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INTERVIEW

トップインタビューWRENCH('08年7月号)

2つの異なる個性と世界観が生み出すスリリングな化学変化──
才気溢れるミュージシャンとのコラボレーション・アルバム『drub』

2008.07.01

昨年9月に発表されたアルバム『nitro』で人間の生み出す生身のグルーヴと無機質なエレクトロ・ビートの至上の融合を実現し、バンドとして第2次黄金期を迎えたと同時に新たな高みに到達したWRENCH。無邪気な好奇心の赴くがままに絶え間なく深化/進化を続ける彼らが挑む新たな試みは、才気溢れるミュージシャンとのコラボレーション・アルバムという形で提示された。『drub』と題されたこの意欲作には、ヴォーカルにGUITAR WOLFのSEIJIと浅野忠信が、演奏にHIFANAがそれぞれ個別の曲で参加。また、石野卓球やGOTH-TRADに加え、AYASHIGEことヴォーカルのSHIGE本人が自ら『nitro』からの楽曲のリミックスを手掛けている。さらに純然たるWRENCHの新曲もしっかりと収められており、安直な企画アルバムとは一線を画した充実作であることは言うまでもない。近年の音楽性を巡る葛藤から『drub』の制作秘話に至るまでの話を坂元東(g)とMUROCHIN(ds)の2人に訊いた。(interview:椎名宗之)

『nitro』で見いだしたひとつの到達点

──前作『nitro』は、SHIGEさんが「人生で二度もファースト・アルバムを作ることができた」と話していたことからも窺えるように、バンドによってエポックな作品でしたよね。

坂元:そうですね。ここに来てまた新たな一面を提示できたと言うか、もう一度バンドをスタートさせたくらいの大きな意義がありましたね。

──『nitro』で顕著だったのは、人力のアナログな部分と同期モノのデジタルな部分とが最も理想的なバランスで融合していたことですね。

坂元:曲にもよるんですけど、それまではハード・ディスクに音を取り込んでライヴでスタート・ボタンを押すっていう、オケ・テイクみたいなものを流す方法を取っていた部分があって、それだとどうしても生々しさが薄れてしまうんですよね。それが課題としてずっとあって、どうすればもっと生々しくデジタルな雰囲気が出せるかをみんなで話していたんです。その糸口となったのが、SHIGEのシンセをもっとフィーチュアして曲作りをしていくことだったんですよ。

MUROCHIN:それが形になるまで3年半くらい掛かったのかな。『TEMPLE OF ROCK』の時はまだハード・ディスクがありきの曲とそうじゃない曲があったんですよ。ハード・ディスクになっちゃうと、どうしてもそのオケに付いていく感じになってテンションが上がらないわけですよ。聴いてる感じだと余り変わらないのかもしれないけど。

坂元:そういうのがどうしても拭えなかったよね、不思議なもんで。

MUROCHIN:うん。一生懸命叩くんだけど、どう足掻いてもオケに支配されすぎちゃうんだよ。でも、このエレクトロな音は外せないわけだからどうするかと。いろいろ試行錯誤はしてみたんですけど、結局、SHIGEちゃんが司令塔となってバンドの演奏を聴きながらシンセなりシーケンサーを操るところに行き着いたんです。その日のテンションによって「今日は2くらい上げちゃえ!」とかね。それが生音でロックをやってる感覚に近かったんですよね。

坂元:やっぱり、ハード・ディスクがあると司令塔が4人以外のものになってしまう感じはありましたね。それは演奏してる自分たちが一番感じていました。

──そんな状況が続けば、当然ライヴにも悪影響を及ぼしますよね。

MUROCHIN:そう、一番の大問題はライヴのテンションが上がらなかったことなんですよ。でも、それをどうにかして払拭しなくちゃいけないっていう4人の意志がずっとあったから、何とか乗り越えることができた。いろんな機材を持ち込んでいろんなトライをしたし、不正解もいっぱい出たんですよ。でも、まだこの先さらなる正解は見付かるかもしれないけど、現時点でのひとまずの正解は出せたので良かったですね。

坂元:ハード・ディスクを取っ払ってからは、ライヴの向き合い方も自ずと変わっていきましたからね。

──平たく言えば、機械に使われていたのが使いこなす側に回れたということですか。

MUROCHIN:そういうことですね。自分たちのテンションと機械のテンションを一緒にすることができた。SHIGEちゃんのテンションがシーケンサーを操るっていう。

──今回発表される『drub』は、そうした試行錯誤の末にひとつの境地に辿り着いた『nitro』と同一線上にある作品ですよね。

坂元:基本的には『nitro』の延長線上にある作品なんですけど、『nitro』とはまた違った一面も出せていると思うんですよ。『nitro』はとにかく勢いを出すみたいなところがコンセプトになっていた部分もあったんですけど、今回はコラボレーション・アルバムなので、勢いよりももっと広い視野が求められていたと言うか。『nitro』からのリミックスが3曲入っているし、最初は『nitro』の続編的なニュアンスが強かったんですけど、曲が出来上がっていくうちにそのニュアンスも薄れていきましたね。

