Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー中島卓偉('09年4月号)

10年にわたる疾走の果てに辿り着いた“心から音楽を楽しむ”境地

2009.04.01

 「次の10年は"一番新しいライヴにしか興味がない"って答えたい。昨日のことよりも明日のことを答えたい。そういうスタンスにもっともっと近づけたいんですよ」。インタビューの終盤に今後のライヴについて尋ねた時、中島卓偉は力強くそう語った。その言葉の中にこそ、中島卓偉という傑出したシンガー・ソングライターの本質がある。色褪せた過去を振り返ることなく、常に今この瞬間を精一杯楽しんで生きること。未踏の雪原を踏破するかの如く、新たな表現の可能性を絶えず模索し続けること。デビューから10年、彼は頑なにその姿勢を貫いてきた。『TAKUI NAKAJIMA Anniversary 1999-2008 BEST YOURS』と題された初のベスト・アルバムにはそんな疾風怒濤の10年の軌跡が凝縮されており、"TAKUI"時代から変わることのない卓越したメロディ・センス、あらゆるジャンルを貪欲に呑み込んだサウンド・アプローチ、そして記名性の高い純真な歌声が存分に楽しめる。本作を発表したことで20代の10年間に区切りをつけた彼は、孔子の"30にして立つ(三十而立)"という『論語』の言葉通りに真の意味で自立した音楽活動に目下勤しんでいる。この先の10年に向けて、中島卓偉の軽やかな助走はすでに始まっているのだ。お楽しみはこれからである。(interview:椎名宗之)

目まぐるしくも刺激的な10年間だった

──今回発表されるベスト・アルバム『BEST YOURS』はデビュー10周年を記念する意義が一番大きいんでしょうけど、常にファンを大切にしている卓偉さんのことだから、ファンに対する感謝の気持ちもそこには込められているんじゃないかと思ったんですが。

卓偉:ファンに対する感謝の気持ちは常にありますけど、このベスト・アルバムに関してはこの10年間を一区切りする意味合いのほうが強いですね。これまで発表してきた楽曲はどれも、自分の表現欲求を満たすために生み出したものばかりですから。

──去年の夏に発表された『STARDUST VOX』である種の達成感を得たことでの一区切りなんでしょうか。

卓偉:いや、『STARDUST VOX』ですべてをやりきった感覚はないですね。今はもうすでに新たな作品の音作りに取り組んでいて、期待に胸を躍らせている自分がいるわけですよ。ただ、僕ももう30歳だし、デビューから10周年を迎えたこともあって、一区切りするにはいい時期だと思ったんですよね。

──10年という歳月を率直なところどう感じていますか。

卓偉:短くはなかったですね。いろんなことを楽しみながら経験させてもらえたし、充実していたと言うよりかは目まぐるしくいろんなことが起こり続けた刺激的な10年間だったと思います。

──20代はあらゆる知識と経験を柔軟に咀嚼できる時期でもありますよね。

卓偉:そうですね。ちょうど21歳になった頃にデビューしたんですけど、今思えば21歳なんて青二才もいいところですよね(笑)。大学を出て社会人になる年齢でもないし、世間のことなんて何ひとつ知らないところからキャリアが始まっているわけですよ。そんなふうに自分を振り返ってみると面白いですよね。

──このベスト・アルバム、10年間の軌跡を"LOVE SIDE"と"POWER SIDE"に振り分けて編纂しているところが非常にユニークですね。

卓偉:この10年の間に発表してきた曲を上手くチョイスして1枚にまとめるのが凄く困難だと思ったんですよ。発表した時期の順に並べるのも釈然としないし、何かいい方法はないかと考えていた時に、歌詞の世界観や曲調で振り分けてみようと思いついたんです。そこで"LOVE SIDE"には文字通りラヴ・ソングを、"POWER SIDE"にはライヴで映える曲をそれぞれ収録したわけです。ライヴで盛り上がるのは短い曲が多いから、"POWER SIDE"は"LOVE SIDE"よりも収録曲をちょっと増やしたんですけど、ホントは入れたかった曲がもっとたくさんあったんですよ。でも、どちらも収録時間が70分以上あるからこれが限界なんです。

