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INTERVIEW

トップインタビュージンギスカンだらけ('08年11月号)

ジンギスカンだらけ('08年11月号)

2008.11.01

今年3月に発売されたBerryz工房の『ジンギスカン』がスマッシュヒットし、今再びジンギスカンが注目されている。元々は1979年にドイツで結成されたグループ「ジンギスカン」のデビュー曲で、ヨーロッパはもちろん、当時ディスコブーム真っ只中の日本でも大ヒット。その後もなぜか幼稚園や小学校で定番曲となり、ビートルズやビリー・ジョエル等とは違った意味で、日本で一番知られている〈B級〉洋楽ナンバーとして定着している。この『ジンギスカン』には膨大な数のカバー曲が存在するが、これら世界中のジンギスカン・カバー曲を集めた全曲ジンギスカンのあり得ないコンピレーションCDがリリースされることになった。本家ジンギスカンやBerryz工房はもちろん、79年当時のアイドル歌謡、スタジオミュージシャン覆面バンド、テクノユニット、ハードロック、デスメタル、ミクスチャー、男性ハーモニーグループ、ボサノバまで、実に様々なタイプとお国柄のジンギスカンが収録されている。ジンギスカン(チンギス・ハーン)と言えば、かつてモンゴル帝国皇帝として、中国大陸から東ヨーロッパまでを支配し、世界でもっとも子孫を多く残した人物であると言われているが、我々人類にとってジンギスカンとは一体何なのかを解き明かすうえでも、このCDには多くのヒントが含まれていると言える。この度、CD発売を記念して企画者の橋本慎氏と荒木一義氏、そして解説の萩原祐子氏に集まっていただき、音楽誌でもおそらく史上初のジンギスカン徹底討論を行っていただいた。

日本人の琴線に触れるナンバーワン洋楽曲

──まずは、この前代未聞の『ジンギスカン』オンリーCDを出すまでの経緯を教えて下さい。

橋本最初はBerryz工房が3月に『ジンギスカン』をカバーしたシングルを出しましたが、それが予想以上のヒット(註:オリコン5位。ジンギスカンのカバーとしては最高位)となり、これはもっといけるんじゃないかということで、ダメもとで(本家ジンギスカンをリリースしている)ビクターさんに、Berryz工房と本家ジンギスカンのスプリットシングルを作りませんか? と打診してみたんです。そしたら「ああ、いいですよ」と軽く乗ってくれたんで、こっちも調子に乗って「もしかしてリミックス用にドイツからマルチデータなんか貸してもらえたりしませんかねえ・・・」と聞いてみたところ、「ああ、いいですよ」とまたもOKが出て、それでオリジナル・ジンギスカンとBerryz工房の国境・時空を越えた合体リミックス『ジンギスカン・タルタルミックス』が生まれたんです。それで、この時に資料として各国のジンギスカンのカバー曲を調べてみたらものすごい数のカバーがあって、「これはカバー曲を集めるだけでも面白い!」と思って企画したのが、今回の『ジンギスカンだらけ』に至ったきっかけです。

──これだけの各国の音源を集めるとなると権利交渉だけでも大変そうですが。

橋本こっちはドイツ語なんかわからないから、とりあえず英文メールを送ってみたりしたんですが、そのうちの半分以上は返事が返ってきませんでした。ジャーマン・メタルとかいろいろあったんですけどね・・・

──全部返事が返ってきたら、それはそれで大変でしょうけど。

橋本そしたら2枚組にしましたよ! なんか最初はただの思いつき企画だったんですが、やってるうちにだんだん面白くなってきて(笑) まだまだいっぱいあるんですよ。

──じゃあ、『VOL.2』も期待できそうですね。

橋本『ジンギスカン』という曲はカバーがたくさんあるというだけじゃなくて、ものすごく日本人の身体に深く染みいっている洋楽曲だと思うんです。一般的にはディスコ世代の大ヒット曲であるジンギスカンですが、例えばBerryz工房のメンバーぐらいの世代にとっては、幼稚園の時に創作ダンスで踊ったことがあったり、小学校のフォークダンスで使われていたりとか、いわゆる学校行事の中に浸透しているんです。つまり『マイム・マイム』や『オクラホマ・ミキサー』とも言えるわけで、こんな曲って他にないでしょう。これはもうB級の一言で片づけけられないですよ。今回、この歴史ある『ジンギスカン』の曲解説を誰にまとめてもらおうかと思って、この人しかいないとお願いしたのが萩原祐子さんなんです。

萩原橋本さんとは以前から知り合いなんですが、橋本さんはモーニング娘。の立ち上げからディレクターをされていて、『LOVEマシーン』とか『恋のダンスサイト』みたいなことを本気でやっちゃうような「軽さ」と「鋭さ」の両方のバランスが絶妙なんですね。だから今回の『ジンギスカンだらけ』はとても橋本さんらしい企画だと思います。

橋本『恋のダンスサイト』は完全にジンギスカンですが、その前のモーニング娘。のデビュー曲候補で、結局1stアルバムに収録された『どうにかして土曜日』なんかは、『恋のダンスサイト』以上にジンギスカンですね。僕もつんく♂もやっぱりすごく影響受けてますから。

