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【イベントレポート】和嶋慎治自伝『屈折くん』発刊記念 トークイベント・レポート@東京堂書店

2017.02.16

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人間椅子の中心人物、和嶋慎治の自伝『屈折くん』の発刊を記念したトークイベントが、2月12日(日)東京堂書店にて行われた。当日は本書の制作に協力をした志村つくね氏の司会により進められた。
 
オープニングにはなんと『屈折くん』にも書かれている、当時中学校の昼休みに放送された「ダンシング・オールナイト」(もんた&ブラザーズのカヴァー)が流された。緊張感が走り静まりかえる場内に、約4分の曲が流れ終えた頃、和嶋氏が登場。
 

「自分はこういうことをやるべくしてやってるんだな」と、『屈折くん』を書いていて思いました。

 
和嶋:和嶋慎治の自伝『屈折くん』の発刊記念イベントにお越しいただき、まことにありがとうございます。(場内大拍手)今お聞きいただきましたのは僕が中学3年の時に弾いた「ダンシング・オールナイト」でありまして、あの頃のお昼の中継のように水を打ったような静けさに(場内大爆笑)、こんなに緊張感のあるのは久々です。楽しんでいただけたでしょうか、今日は宜しくお願いいたします。(場内大拍手)
志村:いやぁびっくりしました。あの無限のような時間、心臓バクバクですよ。
和嶋:僕も廊下で聞いててバクバクでした。
志村:本日は満員御礼ということで。
和嶋:嬉しい限りです。
志村:ご自身が本を出されてこうやって神保町の書店でイベントをされるというのは。
和嶋:いやぁ夢のようです。僕はハードロックが大好きなんですけど、同じように本も好きなんです。今までエフェクター本は出しましたけれども、文章という形で出すのは今回が初めてで、それを出版していただいて東京堂書店さんという大きな所でトークイベント&サイン会をやらせてもらって大変光栄に思っております。皆さん、ありがとうございます。
志村:既に読まれた方もいらして、和嶋さんの人生を追体験されたという方も多いということで。
和嶋:やはり嘘はつかないように書きました。自分は売れない時代がずいぶんありましたし、で、なぜ今こういう風になっているのかということに説得力を持たすためには、自分なりに乗り越えた物を書かないと嘘になるなと思い、結構しんどい話も書きました。読んでいただいてそれが慰みになってくれればいいかなと思って。
志村:周りのみなさんの反応は如何でした?
和嶋:もう石井くんからはすぐメールが来て、「感動した」と。
志村:『屈折くん』に登場した方からも反応が来て。
和嶋:彼も小さい頃、周囲と馴染めなかったりしたらしいんですよ。自分となにか被る所があって。「すごく共感する」というメールが嬉しかったです。今回、結果的に一字一句自分で書いた本なので納得しています。
 
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『屈折くん』というタイトルが決まる

 
和嶋:タイトルは試行錯誤しました。去年から何回も打ち合わせをしたんですけど中々決まらなくて、みうらじゅんさんと対談した後、「和嶋君は今怪獣だから“怪獣の作り方”にしなよ、それが一番売れる、ハウツー本にしろ」って3時間くらい説得されたんですけど(笑)、やっぱりそれはみうらさんテイストで自分の感じではないかなと思ったり。で、打ち合わせの日の朝にフト思いついたんですよ。そういえば高校2年の頃のあだ名が“屈折”だったなって。その後の人生を表している言葉だし、なおかつ難しくなくてポップだし。それで『屈折くん』でと打ち合わせの時に関係者の方々に言ったら、いいだろうということで。
志村:ポップでキャッチーだし、口に出したくなるようなタイトルで。
和嶋:愛称みたいな感じ。
志村:この本の素敵な写真の数々は堀田芳香さん。人間椅子のライヴ写真をはじめメタリカ、ガンズ・アンド・ローゼズ、ポール・マッカートニー、AKBとかを撮ってらして。
和嶋:堀田さんは昔プレイヤー誌の編集者で、僕が原稿を書いていた時の担当だった方。その後カメラマンに転身され、3年位前に再会してから人間椅子のライヴを撮ってもらうようになって。僕が自伝を出したいんですって言ったら、「是非やらせてください」ということで。素晴らしい写真をいっぱい撮ってもらいました。
志村:装丁も色々と凝っていて。
和嶋:なんといっても裏カバーに鈴木研一くんが写ってるのがいいですね。
志村:そのカバーをめくっていただくとお楽しみもあって。
和嶋:6年2組和嶋慎治が文集に書いた「父母へ」というものすごい真面目くさった文章が載ってます。これは志村くんが実家に取材に来て見つけてくれたんだよね、よく見つけてくださいました。で、読むとなんとなくこの本のテーマに合ってる。
志村:文筆家志望であったこととか。
和嶋:「僕は我慢強くないので、忍耐強くなりたい」って書いてるとことか。これも自分で読んで泣いたもの。
志村:そういう話をいっぱい伺いました。
和嶋:じゃ、まずどういう風にやっていったかを時間の流れを追って。
志村:最初この本のお話があったのは昨年の秋頃?
和嶋:話自体は夏頃にあって、取材を始めたのが9月末くらいからでした。
志村:「夏の魔物」っていうロックフェスの頃から本格化して。
和嶋:最初は自分が「ホンシェルジュ」とかで書いているエッセイをまとめて、そこにちょっと自分の生い立ちみたいなものを加えて一冊の本にしたらどうでしょうっていうお話をいただいたんです。その時は自伝がメインじゃなかったので大丈夫と思ってお引き受けしました。さらにライヴやライヴCDのスケジュールが入ってたので、自伝的な部分を自分で書くのは厳しいと思い信頼できる志村くんにお願いしたんです。でも打ち合わせを重ねて行く中で、一度出したエッセイを収録しても…と、だんだん内容が自伝側に傾いていって。それで取材の始まる頃にはほぼ自伝をやるということで話が進んでました。
 
