あらゆる音楽的要素を貪欲に呑み込み、独自の表現として昇華させるムックの音楽性がここへ来てまた面白いことになってきた。最新シングルの『フォーリングダウン』は煌びやかなデジタル・ビートに彩られた躍動感溢れるディスコ・チューンで、従来のムックのイメージを覆すには充分すぎる作品だが、それはまだ序の口。通算10作目となるオリジナル・アルバム『カルマ』では無機質なデジタルの音色と有機的なバンド・アンサンブルを無理なく共存させており、バンドが軽やかなステップでネクスト・レヴェルに到達したことを雄弁に物語っている。結成から13年を経てもなお、鮮度と革新性の高い作品を作り続けている彼らの創作意欲が尽きる気配は微塵もない。決して衰えることのないその表現欲求の源泉を知るべく、主催イヴェント『えん6』のリハーサル直後のメンバー全員を直撃した。(interview:椎名宗之)
バンドっぽいかどうかの括りはない
──ニュー・シングルの『フォーリングダウン』は大胆なまでにデジタルな音色が施されていますが、これは作詞・作曲を手掛けたミヤさんの今の嗜好がダイレクトに反映しているということでしょうか。
ミヤ(g, cho):そうですね。この手の音楽を普段からよく聴いてるし、DJをやったりもするし、その辺の影響です。
──曲の大元は、『カルマ』に収録された“Organic Edition”なんですよね?
ミヤ:元のヴァージョンはそれです。シングルのほうはデジタルなアレンジにして、アルバムで元に戻した感じですね。そのヴァージョンの違いが面白いかなと思って。
──シングル・ヴァージョンのアレンジは、トラックメーカーであるSPACEWALKERS(Wall 5 & GEE)の尽力も大きそうですね。
ミヤ:SPACEWALKERSとはかれこれ3年くらいの付き合いで、こういう曲をやる時は一緒に作らせてもらってるんですよ。僕は本職ではないので、曲の方向性を伝えた上で自分の持っていない音ネタを出してもらうんです。それを好きに使ってもらう感じですね。もう何度もタッグを組んでるし、「ベースはこういう感じで」とかあまり遠慮せずに自分のやりたいことを伝えてるんですよ。向こうの出方も判ってきたので、ドラムとかのトラックに関しては何も言わなくてもいい感じのものが上がってきますね。
──シングルの初回生産限定盤にはハウス・ミュージック色の濃い『約束』の“Warehouse Flavored Mix”が収録されていますが、この“Warehouse”というのは?
ミヤ:ハウス・ミュージックの発祥の地とされているシカゴの伝統的なクラブの名前なんです。その店のDJが独自のミックスをした音楽が“Warehouse Music”と呼ばれて、後にハウスとして世界的に広まったらしいんですよ。ただ単に“Electro Mix”と名付けるのも面白くないと思って、“Warehouse”という言葉を使ってみたんですよね。
──『約束』は、『カルマ』のほうに“Original Lyric ver.”も収録されていますね。
ミヤ:“Original Lyric”と言っても、一文字しか変わってないんですけどね(笑)。
逹瑯(vo):シングルは“僕等”にしたんですけど、オリジナルは“僕は”だったんですよ。アニメのタイアップに合わせて“は”を“等”に変えたんですよね。それを戻しただけなんですけど(笑)。
──“TV edit”と“Original Karaoke”まで含めると、『約束』はこれで5ヴァージョンあることになりますね。
ミヤ:そうなりますね。リミックスはここ最近僕が好きでよくやっていて、一個前に出したシングルをミックスするのが自分の中で旬と言うか。楽しみながらやってますね。
──バンドという体でありながらDJ的発想の曲作りをできているのが、常にジャンルを突き抜けるムックらしいですね。
ミヤ:“こういうのはバンドっぽくないかな?”とか、そういう括りを今は設けてないんですよ。それに、音源でエレクトロっぽいことをやっても、ライヴになると生音に差し替わるじゃないですか。海外でもそういう試みをしているバンドは多いし、ライヴで生に差し替わった時の格好良さが音源とはまた別にあるんですよね。それに倣って僕等も楽しんでる感じです。
──生音の差し替えは、特にリズム隊のお2人が苦労される点じゃないかと思うんですが。
SATOち(ds):でも、ムックの場合はそこまでドラム・トラックがムチャしてるのはないんですよ。R&Bの人達は32ビートをガンガン入れてくるので、それを生で叩こうとすると大変ですけど、ムックのリミックスは人間味のあるトラックだから生にしやすいんです。
──『フォーリングダウン』のシングル・ヴァージョンも、全編無機質なデジタル・サウンドながら有機的な人力の温かみが上手く出ていますよね。