──膨大な楽曲の中から30曲強を精選するのは至難の業ですよね。

卓偉:ファン投票で収録曲を決めるのがホントは一番ラクだったのかもしれないけど、それだと時期が偏って粗が出るんじゃないかと思ったんですよね。聴く人によって思い入れのある時期も違うでしょうし。4年前に野音でやったライヴ(『謝恩祭!! TAKUIすべて見せますスペシャル 1999-2005』)でも事前にアンケートを取ってその上位20曲を唄ったんですけど、思い入れは人それぞれなんだなと客観的に意識したんですよ。だから今回のベスト・アルバムは、僕自身が自信を持って選曲したものを今後に繋がる作品としてまとめようと思ったんです。

──選曲の基準みたいなものはあったんですか。

卓偉:シングルの表題曲は全部入れることと、どのアルバムからも必ず2曲はチョイスすることですね。それを頭に入れて選曲していったらちょうどこれくらいの曲数になったんですよ。

中島卓偉の名刺代わりとなるベスト・アルバム

──シングル曲が網羅されているのはいいですよね。これから卓偉さんの音楽を聴く人たちには入門編的な作品として聴けますし。

卓偉:僕自身、子供の頃からいろんなアーティストのベスト・アルバムを聴いてきましたけど、どんなアーティストでも最初に出したベスト・アルバムには愛着があるんですよね。この『BEST YOURS』は僕にとって最初のベスト・アルバムで、これから中島卓偉を知る人たちにとっては名刺代わりとなる作品だし、そういう作品で絶対にこぼれちゃいけないのがシングル曲だと思ったんですよ。

──ちなみに、古今東西のベスト・アルバムの中でとりわけ印象深いものは?

卓偉:すぐに思いつくのは、ZIGGYの『ORDER-MADE』という最初のベストですかね。それはファン投票で15曲が選ばれていて、オリジナル・アルバムを4、5枚出した後のベストなので万遍なく選曲されていたんですよ。洋楽で言うと、キッスの『DOUBLE PLATINUM』とかかな。あれも最初のベストなんですよね。逆に、ビートルズの『1』やストーンズの『FORTY LICKS』のようなここ数年の間に出たベスト・アルバムには余り魅力を感じないんですよ。それもきっと、最初のベスト・アルバムじゃないからという理由だと思います。

──ということは、この初のベスト・アルバムとなる『BEST YOURS』は卓偉さん自身もかなり愛着のある作品だと言えそうですね。

卓偉:自信を持ってお勧めできるベスト・アルバムですね。この先、僕が50歳を過ぎて銀座のクラブで呑んでる時でも、その店のお姉さんにこの『BEST YOURS』をまず聴かせたいくらいです(笑)。

──中島卓偉・第1章の集大成でもあるし、この10年間のエッセンスが凝縮しているわけですからね。

卓偉:そうなんです。入口がオリジナル・アルバムではなく、このベスト・アルバムで初めて僕のことを知ってもらっても凄く嬉しいですし。この10年、今この瞬間こそが重要なんだと信じて新しい作品作りに没頭してきましたけど、ベスト・アルバムに関してはちょっと考え方が違うんですよね。「何から聴けばいいの?」と訊かれたら「このベスト・アルバムから聴きなよ」と答えたいし、それくらい自信のある作品なんですよ。

