前号での仲野 茂への単独インタビューに続き、"THE COVER SPECIAL"開催を記念したスペシャル・インタビューをお届けしよう。この1月2日にめでたく50歳と相成った仲野 茂に加え、アナーキーよりもデビューは9ヶ月遅いが茂よりも年齢はひとつ上な元ルースターズの池畑潤二、今回"THE COVER"初参戦となる勝手にしやがれの武藤昭平という当代きっての両ドラマーが顔を揃えた新春大放談だ。代替不可なヴォーカリストとドラマーの関係性とその資質の違い、小滝橋通り沿いにあった旧ロフト時代から連綿と続く"THE COVER"という一大イヴェントの魅力、純真な気持ちでカヴァー楽曲を演奏する醍醐味など、興味深い逸話がてんこ盛り。老兵は死なず、ただ消え去るのみだなんてとんでもない。老いてもなお血気盛ん、とっつぁんパワーはしかと健在だ。若手バンドマンに発破を掛ける存在として、"THE COVER"出演陣にはいつまでも目の上のタンコブであり続けて欲しいと思う。あなた方のやんちゃな後ろ姿が後進をどこまでも勇気づけるのだから。(interview:椎名宗之)
バンドの核は歌とドラムで決まる
──今回、武藤さんが"THE COVER"に初参戦されるわけですが、茂さんが武藤さんと面識があったのは少々意外でした。
武藤:僕はもちろん茂さんのことを一方的によく知ってましたけどね(笑)。今年、茂さんがSDRをやられた時に対バンさせて頂いて、その時に改めてきちんと連絡先まで交換させて頂いたんです。
仲野:俺は勝手にしやがれのことは名前だけ知ってて、聴いたことはなかった。初めはパンク・バンドかと思ってたら、ホーン・セクションをフィーチャーしたバンドで意外だったね。しかも、初めて会った時の武藤はソロのシンガーで、その後にレッドシューズのイヴェントで出くわした時もソロ名義だったから、いつも会う時はドラマーじゃなく唄い手としてなんだよ。ドラムの印象ゼロだからね。
武藤:今回、オーダーを頂いた流れでは主にドラマーとして参加しますけどね。
仲野:ホーンがいると楽しいから、いつか"THE COVER"に呼べればいいなと思うんだけどさ。
──片や池畑さんは"THE COVER"最多出場とのことですが。
池畑:ああ、そうなんだ? 初参加したのは...渋公?
仲野:...だったっけか?
池畑:初期のロフトにも出た記憶もあるけど...まぁ、こんな感じです(笑)。
武藤:池畑さんは同郷(福岡県北九州市)の先輩で、僕のドラムの師匠と言っても過言じゃないんですよ。憧れだったし、もの凄く影響を受けてます。とにかく音がデカいっていうのがまず第一ですね。僕が中学、高校くらいになってバンドを組んだ頃はめんたいロックが凄く流行ってたし、先輩の家に泊まりに行くと、子守歌みたいにルースターズ、ロッカーズ、モッズとかが流れてたんですよ。しかも、レアなデモ・テープとかが(笑)。
池畑:俺は勝手にしやがれのライヴを何度か見に行ったことがあるし、事前に音も聴いてたね。綺麗な仕上がりだと思ったよ。歌とドラムが一体となっていて、唄う人からすれば理想的な仕上がりになってた。ライヴも歌が常に寄り添ってる感じで良かったね。
──武藤さんに"THE COVER"の出演依頼が来た時は、召集令状が遂に来たかという感じでしたか?(笑)
武藤:赤紙が来たぞ、みたいな?(笑) いやいや、全然そんなことはなくて、凄く光栄でしたよ。
池畑:俺としては、いいドラマーが増えて嬉しかったね。
武藤:ただ、名だたる方々と一緒にやらせて頂くので、やっぱり凄く緊張しますよね。
──武藤さんクラスのバンドマンが"THE COVER"の出演者の平均年齢を下げているというのは、今の若手に粋のいいバンドマンが少ないということなんでしょうか。