──つまりモーニング娘。のみならず、ハロー!プロジェクト全体の精神的支柱として『ジンギスカン』があるわけですね。

橋本まあそうですね。すっごい極論ですが(笑)

萩原この『ジンギスカン』やサンタナの『哀愁のヨーロッパ』みたいな、日本人の琴線に触れるものって、逆に音楽業界の人は恥ずかしくて斜めに構えちゃう所があるんです。でも『LOVEマシーン』や『恋のダンスサイト』の凄い所って、そういったベタなものを真っ正面から「俺はこれが好きなんだ!」ってカミングアウトしたことだと思うんです。 そういう感覚があの時代のモーニング娘。だったと思うんですが、今回も同じ感覚を感じました。

本命盤同士の仁義なき戦い

──萩原さんとしては、CD解説を依頼されてどうでしたか?

萩原私も当時のディスコものって嫌いじゃないなあと思って、「ああ、いいよいいよ」って気軽に引き受けたんです。それで家にあるディスコもののシングルレコードをひっぱり出してみたら『ジンギスカン』がたくさん出てきた。あっ私、全部持ってた!みたいな。だから自分でも好きとか嫌いとかいう以前に、普通にジンギスカンが血となり肉となっていたという(笑)

橋本それもほとんどを中古レコード屋で10円で買ったんですよね。でもこの本家盤シングルもマルコ・ポーロ盤もレコード会社にすら残ってなくて、結局萩原さん所蔵のシングル盤を写真で使わせてもらったんです。

──それにしても異常な数のカバー曲が出てますねー。

橋本調べてみて面白かったのは、マルコ・ポーロというグループがやってるジンギスカンは、英語のカバー曲なんですが、当時、日本では本家ジンギスカンと同じ日に発売されているんです。マルコ・ポーロのジャケットには「本命盤」と書いてあり、一方、本家のジャケットには「オリジナル本命盤」と書いてあって、いわば家元争いみたいなことになってるんです。

萩原当時はどっちがオリジナルなのかわからなかったと思いますよ。今みたいにネットで調べられる時代じゃないですから。当時、似たようなキャッチコピーとして「トルコで47週ナンバーワンヒット!」とか、絶対嘘みたいなものがたくさんあったけど、日本じゃ調べようがないから。

橋本このマルコ・ポーロは、今だに謎のグループですね。

萩原当時のレコード会社はディスコ・プロモーションという、発売前にディスコでかけてヒットさせるという手法をとっていたんですが、やっぱりこのジンギスカンも発売前に既にディスコで大人気になってたみたいなんです。それで、あわてて本家ジンギスカンの対抗馬としてこのマルコ・ポーロ盤が出されたんじゃないかと思います。私も当時のディスコは体験してないからわかりませんが、1979年頃って、国籍もネームバリューも関係なくて、とにかくディスコで流行ったら勝ちみたいな状況だったと思うんです。あと日本のスタジオ・ミュージシャンが覆面バンドを作ってあたかも洋楽のようなヒット曲を出したりもしてました。

橋本社会的にもディスコ音楽がラジオとかで流れて、より一般的なものになっていった。ちょうどタケノコ族がジンギスカンで踊っている所がテレビニュースで放映されたりとか。

──それまでマニアックな黒人音楽だったディスコが一般化したんですね。

萩原一般化するにつれて本来のディスコが間違えて解釈されていったと思うんです。このジンギスカンにしても、アメリカのP-FUNKみたいなものをやろうとしたら間違えてこんな感じになっちゃった。P-FUNKのファンク抜きみたいなもの(笑)

日本人にとってのジンギスカン

橋本あと今振り返ると、当時ドイツはベルリンの壁で東西に分断されていたんですが、ジンギスカン(チンギス・ハーン)はつまりモンゴル人民共和国だからもともと東ヨーロッパ側に属するわけで、その名を冠した曲が西ドイツで生まれたというのが、日本人からすると、神秘的な感じがしました。不可侵領域というか。

──彼らのもう一つのヒット曲「めざせモスクワ」(原題:Moskau)にしても、当時は東西冷戦真っ直中でしたよね。

萩原しかも、西ドイツはモスクワオリンピックをボイコットしてるし。

橋本ジンギスカンの最初のメンバーであるルイスは南アフリカ出身ですが、南アフリカといえばアパルトヘイトが大問題になっていた。ジンギスカンには政治的にも興味深い部分がいろいろあるんですよね。

萩原もともとジンギスカンは、ドイツの音楽プロデューサーと経済学者が、ヨーロッパで最も有名な国際大会「ユーロビジョン・コンテスト」に参加するために作ったグループで、言わば、他のヨーロッパ諸国に勝つための、西ドイツの威信を背負ったグループなんですね。

橋本でも結局は4位だったらしいですが......。

萩原負けちゃった(笑)