──卓偉さんは多作で音楽性も幅広いから、新しいファンはどのアルバムから聴くのがいいのか悩むでしょうしね。

卓偉:初期の頃から好きでいてくれた人は、音楽的な変遷をいい意味で捉えてくれていると思うんですけどね。作品を発表するごとに音楽性も徐々に変化していったから、時期によって好みは分かれるのかもしれません。ただ、僕自身はこのベスト・アルバムをマスタリングしたのを聴いてもそれほど大きな音楽性の変化を感じませんでしたけどね。選んだ曲をいざ並べて聴いてみると、意外と一貫したものがあるような気がしたし。

──一貫しているのはポピュラリティの高いメロディ・センスだと思いますよ。打ち込みを大胆に採り入れたデビュー曲の『トライアングル』ですら凄くメロディアスだったじゃないですか。

卓偉:ありがとうございます。まぁ、もしかしたら音楽的な変化を感じさせる曲が入っていないだけなのかもしれないけど、マスタリングをしてもズレを感じなかったのは自分でもちょっと意外でしたね。

──ボーナス・トラックとして収録されている未発表曲『BYE BYE BYE』は、いつの時期にレコーディングされたものなんですか。

卓偉:『STARDUST VOX』を制作していた時期にレコーディングした曲なんですけど、その収録曲としてはちょっと色が合わないように思えたんですよね。『STARDUST VOX』は収録したあの12曲で完結するようなところがあったし。せっかく録った曲なのでどうしようかなと思っていたんですけど、今回こうしてベスト・アルバムを発表するのでこれはちょうどいいタイミングだなと。去年のカウントダウン・ライヴで一度披露したこともある曲で、「『BYE BYE BYE』はいつ音源化されるんですか?」というファン・レターをたくさん頂いてましたからね。その期待に応えられて良かったし、この曲が一番レトロな匂いがするのもいいなと思って(笑)。

背伸びした歌も等身大の歌も等しく唄える

──確かに、往年の歌謡曲を彷彿とさせる出来ですよね(笑)。

卓偉:最新のリマスタリングを施した最新のベスト・アルバムなのに、何で新曲が一番レトロなんだろう? っていう(笑)。ただ、これは後付けなんですけど、タイトルはこの10年にサヨナラするという意味にも取れるし、不思議な巡り合わせを感じさせる曲ではありますね。もともと歌謡曲は好きで、昔はそんな曲をたくさん作っていたくらいなんですよ。80年代の歌番組は自分の音楽的ルーツを語る上で外せないものだし、この曲にはどこかチェッカーズの初期っぽさもあると思うんですよね。いわゆる日本人らしい曲って、ドゥーワップやモータウン系のソウル・ミュージックに通じるクラシックの良さがある気がしますね。

──それこそ、この『BYE BYE BYE』には日本にドゥーワップを広めたラッツ&スターの桑野信義さんがフリューゲル・ホーンとトランペットで参加されていますしね。

卓偉:そうなんですよ。曲作りの段階からラッパが欲しいなと思っていたんです。曲調がちょっとラッツ&スターっぽくもあるし、これは桑マンさんが吹いてくれたら凄く格好良くなるだろうなと。ラッキーなことにウチの事務所のボスが桑マンさんとは旧知の間柄だったこともあって、そのツテを辿ってお願いしたら快諾してくれたんですよね。桑マンさんがスタジオに来て下さった時は、自分の持っていたシャネルズのセカンドとサードのアナログ盤にサインを頂けて嬉しかったです(笑)。

──桑マンさんは『BYE BYE BYE』を聴いて何か仰っていましたか。

卓偉:「こういう曲は大好きだよ」と。「最近はこんな曲を唄う若い子がいないし、卓偉君の若さでこの手の曲をやろうとするスタンスがいいね」と言って下さいました。あと、桑マンさんがご自宅で何度も聴いてラッパを練習していたらふたりのお子さんが一緒に唄っていたらしくて、「子供が唄えるってことは凄くキャッチーな曲なんだよ」と言って下さった時はホントに嬉しかったですね。桑マンさんとは真の意味でのコラボレーションをさせてもらえたと思うし、今回のベスト・アルバムに対する素敵な置き土産を頂いた感じがしますね。