仲野:いや、それはただ単に俺が若い連中を知らないってだけでさ、いきなりひとっ飛びで若手の連中のとこへ行くのも難しいんだよ。ムッシュ(かまやつひろし)なんかそうじゃない? ああいうフットワークの良さは俺も大好きなんだけど、今回みたいに武藤とかがいて、そこからまた下の世代へ人脈が広がっていくのが俺の好みなんだよね。でも、実際は意外とみんな繋がってて、レッドシューズのイヴェントの時も武藤とウエノ(コウジ)が一緒にやってたりして、そういうとこで繋がっていけてるのはいいなと思うよ。ドミノのようにパタパタパタって繋がりが生まれていくのが理想的だよね。
──ドラマーだけを見ても、HARISSの高橋浩司さんやVOLA & THE ORIENTAL MACHINEのアヒト・イナザワさんといった中堅所が新しい血として近年の"THE COVER"には参加されていますよね。
仲野:でも、"THE COVER"をあんましやらないから、その間にみんなが老けていくっていうのがあるよね(笑)。
──ジョン・レノンがビートルズの解散直後に発表した『ジョンの魂』でドラムを叩いたのはリンゴ・スターだったし、ヴォーカリストとドラマーの関係性は代替不可なところがありますよね。
池畑:ビートや間合いが歌には付いてくるから、唄い手にとってはそういう部分があるだろうね。昭平みたいに自分で叩きながら唄うのは凄くバランスがいいと言うか、野球で言えばキャッチャーみたいなものだよね。自分でサインを出して、ピッチャーを牽引したりして。
仲野:唄い手と一番近い感覚なのはドラムだよね。パッと見、きっちり叩いてるふうだけど実はそうでもねぇみたいなさ。
武藤:コード・ワークを覚えなくていいのがラクなんですよ(笑)。
池畑:バンドの核となるのは歌とドラムで決まるからね。音のデカさやバンド自体のサウンドもそこで決まるし。
武藤:ヴォーカルのリズムとドラムのリズムがダメなバンドは、どう考えてもダメなんですよ。その軸さえブレなければ、少々チューニングがズレていても何とか成り立つものなんです。それくらいヴォーカルとドラムは一番大切なパートなんですよね。
仲野:長くやってるとさ、間合いが判るようになるんだよね。ゲタカルビはドラムがコロコロ変わるから、初めはちょっと唄いづらいわけ。でも、それを楽しめなきゃなって思えるからね。歌のタイミングが一番合うのはやっぱりコバン(小林高夫)なんだけどさ。たとえば、高橋君はクラッシュ・フリークだから、クラッシュのカヴァーをやるとばっちりクラッシュなわけ。でも、俺たちがクラッシュをやってても結局はアナーキーになるから、リズムが全然違うんだよ。高橋君が叩く『SAFE EUROPEAN HOME』はコバンと全然違うし、これがオリジナルなんだなって思うけど(笑)。ただ、唄いやすいのはどっちかって言われりゃコバンなんだよ。クオリティとしてどうかって言うのはまた別モンだけどね。
ドラマーの日本的な受け身の美学
──同じドラマーでも個性の違いを楽しめるのが"THE COVER"の醍醐味のひとつですよね。
仲野:うん。ホント違うからね。同じ8ビートでもスネアのタイミングとかがさ。池畑の場合はヴィジョンが凄いよね。自分の歳と置かれてる立場を見極めて、やれることとやりたいことのバランスを上手く取ってるって言うか。パッと見は頑固な職人風情なんだけど、実はいろんなことを凄く考えてるしさ。バンドが崩壊した時に、スタジオ・ミュージシャンとして打って出たのが俺はロックっぽいと思ったね。27で死ぬとか退廃的な美学もロックの格好良さではあるけど、俺たちが本来パンクやロックにシビレたのは"関係ねぇだろこの野郎、やりてぇことをやるんだよ!"っていうブチ上げだよね。できるかできないかはどうでもいい。まぁ、池畑はそれができちゃうとこがまたイラッと来るんだけどさ(笑)。歳が一個下っていうハンデはしょうがないけど、芸能界じゃ俺のほうがルースターズより半年先輩だからね(笑)。