橋本あとね、日本人にとってジンギスカンというのは不思議な縁があって、源義経が生き延びて後にチンギス・ハーンになったという「義経伝説」もそうだし、極めつけはなんといってもジンギスカン料理ですよ。ジンギスカン料理って日本人が作った料理ですから。僕は北海道出身ですけど、北海道では運動会のお弁当の時間に、プロパンガスを持ち込んでジンギスカン料理を食べてましたから。カセットコンロじゃなくてプロパンガス! それも学校のグラウンドで(笑) 道人にとってジンギスカンはそのぐらい特別な料理なんです。

──いやあ、ジンギスカンってイデオロギー的にも文化的にも深いんですねえ。

萩原このCDの打合せの時も結構話が熱く盛り上がるんだけど、終わった後に「私たち何やってたんだろう?」って。

橋本「俺たち何でこんなに熱く語ってるんだ?」と我に返る。

萩原AV見終わった後みたいな感じ(笑) AV感というか。

橋本そうか。ああ、今まで俺がなんでジンギスカンに惹かれていたのか、今わかった!

萩原でも橋本さんはこういうものから目を背けちゃいけないような気がする(笑)

──僕は今回このCDを聞いて、初めてジンギスカンの奥深さを知りました。これほどバラエティに飛んでいるとは予想外で、世界にはいろんなジンギスカンがあるんだなあと。音楽世界旅行とでも言えるような。

橋本世界旅行といっても、ドイツとノルウェーとフィンランドだけなんですけどね(笑)

萩原意外と狭かった(笑)

──アメリカ産のジンギスカンはなかったんですか?

橋本僕が調べた限りなかったですねえ。

萩原だからアメリカ人にはわからないんだよ。

橋本多分アメリカ人はチンギス・ハーンのこともよく知らないだろうし、モンゴル? どこそれ、みたいな感じなんじゃないですかね。

萩原人種のリトマス試験紙みたいなものですよ。ジンギスカンを聞いてグッとくるかこないかで、自分が何処から来たのかがわかるという(笑)

裏ハロプロ・イズム!

──では収録曲の中で、みなさんオススメを教えて下さい。

橋本僕は16曲目のペルレです。これはiTunesで発見したんですが、最初聞いたときは衝撃的でした。他の曲はジンギスカンの暑苦しさを表現しているんですが、これは唯一ワイングラスとバルコニーが似合うアレンジで(笑)

荒木僕は18曲目のウィグ・ワムですね。ノルウェーでは人気のあるハードロックバンドで、日本にも来日していて、その時もジンギスカンは演奏してました。

萩原私はやっぱりBerryz工房のカバーがすごいと思った。『ミニモニ。ひなまつり!』を聞いた時の衝撃というか、誰がやらしてるんじゃ、こら!みたいな。ある意味、裏ハロプロ・イズムを感じましたね。あくまで「裏」ですが(笑)


ジンギスカンだらけ

PKCP-5126 2000yen(tax in) / 11.26 IN STORES
【ジンギスカンだらけ収録曲】

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1.DSCHINGHIS KHAN/ジンギスカン
2.DSCHINGHIS KHAN/マルコ・ポーロ
3.ジンギスカン/川崎麻世
4.ジンギスカン/原たかし&バットマンズ
5.ジンギスカン/渋谷哲平
6.ジンギスカンPartⅠ/ザ・モンゴルズ
7.ジンギスカンPartⅡ/ザ・モンゴルズ
8.ジンギスカン/イノウエ
9.ジンギスカン/ULTRAS +ワッキー(ペナルティ) +レイザーラモンHG
10.ジンギスカン/Moody★Rudy
11.ジンギスカン/Berryz工房
12.DSCHINGHIS KHAN/Tankwart
13.DSCHINGHIS KHAN/Donald Dark
14.DSCHINGHIS KHAN/Leningrad Cowboys
15.DSCHINGHIS KHAN/Die Viel-Harmoniker
16.DSCHINGHIS KHAN/Perle°
17.DSCHINGHIS KHAN/Rocking Son
18.DSCHINGHIS KHAN(LIVE VERSION)/Wig Wam
19.ジンギスカン タルタルミックス/ジンギスカン × Berryz工房
20.ジンギスカン ピストン西沢 Two Turntable Remix/ジンギスカン × Berryz工房

LIVE INFOライブ情報

イベント情報

『ジンギスカンだらけ』発売記念イベント決定!
「年忘れ!ジンギスカンだらけのB級ディスコ大会。(ヒツジもあるよ!)」
全曲『ジンギスカン』のあり得ないコンピレーションアルバム『ジンギスカンだらけ』発売を記念して、ジンギスカンだらけの大ディスコ大会を開催! 日本人にとってのディスコとは何なのか徹底的にDIGる夜!
【出演】
ダンス★マン
萩原祐子(音楽評論家)
橋本慎(UP-FRONT WORKS)
DJ ARAKI

他ゲストあり

2008年12月12日(金)
OPEN 18:00 / START 19:00
¥1500(飲食代別)当日のみ
※当日特別メニュー、ジンギスカン料理あり
場所:ロフトプラスワン

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