──ボーナス・トラックとしてはもう1曲、去年の大晦日に東京キネマ倶楽部で演奏された『100万回生きたねこ』の弾き語り音源が収録されていますね。

卓偉:『100万回生きたねこ』はデビュー前にカセットで発表した『20's CALBORN』に入っていて、このベスト・アルバムの中では一番古い曲なんですよ。『20's CALBORN』の収録曲を入れない構成にすることもできたんですけど、『20's CALBORN』は'99年4月に出して、同じ年の10月に『トライアングル』でデビューするわけです。だったら『20's CALBORN』の曲も入れるべきだなと思って、その中で一番の代表曲である『100万回生きたねこ』を今の歌声で収録したんです。この曲は僕からのファンに対する置き土産ですね。

──その『100万回生きたねこ』然り、『ピアス』や『STAY TOGETHER』といった初期の楽曲の歌詞は今以上に詩的で、妙に老成した感がありますよね。

卓偉:そうなんですよね。今思えば、凄く背伸びしていたと思いますよ。"ナメられてたまるか!"という思いもあっただろうし、基本的に九州男児は気張っているものですからね(笑)。21歳の頃は30歳になった自分なんてまるで想像ができなかったし、だからこそ30歳、40歳になっても唄える歌を作ろうと考えていたと思うんですよ。それが何年か経って、今この時にしか唄えない歌を唄おうと思うようになったんですけど、いざ10年経ってみると、僕は背伸びした歌でも等身大の歌でもどちらも唄えるんですよね。この間、沢田研二さんが東京ドームで還暦祝いのライヴを6時間以上やっているのをテレビで見たんですけど、往年の大ヒット曲の数々を未だに唄えるジュリーさんが凄く格好良かったんです。そんなジュリーさんと比べるのもおこがましいですけど、僕も過去の曲を封印したことはなかったし、今もどの時期の曲でも唄えるなと思ったんですよ。昔の歌詞を振り返って照れくさく感じることは確かにあるけど、日々成長しているわけだから照れくさく感じて当然なんですよ。でも、そんな歌詞でも僕は今もちゃんと唄える。


もっと貪欲に音楽を楽しむべき

──初期のバラードの大作『mother sky』も、この先の10年でより説得力を増した歌声と共に更なる成長が期待できそうですね。

卓偉:そうかもしれません。だから、時間が経って曲自体が自分に教えてくれることもあるんだなと思って。それはこうしてベスト・アルバムを作らなければ理解できなかったことだし、凄くハッピーなことだと思いますね。

──もともとご自身の作品を日常的に聴くようなことはなかったですよね?

卓偉:基本的にはレコーディングやライヴで何度も唄っているので、余り聴くことはないですね。この先の10年は進んで聴いていこうと思ってますけど。今までの10年は常に新しい作品に目が向いていたから過去の曲はその場その場に置いてきた感じですけど、これからはそれらを時々拾い集めてみようと思っているところです。

──この10年を振り返ると、セルフ・プロデュースを手掛けるようになってシンプルな音作りにシフト・チェンジしたこと、佐橋佳幸さんをプロデュースに迎えてヴォーカリストとしての幅を広げたこと、それを経てエンターテイメント性と実験性が絶妙のバランスで共存した『僕は君のオモチャ』以降近年の充実振りと、節目と呼べるような時期がその時々であったように思えるんですが。

卓偉:TAKUIから中島卓偉に改めた時は確かに節目でしたけど、それほど強く意識したことはないですね。その時々でタッグを組んだプロデューサーやアレンジャーとの化学変化によってサウンドに違いがあるのは明確ですけど、さっきも言ったようにマスタリングの時に曲を並べてみたら意外と共通点が多かったくらいですから。確かに『POWER TO THE MUSIC』でセルフ・プロデュースになったことは大きな出来事でしたけど、その段階でもまだ模索していたわけですよ。今だってまだ模索したままだし、どんな音作りにしてやろうかという昂揚感と迷いが常に交錯していますしね。

