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Report from Loft - What's Going On? VOL.3【福島第一原発事故から4年】

2015.04.06

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(Text:加藤梅造/Photo:NAOKI TAJIMA
 
 2011年3月11日の大震災、そして福島原発事故から4年が過ぎた。地震と津波による被害を受けた地域が少しずつ、だが確実に復興していく一方で、原発事故は収束の目処も立たず、いまだに12万人もの人々が避難生活を余儀なくされている。チェルノブイリ以来最悪の原子力災害となったこの事故で、日本での原発をめぐる不都合な事実が次々と明らかになった。原理力ムラと呼ばれる政官財学の電力利権の独占、都合の悪いことは徹底的に隠そうとする東電の隠蔽体質、そして事故は絶対起きませんと言い続けてきた原発安全神話の崩壊、等々。それらに共通するのは、弱者を軽視する強者の理論であり、庶民の生活や命よりも原発そのものが優先されるという非人間的なシステムのいびつさだ。さらに現政権の安倍首相は、事故を引き起こした反省など全くないどころか「原子力政策を推進してきたことは間違いがなかった」とまで言いのけ、原発の再稼働に躍起になっている。
 しかし、事故を矮小化しようとする日本政府のやり方に対し、今や多くの市井の人達がNOの声をあげている。とりわけ3・11以降、社会は誰かのものではなく自分達の手で作るものだと気づいた人達は、時に街頭で、時に官邸前で、あるいはそれぞれのコミュニティの中で、自分達が何を優先すべきかを訴え続けている。人々の暮らしや繋がり、そして命を守ることこそが、社会にとってなによりも大切なのだと。震災後、お互いを励まし合うように発せられた「私達は微力だけれども無力ではない」という言葉は、この先もずっと私達ひとりひとりの心の中に灯り続けるだろう。
 4年目の3・11を迎えるにあたり、全国各地で様々な追悼集会や原発反対の集まりが催された。私もいくつかの集会やイベントに参加したが、スペースの都合上2つのイベントを以下に紹介したい。

懲りない原子力ムラの内情

 ロフトプラスワンでは「欺瞞だらけの原発再稼働計画と、懲りない原子力ムラの内情とは?」と題して、原発事故から4年たったいま、原子力行政がどうなっているのかを検証するため、ジャーナリストの今西憲之氏を司会に、ライターの木野龍逸氏、畠山理仁氏、そして女優の木内みどり氏と詩人のアーサー・ビナード氏がパネラーとして登壇した。興味深い話がたくさん聞けたが、私がとりわけ印象深かったのは、ゲストの西村トシ子さんの話だ。
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ロフトプラスワンで開催したイベント「欺瞞だらけの原発再稼働計画と、懲りない原子力ムラの内情とは?」
(左から、今西憲之氏、西村トシ子氏、木内みどり氏、アーサー・ビナード氏、木野龍逸氏、畠山理仁氏。撮影:加藤)
 
 西村さんは1995年に起きた高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故の際に謎の死をとげた動燃(現JAEA)の幹部・西村茂生氏の妻で、自殺と診断された夫の死に疑問を抱いて裁判をしている。死後見つかった西村氏の膨大なファイルには、彼が生前行っていた驚くべき業務内容が刻銘に記されていた。原発施設をめぐる地元住民や財界へのカネや接待、選挙での暗躍、露骨なマスコミ対策、そして反対派住民への執拗な監視と嫌がらせ……それらは国策会社「動燃」による組織的「裏工作」の記録であり、原子力ムラの1つの縮図でもあった(その詳細は今西憲之さんの著作『原子力ムラの陰謀』に詳しい)。
「動燃は誰かを犠牲にしてでも、もんじゅを続けたかったのではないか」と語るトシ子さんの話を聞いていると、国ぐるみの巨大な組織が束になって1人の女性を口封じする様子がありありと浮かび上がり、怒りを禁じ得ない。トシ子さんは、福島原発事故が起きた時を振り返り「どうせ東電はまともな情報を出さないだろうと思いましたが、やっぱりそうだった。都合の悪いことは隠すという東電の体質は、動燃と同じだ」と、言わずもがなというように淡々と語った。
 この日、もう1つ印象に残ったのは、客席から発言してくれた伊藤巨子さんの言葉だ。双葉郡楢葉町に住む伊藤さんは、原発事故後、避難勧告が出された楢葉町に住み続けた。それは寝たきりの母親を介護するための選択だったが、もし避難所に移ったら母親の命は持たないだろうという自分自身の判断からだ。国の勧告に反して避難しないことを快く思わない政府からは、通行許可証を出さないなどの嫌がらせを受けたが、多くの人の協力もあって楢葉町に留まり続けることができた。
「私が政府に言いたかったのは、どんな命であっても尊厳があり、大切なものだ、ということ。やっぱり一人一人が、言わなくちゃいけないことを、きちっと言って欲しい」と語った伊藤さんの言葉は本当に力強いものだった(伊藤巨子さんのことは岡映里さん著『境界の町で』に詳しく記されている)。
 
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福島を忘れるな!再稼働を許すな!

 毎週金曜日に再稼働反対・官邸前抗議を主催している首都圏反原発連合が、さようなら原発1000万人アクション、原発をなくす全国連絡会と共同で「0308 NO NUKES DAY 反原発★統一行動 〜福島を忘れるな!再稼働を許すな!〜」を開催。当日は野音集会、請願デモ、国会前集会を行い、延べ2万3千人が参加した。
 
 国会前集会でのスピーチでは「創」執筆者の方々も登壇した。
 官邸前抗議に何度も参加している雨宮処凛さんは「この4年間、私達はとても変化してきた。経済か命かという究極の問いを突きつけられる中で、命が大切だということで動いてきた4年間だと思う。そんなふうに日本に住む私達が変わってきたのに、国と行政が全然変わっていないことに怒りを感じます」と語り、福島で増えている甲状腺癌の問題にふれつつ、「悩みの種類、問題の種類がどんどん変わってきている中で、一人一人が本当に寄り添っていかなければいけない」と訴えた。
 
 香山リカさんは、ご自身も調査に関わっている原発による健康被害の問題にふれ、福島の自治体職員の15%から20%の人が鬱病の状態に陥っているという調査結果を憂慮して、「この先、原発をさらに動かすということは絶対にあってはならない。原発反対というのは言葉としてネガティブな印象があるかもしれないが、原発に関しては、やめるとか撤退する、反対することは、むしろ希望に繋がる明るい未来を作るための言葉だと思っています」と強く語った。
 
 最後に社会学者・小熊英二さんの言葉を紹介したい。
「現状認識として、3・11以前に日本は戻ってしまったと言う人がいますが、私は全然そうは思わない。世の中を見渡してみて、原発はとってもいいもので、CO2の削減に役立つからどんどん作りましょうと言う人は、業界関係者を除いて誰もいないでしょう。日本がそのぐらいまでには変化したというのは間違いない。」
 
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(初出:月刊創2015年5月号)
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