和嶋慎治の生い立ちを訪ねるということで青森に赴いての撮影では、数々の奇跡的なことが起きた。弘前のライヴハウス・マグネットでのアポなし取材の成功、出身の弘前高校での一度は断られた教室での撮影を志村氏の粘りで許諾を得た時のエピソードなど、撮影の模様が語られた。
 
志村:その後10月の中〜下旬に東京での撮影に入って、高円寺、三軒茶屋など和嶋さんの思い出の地を散歩番組のように訪ねました。
和嶋:不思議だったのは、自分の住んでいたアパートとかを廻って行って、既に取り壊しになっていた所は分かってたんですけど、ついこの間まで住んでいた東高円寺の家賃2万2千円のアパートも取り壊しの最中だったり、毎月「ムー」を買いに行ってた本屋さんも閉店されていて。つまり「もう、あなたは次の段階ですよ」って町に言われてるような感じだった。一つの歴史が終わったんだって思いました。
 
さらにこの数日間に起きた不思議なシンクロニシティの話に。本書中学編の最後の方に出てくる初恋の人の知人と居酒屋で偶然出会った話、高校編の中に登場する隣の席だった佐野元春好きの同級生、中退して音信不通になったその人が現在は映像関係の会社を経営されていることが分かった話等が紹介された。
 
和嶋:そうやって中退したけど映像関係の会社を起こしたっていう話を聞くと、やっぱり「屈折」って人生にとって大事だと思うんです。何か始める人にとっては大事じゃないかな。
志村:そうですね。で、ちょっと話は変わるんですが、和嶋さんにとって書店ってどういう場所なんでしょう。
和嶋:音楽ももちろんそうですけど、アートって自分の内面に入れるんですよ。ライヴ・コンサートで一体感を味わうというのもありますけど、一人で音楽を聴くと別世界に連れて行ってくれるじゃないですか。本は自分の中に入れるんです。無音の世界、著者と対話している感じになります。亡くなられている場合でもあたかも目の前にいて話しかけてくれる感じになる。いい本って対話ができるんです、そして自分の中に入って行ける。で、書店はそういう物を置いている宇宙のような場所だと思ってます。ボルヘスに「バベルの図書館」ってあるじゃないですか、あんな感じ。
志村:この『屈折くん』には本がたくさん登場するので、ブックガイドとしても役立てていただければ。
和嶋:僕は東京に出て来て神保町の古本屋や書店は相当廻りました。このすずらん通りはしょっちゅう来てましたし、こことお茶の水は僕の故郷です。だからここでトークイベントをやってるなんて夢のようです。
 