──『BEST YOURS』の収録曲を聴くと非常にヴァラエティに富んだ作風であることを改めて痛感するし、ひとつの雛型を作るとそれをすぐに壊して次の雛型を作るようなところが卓偉さんにはあると思うんですよ。

卓偉:ただ僕は思うんですけど、日本でも海外でもヒット・チャートにランクされるシングル曲って毎週恐ろしく変動するじゃないですか。ジャンルの壁もどんどん曖昧になってきていますしね。全体の音楽シーンがそういう状況なんだから、僕はそれを受け入れて貪欲に楽しむべきだと思うんですよ。ロックだろうがヒップホップだろうが、特定のジャンルに固執することなく音楽を楽しんだほうがもっと面白くなるはずなんです。以前の僕は"次のアルバムはこんなサウンドにしたい"という気持ちが先走っていた感じでしたけど、今は"それはホントに面白いのか?"と自分自身に対して問い掛けができるようになったんですよね。心にそういうゆとりが出来てきた矢先のベスト・アルバムなんですよ。

──そういった意識の変化は、やはり30代を迎えたことも一因なんでしょうか。

卓偉:どうでしょうね。ホントの意味で音楽を楽しめるようになったとは思います。もちろん今までも楽しんできましたけど、楽曲作りやライヴで演奏することが一段と楽しめるようになりましたね。"今以上に楽しむにはどうすればいいか?"という気持ちの余裕も今はありますから。

──音楽は本来雑食性が高くて懐の深いものだし、先入観なしに聴けば感受性の幅も広がるものですよね。

卓偉:そう思いますよ。僕ももちろんクラシックな音楽は好きですけど、それを現代にどう活かすかが大事なんですよね。『BYE BYE BYE』だって曲調はクラシックだけど、音は現代のものなわけですから。つまりはそういうことなんじゃないかなと思いますね。


次の10年、もっと楽しく行こうぜ!

──その時々でやりたい音楽をやるという表現欲求に従順であり続けた10年間だったとも言えませんか。

卓偉:そうですね。10年間音楽をやり続けてこれたというのは、自分だけの力だけではなく支え続けてくれたファンの力があってこそですよね。さらに思うのは、「音楽を楽しんでます」と胸を張って言えることが凄く重要なんだということ。自分の人生なんだから、何事も自分のために事を成すべきだと僕は思うんですよね。僕自身、誰かのために音楽をやっていた時期は悩んでいた部分もちょっとあったのかもしれない。"こういうことを唄ってあげたい"と必要以上に考えながら作った曲は迷いもあったと思います。その当時の自分を否定するつもりはありませんけど、今だったらこっちが果敢に腕を掴んで引っ張り上げることもできる気がする。この10年、いい意味で自分のこだわりが取り払われてきて今に至るので、これから先はもっと取り払われて素っ裸になると思うんですよね(笑)。

──私見ですが、佐橋さんとタッグを組んだ作品の最大の成果は歌心の再確認をできたことだと思うんですよ。『雪に願いを』以降、卓偉さんの歌声が一糸まとわぬものになった印象があるんですよね。

卓偉:確かに、佐橋さんをプロデューサーに迎えて歌を録った時は心の服を全部脱がなきゃと思っていましたね。歌との向き合い方はそこで再確認できた気がします。『僕は君のオモチャ』以降は初期にやっていたようなロック・テイストを採り入れることにしたんですけど、初期の頃と明確に違うのは歌の発声法と歌詞の書き方なんですよね。レコーディングの手法が初期の頃と同じでも、佐橋さんのフィルターを通した後の楽曲はもっといいはずなんですよ。その辺りも今回のベスト・アルバムで再確認できましたね。