ミヤ:そうかもしれません。シングル・ヴァージョンのドラム・トラックはSPACEWALKERSがまとめて組んでくれたんですけど、いつも生ドラムの音を渡して、それを差し替えてもらうことが多いんですよ。ゼロからドラム・トラックをお願いすることはないし、向こうもバンドのリズム感を踏まえてくれているんだと思います。
“カルマ”はどこにでも降り掛かる言葉
──ニュー・アルバムの『カルマ』なんですが、構成がよく練られたコンセプチュアルな作品ですよね。7曲目の『業(カルマ)』を境にして、前半はデジタルの要素を汲み入れた楽曲が、後半は非デジタルの楽曲が並べられていて。
ミヤ:単純に、打ち込みっぽい曲とそうじゃない曲が判りやすく出来上がってきたんですよね。それを混ぜ込ませるよりも、前半と後半とで流れを作って曲順を考えたんですよ。間にインストを入れることは決めていたので、そこで世界観を繋げられないかなと思ったんです。
──“カルマ”=“業”とは仏教の基本的概念である“梵”を意訳したもので、“成した行為によって後の結果が決まってくる”という法則のことですが、かなり壮大なテーマですよね。
ミヤ:カルマっていう言葉は語感先行で浮かんだんですよ。最初は単純に響きがいいなと思って、意味を調べたら“成した行為は自分に返る”と。善悪に応じて果報が生まれて、それは死んでも失われることなく、輪廻転生に伴って代々伝えられていくという。その意味が歌詞の内容にリンクしてくる部分があったので、そういうタイトルにしたんです。まぁ、それほど深い意味として付けたわけじゃないんですけど。
──一見重い命題のようですけど、要するに因果応報の“因”、つまり“行為”というありふれた意味の日常語ですしね。
ミヤ:仏教とか、宗教的な意味合いは全く判らないんですけどね。自分達の書いた歌詞に込めた深い部分に通ずるところはあると思うんですけど、もっと単純で日常的なことなんですよ。
──『A.(アンサー)』の歌詞の中に“例えば今日が何時かの答えだろう?”という一節がありますが、これもカルマに言及していると言えますよね。
逹瑯:昨日までの蓄積で今日があるし、カルマっていうのはどこにでも降り掛かってくる言葉なんですよね。
──ムックはメンバー全員が作曲に携わっているのが大きな強みだと思うんですけど、楽曲ごとに各人の特性がよく出ていますよね。ホーンを導入したファンク・チューン『サーカス』や『フォーリングダウン』の通常盤に収録されている『蛍』は、作曲を手掛けたSATOちさんらしいアッパーな感じだったり。
SATOち:『サーカス』は、まず単純にブラスを入れたかったんです。それを前から言ってて、タイミング的にやれそうなのでトライしてみたんですよ。メロディではなく、ブラスで曲を明るい感じに持って行ければいいなと思って。ちゃんとそんなふうになったので良かったです。
──『堕落』や『フォーリングダウン』の初回生産限定盤に収録されている『月の夜』はジャズ・テイストに溢れた楽曲で、幅の広いムックの音楽性を雄弁に物語っていますね。
ミヤ:ジャズっぽいアレンジは昔から好きで、ちょこちょこやってはいたんですよ。ただ、本格的にピアノをフィーチャーしてやったことがなくて、ジャズっぽいアプローチが昔の自分達っぽいなと思った部分もあったのでやってみたんです。○○風じゃなく、真面目にガッツリと取り組んでみたのが『堕落』と『月の夜』なんですよね。
──何の先入観もなく聴けば、ジャズ・カルテットが演奏しているように聴こえるんじゃないかと思いますけど。
ミヤ:まぁ、イメージで作ってるし、決して本物ではないんですけど、そういう音楽を楽しんでる感じが伝わればいいかなと思いますね。
──YUKKEさんが作曲を手掛けた『ポラリス』で使われているストリングスは生弦ですか?
YUKKE(b):はい。贅沢なレコーディングをやらせてもらいました(笑)。
──胸を締め付ける流麗なメロディとストリングスが絡み合って昂揚感を与えているのは『約束』と相通ずる部分ですよね。
ミヤ:『約束』はフォーク的なムックのメロディだと僕は思っていて、『ポラリス』はそれともまた違うYUKKE独自の世界観なんですよ。滅多に出てこないけど、たまに顔を出す感じと言うか。
──『ポラリス』で聴かれるフルートの音色は、『ルパン三世 カリオストロの城』の劇伴っぽい印象も受けましたけど(笑)。
YUKKE:原曲はもっと“カリオストロ”っぽかったんですよ(笑)。最初は弦を使いたいと漠然と考えていて、雰囲気や情景が見える曲にしたかったんです。バンド以外の音で雰囲気を足すことをやってみたかったんですよね。それで生弦を使ってみたんですけど、結果的に聴いた人によってそれぞれ情景が浮かぶ曲になったんじゃないかと思いますね。