SEIJI、浅野忠信、HIFANAとの共同作業

──どんな経緯でこのコラボレーション・アルバムが企画されたんですか。

坂元:『nitro』の発表からまだ1年も経ってないからオリジナル・アルバムはヘヴィだし、それならコンセプト・アルバムにして、自分たちの違った面を引き出してみたいと思ったんです。それで何ができるだろうと考えて、いろんなアーティストとコラボレーションができたら面白いだろうと。そんな発想がまずありきだったんですね。

MUROCHIN:それと、別個に進行していたリミックスだけのアルバムが最終的に一緒になったんですよ。

──それにしても、GUITAR WOLFのSEIJIさんとの「幻想X」と浅野忠信さんとの「drift」という頭の2曲だけでミニ・アルバム並のインパクトが充分にありますよね(笑)。どちらも"drub"="打ち負かす"というアルバム・タイトルに相応しいナンバーで。

坂元:まず最初に俺たちがSEIJIさんのヴォーカルに打ち負かされましたからね(笑)。

──SEIJIさんのアナログ感とWRENCHのデジタル感との相性がこんなにもいいとは正直思わなかったんですよね。

MUROCHIN:俺もそれは思いましたね。こんなはずじゃなかったのにって言うか(笑)。まず俺たちがオケを録って、それが出来てからSEIJIさんに来てもらったんですよ。スタジオで何を唄うのかなと思って聴いてたんですけど、"あ、こういう構成なんだ!? ここが2番なんだ!?"みたいな驚きの連続でしたよ(笑)。

坂元:最初にジャカジャーンって入るギターはどうしてもSEIJIさんに弾いて欲しかったので、無理を言ってやってもらって。あのギターと「ワン、ツー、スリー、フォー!」のカウントだけはどうしてもリクエストしたかったんです。SEIJIさんに弾いてもらった最初と中盤のギターの部分は、俺は何も弾かずに完全にお任せだったんですよ。

──「幻想X」というのも、思わずタイトル大賞を贈呈したいくらいのインパクトですよね(笑)。これはSEIJIさんがWRENCHの音楽性を思い描いてのタイトルなんでしょうか。

MUROCHIN:それは定かではないですけど、SEIJIさんがこの歌詞を書いた日は凄く風が強かったらしくて。その風の強さが"うなりを上げて飛んでいく"感じだったと言ってましたね。こういう判りやすい日本語の歌メロの曲はWRENCHにはないので、凄く新鮮でしたよ。SEIJIさんもこの曲を唄って「こんなの唄っていいのかな?」みたいなことは言ってたし。

──ああ、WRENCHのイメージを意識して。

MUROCHIN:そういうのがあったんでしょうね。でも、俺たちとしては余りに格好良すぎて何も言うことはないって言うか。

──浅野さんが書いた「drift」の観念的な歌詞は、一編の短編小説としても味わえる逸品ですよね。

坂元:うん、浅野君の詞は本当に素晴らしいですね。最初に読んだ時から凄く格好いいなと思いましたよ。浅野君はSAFARIでヴォーカルもやっているから、歌も堂に入った感じですよね。

MUROCHIN:浅野君とは一緒にスタジオで曲作りをしたんですよ。そんなやり取りを3回くらいやったんだけど、レコーディングの本番に浅野君が来れないことが判明して(笑)。で、リハスタでバンドのオケを録って、そのオケで浅野君に唄ってもらって、そのOKテイクをレコーディング・スタジオに持っていって、また俺たちが演奏したのを乗っけてみたんですよ。それが意外とうまいこと行ったんですよね。普通あまりやらないですよね、歌ありきで演奏を後に乗っけるなんて(笑)。

──第三者と一緒にスタジオに入ると、やはり普段とは異なる緊張感が生まれるものですか。

坂元:そうですね。いつもとは違うテンションになりますよ、やっぱり。

MUROCHIN:「dcdc」の場合は、俺たちが録ったテイクの上にHIFANAに音を乗っけてもらったんですけどね。それを横で見てたんですけど、ホントに神業でしたよ。

坂元:俺たちは変拍子なのに、ちゃんとHIFANAの色を出しつつ整合性を保っているんだから、凄いの一言に尽きますよ。まるで目の前でライヴをやってもらってるような感じでしたね。だから「もう一回見たい!」って何度もお願いしたんです(笑)。