──目下準備段階にある新作はどんなものになりそうですか。

卓偉:まさしく準備中って感じですが、絶対に面白いものが出来るはずですよ。このベスト・アルバムを受けて次なる作品の構想が浮かんだのではなく、その構想が浮かんだからこそベスト・アルバムを発表して一区切りしようと考えたんですよ。それくらい自分の中では制作意欲に燃え滾ってますね。表現に携わる人間である以上、毎回そうでなくちゃいけないと思うんですが、今回はいつも以上にテンションが高い状態なんです。

──非常に楽しみですね。よりリアリティのある剥き出しな音楽を聴けるような気がしますし。

卓偉:僕は本が好きでよく読むんですけど、もともとは小説が好きだったんですよ。小説は物語であって、フィクションですよね。そんなフィクションのドラマティックな文章が好きだったんですけど、ある時からノンフィクションを好んで読むようになったんです。当たり前ですけど想像して楽しむ小説の世界よりも遙かにリアリティがあるわけですよ。小説の場合はその物語の世界に入り込むリアリティがありますけどね。でも、ノンフィクションは実際に起こった話だからリアリティの度合いが違う。

──九州男児はリアリティを好むものじゃないですか(笑)。

卓偉:そうなんですよ(笑)。ノンフィクションの世界を知って思ったのは、語るべき言葉はいくつも要らないんだなと。小説はありとあらゆる手法で物語の世界へといざなうわけだから言葉は巧みですけど、フィクションであるがために表現が少し遠回しなんですよね。フィクションとノンフィクション、どちらも優れた表現形態だし面白さもそれぞれ違いますけど、今の僕にとってリアリティがあるのはノンフィクションの手法なんですよ。くどくど説明するのではなく、言葉数が少なかろうが同じ言葉を何度も繰り返そうが、シンプルでリアリティを帯びた伝え方をしたいんです。『BYE BYE BYE』の歌詞だって、ホントに簡単な言葉しか使ってないですからね。実は難しい言い回しをしたほうが簡単だし、簡単な言葉を使って如何に人の耳に届く歌詞を書くかのほうが難しいんですよ。30歳になってリアリティのあるものに感動を覚える傾向にあるのは確かだし、自分が心の底から感動できるもの、楽しいと思えるものをこれからは優先していきたいんですよね。一度きりの人生、一回でも多く笑っていたいじゃないですか。できれば中島卓偉というアーティストを支えてくれる人たちにも"楽しく行こうぜ!"と今は伝えたい。『BEST YOURS』はそんな通過点のベスト・アルバムですよね。このベスト・アルバムを出せたことで、"次の10年、もっと楽しく行こうぜ!"っていう意気込みに今は満ち溢れているんですよ。

このアーティストの関連記事


TAKUI NAKAJIMA Anniversary 1999-2008
BEST YOURS

zetima EPCE-5635〜6
3,500yen (tax in)
2009.4.22 IN STORES

amazonで購入

iTunesStoreで購入

初回プレス:三方背BOX仕様
 デビュー以来10年の軌跡を凝縮させた2枚組ベスト・アルバム。これまでに発表されたすべてのシングル及びアルバムから厳選された全31曲を収録。さらにボーナス・トラックとして、2008年12月31日に東京キネマ倶楽部にて弾き語りで演奏された『100万回生きたねこ』と未発表曲『BYE BYE BYE』の2曲を収録。

LIVE INFOライブ情報

TAKUI NAKAJIMA
BEST YOURS TOUR 1999-2009

6月20日(土)名古屋E.L.L
OPEN 17:00 / START 18:00 info:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
6月21日(日)大阪BIG CAT
OPEN 16:00 / START 17:00 info:キョードーチケットセンター 06-7732-8888
7月5日(日)shibuya O-EAST
OPEN 16:00 / START 17:00 info:キョードー東京 03-3498-9999
◇チケット料金:\4,500(スタンディング・税込)
◇チケット発売:4月25日(土)

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