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【ライブレポート】THE ORAL CIGARETTES@日本武道館

2017.06.19

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「俺らが武道館をやるのは1回じゃないと思う。これから2回3回4回5回6回7回と絶対やっていくバンドになるから」。初の日本武道館のステージで山中拓也は決意を込めて、ここがゴールではないことを何度も口にした。THE ORAL CIGARETTESが今年2月にリリースした3rdアルバム『UNOFFICIAL』を携えた全国ツアー「UNOFFICIAL DINING TOUR 2017」のファイナルとして開催した初の武道館ワンマン。チケットは一般発売の直後にソールドアウトとなり、1万2,000人が埋め尽くした会場で、彼らはここから始まるバンドの新たな物語への“架け橋”となるライブを見せてくれた。
 
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ダークファンタジーのようなオープニング映像が流れたあと、山中がひとりエレキギター1本を奏でて歌い始めた「5150」からライブはスタートした。あきらかにあきら(Ba)、鈴木重伸(Gt)、中西雅哉(Dr)によるバンドの演奏がそこに加わり、ステージ前面からは6つの炎が吹き上がる。会場は2階席のいちばん後方まで文字通り総立ちだった。怒号のような歓声と熱気が渦巻くなか「Shala La」では色鮮やかなレーザーがお客さんの頭上を走り、「カンタンナコト」ではスクリーンに都会の無機質なグラフィック映像が映し出され、「悪戯ショータイム」では巨大なミラーボールによって会場が無数の光が包まれた。この日は1曲ごとに広い武道館の会場に相応しいハイスケールな演出が用意されていたが、その迫力に負けないパフォーマンスの凄みで4人は1万2,000人と対峙していた。
 
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「いままでロックバンドの先輩たちが武道館に歴史を刻んできたと思います。俺らも武道館の歴史に名前を刻めるのがうれしいです。連れてきてくれてありがとう」。序盤を終えた最初のMCで山中は集まったお客さんに感謝を伝えた。ポップなスクリーン映像とともに届けた「A-E-U-I」では、この武道館が紛れもない現実であることを強調するように“ここに確かな2人のフィクション”というフレーズをいつも以上にはっきりとした口調で歌う姿が印象的だった。そこから「嫌い」や「WARWARWAR」というバンドのダークサイドな面を感じる楽曲を届けると、中西のドラムソロを皮切りにフロントで双璧をなす鈴木とあきらとが交互にパワフルなプレイをぶつけ合うインストパートは圧巻だった。
 
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初武道館とはいえ過去の全てを総括するというよりも、あくまでライブは最新アルバム『UNOFFICIAL』の曲を中心に進んでいった。中盤のハイライトとなったのは「不透明な雪化粧」から「エンドロール」へと続いたバラード2曲。スクリーンに静かに舞う雪の結晶、それがやがて光が差すほうへと私たちを導いていく。「あなたたちに大切な人はいますか? 俺は今日ここにいるあなたたちのエンドロールに名前を刻みたい」(山中)。序盤の狂騒が嘘のように会場のお客さんはじっとその歌と言葉に耳を傾けていた。
 
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 『UNOFFICIAL』のジャケ写を飾る毒々しい心臓がスクリーンでゆっくりと脈打ち、それが錆びた歯車に変わったところで、突如“キラーチューン祭り”が始まった。オーラルの楽曲のなかでも、とりわけライブで盛り上がる楽曲を集結させる人気コーナー、それをバンドの歴史を振り返るかたちで届けていった。2013年の「Mr.ファントム」にはじまり、2014年のメジャーデビュー曲「起死回生STORY」。そして意表を突いたのが2015年の「エイミー」だった。ファンへの想いを込めた大切な曲でありながら、当時バンドのパブリックイメージが固定していない時期に発表したバラード曲がバンドを苦しめた。だが、同じくらいバンドを支え続けた「エイミー」を“キラーチューン”に並べたことはオーラルらしいやり方だった。同じ年、どん底にいたオーラルに救いの手を差し伸べた「狂乱 Hey Kids!!」から、オーラルの音楽的な視野を広げるきっかけになった2016年の「DIP-BAP」。そして、2017年。この瞬間を自分らしく生きようといういまバンドがいちばん伝えたいメッセージを込めた『UNOFFICIAL』収録の「リコリス」へと繋いだ。“キラーチューン祭り”は、ただ騒ぐためのものではない。振り返ればバンドを大きく成長させるために大切な役割を担っていたことを、そのストーリーをお客さんと共有することで示すような意味深い演出だった。
 
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ラスト1曲を残して山中はギターを掻き鳴らしながら語りかけた。「俺らはずっと武道館を“通過点だ”って言い張ってきました。武道館に思い入れなんてない。関西のバンドやし。でも俺らは、俺らを好きな人で埋まってる武道館に思い入れがあります。あなたたちが武道館を思い入れのあるものにしてくれた。好きでいてくれてありがとう!」。
 
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一言一言たしかめるように言葉を紡ぐとき、山中の大きな瞳が少し潤んで見えたのは気のせいではなかったと思う。そして届けたラストソングは「LOVE」。武道館の高い天井から光が降り注ぐなか、全員で大合唱した“一人で笑うことはできない”というフレーズ。オーラルが鳴らす音楽の根本には悲しみや孤独が多い。だが、いまこうして1万2,000人に囲まれたステージで、ただ純粋に笑顔を讃え合う歌が鳴り響くことはあまりにも感動的だった。武道館の大きなスクリーンにはお客さんの零れるような笑顔がたくさん映し出されていた。
 
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 アンコールでは「ここから、この4人の船は大きく動き出す。みんなに乗ってほしい。ここから作る景色にみんなが映ってほしい」と山中が言うと、この武道館ライブの2日前にリリースされた両A面シングル『トナリアウ / ONE'S AGAIN』の2曲を続けて披露した。この場所から一緒に隣り合って生きていこう歌う想いを込めた「トナリアウ」、弱い自分を認めることで完成させた覚悟の歌「ONE'S AGAIN」。その曲でウォーウォーという力強いシンガロング浴びながら、「強くなれ!お前らは強くなれる!」と、山中は絞り出すように訴えかけた。それはお客さんを鼓舞する熱い言葉であると同時に、自分自身に向けた言葉のようだった。この日、オーラルは来年2018年2月15日に地元、大阪城ホールで「唇ワンマンライブ 2018 WINTER」を開催することを発表した。ここからTHE ORAL CIGARETTESの新しい歴史がはじまる。この物語は簡単には終わらせないから。(photo:Viola Kam (V'z Twinkle Photography)・鈴木公平)
 
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