常に新しいものに溢れた現場にいたい

──リミックス陣も豪華ですよね。「firestorm」を手掛けた石野卓球さんは意外でしたけど。

MUROCHIN:SHIGEちゃんが仲良くて。卓球さんのイヴェントにDJで参加したりしてますからね。

坂元:ホントにやってもらえるのかなと思ってたんですけど、快諾してもらえたみたいで光栄でしたね。

──「recovered」を手掛けたGOTH-TRADさんは、一緒にユニットも組んでいるMUROCHINさんラインですか。

MUROCHIN:そうですね。ただ、WRENCHで何度も対バンしてるからみんな友達なんですけど。「ダブ・ステップ・ミックスが聴きてぇなぁ」って言ったら、彼もやりたいと言ってくれて。『nitro』からのリミックス3曲に関しては、WRENCHに寄せてる感じが全然ないのが凄く良かった。

──卓球さんも、GOTH-TRADさんも、もちろんSHIGE(AYASHIGE)さんも、皆容赦なく破壊と再構築をされていますよね。

MUROCHIN:うん。みんなそれぞれ得意な部分を本気で出してるのを感じたし。そこは意外だったし、嬉しかったですね。ほぼ新曲みたいな感じで聴けて面白いですよ。

──純然たるWRENCHの新曲は例によって無数のアイディアが詰め込まれているのが窺えるものばかりで、まとめるのがなかなか難儀だったんじゃないですか。

坂元:まとめるのは苦労しますね。なかなか先に進まないので。次のアイディアが出てこなかったりするし。

MUROCHIN:逆に、アイディアが後からどんどん出てきすぎちゃう。一度決まったアイディアが「やっぱりこっちにしよう」って変更になったり。「それは2週間前のアイディアじゃん!」っていう(笑)。「じゃあこうしようよ」「それは3週間前のアイディアじゃん!」っていう堂々巡り(笑)。延々と議論して、アイディアが1周して1ヶ月前のに戻ったりするんですよ。だから、ずっとつまずいてる感じもしますけどね(笑)。

坂元:ループしてるみたいだよね。止まってるんだか進んでるんだかよく判らない(笑)。たとえば誰かが曲を持ってきてみんなでアレンジしていくやり方なら、その誰かが引っ張っていけばいいから作業はしやすいと思うんですけど、今の俺たちはそういうやり方じゃないですからね。みんなが持ち寄った曲の断片を真ん中に集めて、それをこねくり回していく作り方なので。それだとどうしても時間が掛かるんですよ。

──こうして数多くのアーティストとのコラボレーションを経て何か掴めたものはありますか。

MUROCHIN:この経験が今後に活かせるかどうかはまだ何とも言えないんですけど、違う血が入るとこんなにも変わるんだなっていうのを目の当たりにして、やっぱり凄く面白かったですね。俺が特に面白いなと思ったのは、SEIJIさんが「幻想X」の1番をバーッと唄った後に、俺たちの演奏自体が革ジャンを着始めたことなんですよ。心の襟が立っちゃうような感覚って言うか、SEIJIさんが入ることで全体に大きな作用が働いて。

坂元:後ろの景色がどんどん変わっていって、環七走ってるじゃん! みたいなね(笑)。

MUROCHIN:そういうところあったよね(笑)。今回のアルバムに参加してくれた人たちはみんな優れたアーティストだから、自分のはめ方をちゃんとよく判ってるんですよ。アウェイでも自分のアーティスト性を嫌味なく発揮できる才能があるって言うか。だから心の襟が立ったんだと思う(笑)。

坂元:全く異なる個性と世界観が融合した時の変化って予想できないことがいっぱい起こるし、刺激ありますよね。凄くいい経験ができましたよ。今後の作品にも今回の経験が少なからず出てくると思うし、どういう作品が生まれるのか自分たちでも楽しみなところがあるんですよね。

──どんなものが生まれるのかは判りませんが、WRENCHの場合ひとつだけ確かなのは、それがまた必ず"何か新しいもの"だろうということですね。

坂元:音楽的に安定したら面白くないし、常に新しいことをやらないと飽きちゃうんですよね。もちろん音楽的に安定したバンドも聴くぶんには好きだけど、自分たちでバンドをやるなら新しいことを貪欲に取り込んでいきたいんですよ。

MUROCHIN:今面白いものをその都度呑み込んで吐き出していきたいですね。常にリアルタイムで新しいものに溢れた現場にいたいんです。新しいことをやっていないと、まず自分たちが楽しめないですからね。

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