2008年くらいから守る会が活動を始めて、デモを凄くたくさんやっていたので、それに参加してました。9月には行政代執行(行政による強制撤去)があったので座り込みしたり、代執行の前にすでに公園が封鎖されてたんですけど、その封鎖に反対する集会に行ったり。あとはまぁ雑誌に記事書いたり、宮下公園でやったシンポジウムで話したりとか。あとはあれですね、ガーデンを(笑)。今年の三月に、コミュニティ・ガーデンっていうみんなで使えるような六畳くらいの畑を作って、そこで取れた野菜とかハーブとかを使ってサンドイッチを作って宮下公園の夏祭りで売ったり、みんなで食べたり、そういう活動をしてました。

公共の場が侵略される事に何を対峙させたらよいか

──公園で野菜ですか?(笑)どうしてそんなこと思いついたんですか?

結構色々考えましたよ。そのコミュニティ・ガーデンっていうのがアメリカを中心に割と盛んなんですよ。コミュニティ・ガーデンって普通に言われるのは、都市のほうでみんなで野菜作ったりして、人と人のつながりを作るみたいなものなんですけど、もともとはニューヨークのど真ん中でゲリラっぽく、空き地になって荒れた場所に勝手に花や木を植えちゃったのが始まりなんです。そういうのをゲットー・ガーデンと呼んだりするので、宮下ゲットー・ガーデンっていう名前をつけて、誰でも勝手に参加できる畑だよとネットで呼びかけて、色んな人が種をまいたり耕したりできるようにしたんです。そしたらほんとに色んな人が参加してくれて、たくさん野菜やハーブや花が植えられて、デコレーションを作ってくれた人もいました。なんて言うか、本来生きるってそういうことじゃないですか。自然と人とか、人と人が繋がって、そこから食べ物作ってみんなで食べるとか。本来の生きる営みというか。ナイキが公共の場所を侵略してくることに何を対置させるかみたいな、頭でっかちなアイデアなんですけど(笑)。ほとんど収穫もないくせにね。世の中ではそうやって、金儲けの勢力が公共のものを食い荒らしているわけで、それに対抗するために、我々の本来の生きる営みみたいなものをそうやってぶつけることで、この宮下公園で何と何が対立しているのかっていうことが、何となくイメージで伝わればいいなぁと。あくまで自分の考えている対立なんですけど。まあ、そこまで大げさなこと言わなくても、野菜育てるの面白いからやりてえなくらいの気持ちでもあったわけですが。

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宮下ゲットー・ガーデンで生き生きと育つ野菜たち。ほうれん草や水菜、バジル、ミント、しそ、ネギなど様々な野菜が植えられていた。

──ゲットーガーデンもそうですが、宮下公園の活動はとてもユニークなものが多いですよね。例えばナイキショップの前で行った抗議のファッションショーなど、日本ではこういったスタイルの抗議活動はとても珍しいんじゃないでしょうか?

画期的だと思うんですよ。ヨーロッパとかアメリカだったら、自分たちが抗議したい店で唄歌ったり、みんなで踊りを踊ったり、芝居みたいなことやったりすることもあるんだけど、日本じゃないんだよね。

──AIR(アーティストインレジデンス)というアーティストの集まりがアート作品を作ったり、色んな活動をしていたんですよね。

AIRや守る会を中心に集まってきた人たちは、ほんとに色んな事をやってましたよね。カフェとか、上映会とか、DJパーティやライヴもあった。海外のアーティストが住み込んで、そこで滞在製作したり、シルクスクリーンのワークショップを開いたりしてたのも面白かった。それに自分も参加して、海外の人たちと繋がりを持つことができた。あそこで起きていたことは記録に残ってるから、のちのち凄いってことになっていくんじゃないかな。自由大学みたいなこともやってたけど、公園でやるってこと自体が凄いですよ。こういうDIYな活動って、そのもの自体はあんまり抵抗運動とか直接行動にならない類のもので、反対運動は反対運動でこういう活動とは別にやるものみたいな感じが自分はしてたんです。だけど、宮下公園ではそういう活動をすることによって、公園がナイキ化する工事そのものを止めてるっていう。両者が一体になって何かやらかしてるのがいいと思った。