武藤:そればかりはどうにも拭えませんよね(笑)。
仲野:ロックって体育会系のイメージがあるけど俺は大ッ嫌いで、年功序列なんて関係ねぇじゃんと思ってたわけ。池畑はそこのこだわりを最後までずっと持ってたからね。それがまたイラッと来るんだよ(笑)。
武藤:池畑さんとレコーディングをご一緒させて頂いたことがあったんですよ。僕は別のセクションでドラムを叩いていて、池畑さんのセクションを見学させて頂いたんですが、凄いグルーヴなわけです。今のテイクでも充分いいんじゃないかと思うんだけど、池畑さんは「いや、もう一回」って何度も叩き直すんですよね。自分一人だけの問題じゃなくて、バンド全体で理想とするグルーヴが出るまでは何度もやるんですよ。ドラムは特にパンチ・イン&アウトができない楽器だから、曲の頭から最後までのグルーヴなり物語をドラマーは一発でキメなくちゃいけないところがあるんです。他の楽器なら、ちょっとミスをしても後から修正ができるけど、ドラムはそれができませんからね。そのノリが出るまでの池畑さんの姿勢を見て、僕は凄く勉強になったんですよ。
池畑:"何かおかしいな?"と思うと、俺はベースにやり直しをさせることが多いね。元の流れを変えずに、ちょっとベースを変えると上手く修正できることが多い。
──いろんなバンドのインタビューをしていると、温厚で責任感があって、俯瞰で物事を捉えているのはドラマーであることが多いんですよね。
池畑:結局、そうしないとバンドが成り立っていかないからね。ドラマーが自分勝手に好きなことをやってると絶対に続かないしさ。
仲野:この間、土屋昌巳とスタジオで会った時にマイケル・ジャクソンとかローリング・ストーンズの格好良さみたいな話をちょっとしたわけ。あいつらが背負ってる責任感は地球レヴェルだけど、俺たちの責任感は所詮日本レヴェルっていうさ。レコーディングって、ドラムがキマりゃほぼOKなんだよ。結局、俺たちがやってることはドラムのOK待ちなわけ、仮歌でも何でも。さっき武藤が言ったみたいに、ドラマーは一発でキメなくちゃいけないし、ドラマーの責任感たるや凄いと思うよ。唄い手なんてちゃらんぽらんだからね。唄うだけ唄って、「おう、先に帰るわ」だもん(笑)。
──高橋まことさんによると、ドラマー同士が集う"ドラム呑み会"があると。フラカンのグレート前川さんが主催する"ベース呑み会"もあるし、リズム隊は社交性の高い人が多いですよね。
仲野:"唄い手呑み会"なんて一切ないからね(笑)。
武藤:ちゃんとドラムをやってる人って、人の意見を聞く人が多いと思うんですよ。だからこそバンドが成り立ってるし、ドラマーは技術だけじゃ絶対に成り立たない。だから責任感があって、社交的な人間性が求められるんじゃないですかね。
池畑:ドラマーは"こうじゃなきゃいけない"っていう制約がそんなにないと思うし、いろんなバンドマンとやっても成り立つよね。プレイの基本とかは個人レヴェルでどこまで考えてるかっていうのはあるけど、人それぞれだし、人の数だけドラマーがいるって言うか。もちろん、ヴォーカルもそうなんだけどさ。ただ、ヴォーカルはドラム以上に選ばれた資質みたいなものがあるし、それはまた違う意味でいろんなものを背負わなきゃいけないよね。
仲野:70年代はギタリストの斜に構えた格好良さがあったけど、ドラムの格好良さっていうのはまた違うとこであるよね。攻撃じゃなくて受け身の美学って言うか、凄く日本的な気がするよ。
武藤:確かに、ドラムって武士道に通じるところがあるかもしれないですね。ドラムに限らず、出た音やフレーズに人間性が出てて、最初に耳に付くのはヴォーカル、その後に乗っかりものの楽器、最後にドラムなんだけど、ドラムが変わると支配感みたいなものがガラッと変わるんです。人前には出ないけど決定的な支配力がドラムにはあるんですよ。