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自伝本『屈折くん』ができるまで

 
和嶋:で、この本が自伝本になっていった流れに戻るんですが、自伝を書く機会なんてなかなかないと思うんです。どこに焦点を絞ればいいかわからない。自分の人生なんてとりとめもないものですから。でもタイトルが『屈折くん』に決まってからは本の進め方が見えました。それで先ほどもいいましたように、自伝本にするとしても、ライヴとか仕事が重なっていたので全部自分で書く時間がない。そこでアーティスト本というのはだいたいライターの人が書くので、そのためにインタビューをしようということになって。
志村:15〜6時間分くらい5日間に分けて話を伺いました。最後の方の暗黒面をさらけ出す時はもう懺悔室のようでした。(場内爆笑)
和嶋:喋るだけでも辛かったんですけど。
志村:懺悔室なんですけど、僕には和嶋さんがだんだんお釈迦様のように見えてきて、そういう心境になってきました。
和嶋:その凄い膨大な量を志村くんに一度まとめてもらったんですよ。で、そこから2回くらい書き換えてもらって。
志村:インタビューの口語体から和嶋さん的な言い回しに変えて。
和嶋:それをリライトするから大丈夫だって、昨年までは思ってたんです。でも、やはり、皆さんは僕が自分で書いた文章を求めてくださってるんだなと、昨年のライヴの際肌で感じてしまって。そこで志村くんにもそのことを断って、今年に入ってから新たに書き始めました。最初志村くんからは膨大な量で大変ですよって言われていて。
志村:それはお伝えしました。
和嶋:本当に膨大な量で、いざ書き出したら全然ペースを上げられず、でも自分の文章で書きたいので発売日を延期してもらい、ようやく全部書き上げました。志村くんのまとめてくれたテキストがとてもよかったんですよ、道筋が決めてあって。それがあったので迷走することなくペースも落とすことなく書けました、ありがとうございました。
志村:年明けに別の雑誌の取材でお会いした時、「悪い夢を見るんだ」と仰ってたので心配だったんです、「毎晩毛が抜けていく夢で」って。(場内爆笑)
和嶋:そうあの時は毛が抜ける夢で、夢判断を見たら“強烈なストレス”ってあって(笑)。
 
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『屈折くん』を振り返る

 
志村:そろそろ時間もなくなってきたんですが、どうですか振り返ってみて、こういう所を読んで欲しいといったのはありますか?
和嶋:書いてて思ったんですけど、人生の追体験なんですよね。この経験は中々できないだろうと。普段断片的に思い出すことはあっても、こうやって自分自身の記憶を掘り起こして振り返るというのは、精神療法に近いくらいの人生の追体験。書きながら苦しかった。自分はなんちゅうダメなヤツだって10日間くらい泣きながら書いてました。瞼が腫れるから人に顔を会わせられなくて。
志村:思い出深い所とかは?
和嶋:自然にインタビューでは喋れなかったことをいっぱい書きました。それで、「自分はこういうことをやるべくしてやってるんだな」と、書いていて思いました。子供の頃からちょっと変わった子でいじめっ子の標的にもされて。他人に虐げられるという状態は非常に嫌なものですが、そのことで自分としてはより個性を表したくなりました。で、自分の居場所を探すとそれは音楽でありロックだった。でも楽器を始めても仲間がいなくて、それでとなりの中学に行ったらそこに鈴木くんがいて。やっぱり人生って不思議だなって思います。
志村:和嶋さんは屈折はされてるけど、芸術家としてブレていないと僕は思ったんです。あと、一期一会の大切さとか色んなものをこの本は教えてくれるんです。
和嶋:楽しいことはいいことで素晴らしいことなんですけど、苦しいことって教えてくれるんだよね。自分がどうすべきかとか。
 
さらに、干柿と干芋を食べながら自分を缶詰状態にしての執筆体験で、漫画家や作家の創作のノルマをこなす苦しみを知ったこと、また執筆中に味わった文章と一体化する所謂“ゾーンに入る感覚”等の体験が明かされた。
 
和嶋:個人的には非常に貴重な体験をさせてもらって、自分は文章を書くのが好きなんだなと改めて思いました。まぁゾーンに入れば原稿を書くのは早いです、入るまでは時間がかかりますけど(笑)。やっぱり買ってくださる人がいないと本は出せないので、こういう状況を作ってくださって、本当に皆さんには感謝しています。自分として一番言いたかったことは、人生はただ楽しいことだけではなくて、楽しいことをするためには結構面倒くさいこともしなきゃいけない。そのことを面倒くさがらずにやれば楽しい人生がある…、それを言いたかったです。そのことは自分なりの言葉で書けたかなと思います。
志村:今後も和嶋さんがどんな物を創造されていくかとても楽しみでなりません。
和嶋:そして人間椅子の応援を、鈴木くん、ナカジマノブくん、僕共々宜しくお願いしたいと思います。
志村:今日はどうも貴重なお話をありがとうございました。
 
この後サイン会が行われ、イベント参加者には特製栞と、和嶋氏が自腹で呉服屋さんに作って貰った、ツアー衣装の端切れを利用したアクセサリーがお土産として配られた。
 
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商品情報

和嶋慎治 著
「屈折くん」

四六判/240頁/本体1,500円+税/発売中
ISBN:978-4-401-64388-2

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怪奇派ロックバンド、人間椅子の中心人物、和嶋慎治による初の自伝。弘前が生んだ東北のトリックスターが、奇想天外な人生を明かす。「メンヘラ」でも「こじらせ」でもない、僕を作ったのは“屈折”だった。
特別対談=みうらじゅん/シソンヌじろうも掲載!!

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