弱い人のために頑張っている人を弱い人が叩く社会

──宮下公園の問題もそうでけど、身近な社会の疑問に無関心な人が増えているように感るのですが……。

宮下のことをやってたりすると、反対運動をしてるだけで、なんだお前らは、みたいな文句を言ってくる人たちが沢山いるんですよ。プロ市民だとかなんだとか言って。特にネットの上で多いんですけど。そういうのって2000年代に入ってから特になんだけど、小泉政権の時に広まってしまった悪い傾向なんですよ。反対運動してる奴っておかしいよねとか、ついていけないよねって、そういう風にみんなが思えば、行政とか大企業にとって凄く都合がいいんで、彼らがそう誘導したと思うんだけど。疑問を社会に対して持ったとしても、反対運動に参加できないんじゃ、それを強く打ち出すことも出来ないし、そうやって「反対なんかしてんじゃねーよ、このプロ市民」とか言われたら、言うことすら出来なくなっちゃうでしょ。それは凄く良くないです。ほんとは左翼的なものって、弱い人とか虐げられてる人の側に立って、世の中のおかしいところに反抗してるものだと思うんで。それにケチをつけまくるなんて、まんまとやられちゃってるわけで、そのせいで、行政とか大企業が進めることに対抗できなくなっちゃってる気がしますね。
小泉政権が弱者切り捨ての政策を進めてたんだけど、それを弱者である金のない人だとか、切られる側の人たちが支持しちゃったことが、今の弱者切り捨て社会を招いてしまった。弱い人のために色々と頑張ってる人に向かって、弱い人がガンガン文句を言うみたいなことを安易に、行政に誘導されるがままに、やってきちゃったというか。「小泉最高」とか言っちゃったりして。だから弱い人が弱い人を叩くみたいなバカなことはやめて、まとまって自分たちの生きやすい社会のために抵抗した方がいい。野宿者が追い出されちゃうのだって、お金のない人が冷遇されてるってことなんだから、おかしいじゃんって、俺達金のない人間損じゃんて言うべきところなんだけど、そういうことにはなってないですね。

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行政代執行(強制撤去)に反対して座り込みをする人たち。この後、100人以上の役人や警察官等により排除され、野宿者の住居やアーティストが作った公園の公共性を訴える作品などは撤去された。

受動的な喜びから、自ら作り出す喜びへ

──宮下公園のナイキパーク化問題が自分には関係ないと思う人も多いようですが、公共の場である公園が企業に利用されるというようなことは、やはり全ての人に関係する問題ではないでしょうか。

結局ナイキ化してしまうと、スポーツ施設ばっかりのナイキのお客さんのための公園になっちゃうわけですよ。大企業が金儲けのためにする活動っていうのは、公共のスペースを奪うだけじゃなくて、公共のスペースを消費者のための空間にどんどん変えていって、お金のない人たちをどんどんそこから追い出していくんです。企業の活動って、我々の人生の細部にまで入り込んでいて、実は気がついたら我々は企業が与えてくれるものを受け取るようなことしかしてない。新しい携帯が出たとかいってそれを喜んで買うとか、新しい公園作ってくれないかなとか、そういう受動的なことばっかりが喜びじゃないですか。企業が売ってる物を買うために、自分が企業でもっともっと働くとか、人生の中に占める企業の経済活動の比重ってのが大きすぎるんですよ。そういうことにもっと自覚的になって、楽しみも自分で見つけていったほうがいいと思いますよ。娯楽に限らずDIY的な生き方をもっとやっていかないと、ほんとに企業の手のひらの上で遊ばされてるだけになっちゃうでしょう。特に企業のやることにはなかなか批判的になれないというか、マスコミは広告料をもらってるんで批判しないから、世の中全体がどんどん企業の言いなりになっちゃってます。そこは気をつけたいですね。

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宮下公園ナイキパーク化問題にについての詳しい情報は下記のサイトにその経緯と問題点が詳しく書いてある。様々な活動の記録や最新の情報も載っているので興味のある方は是非ご覧頂きたい。
みんなの宮下公園をナイキ公園化計画から守る会
http://minnanokouenn.blogspot.com

 

プロフィール  鶴見 済(つるみ・わたる)
1964年 東京都生まれ。フリーライター。現代日本社会における「生きづらさ」をテーマに執筆活動を行っている。ロフトには90年代後半から様々なトークイベントに出演。デビュー作『完全自殺マニュアル』はミリオンセラーとなり大きな反響を呼んだ。他に『ぼくたちの「完全自殺マニュアル」』(編著)『無気力製造工場』『人格改造マニュアル』『檻のなかのダンス』(以上太田出版)『レイヴ力』(共著、筑摩書房)等がある。

鶴見済 公式ブログ
tsurumi's text → http://tsurumitext.seesaa.net

※Rooftop誌面に掲載されている文章と表現が異なる部分がございますが、こちらが正しいものとなります。読者の方々、インタビューにご協力頂いた鶴見様にご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。今後チェック体制を強化し、再発防止に努めてまいります。

 

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